行政上の強制措置の全体像(行政強制と行政罰の分類)
「明日までに片づけておいてくださいね」と言われたのに、そのままにしてしまった。動画はそんな身近な話から始まります。役所が国民に義務を課しても、守られなければ目的は実現しません。そこで用意されているのが「行政上の強制措置」です。このページでは、細かい中身に入る前の「地図」として、行政強制と行政罰の分類を図でまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
3行でいうと
- 行政上の強制措置は、将来に向けて状態を実現する行政強制と、過去の違反に制裁を科す行政罰の2系統に分かれます。
- 行政強制は、義務の不履行が前提の行政上の強制執行(代執行・執行罰・直接強制・強制徴収)と、前提としない即時強制に分かれます。
- 行政罰は、重い違反への行政刑罰と、軽微な形式的違反への秩序罰の2種類です。
なぜ「強制」の仕組みが要るの?
行政行為や行政立法によって、国民に「〇〇しなさい」という義務が生まれる場面があります。ところが、義務を課しただけでは、相手が従わなければ何も変わりません。役所が実現したかったこと(行政目的)は、実現しないままです。
そこで、行政機関が国民に強制力を使って、行政目的を実現する仕組みが用意されています。これをまとめて行政上の強制措置といいます。中身は何本にも枝分かれしているので、まず全体の地図を頭に入れてしまうのが近道です。
いちばんの分かれ道:将来か、過去か
最初の分かれ道は、行政強制と行政罰です。どちらも強そうな名前ですが、向いている時間の方向がちがいます。
- 行政強制:これから先に向けて、あるべき状態を実現するためのもの
- 行政罰:すでに行われた違反に対して、制裁を科すもの
たとえるなら
学校の掃除当番をさぼった人がいたとします。今からでも教室をきれいにさせる(またはきれいにする)のが行政強制の発想、「さぼった」という過去の事実にペナルティを与えるのが行政罰の発想です。
試験で見慣れない手段が出てきたら、「将来の状態を作りにいっているのか、過去の行為を責めているのか」という目で見ると、分類しやすくなります。
行政強制の中身:強制執行と即時強制
行政強制は、さらに2つに分かれます。
- 行政上の強制執行:国民が行政上の義務を履行しない(果たさない)場合に行われるもの
- 即時強制:義務の不履行があるかどうかにかかわらず行われるもの
分かれ目は「先に義務があって、それが果たされていないか」です。問題文を読むときは、まず義務が課されていたかどうかを探してください。即時強制の中身(どんな場面で使われ、何が根拠になるか)は、別の回でくわしく扱います。
行政上の強制執行の4つの手段
- 代執行:他人が代わってできる義務について、義務者に代わって、行政機関や第三者が義務の内容を実現します。費用は義務者から取り立てます。
- 執行罰:義務を果たすまで、お金の負担(過料)を予告して課し、履行を促します。果たされない限り、くり返し課すことができます。
- 直接強制:義務者本人の身体や財産に、直接力を加えて義務の内容を実現します。
- 行政上の強制徴収:お金を払う義務が果たされないときに、そのお金を強制的に取り立てます。税金の滞納処分(財産の差押えなど)が代表例です。
代執行と直接強制って、どちらも無理やりやらせる感じで、区別がつきません。
力の向く先で分けましょう。代執行は、本人がやらないことを代わりの人がやってしまう。直接強制は、本人の身体や財産に直接力が及びます。
代わりにやるのか、本人に直接なのか。その一言で分けられるんですね。
お金がからむ2つ:執行罰と強制徴収
執行罰もお金、強制徴収もお金ですよね。何がちがうんですか?
もとの義務を見てください。強制徴収は、もとの義務が「お金を払うこと」なので、そのお金を取りにいきます。執行罰は、もとの義務がお金とは限らず、お金の負担は義務を果たさせるための道具なんです。
行政罰の中身:行政刑罰と秩序罰
行政罰は、義務違反の重さに応じて2種類に分かれます。
- 行政刑罰:重い違反に対して科される、刑法上の刑罰(拘禁刑や罰金など、刑法に名前のある刑)です。
- 秩序罰:届出を怠ったなどの軽微な形式的違反に対して科される過料です。刑罰ではありません。
たとえば、引っ越したのに、正当な理由なく転入届などの届出をしないと、住民基本台帳法にもとづいて過料を科されることがあります。これが秩序罰のイメージです。
「罰」が付く3つは、居場所で覚える
ここまでに、執行罰・行政刑罰・秩序罰と、「罰」の付く言葉が3つ出てきました。字面は似ていますが、執行罰は行政強制の側(将来に向けて履行を促す)、行政刑罰と秩序罰は行政罰の側(過去の違反への制裁)です。名前ではなく、分類図のどこにいるかで覚えましょう。
学ぶ順番と、根拠になる条文
この分野は、①全体の分類 → ②それぞれの用語の意味と具体例 → ③行政代執行法などの条文、の順に進めると迷子になりません。条文から入ると、いま地図のどこにいるのかが分からなくなるからです。
中心になる法律の1つが行政代執行法です。その1条は、行政上の義務の履行確保については、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる、としています。つまり、ほかの法律に定めがあればそちらによる、という留保つきです。細かい要件は、この先の回で1つずつ確認していきます。
試験ではここに注目
- 行政強制は将来に向けた状態の実現、行政罰は過去の違反への制裁
- 強制執行は義務の不履行が前提、即時強制は前提としない
- 強制執行の4手段(代執行・執行罰・直接強制・強制徴収)の区別
- 執行罰は名前に「罰」が付くが行政強制の一種。行政刑罰は刑罰、秩序罰(過料)は刑罰ではない
用語を並べて覚えるより、分類図の「どの枝か」を答えられるようにしておくと、ひっかけの選択肢に強くなります。

