フリー・キャッシュ・フロー、支払利息と運転資本の符号
事例Ⅳ 第4回
「フリー・キャッシュ・フロー」、計算式は書けるのに、いざ問題文の中でどう組み立てればいいか、迷った経験はありませんか。動画は、こんな問いかけから始まります。このページでは、二次での出方、与件文のサイン、二通りの式、数値例、答案に書く順番、企業価値への接続、混同しやすい誤りを、動画の流れにそってまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
計算式は書けるのに、どう組み立てればいいか迷う
「フリー・キャッシュ・フロー」、計算式は書けるのに、いざ問題文の中でどう組み立てればいいか、迷った経験はありませんか。
まさにそれです。営業利益に減価償却を足して、投資額を引いて…というのは覚えているんですけど、いざ与件文の数字を目の前にすると、どれをどう当てはめればいいのか止まってしまいます。
今日はその組み立て方を、与件文のどこを見て、どの数字をどう並べるか、という手順まで一緒に整理していきましょう。
お願いします。式そのものより、その式に数字を当てはめる手前でつまずいている気がします。
この論点が二次でどう出るか
では、この論点が二次でどう出るかから見ていきます。大きく二つの場面があって、一つは個別の設備投資案について、その投資が生み出すキャッシュフローを求めさせる場面。もう一つは、企業全体の価値をDCF法で評価させる場面です。
投資1件の話なのか、会社全体の話なのか、まず場面を見分ける必要があるんですね。
そうです。どちらの場面でも、答案の土台になるのがフリー・キャッシュ・フローの算定です。「フリーキャッシュフロー」「FCF」という言葉がそのまま出てくることもあれば、「企業価値を求めよ」「DCF法により算定せよ」という設問文だけが手がかりのこともあります。
言葉が出ていなくても、企業価値やDCF法という言葉があれば、その裏でFCFを求める必要がある、と気づけばいいんですね。
与件文のどんな記述が出たらこの論点だと気づけるか
そのとおりです。次に、与件文のどんな記述が出たらこの論点だと気づけるか、着眼点を見ていきましょう。まず一つ目は、営業利益、あるいはそれを計算できる売上高と費用の数値です。二つ目は、減価償却費の金額。
損益計算書に出てくるような数字ですね。
三つ目は、設備投資額。そして四つ目が、売上債権や棚卸資産、仕入債務といった運転資本に関わる項目の増減です。この四種類の数値がそろっていたら、フリー・キャッシュ・フローを求める準備が整っている、というサインです。
四つも見るポイントがあると、本番だと見落としそうです。
その数字をどう組み立てるか:式は二通り
ここからは、その数字をどう組み立てるかです。式は二通りあって、一つ目はキャッシュフロー計算書の形に沿った、フリー・キャッシュ・フロー=営業キャッシュフロー-投資キャッシュフロー、という式。
営業活動で稼いだお金から、投資に使った分を引く、というイメージですね。
はい。もう一つは、損益計算書の数字から直接組み立てる式で、フリー・キャッシュ・フロー=税引後営業利益+減価償却費-運転資本増加額-設備投資額、という形です。
さっき覚えていると言った式は、こっちですね。税引後営業利益に減価償却を足して、いろいろ引く、という。
フリー・キャッシュ・フローの式は二通り
- キャッシュフロー計算書の形:フリー・キャッシュ・フロー=営業キャッシュフロー-投資キャッシュフロー
- 損益計算書の数字から直接:フリー・キャッシュ・フロー=税引後営業利益+減価償却費-運転資本増加額-設備投資額
税引後営業利益の作り方と、会社を一つの家計に例える
そうです。ここで大事なのが、税引後営業利益の作り方です。税引後営業利益は、営業利益に1-実効税率を掛けて求めます。ここで会社を一つの家計に例えてみましょう。
家計、ですか。
毎月の手取り収入から、生活に絶対必要な支出と、将来のための貯蓄や買い替えの分を除いた残りが、本当に自由に使えるお金ですよね。会社のフリー・キャッシュ・フローも同じで、本業で稼いだ利益から税金を払った後の金額をベースに、実際には出ていっていないのに帳簿上引かれている費用を足し戻し、在庫や売掛金に眠って自由に使えなくなった分と、将来のための設備投資に回した分を除いた残りが、本当に自由に使えるお金になります。
つまり、減価償却費を足し戻すのは、実際にはお金が出ていっていないからで、運転資本の増加分と設備投資額を引くのは、その分が実際には自由に使えないお金だから、ということですね。
税引後営業利益
税引後営業利益 = 営業利益 × (1-実効税率)
数字で確認する:営業利益8,000万円、実効税率30%
まさにそのイメージです。数字で確認しておきましょう。営業利益が8,000万円、実効税率が30%だとすると、税引後営業利益は8,000万円×0.7で、5,600万円になります。
三割は税金で出ていく、という計算ですね。
そこに、減価償却費1,200万円を足し戻します。5,600万円+1,200万円で、6,800万円。ここから、運転資本増加額300万円を引き、さらに設備投資額1,500万円を引くと、6,800万円-300万円-1,500万円で、5,000万円がフリー・キャッシュ・フローになります。
5,600、6,800、と足したり引いたりしながら、最後は5,000万円に落ち着くんですね。
もう一つの式でも確認してみましょう。営業キャッシュフローは、税引後営業利益5,600万円に減価償却費1,200万円を足して、運転資本増加額300万円を引いた、6,500万円。ここから投資キャッシュフロー、つまり設備投資額1,500万円を引くと、6,500万円-1,500万円で、やはり5,000万円になります。
どちらの式で組み立てても、同じ5,000万円にたどり着くんですね。
| もう一つの式 | 計算 |
|---|---|
| 営業 | 5,600+1,200-300=6,500万円 |
| 投資 | 設備投資額 1,500万円 |
| フリー・ | 6,500-1,500=5,000万円 |
運転資本増加額の中身と、符号の注意点
そうです。与件文でどちらの数字がそろっているかによって、使いやすい式を選べばいい、ということです。ここで、運転資本増加額の中身も確認しておきましょう。たとえば売上債権と棚卸資産が合わせて500万円増え、仕入債務が200万円増えたとすると、差し引き300万円が運転資本の増加額になります。
500-200で300、というわけですね。
はい。ここでの注意点は、運転資本が増えるということは、その分のお金が在庫や売掛金として会社の中に眠ってしまい、自由に使えなくなる、ということです。だから、運転資本の増加額はフリー・キャッシュ・フローからマイナスします。
増えたのにマイナスする、というのが、直感とずれるところですね。
| 項目 | この例の増減 |
|---|---|
| 売上債権と | 合わせて500万円の増加 |
| 仕入債務 | 200万円の増加 |
| 運転資本 | 500-200=300万円 |
実際に答案へ落とし込むときの手順
では、実際に答案へ落とし込むときの手順を整理しましょう。計算過程を示す設問では、まず営業利益に1-実効税率を掛けて税引後営業利益を出すことを明示します。次に、減価償却費を足し戻すことを示し、そのうえで運転資本増加額と設備投資額を、それぞれ引くという順番で書きます。
足す作業と引く作業の順番を、途中式として全部見せる、ということですね。
企業価値の算定に接続する設問
そのとおりです。企業価値の算定に接続する設問では、こうして求めたフリー・キャッシュ・フローを、加重平均資本コストで割り引いて現在価値に直します。簡便的には、企業価値=フリー・キャッシュ・フロー÷加重平均資本コスト、という式に当てはめる形です。
数字で見ると、どのくらいの企業価値になりますか。
先ほどのフリー・キャッシュ・フロー5,000万円に対して、加重平均資本コストが8%だとすると、企業価値は5,000万円÷0.08で、6億2,500万円になります。
割引率が小さいほど、企業価値は大きく出る、という関係も見えてきますね。
企業価値への当てはめ
企業価値 = フリー・キャッシュ・フロー ÷ 加重平均資本コスト
5,000万円 ÷ 0.08 = 6億2,500万円(加重平均資本コスト8%の場合)
混同しやすいポイント
ここで、混同しやすいポイントを整理しておきましょう。一つ目は、支払利息を引いてしまう誤りです。フリー・キャッシュ・フローは、借金がまったく無い会社だと仮定して求める、資金調達の方法に左右されない指標なので、支払利息は最初から式に登場しません。
損益計算書の感覚だと、支払利息はつい引きたくなります。
そうなんです。資金調達をどう組んでいるかという情報は、割り引く側の加重平均資本コストにすでに織り込まれています。フリー・キャッシュ・フロー自体に支払利息を反映させてしまうと、二重に差し引くことになってしまいます。
利息の話は、割引率の方でもう済んでいる、ということですね。
二つ目は、運転資本増加額の符号を逆にしてしまう誤りです。運転資本が増えたのに、プラスとして足してしまうケースがよくあります。
さっき出てきた、増えたのにマイナスする、というところですね。
そうです。三つ目は、減価償却費を足し戻すのを忘れてしまう誤りです。税引後営業利益だけを答えにしてしまうと、実際には出ていっていないお金まで引いたままになってしまいます。
三つとも、式のどこか一箇所を飛ばすだけで起きる誤りなんですね。
個別の投資案と企業全体では、対象にする範囲が違う
はい。もう一つだけ、先に押さえておいてほしいことがあります。個別の投資案について差額のキャッシュフローを求める場面と、企業全体のフリー・キャッシュ・フローを求める場面は、税引後営業利益に減価償却を足し戻すという形は似ていても、対象にする範囲が違います。
一つの投資案の話なのか、会社全体の話なのか、という違いですね。
そのとおりです。個別の投資案では、その投資によって新たに生まれる増分だけを見ますが、企業全体のフリー・キャッシュ・フローでは、既存の事業も含めた会社全体の営業利益から出発します。どちらを求められているかを、設問文でまず確認してください。
同じような式でも、範囲を取り違えると答えがまったく変わってしまいますね。
| 求める場面 | 対象にする範囲 |
|---|---|
| 個別の投資案 | その投資によって新たに生まれる増分だけ |
| 企業全体 | 既存の事業も含めた会社全体の営業利益から出発 |
まとめ
最後にチェックポイントをまとめておきましょう。まず、与件文に営業利益、減価償却費、設備投資額、運転資本に関わる数値がそろっているかを確認します。
そのうえで、税引後営業利益を出して、減価償却費を足し戻し、運転資本増加額と設備投資額を引く、という順番ですね。
はい。そして、支払利息は最初から式に入れないこと、運転資本の増加はマイナスすることを忘れなければ、本番でも落ち着いてフリー・キャッシュ・フローを組み立てられるはずです。
式は覚えていたつもりでしたけど、どの数字をどこに当てはめて、なぜそうするのかまで、今日ではっきりしました。
チェックポイント
- 与件文に、営業利益・減価償却費・設備投資額・運転資本に関わる数値がそろっているかを確認する
- 税引後営業利益を出す → 減価償却費を足し戻す → 運転資本増加額と設備投資額を引く
- 支払利息は最初から式に入れない
- 運転資本の増加はマイナスする
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