CPI・SPIが1を下回ったらどうする?EVMで進捗を数値化する方法
経営情報システム 第39回
「あなたがもし、社運をかけたような数億円規模の巨大な新規プロジェクトのリーダーに、突然指名されたとします」。動画はこんな場面設定から始まります。このページでは動画の流れにそって、WBS(100%ルールとワークパッケージ)、ガントチャート、EVMの指標(BAC・AC・EV・PV・EAC)、CPIとSPI、トレンドチャートをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
社運をかけた巨大プロジェクト、まず何から手をつける?
動画は、こんな場面から始まります。数億円規模の巨大な新規プロジェクト、たとえば自社のスマートホーム家電を一から開発して市場に送り出す仕事のリーダーに、突然指名された。キックオフの朝、誰もいない会議室で真っ白なホワイトボードの前に立ち尽くしてしまう。動画によれば、それは能力不足ではなく、極めて正常な人間の心理です。私たちの脳は、巨大で抽象的な塊をそのまま処理するようにはできていないからだ、と説明されます。
そこで必要になるのが、巨大な塊を管理できる大きさまで切り刻む技術です。動画は、次の4つの道具を順に見ていきます。
- WBS:やるべき作業を漏れなく洗い出し、階層的に分解する。
- ガントチャート:作業の順序と期間を、日程表として見える化する。
- EVMとCPI・SPI:進捗や達成度を「お金の価値」に置き換えて測る。
- トレンドチャート:費用と進捗の流れを、全体のグラフで同時に追う。
WBS:巨大な塊を「ワークパッケージ」まで切り分ける
最初の道具は WBS(Work Breakdown Structure、ワークブレークダウンストラクチャー)です。動画の説明では、プロジェクト全体でやるべき作業を洗い出したうえで、階層的に要素分解する手法です。巨大な目標を、実行できる具体的なタスクへ解体していきます。スマートホーム家電なら、「家電を作る」という一番上の階層から、ハードウェアの設計や専用アプリの開発といった大きな分野に分け、アプリの開発をさらに、ユーザー認証の作成やBluetooth接続の実装まで細かくしていきます。
このとき、動画が「絶対に妥協してはいけない鉄則」と呼ぶのが100%ルールです。WBSに含まれていない作業は、このプロジェクトには存在しないものとみなされます。たとえばアプリ開発に気を取られて「取扱説明書を作る」作業を洗い出し忘れると、誰も説明書を作らず、製品が完成しても発売できない、という致命的な事態になる。だから漏れなく分解するのです。
分解の行き着く先が、いちばん小さな作業単位のワークパッケージです。ワークパッケージまで落とし込んではじめて、作業の管理、見積り、担当割当てができます。さらに、ワークパッケージごとに作業の詳しい情報をまとめた文書を作ります。これがWBS辞書です。図には「認証作成」としか書いていなくても、辞書を見ればもっと詳しいことが分かる。チーム全員が共有する、精巧な地図のようなものだと動画は説明します。
大きな塊のままだと、誰がやるのかも、いくらかかるのかも決められない。でもワークパッケージまで分ければ、決められるということですか?
そうです。「このプログラムを書くのはAさんで、予算はいくら」と、はっきり割り当てられます。そこまで分けるのが目的なんです。
(補足:JIS Q 21500:2018 では、WBS辞書は「WBSの各構成要素について規定した文書」とされています。動画ではワークパッケージごとの文書として説明されますが、規格の定義はワークパッケージに限らず、WBSの各構成要素が対象です。100%ルールについては、英語版ウィキペディア(二次資料)が、階層のどのレベルでも、子の作業の合計が親の作業の100%に等しく、スコープ外の作業を含めないこと、と説明しています。)
ガントチャート:順序と期間をチームで共有する
地図が手に入っても、いつ出発して、いつまでに目的地へ着くのかという時間の概念がなければ、プロジェクトは動きません。全体計画をもとに日程計画や進捗管理を行うときによく使われるのがガントチャートです。縦軸にタスクや担当者を並べ、横軸に時間を取って、作業計画を視覚的に分かりやすくした表です。
正直、ガントチャートには懐疑的なんです。キックオフの時にカラフルで立派な表を作っても、しばらくすると誰も見なくなる。ただのスケジュール帳に線を引くのと同じじゃないですか。
現場のリアルな声ですね。でも個人のスケジュール帳とは大きな違いがあります。動画は、作業の順序や期間を管理できる点を挙げます。どの作業が終わらないと次の人が始められないか、という依存関係です。
前の人がバトンを渡してくれないと、次の人は準備万端でも走り出せない、という状況ですね。
ええ。その順序をチーム全体で共有できるのが、視覚的ツールとしての最大の強みです。それに、計画の線の横に実績の線を引けば、実際のずれが一目で分かります。
(補足:動画は、順序や依存関係を管理できる点をガントチャートの強みとして説明しています。ただし一般には、横棒の並びから前後関係は読み取れても、作業どうしの依存関係を線で結んだ「リンク付き」の形にすると込み入りやすく、関係を伝えるにはクリティカルパスのネットワーク図のほうが優れる、とされます(英語版ウィキペディア、二次資料)。)
予算を半分使ったら、作業も半分終わっている?
動画は次に、厄介なシナリオを出します。プロジェクトマネージャーがガントチャートを見て「よし、予定どおりだ」と安心している。ところが裏では、予算を大幅に超過している。時間や順序は守れていても、お金に対してどれくらいの価値が生み出されているのかは、ガントチャートだけでは分かりません。動画は、「予算を半分使ったから作業も半分終わっているはずだ」と無意識に思い込むことを、プロジェクト管理でもっとも陥りやすい罠だと言います。
これを定量的に測る手法がEVM(Earned Value Management、アーンドバリューマネジメント)です。動画の説明では、作業の進捗や達成度をすべて金銭的な価値に置き換えて管理します。進み具合のパーセンテージではなく、お金で測るわけです。仕組みを理解するために、動画は基本の指標を整理します。
| 指標 | 動画での呼び方 | 意味と動画の例 |
|---|---|---|
| BAC | 計画総予算 | プロジェクト全体の総予算。例は1億円 |
| AC | コスト実績 | この時点までに実際に使ったお金。例は5,000万円 |
| EV | 出来高実績値 | 完成した作業が、計画上いくら分の価値か。例は2,000万円 |
| PV | 出来高計画値 | この時点までに終わっているはずの作業の、計画上の価値(動画は数値の例を出していません) |
ポイントは EV です。5,000万円が出ていったのに、完成した機能を計画書と照らしてみると、本来2,000万円で作れるはずの分しかできていない。動画は、使ったお金の AC と、実際に生み出された価値の EV は別物だと整理します。予算の消化だけを見ていると、プロジェクトが実は遅れていて赤字になっている事態に気づけません。そこに気づけるのが EVM の重要性だ、というわけです。
お金は5,000万円出ていったのに、できた分を計画書と照らすと2,000万円ぶんしかない。そういうことが起こりうるんですね。
そうです。だから「使ったお金」と「できた価値」を、別々の数字として持つんです。
たとえ(自作):荷造りで考える
100個の段ボール箱を荷造りする計画で、予算は10万円(1箱1,000円の計算)としましょう。作業を始めて5万円を使った(AC)のに、梱包が終わったのは20箱だけ。完成した20箱を計画の単価で値付けすると2万円ぶん、これが EV です。お金は半分使ったのに、仕事は2割しか進んでいない。これが「使った額」と「できた価値」のずれです。
(補足:EV は、実際に使ったお金ではなく、完成した作業を計画の予算で値付けした金額です。日本語版ウィキペディア(二次資料)では、EV=BAC×作業進捗率と整理されています。動画の例なら、進捗率20%×1億円で2,000万円です。)
EAC:このままいくと、最終的にいくらかかる?
動画によれば、EVM を使うと完成時のコスト見積りである EAC(Estimate At Completion)を求められます。つまり、最終的にいくらかかるのか、です。式は次のとおりです。
EAC=AC+(BAC-EV)÷CPI
いままでに使った AC に、「残りの仕事の予算(BAC-EV)を、いまの効率(CPI)で割り戻した額」を足す形です。CPI は次の節で出てきます。動画はこの式の計算までは示していないので、動画の数値で計算してみましょう(ここは自作の計算です)。BAC が1億円、AC が5,000万円、EV が2,000万円、CPI が0.4です。
- 残りの仕事の予算:10,000-2,000=8,000万円
- いまの効率で割り戻す:8,000÷0.4=20,000万円
- EAC:5,000+20,000=25,000万円(2億5,000万円)
総予算1億円の仕事が、いまのペースのままだと2億5,000万円かかる見込みになります。
動画は、EVM のメリットを「プロジェクトの規模の大小に関わらず、進捗度の管理や見積りができる点」、デメリットを「初期の段階ではデータが少ないため精度が低い点」としています。
(補足:EAC の式は一つではありません。米国政府監査院(GAO)のコスト見積りガイドは、EAC を「累計 AC+(BAC-累計 EV)÷効率指数」の形で作るとし、効率指数には CPI、SPI、CPI×SPI などを使い分け、複数の EAC を出して幅で見ることを勧めています。動画の式は、そのうち CPI を使う形で、「いまのコスト効率が最後まで続く」と仮定した見積りです。なお、この式は整理すると BAC÷CPI と同じになります(1億円÷0.4=2億5,000万円)。同じガイドには、進捗が約20%に達すると累積 CPI の値はその後あまり変わらない、という研究結果も紹介されています。初期は材料が少なく見積りがぶれやすい、という動画の指摘と矛盾しない内容です。)
CPIとSPI:「1」を基準にするだけで判断できる
金銭的な価値を使った数値を、プロジェクトマネージャーがパッと見て、順調かまずいかを判断できるシンプルな指標にはできないのか。その答えとして動画が紹介するのが CPI と SPI です。
| 指標と式 | 1を上回る | 1を下回る |
|---|---|---|
| CPI (コスト EV÷AC | 予定よりコストが少ない | コストが超過している |
| SPI (スケジュール EV÷PV | 予定より早い | 予定より遅れている |
どちらも、1なら予定どおりです。動画の例では、CPI=2,000万円(EV)÷5,000万円(AC)=0.4。1を大きく下回っているので、ピンチだと分かります。SPI は動画が数値を出していないので、PV を4,000万円と仮定してみます(自作)。2,000÷4,000=0.5で、こちらも大きく遅れています。
コストの効率もスケジュールの効率も、数字で出せるようになったわけですね。どちらも1が基準で、上ならハッピー、下ならピンチ、というシンプルな見方でいいんですね。
ええ。この「1」という客観的な基準があるので、現場の感覚ではなく、どの部分のコストやスケジュールを軌道修正すべきかを、すぐ判断できる、と動画は説明します。
2つを組み合わせて読むと、ピンチの種類も見分けられます。次の4パターンは、PV を3,000万円にそろえた自作の設例です(数値は Python で検算済み)。
| パターン | PV/EV/AC (万円) | CPI・SPIと読み取り |
|---|---|---|
| A 順調 | 3,000/3,300/3,000 | CPI1.1・SPI1.1。コストも日程も予定より良い |
| B 安いが遅れ | 3,000/2,400/2,000 | CPI1.2・SPI0.8。費用は少ないが、進みが計画に届かない |
| C 速いが高い | 3,000/3,600/4,000 | CPI0.9・SPI1.2。進みは速いが、費用がかさんでいる |
| D 遅れて高い | 3,000/2,100/3,000 | CPI0.7・SPI0.7。遅れも超過も重なり、いちばんピンチ |
題名の「1を下回ったらどうする?」に対して、動画が示すのは、1を下回った部分を見つけて、軌道修正の対象にする、というところまでです。人員を足すのか、範囲を見直すのかといった具体的な対処は、動画では扱われていません。
(補足:コスト差異 CV=EV-AC、スケジュール差異 SV=EV-PV という差額の見方もあります。プラスなら良好、マイナスなら予算超過や遅れです(GAOガイド)。また、同じガイドによると SPI は、プロジェクトが進むにつれて予測力が落ち、完了時には1.0に戻ります。つまり、終盤に SPI が1になっていても、それだけでは日程を守れた証拠にはなりません。)
トレンドチャート:費用と進捗を全体で見る折れ線グラフ
最後は、費用と進捗の流れを全体のグラフとして一目で把握する方法です。動画では、費用管理と進捗管理を同時に行うために用いられる表がトレンドチャートで、横軸に開発期間、縦軸に予算消化率を取った折れ線グラフだと説明されます。
聞き手は「ガントチャートも視覚的だったのに、何が違うのか」と尋ねます。動画の答えは次のとおりです。
| 比べる点 | ガント | トレンド |
|---|---|---|
| 見る視点 | 個別のタスクがいつ終わるか(ミクロ) | プロジェクト全体の期間の中で、予算がどう消化されているか |
| 形 | 横棒を並べた表 | 折れ線グラフ |
ガントチャートが個別のタスクの動きを追うのに対して、トレンドチャートはプロジェクト全体の健康状態を見るためのものなんですね。
まさにその違いです。
(補足:トレンドチャートの定義や軸の取り方は、今回確認できた公的資料(IPAのシラバス、JIS Q 21500:2018 など)には載っていませんでした。ここでは動画の説明をそのまま紹介しています。名前や軸の取り方は資料によって違う可能性があるので、試験対策で使う教材の説明も確かめてください。)
まとめ:勘や精神論に頼らないプロジェクト管理
動画のまとめは、4つの道具の組み合わせです。
- WBSの100%ルールで、作業を漏れなく洗い出す。
- ガントチャートで、日程と順序を視覚化する。
- EVMやCPI・SPIで、金銭的な価値から進捗を定量的に測る。
- トレンドチャートで、費用と進捗を同時に追う。
これらが組み合わさることで、勘や精神論に頼らない、緻密なプロジェクト管理ができる、と動画は結びます。
押さえたい式と用語(出典つき)
- CPI=EV÷AC、SPI=EV÷PV。どちらも1が基準で、1を上回れば計画より良く(コストは少なく、進みは速く)、1を下回れば計画より悪い(GAOガイド)。
- 差額で見るなら、コスト差異 CV=EV-AC、スケジュール差異 SV=EV-PV。プラスなら良好、マイナスなら予算超過・遅れ(GAOガイド)。
- EAC は完成時の総コスト見積り。動画の式は EAC=AC+(BAC-EV)÷CPI で、現在のコスト効率が続くと仮定した場合。ほかの式もあり、複数出して幅で見る(GAOガイド)。
- WBS辞書は、WBSの各構成要素について規定した文書(JIS Q 21500:2018)。ワークパッケージ、100パーセントルール、ガントチャート、EVM は IPA のシラバスの用語例にある。
動画の最後には、リスナーへの問いかけがあります。人間のモチベーションの低下や、まったく予測できなかった突然のトラブルのような、数値化できない要素を、定量的な管理の中にどう組み込みますか。次のプロジェクトで、自分なりの答えを探してみてください、という宿題です。
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