ERPとEAIはどう違う?企業システム設計の正解を完全解説
経営情報システム 第43回
「多くの企業が、業界のベストプラクティスを導入するという甘い言葉に引かれて、莫大な予算を新しいシステムに投じていますよね。でも蓋を開けてみると、現場の業務と噛み合わなくて、誰も使わない高額なシステムの残骸だけが残る」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、パッケージソフト、ERP、EAI、EA、そしてリスクコントロールとリスクファイナンスをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
「ベストプラクティス」を入れたのに、誰も使わない?
動画は、こんな「あるある」から始まります。多くの企業が、業界のベストプラクティスを導入できるという甘い言葉に引かれて、莫大な予算を新しいシステムに投じる。ところが蓋を開けてみると、現場の業務とまったく噛み合わず、結局誰も使わない高額なシステムの残骸だけが残る。耳が痛い方もいるかもしれません。
標準化された完璧なシステムを入れたはずなのに、なぜ組織は混乱するのでしょうか。動画の答えは、システムの機能ばかりを見て、それが自社の組織構造やビジネスプロセスとどう摩擦を起こすかを軽視してしまうこと、というものです。システムは単なる道具ではなく、組織の血液であるデータをどう流すかを決めるインフラです。ここを読み違えると、経営そのものが立ちゆかなくなる、と説明されます。
今回は、パッケージソフト、ERP、EAI、EA、そしてリスク対策(リスクコントロールとリスクファイナンス)までを、一本の流れで見ていきます。動画は「用語の暗記ではなく、なぜ企業はそのシステムや手法を導入するのか」という理由を、ステップバイステップで明らかにする、と宣言しています。
パッケージソフト:既製服を買うか、オーダーメイドか
最初の話題は、そもそもなぜ現代の企業は、自社専用のシステムを1から作らず、市販のパッケージソフトを選ぶようになったのか、です。パッケージソフトとは、特定の企業向けに個別に開発されるのではなく、多くの企業で共通して利用できるように作られた市販のソフトウェアのことです。
動画の聞き手は、これを「体型に合わせてオーダーメイドで作るか、お店で完成している既製服を買うかの違い」にたとえ、講師も「まさにそのイメージ」と受けています。昔は企業ごとに1からシステムを作るフルスクラッチが多かったものの、今はパッケージソフトが主流になっている、というのが動画の説明です。その理由が、次の3つのメリットです。
- すでに他社での導入実績があるため、1から作るより即座に利用できる。
- 開発コストが抑えられていて、安価である(多くの企業が使う前提なので、コストが分散される)。
- 標準化された業務プロセス、いわゆるベストプラクティスを導入できる。
動画は3つ目を「最も重視されるポイント」としています。ただし、ここにこそ落とし穴があります。聞き手と講師のやりとりを見てみましょう。
業界の標準に乗れば、うちの非効率な業務も改善されるはず、という話は経営層が好みそうですね。でも実際には、現場からすごい反発が起きませんか。
はい。そこがパッケージソフト導入の最大の注意点です。多くの企業で共通して使えるように作られているので、裏を返せば、自社独自の強みや特殊なやり方には最適化されていないんです。
安くて、すぐ使えて、標準化もされている。そのかわり、自分たちの業務をシステムのほうに合わせないといけない。だから現場が混乱する、ということですね。
まさにそうです。だからこそ、導入前に絶対にやらなければならない評価があります。
その評価とは、動画によれば次の3点です。まず、自社の業務要件との適合性。次に、どうしても合わない部分があったときのカスタマイズの可否。そして、システム上の制限です。これを飛ばして「ベストプラクティスだから」と現場に押し付けると大やけどをする。思考停止で導入するのは危険だ、と動画は強調します。
(補足:動画にない確認です。IPAの基本情報技術者試験シラバス(Ver.9.2)には、システムの供給者が自社で全て開発するか、ソフトウェアパッケージなどを利用するかといった方針を検討して、ソフトウェア構成を決める、という趣旨の記述があります。)
ERP:バラバラだったデータを1か所につなぐ
パッケージソフトの中でも、企業の中核を担う代表例がERPです。アルファベットで書くとEnterprise Resource Planning、日本語では企業資源計画。動画では、企業のさまざまなデータを統合的に管理して、業務プロセスを連携させる「統合型業務パッケージ」と説明されています。
ポイントは「統合的」という部分です。これまでは、営業部門は営業のシステム、経理部門は経理のシステム、というようにバラバラのソフトウェアを使っていることが多くありました。ERPを導入すると、多岐にわたる業務情報を、単一のシステムで管理できるようになります。
つまり、営業が受注データを入力したら、それがリアルタイムで生産管理や在庫管理、さらに経理のシステムにも自動的に反映される、ということですか。
その通りです。データが分断されず、1つの場所ですべてがつながるので、会社全体で何が起きているのかを把握しやすくなります。これが圧倒的な利点ですね。
(補足:動画にない確認です。ERPはもともと「経営資源を有効に活用するため、企業全体を統合的に管理する手法・考え方」を指し、それを実現するソフトが「ERPパッケージ」と呼ばれる、と解説する資料があります(日本語版Wikipedia「企業資源計画」、二次資料)。IPAの応用情報技術者試験シラバス(Ver.7.2)の用語例にも、ERP(企業資源計画)が挙がっています。)
EAI:独立したシステムをつなぎ合わせる
ここで聞き手が鋭い疑問を挟みます。全部の業務を1つのERPで管理できれば理想的だが、現実の企業はなかなかそうきれいになっていないのではないか、と。講師も、全てのデータを単一のERPで管理できれば理想的ですが、現実には企業内に複数のシステムが独立して存在しているケースが非常に多い、と認めます。聞き手の挙げた例が、工場で特殊な機械を動かす専用システムです。ERPの枠には収まらない、独自のシステムが残ってしまうわけです。
そこで登場するのがEAI(Enterprise Application Integration、企業アプリケーション統合)です。動画の説明では、ERPが単一のソフトウェアでデータを統合管理するものであるのに対し、EAIは企業内に存在する複数の独立したシステムをつなぎ合わせる技術です。独立したシステム同士をつなぎ合わせて、あたかも1つのシステムであるかのように機能させる統合技術を指します。
たとえるなら、ERPはすべての機能が1つに入ったオールインワン家電。EAIは、別々の家電をネットワークでつないで連動させる、スマートホームのハブのようなイメージでしょうか。
まさにそのイメージがぴったりです。これにより、異なるシステム間でデータのやり取りが可能になり、連携した運用が実現します。
聞き手のまとめでは、企業は中核の業務をERPで統合しつつ、独自の強みを持つ独立したシステムはEAIでつなぎ合わせます。講師も「使い分けが非常に重要」と応じていました。
| 観点 | ERP | EAI |
|---|---|---|
| やり方 | 1つの | 独立した |
| たとえ | オール | スマート |
| 出番 | 中核の | ERPに |
ところが、ここで新たな課題が生まれます。システムが次々とEAIで連携されていくと、企業内の構造がどんどん複雑化し、組織全体のシステムや業務プロセスがどうなっているのか、全体像を誰も把握できなくなる危険があるのです。聞き手は、これを「巨大なスパゲッティ状態」と表現していました。
設例:つなぐ本数はどれくらい増える?(自作)
動画にない、このページの設例です。システムがn個あり、すべてを直接つなぐとすると、つなぎ目の本数は n×(n−1)÷2 本です。6個なら15本、10個なら45本と、個数が増えるほど雪だるま式に増えます。これが「スパゲッティ」のイメージです。
一方、各システムを1本ずつハブにつなぐ形なら、本数はn本(6個なら6本)で済みます。ただし、実際の連携は総当たりとは限りません。数え方の目安です。
(補足:動画にない確認です。EAIは1990年代終盤に提唱され始めた、と日本語版Wikipediaは解説しています(二次資料)。IPAの応用情報技術者試験シラバス(Ver.7.2)では、EAの項の用語例にEAI(Enterprise Application Integration)が挙がっています(基本情報 Ver.9.2 には語がありません)。ただし定義文は書かれていないため、定義や年は二次資料の範囲です。)
EA:全体像をつかむ「設計図」
そこで必要になるのが、全体像を把握し、組織全体の最適化を図るためのフレームワークです。それがエンタープライズアーキテクチャ、略してEAです。動画の説明では、現在の業務プロセスと情報システムの全体的な構造を明らかにし、組織全体での最適化を図るための枠組みです。EAは主に4つの要素で構成されます。
- ビジネスアーキテクチャ:業務のプロセスや、人・物・金・情報の流れ。
- データアーキテクチャ:そこで扱われるデータの構造(顧客データ、在庫データなど)。
- アプリケーションアーキテクチャ:業務を処理するシステム。ERPなどはここに入る。
- テクノロジーアーキテクチャ:システムを支える基盤技術。
ちょっと待ってください。これは順番が大事ではないですか。まずビジネスの目的があり、扱うデータが決まり、動かすシステムがあり、それを支える技術がある。建物を建てるのと同じで、上から下へつながる設計図なんですね。
まさにその通りです。その視点が組織全体の最適化において不可欠なんです。
動画によれば、よくある失敗はこの順番を逆にしてしまうこと。最新のテクノロジーを使いたいから、有名なシステムを入れたいから、という理由でスタートしてしまうパターンです。ビジネスプロセスやデータの構造が定まっていないのにシステムだけを入れても、うまくいくはずがありません。冒頭の「高額なシステムの残骸」の話に、ここでつながります。EAという設計図で全体を俯瞰することが大切だ、というのが動画の結論です。
補足:動画とあわせて確認したい点(出典つき)
IPAの応用情報技術者試験シラバス(Ver.7.2)には、EAについて次のような趣旨の記述があります。EAは、組織全体の業務とシステムを統一的な手法でモデル化し、業務とシステムを同時に改善することを目的とした、組織の設計・管理手法である。業務プロセス、業務に利用する情報、情報システムの構成、利用する情報技術の領域(それぞれビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジの各アーキテクチャ)を整理し、システム全体の現状と理想像を表現する(一次資料)。
動画の定義は「現在の構造を明らかにする」ことに重きがあるように聞こえますが、資料では現状と理想像の両方を描く点も含まれます。また、4つの要素の名称は動画とIPAでほぼ同じです。
なお、動画の「上から下へつながる順番が大事」という点は、IPAの文面では確認していません。
リスク対策:コントロールとファイナンス
システムを連携させて巨大な情報基盤を作り上げると、万が一トラブルが起きたときの影響も甚大になります。そこで最後に、システムと情報をどう守るかを考えます。動画は、情報セキュリティにおけるリスク対策を、主に2つに分類します。リスクコントロールとリスクファイナンスです。
まずリスクコントロール。動画では、リスクが現実になった際の被害を抑えるための手法で、さらに3つに分けられると説明されます。
- リスク回避:リスクの要因そのものを排除する。
- リスク低減(リスク軽減とも):リスクが起こる確率を下げたり、被害を小さくしたりする。
- リスク分散:影響を受ける資産を分けて、被害を極小化する。
もう1つのアプローチがリスクファイナンスで、被害による経済的損失に備えるための手法です。大きく2つあります。
- リスク保有:比較的影響の少ないリスクに対して、あらかじめ自社で損失用の資金を準備しておく。
- リスク移転:損害保険などに加入し、発生した損失を第三者に補償してもらう。
ここで聞き手が出した火事のたとえが分かりやすいので、表にまとめます。講師も「素晴らしい例えです」と応じていました。
| 手法 | 内容 | 火事のたとえ |
|---|---|---|
| 回避 | 要因を排除 | そもそも火を使わない |
| 低減 | 確率や被害を下げる | 消火器を置く |
| 分散 | 資産を分ける | 燃え広がらないよう建物を分ける |
| 保有 | 自社で資金を準備 | ちょっとしたボヤは貯金で直す |
| 移転 | 第三者に補償してもらう | 全焼に備えて火災保険に入る |
動画のまとめは、いくらリスクコントロールをしていても万が一は起こり得るので、リスクファイナンスとの両輪が非常に重要になる、というものです。被害を小さくする対策と、残った損失に備える対策は、どちらか一方では足りない、ということですね。
補足:リスク対策の分類は資料により異なります(出典つき)
IPAの基本情報技術者試験シラバス(Ver.9.2)の用語例には、「リスクコントロール、リスクヘッジ、リスクファイナンシング、リスク回避、リスク共有(リスク移転、リスク分散)、リスク保有、リスク集約」などが並んでいます(応用情報 Ver.7.2 には「サイバー保険」も入っています。一次資料)。
ここでIPAは、リスク分散をリスク共有(リスク移転と並ぶ)の中に置いています。動画のように、リスクコントロールの3つに入れる整理とは違い、名称も「ファイナンシング」です。JIS Q 31000:2019(ISO 31000:2018)のリスク対応の選択肢は7項目の例示です。用語の定義はJIS Q 0073:2010(ISO Guide 73:2009)にあり、リスク共有は「他者との間で合意に基づいてリスクを分散することを含む」形態、リスク移転はその一つの形態とされます(一次資料)。IPAがリスク分散を共有に置くのは、この整理に沿っています。
つまり、分類や用語は資料により異なるので、別の表現が出たら意味で判断するのが安全です。
もう1点。動画は「コントロールは、リスクが現実になった際の被害を抑える手法」と述べていますが、リスク回避は要因を取り除く手法でもあります。被害が出る前後の両方に働く、と理解するほうが正確です。
最後の問い:枠組みを、どうアップデートし続けるか
動画は、答えを出さない問いかけで締めくくられます。システムを最適化して万全のリスク対策を講じたとしても、企業を取り巻く環境やテクノロジーは日々進化し続けます。一度作り上げた最適なシステムとルールの枠組みを、陳腐化させず、時代に合わせてアップデートし続けるためには、組織にどのようなマインドセットが必要なのか。講師は、これは不確実で難しい問いだとしたうえで、ぜひ自分の仕事の中で少し考えてみてほしい、と呼びかけます。
まとめ
動画の流れのまとめ
- パッケージソフトは、実績があり、安価で、ベストプラクティスを導入できる。そのかわり、自社独自のやり方には最適化されていないので、導入前に適合性・カスタマイズ可否・制限を評価する。
- ERPは、単一のシステムでデータを統合管理する統合型業務パッケージ。データの分断をなくし、全体を把握しやすくする。
- EAIは、ERPに収まらない複数の独立したシステムをつなぎ合わせ、1つのシステムのように機能させる統合技術。ただし連携が増えると全体は複雑になる。
- EAは、業務とシステムの全体像を、ビジネス→データ→アプリケーション→テクノロジーの4要素で整理する設計図。順番を逆にして技術から入ると失敗しやすい、と動画は説明する。
- リスク対策は、被害を抑えるリスクコントロール(動画では回避・低減・分散)と、経済的損失に備えるリスクファイナンス(保有・移転)の両輪。分類は資料により異なる。
動画が繰り返すのは、IT用語を個別に覚えるだけでなく、ビジネス全体を俯瞰する設計書の視点を持つことが大切だ、というメッセージです。ここまで読んだら、もう一度動画を聞き直して、全体の流れを確かめてみてください。
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