黒字なのに廃業を防ぐ税制とは?事業承継と賃上げを完全整理
中小企業経営・政策 第3回
「素晴らしい技術を持っていて、毎年しっかり黒字を出している。それなのに、会社を子供に引き継ぐための税金が高すぎて、黒字のまま廃業を選ばざるを得ない」。動画はこんな話から始まります。このページでは動画の流れにそって、軽減税率や交際費の特例、賃上げ促進税制、青色申告、投資を促す税制、事業承継税制をまとめました。動画のあとに改正された内容は、補足として添えています。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
黒字なのに、会社をたたむしかない?
「素晴らしい技術があり、毎年しっかり黒字を出している。それなのに、会社を子どもに引き継ぐための税金が高すぎて、黒字のまま廃業を選ばざるを得ない」。動画はこんな現実的な脅威の話から始まります。国は税という強力なツールで、中小企業をどう助け、どう成長させたいのか。その裏側を見ていく回です。
動画の主張は、すべての税には「国が社会をどう動かしたいか」という意図がある、というものです。細かい数字は暗記ゲームに見えても、理由と一緒に覚えると定着しやすくなります。この記事も、その流れにそって次の順に整理します。
- 税の上での中小企業:資本金で線を引く。軽減税率と交際費の特例。
- 賃上げ促進税制:給与を上げた分を税額から差し引く。
- 青色申告:きちんと記帳する人へのごほうび。
- 投資を促す税制:中小企業投資促進税制とエンジェル税制。
- 事業承継税制:世代交代の税負担を猶予・免除する。
税の上での「中小企業」は、資本金で決まる
最初のポイントは「誰が対象か」です。中小企業基本法では、業種ごとに資本金と従業員数の基準が分かれます(製造業などは資本金3億円以下または従業員300人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下など)。これに対して税の世界は、動画によると、驚くほどシンプルです。
動画は「原則として、資本金1億円以下の法人が税の上での中小企業」と説明します。毎年、窓口や経理担当者が複雑な計算をしなくて済むよう、資本金の額だけで線を引いて、優遇をすばやく確実に届けるためだ、という理由づけです。
(補足:条文で確認すると、租税特別措置法の中小企業者は、資本金1億円以下の法人(資本を持たない法人は従業員1,000人以下)です。ただし、発行済株式の2分の1以上を同一の大規模法人が持つ法人などは除かれます。動画が「原則」と断っているのは、この例外があるからです。)
資本金1億円以下なら、業種も従業員数も関係なし。かなりスパッと切ってあるんですね。
そうなんです。基本法の定義とは別ものだ、という点が試験でも狙われやすいところです。
軽減税率:年800万円までは15%
中小法人の所得のうち、年800万円以下の部分には軽減税率が適用されます。動画はこの800万円を「企業の体力をつけるために、手元に現金を残していいと国が認めた防波堤」と表現します。国税庁の税率表では、年800万円以下の部分は15%、超える部分は23.2%です。
(補足:令和7年4月1日以後は、所得が10億円を超える事業年度で800万円以下の部分が17%になります。前3年の平均所得が15億円を超える「適用除外事業者」は19%です。)
交際費:年800万円か、飲食費の半分か
交際費は、原則として税金の計算上の経費(損金)になりません。ただし中小法人には、次のどちらかを選べる特例があります。動画の説明はこうです。
- A:年800万円までの交際費を損金にする(定額控除)。
- B:接待飲食費の50%を損金にする。こちらは上限額がない。
接待が多い会社はB、そうでない会社はAを選べばよい、というのが動画の整理です。国税庁も、この2つのいずれかを選ぶとしています。適用期間は、令和9年3月31日までに開始する事業年度です。
もう一つ、動画が強調するのが令和6年4月1日からの変更です。交際費等から外れる飲食費の基準が、1人当たり5,000円以下から10,000円以下に上がりました。動画はこれを「1万円以下なら会議費として全額処理できる」と説明し、国が会食を通じた情報交換を後押ししている、と読み解きます。
(補足:国税庁の説明では、この飲食費は、社内の人だけの飲食を除き、参加者の数で割って1万円以下かを判定します。また、一定の事項を書いた書類を保存している場合に限って適用されます。動画の「会議費」は、あくまで「交際費等に含めなくてよい飲食費」のことです。)
賃上げ促進税制:給料を上げた分を税額から引く
国が企業に現金を残させる最大の理由は、そのお金を従業員の給料に回してほしいからだ、と動画は言います。そこで登場するのが賃上げ促進税制です。動画が示す中小企業向けの数字は、次のとおりです。
- 給与額が前年度比1.5%以上増えると、増加額の15%を税額控除。
- 2.5%以上増えると、控除率は30%。1.5%と2.5%の差はわずかなのに、控除率は倍になる。
- 控除しきれなかった分は5年間繰り越せる。赤字の年があっても、賃上げに踏み切りやすい。
条文でも、中小企業者等は雇用者給与等支給額の増加割合が1.5%以上で15%、2.5%以上でさらに15%を加えた30%、控除額は法人税額の20%が上限で、未控除分は5年繰り越せます。数字の置き方がイメージしやすいよう、設例で計算してみましょう。
動画はさらに、上乗せの「追加ミッション」を紹介します。教育訓練費を前年度比で5%以上増やし、かつその額が給与支給額の0.05%以上なら10%を加算。女性活躍などの条件を満たせばさらに5%を加算、という内容です。「0.05%以上」という数字は、聞き手が試験で見落としやすい点だと指摘し、講師も同意しています。
令和8年度改正に注意
この教育訓練費の上乗せは、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から廃止されました(国税庁)。動画の説明は、廃止前の制度の内容です。子育てとの両立支援などに積極的な企業への上乗せ(+5%)は残っています。また、動画の「大企業は30%、中堅企業は最大35%」という数字も、現在の制度とは異なります。全法人(大企業)向けの措置は令和8年3月31日で廃止され、中堅企業向けも要件が見直されました。
動画は続いて、一定規模以上の企業にマルチステークホルダー方針の公表が求められる、と説明します。株主や従業員だけでなく、取引先、下請け企業、地域社会まで含めた関係者のことで、税の優遇で浮いたお金を自社だけでなく、適正な価格を通じて社会に循環させなさい、という国のメッセージだ、という解釈です。条文上、中堅企業向けの規定では、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の法人が、給与の引上げ方針や取引先との適切な関係の構築の方針などを公表することが要件に入っています。
青色申告:きちんと記帳する人へのごほうび
賃上げの計画も、投資も、まず正確な会計がなければ立てられません。国が税を優遇するからには、ガラス張りの帳簿をつけてほしい。そのインセンティブが青色申告制度だ、と動画は説明します。最大の条件は、正規の簿記の原則、つまり複式簿記で記録することです。
動画が挙げる特典は3つです。まず、所得から差し引ける55万円の特別控除。次に、家族従業員に払った給与を経費にできる制度(青色事業専従者給与)。そして、赤字を3年間繰り越せることです。今年100万円の赤字を出しても、来年100万円の黒字が出たときに、過去の赤字と相殺して税金をゼロにできます。
(補足:55万円の控除は「無条件」ではなく、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して期限内に提出することが要件です。専従者給与も、事前に届け出た金額の範囲で適正な額に限られます。なお、3年繰越は所得税(個人)の話で、法人の青色欠損金は10年間繰り越せます。)
動画はさらに、国税庁のオンラインシステムであるe-Taxで電子申告をするか、電子帳簿保存を行うと、控除額が55万円から65万円に増える、と説明します。10万円の差は「紙の帳簿をやめてデジタル化しなさい」という国のメッセージだ、という読み方を、聞き手が示し、講師が受けています。
令和9年分以後の改正(令和8年度)
令和8年度改正により、令和9年分以後は、55万円の控除にe-Taxでの提出が要件に加わって65万円へ、さらに電子帳簿保存などを満たす場合は75万円へ引き上げられます。簡易簿記の10万円控除も、前々年の収入が1,000万円を超えるなどの場合は対象外になります。動画の55万円・65万円は、令和8年分までの制度の内容です。
未来への投資を促す税制
中小企業投資促進税制:2つのうち1つを選ぶ
自社の設備投資を後押しするのが、中小企業投資促進税制です。生産性向上のための機械などを取得したとき、次の優遇のどちらかを選びます。
- 取得価額の30%の特別償却:通常の減価償却とは別に、初年度に大きく経費を追加できる。
- 取得価額の7%の税額控除:払う税金そのものを直接減らせる。
聞き手は、これを「コース料理のデザートを先にまとめて食べるのが特別償却、追加で無料のデザートをもらえるのが税額控除」とたとえます。特別償却は経費にできる総額が変わらず、税金を払うタイミングを先送りしているだけ、という理解です。
ここで試験委員が引っかけてくるのが、動画も強調するポイントです。税の上の中小企業は資本金1億円以下でしたが、7%の税額控除は資本金3,000万円以下の法人に限られます。3,000万円を超えて1億円以下の企業は、特別償却しか選べません。動画の理由づけは、「税金の先送り」と「税金の免除」では性質が違うので、体力のある企業には自力で投資してもらい、資金力の乏しい小さな企業にだけ免除という強い手段を使う、というものです。
(補足:この線引きは、租税特別措置法施行令27条の6が、資本金3,000万円を超える法人を税額控除の対象から外していることによります。税額控除は法人税額の20%が上限で、指定期間は令和9年3月31日までです。)
資本金で線を引くなら、1億円以下なら全部同じ扱いでいいのでは。どうして3,000万円なんでしょう。
税額控除は、税金の免除という強いプレゼントです。だから、とくに小さな企業に絞ったと考えると、数字の理由が見えてきます。
エンジェル税制:個人投資家のリスクを税でカバー
外部への投資を促すのがエンジェル税制です。資金に余力のある個人が、急成長をめざすスタートアップに投資するリスクを、税面から和らげます。動画は、対象となる企業の条件として、設立10年未満・未上場・外部からの投資を1/6以上受け入れていること、などを挙げます。1/6という条件は、他の投資家も可能性を認めてお金を入れているスタートアップだけを優遇するため、という読み方です。
投資家のメリットは、動画によると2つあります。1つは、別の株式で利益が出たとき、その年の翌年末までにスタートアップへ投資すれば税負担が軽くなる、という再投資の特例。もう1つは、スタートアップが倒産するなどして損失が出たとき、その損失を翌年以降3年間繰り越して、他の株式の利益と相殺できることです。
(補足:経済産業省のガイドラインで確認すると、投資した年の優遇措置は2種類あります。設立5年未満が対象の優遇措置Aと、設立10年未満が対象の優遇措置Bです。外部の特定株主グループ以外から1/6以上という条件は共通です。再投資の期間は、令和7年度改正で、譲渡益が出た年の翌年末まで延びました(2026年1月1日以後に取得する株式から)。動画の「設立10年未満」は、優遇措置Bの要件にあたります。)
最後の関門:事業承継税制
事業を大きくした企業が最後にぶつかるのが、世代交代です。後継者が株式や事業用資産を引き継ぐときに生じる贈与税や相続税の負担を、国が猶予し、最終的には免除する。冒頭の「黒字廃業」を防ぐための切り札が、事業承継税制です。
動画は、法人版の特例措置について、対象株式がすべてになり、納税猶予の割合が100%に引き上げられている、と説明します。国税庁の説明も、特例措置は対象が全株式で猶予割合が100%です(一般措置は総株式数の最大3分の2まで、相続では80%)。
役員就任要件は「撤廃」ではなく「緩和」
動画は、令和7年度の税制改正で、後継者の役員就任要件が「事実上撤廃された」と述べ、贈与の直前に慌てて役員に就任しても特例が認められる、と説明します。個人版でも、後継者が事業を手伝っていた実績を問う事業従事要件が、同じように「事実上撤廃された」と言います。国としては、事前の準備期間が足りないという形式的な理由で優遇を受けられず、廃業に追い込まれる事態を避けたい、という見立てです。
公式の表現を確認しておこう
財務省の令和7年度大綱では、贈与税の特例制度の役員就任要件は「贈与の日まで引き続き3年以上」から「贈与の直前において特例認定贈与承継会社の役員等であること」に改められました。個人版の事業従事要件も、「贈与の直前において」事業に従事していたこと、に変わっています。令和7年1月1日以後の贈与から適用です。動画の「事実上撤廃」は、わかりやすくした言い方で、役員(または事業従事)であること自体はまだ要件です。
特例承継計画の提出期限
動画は、特例を受けるには特例承継計画を事前に提出する必要があり、その期限が「2026年3月31日まで」で「もうあまり時間がない」と説明します。ところが、令和8年4月1日現在では、この期限はすでに延長されています。
令和8年度の税制改正の大綱で、特例承継計画の提出期限は1年6か月、個人版の個人事業承継計画は2年6か月延長されました。国税庁の説明では、法人版の特例承継計画の提出は令和9年9月30日までです。一方、特例措置による贈与・相続の適用期限は令和9年12月31日のまま変わっていません。試験では、提出期限と適用期限を取り違えないようにしましょう。
(動画は、個人版の事業用資産の猶予割合も100%と説明しています。これは国税庁パンフレット(令和8年度版)の図で、納税猶予100%と確認できました。同資料には、個人事業承継計画の提出期限が令和10年9月30日まで延長されたことも載っています。)
まとめ:数字より先に「国のねらい」を思い出す
動画の結びは、こうです。試験で見たことのない複雑なルールの選択肢に出会ったら、「この税制は、社会の誰を幸せにしようとして作られたのか」「エコシステム全体を豊かにする選択肢はどれか」という視点を持ってみよう、と。税の優遇は、もはやその会社だけが儲かるためのものではなく、取引先や地域社会を含めた全体を豊かにする条件に変わりつつある、という見方です。
- 税の上の中小企業は資本金1億円以下が基本。軽減税率は年800万円以下で15%。
- 交際費は、年800万円まで、または飲食費の50%を選ぶ。飲食費は1人1万円以下なら交際費等から外れる。
- 賃上げ促進税制(中小)は、1.5%以上で15%、2.5%以上で30%、5年繰越。教育訓練費の上乗せは令和8年4月以後の事業年度から廃止。
- 青色申告の控除は、令和8年分までは55万円・65万円。令和9年分以後は65万円・75万円。個人の赤字は3年繰越。
- 投資促進税制の税額控除7%は資本金3,000万円以下。エンジェル税制は外部1/6以上、損失は3年繰越。
- 事業承継税制の特例は猶予割合100%・全株式。役員就任要件は「贈与の直前」に緩和。特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日。
数字は、なぜその数字なのかとセットで思い出すのがコツです。通勤中や隙間時間に動画を何度も聞いて、このページで数字と改正点を確かめる、という使い方がおすすめです。

