コール・オプションで行使するかどうかを分ける本当の基準
事例Ⅳ 第1回
「オプションの計算式、暗記してますよね」。動画はこんな問いかけから始まります。公式は覚えているのに、与件文でオプションが出てくると手が止まる。このページでは、与件文のサイン、権利行使と放棄の判断基準、損益の計算、答案の書き方を、動画の流れにそってまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
公式は覚えているのに、手が止まる
オプションの計算式、暗記してますよね。
はい、権利行使価格とプレミアムを使う式ですよね。公式は覚えてます。でも実際に与件文でこれが出てきたとき、本番でどう使えばいいのか、正直ちょっと不安なんです。
そうなんですよ。知識としては知っているのに、いざ数字を当てはめようとすると手が止まる。これ、事例Ⅳでオプションが出たときに一番多い相談なんです。
私、権利行使するかしないかの判断のところで、いつも迷います。損してでも行使した方がいいのか、放棄した方がいいのか、感覚で決めちゃってる気がして。
今日はその判断の基準と、損益の計算のしかたに絞って、一緒に整理していきましょう。
輸出入取引の為替リスクにどう備えるか
まず前提として、コール・オプションの論点は、輸出入取引の為替リスクにどう備えるか、という文脈で問われることが多い論点です。
為替リスクへの備え方というと、為替予約と同じ場面で出てくるということですか。
そのとおりです。為替予約とセットで、選択肢の一つとして出てくることがよくあります。あるいは、将来の意思決定に柔軟性を持たせる場面で、権利を買っておくという発想そのものが問われることもあります。
場面は一つじゃないんですね。とりあえず「権利行使価格」「プレミアム」「原資産価格」という言葉が出てきたら、この論点を疑う、という感じでいいですか。
いいと思います。特に「オプション料」「権利を行使する・放棄する」という言い回しが出てきたら、ほぼ確実にこの論点です。ただし、どんな問われ方であっても、聞かれていることの土台は同じで、決まった時点の価格と行使価格を比べて損益を出す、という構造です。
土台が同じなら、場面ごとに一から考え直さなくていいということですね。少し安心しました。
与件文のどこを見たらこの論点だと気づけるか
では、与件文のどこを見たらこの論点だと気づけるか。反応すべき記述を確認しましょう。
お願いします。本番で反射的に反応できるようにしておきたいので。
一つ目は「将来、外貨建てで代金を支払う(または受け取る)予定がある」という記述です。
これは為替予約のときと同じ着眼点ですね。
そうです。二つ目は「権利行使価格」「プレミアム」「オプション料」という具体的な数値が示されているかどうか。三つ目は「権利行使日」や「満期日」という期限の記述があるかどうかです。
期限が出てきたら、その日の価格と行使価格を比べる準備をしてください、という合図みたいなものですね。
まさにそうです。そして四つ目が、「権利を行使する・放棄する(権利を放棄できる)」という言い回しそのもの。これが出ていたら、義務ではなく権利の話をしている、という強い手がかりになります。
全部そろわなくても、一つ出てきた時点で疑ってかかればいいんですよね。
3つの数字をそろえる
見つけた情報は、決まった形で整理すると計算ミスを防げます。ここからが今日の本題です。
はい、ここでいつも迷子になるので、しっかり聞きたいです。
まず①権利行使価格と、②プレミアム、③満期時点の原資産価格。この3つの数字をそろえます。ここが土台です。
権利行使価格が「あらかじめ決めておいた値段」で、原資産価格が「実際にそのときの市場の値段」、プレミアムが「権利を買うために先に払っておくお金」、という理解で合ってますか。
完璧です。イメージしやすいように、たとえ話をしましょう。お気に入りの服を見つけたけど、今は買うお金がない。そこでお店に「来週までこの値段で取り置いてください」とお願いして、取り置き手数料として300円払ったとします。
あ、それわかります。フリマアプリとかでもありますよね、一定期間だけ値段を固定してもらう予約。
それと同じ構造です。来週、その服が値上がりしていたら、予約どおり安い値段で買う。これが権利行使です。逆に値下がりしていたら、予約はキャンセルして、お店でそのまま安い方を買えばいい。これが権利の放棄です。
予約してるからといって、必ず買わなきゃ
そこが為替予約との決定的な違いです。為替予約は「必ずその値段で取引する」という義務ですが、オプションは「その値段で取引してもいいし、しなくてもいい」という権利なんです。
だから「オプション」なんですね、選べるという意味で。
| 為替予約 | オプション |
|---|---|
| 義務 | 権利 |
| 必ずその値段で取引する | その値段で取引してもしなくてもよい |
実際に数字を動かしてみる
では実際に数字を動かしてみましょう。輸入企業が3か月後に2万ドルの支払いを予定していて、1ドル148円で買えるコール・オプションを購入したとします。プレミアムは1ドルあたり2円、つまり合計4万円を先に払っています。
権利行使価格が148円、プレミアムが2円ですね。3か月後、実際のレートはいくらになるんですか。
まず、3か月後に1ドル158円まで円安が進んだ場合を考えます。権利行使価格の148円より高いので、権利を行使します。
市場では158円で買うところを、148円で買える。差額は1ドルあたり10円、2万ドルなので20万円得をする、ということですね。
そこからプレミアムの4万円を差し引いて、純粋な利益は16万円です。ここでのポイントは、権利行使価格の148円と、プレミアムまで含めた150円という損益分岐点、この2つを混同しないことです。
あ、150円というのは148円プラス2円で出した数字ですよね。158円はその150円も上回っているから、純粋にプラスになった、ということですか。
そのとおりです。では逆に、3か月後に1ドル145円まで円高が進んだ場合はどうでしょう。
行使価格の148円より安いから、権利を行使する意味がないですよね。市場でそのまま145円で買えばいい。
そのとおり、権利は放棄します。この場合の損失は、先に払ったプレミアム4万円だけに限定されます。市場が145円まで下がっても、それ以上の損はしません。
為替予約だったら148円で買う義務があるから、市場より高く払わされてしまいますもんね。オプションはそこで踏みとどまれるのが強みなんですね。
| 3か月後のレート | 権利 | 純損益 |
|---|---|---|
| 158円 | 行使 | +16万円 |
| 145円 | 放棄 | −4万円 |
一番間違えやすいところ:149円のとき
ここで一番間違えやすいところを見ておきましょう。3か月後のレートが1ドル149円だった場合、権利行使しますか、しませんか。
うーん、149円って、行使価格の148円は上回ってますけど、損益分岐点の150円は下回ってますよね。行使しても得しないから、放棄した方がいいんじゃないですか。
そう考えがちなんですが、実はそこが誤答の典型パターンなんです。権利行使するかどうかの判断基準は、損益分岐点ではなく、あくまで権利行使価格を上回っているかどうかです。
え、でも行使したら損しますよね。
計算してみましょう。行使すれば、148円で買って市場は149円なので、1ドルあたり1円、2万ドルで2万円得をします。そこからプレミアム4万円を引くと、純損益はマイナス2万円です。一方、行使せず放棄すると、プレミアム4万円がそのまま丸ごと損失になります。
| 149円のとき | 行使する | 放棄する |
|---|---|---|
| 差額の利益 | +2万円 | なし |
| プレミアム | −4万円 | −4万円 |
| 純損益 | −2万円 | −4万円 |
行使してもマイナス2万円、放棄したらマイナス4万円……行使した方が、損失が小さくて済むということですか。
そういうことです。プレミアムはすでに払ってしまった、後からは取り戻せないお金なので、行使するかどうかの判断には関係させません。この考え方、差額の計算で扱う埋没費用と同じ発想です。
あ、それ、前にやった論点とつながりますね。もう払ってしまったお金は、これからの判断材料にしない、という考え方でした。
そうです。オプションの行使判断も、同じ発想で説明がつきます。損益分岐点は「トータルで得したかどうか」を測る物差しであって、「行使すべきかどうか」を決める物差しではない。この2つを分けて考えることが、この論点の一番の急所です。
解答にどう落とし込むか
では、これを解答にどう落とし込むか。記述問題での型を確認しておきましょう。
お願いします。
「原資産価格が権利行使価格を上回れば権利を行使し、その差額に相当する利益を得る。下回れば権利を放棄し、損失は支払済みのプレミアムに限定される」という型に、実際の数値を添えて書きます。
メリットとデメリットを両方書くとしたら、メリットは「損失をプレミアムの範囲に抑えられること」、デメリットは「有利な方向に動かなかった場合でも、プレミアムの支払いは必ず発生すること」、という整理でいいですか。
いいと思います。計算過程を書かせる問題では、権利行使価格・プレミアム・原資産価格の3つを表のように並べてから、行使する場合としない場合それぞれの損益を書くと、途中の考え方が伝わりやすくなります。
結論だけ書かずに、比較の過程を残しておく、ということですね。
買い手と売り手で、損益の構造が逆転する
最後に、混同・誤答しやすいポイントをもう一つ押さえておきましょう。買い手と売り手で、損益の構造が逆転するという点です。
逆転、というと。
買い手は損失がプレミアムに限定される一方、利益は理論上どこまでも伸びます。逆に売り手は、受け取れる利益がプレミアムに限定される一方、損失は原資産価格が上がるほど際限なく広がります。
立場が違うだけで、リスクの向きが真逆になるんですね。設問でどちらの立場かを読み違えたら、答えがまるごと逆になってしまいそうです。
そこは与件文で「購入した」のか「発行した・売った」のかを必ず確認する必要があります。今日扱ったのは、権利を買う側、つまりコール・オプションの買い手の視点です。
本番でのチェックポイント
では、本番でこの論点を使うときのチェックポイントをまとめておきましょう。
お願いします。
一つ、権利行使価格・プレミアム・原資産価格の3つの数字をまずそろえること。
二つ、権利行使するかどうかは、損益分岐点ではなく権利行使価格との比較で判断すること。プレミアムは埋没費用として、行使判断には含めないこと。
三つ、行使した場合と放棄した場合、両方の損益を計算して比較すること。
四つ、為替予約との違い、つまり義務か権利かという違いを、答案の中でも意識して書き分けること。
これができれば、公式は知っているのに使えない、という状態からは抜け出せます。
損益分岐点と行使価格、混同したまま覚えていたところが、今日ではっきり整理できました。
その整理の感覚を、ぜひ過去問演習で実際に数字を動かしながら確認してみてください。
行使する場合としない場合、両方の損益を並べて計算する練習をしてみます。
それがいちばんの近道です。着眼点、数字の整理、そして行使の判断基準、この三つがセットで出てくるようになれば、本番で迷う時間はぐっと減ります。
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