事業部制組織
事例Ⅰ 第54回
「事業部制組織って、権限委譲とか経営者育成とか、いい話ばかり思い浮かぶ人が多いんですけど、二次の答案でそれだけ書くと実は減点されるパターンなんですよね」。動画は、講師のこんな一言から始まります。このページでは、動画の流れにそって、二次での出方、与件文のサイン、メリット5つとデメリット5つ、答案の型、誤答パターンをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
いい話だけを書くと、減点される?
「事業部制組織って、権限委譲とか経営者育成とか、いい話ばかり思い浮かぶ人が多いんですけど、二次の答案でそれだけ書くと実は減点されるパターンなんですよね」。動画は、講師のこんな一言から始まります。聞き手は「権限委譲でいろいろうまくいく、みたいなイメージだけで書いてはダメなんですか」と驚きます。
講師の答えは「ダメなんです」。事業部制はメリットが目立つ分、デメリットを見落としやすい論点だから、というのが理由です。今日はそこをしっかり埋めていきましょう、と動画は進みます。
聞き手は、いい面ばかりに目が行ってしまう自覚が「正直あります」と認めます。そこで講師が示すのが、この論点の難しさの所在です。知識としては、メリットもデメリットも言葉では言えるはず。問題は、本番の与件文の中でどっちを拾うべきか、そのとっさの判断ができるかどうかだ、というのです。
デメリットの話を後から聞かされると、「あ、それも知ってます」ってなるのに、いざ自分で気づけるかっていうと自信がないです。
そのとっさの判断を支えるために、まず二次でこの論点がどう出るかから整理しましょう。
このページでは、動画の流れにそって、次の順でまとめます。
- 二次での出方(どんな設問で問われるか)
- 与件文のサイン(プラスの方向とマイナスの方向)
- メリット5つ・デメリット5つと、権限委譲のトレードオフ
- 答案の型と、誤答パターン3つ
二次ではどう出る?
講師が挙げた設問の言い回しは、次の2つです。
- 「多角化・事業拡大に伴い組織をどう見直すべきか」
- 「事業部制のメリット・デメリットを述べよ」
聞き手は「単独で聞かれることもあるし、見直しの助言問題の中で使うこともあるということですか」と確認します。講師の答えは「そうです」。そのうえで、特に、機能別組織からの移行を助言する文脈で問われることが多いと言います。
| 出方 | 設問のイメージ |
|---|---|
| 単独で問われる | 事業部制のメリット・デメリットを述べよ |
| 見直しの助言の中で使う | 多角化・事業拡大に伴い組織をどう見直すべきか |
| 特に多い文脈 | 機能別組織からの移行を助言する |
講師は、事例Ⅰの頻出論点なので、機能別組織とセットで理解しておく必要がある、と念を押します。
前に機能別組織を扱ったときも、事業部制との対比で出てくるって話がありましたけど、ここでもやっぱり対で考えるんですね。
そうなんです。だからこそ、与件文のどんな記述が出たら事業部制が適合する局面だと気づけるか、着眼点を持っておくことが大事になります。
与件文のサイン①:事業部制が合う局面
聞き手が「具体的にどんな一文に反応すればいいですか」と尋ねると、講師はまずプラス方向のサインを挙げます。
- 「複数の事業・製品ラインを持つ」「多角化が進んだ」という記述:事業部制が適合しやすい局面のサイン。
- 「事業ごとに責任を持たせたい」「後継者・経営幹部を育てたい」という記述:事業部制のメリットである利益責任の明確化や経営者育成が効くサイン。
聞き手は「単一事業だとこの論点はあまり出てこないってことですね」と確認し、講師は「そうです」と答えています。事業が一つしかない会社の与件文では、事業部制の出番は少ない、という感覚です。
2つのサインは役割が少し違います。前者は「そもそも事業部制が合う会社か」を教えてくれる合図、後者は「事業部制にすると何が効くか」を教えてくれる合図です。与件文でこの両方が見えたら、メリットを書く材料がそろっていると考えられます。
与件文のサイン②:デメリットが出ているとき
聞き手が「逆に、マイナス方向のサインもあるんですか」と聞くと、講師は「あります」と続けます。
- 「事業部ごとに設備や人員が重複」「セクショナリズム」「事業部の壁」という記述:デメリットが顕在化しているサイン。
- 「短期の業績ばかり追う」という記述:短期業績志向という事業部制のデメリットのサイン。
聞き手は、セクショナリズムを「部門同士が縄張り意識を持っちゃうやつ」と言い換えて、「それが出たら要注意ですね」と確認しています(言い換えは聞き手の発言で、講師は「そうです」と受けています)。
プラスのサインとマイナスのサイン、両方を探しにいくのは、機能別組織のときと同じ考え方ですね。
その通りです。じゃあ次に、この論点のフレームで与件文の情報をどう整理するか、実際にやってみましょう。
ここでのポイントは、プラスだけでなくマイナスのサインも意識して探しにいくことです。冒頭で出てきた「どっちを拾うべきか、そのとっさの判断」は、この2種類のサインを見分ける力のことだと言えます。
メリットは5つ
フレームの中身に入ります。聞き手が「メリットとデメリットを対で拾うんですよね」と言うと、講師はまずメリットを五つ押さえるよう言います。
- 一つ目:事業ごとに事業部が編成され、利益責任が明確化すること。
- 二つ目:事業間の調整が軽減されること。
- 三つ目:限定された事業環境に特化するため、的確で迅速な対応ができること。
- 四つ目:事業部の業績評価に基づいて、資源配分とコントロールが比較的容易になること。
- 五つ目:事業部長に大幅な権限が委譲されることで、経営者としての訓練・育成ができること。
事業ごとに責任の所在がはっきりするから、動きも速くなるってことですね。
そうです。
経営者育成っていうのが、事業部制ならではの特徴的なメリットなんですね。
そうです。ここは事例Ⅰでよく評価される強みなので、覚えておいてください。ただ、ここからがデメリットです。
聞き手が「いい話ばかりじゃないって、さっきの前振りですね」と受けたところで、話はデメリットへ移ります。講師は、経営者育成を事例Ⅰで評価される強みとして示したうえで、すぐに「ただ」と切り返しているのが印象的です。いい面を覚えたところで安心せず、裏側へ進む。この流れ自体が、動画の主張そのものと言えます。
デメリットも5つ
講師が挙げるデメリットも五つです。
- 一つ目:本社が事業部の現状を十分把握できず、逸脱行動をコントロールしにくいこと。
- 二つ目:利益責任を果たすために必要な職能を事業部内に組織するので、設備や人員に無駄な重複が生じやすいこと。
- 三つ目:短期業績志向が強まって、長期的・戦略的な取り組みが抑制されやすいこと。
- 四つ目:事業部間の壁が生じて、コミュニケーション不足や事業部間調整が困難になること。
- 五つ目:事業部間の人材・技術交流が難しくなり、情報共有が不十分になること。
権限を渡した分、本社から見えづらくなるっていうのは、メリットの裏返しですね。
まさにそうです。
五つ目もあるんですか。
あります。事業部間の人材・技術交流が難しくなって、情報共有が不十分になることです。
5つのデメリットを見ると、動画が冒頭で言っていた「メリットが目立つ分、デメリットを見落としやすい」の意味がよく分かります。一つ目の「本社から見えにくい」は、経営者育成のために事業部長へ権限を渡した結果です。二つ目の重複は、利益責任を事業部の中で完結させようとした結果です。講師も、一つ目と二つ目で理由に触れながら説明しています。メリットの背中には、いつもデメリットが張り付いている、というイメージです。
たとえ:同じ建物に入った別々の会社
五つ目のデメリットを、講師はたとえで説明します。
たとえ話
同じ建物の中に、別々の会社が入っているところを想像してみてください。それぞれは効率よく動けますけど、隣の部屋で何をしているかは、お互いよく分からない。そういう状態になりやすいんです。
独立してるからこそ、隣との交流が薄くなっちゃうっていうイメージですね。
その通りです。権限委譲って、渡した分だけ自由に動けるようになる代わりに、渡した側から見えにくくなる、そういうトレードオフだと捉えておくといいです。
権限委譲のトレードオフ
- 渡した分だけ、事業部は自由に動ける
- その代わり、渡した側(本社)から見えにくくなる
聞き手は「メリットとデメリットが表裏一体になってるっていうのは、機能別組織のときとも共通する考え方ですね」とまとめ、講師は「そうです」と答えています。メリットを書くときは、その裏にあるデメリットも一緒に思い出す。この癖が、次の答案の型につながります。
答案の型:メリット、デメリット、対応策
整理ができたら、解答への落とし込みです。講師が示す基本の型は三つの流れです。
- 一つ目:事業部制には、利益責任の明確化・環境変化への迅速な対応・事業部長の経営者育成というメリットがある。
- 二つ目:一方で、設備や人員の重複・短期業績志向・事業部間のセクショナリズムというデメリットがある。
- 三つ目:対応として、本社による全社的な調整機能や、事業部横断の連携・人事交流の仕組みを整える。
これも機能別組織と同じで、メリット、デメリット、対応策の三段構成ですね。
そうです。事例Ⅰでは特に、権限委譲による経営者育成を強みとして評価しつつ、弊害への手当てまで書くと、答案として厚みが出ます。
育成のメリットを褒めるだけで終わらせずに、その裏にある弊害まで拾って対応策を書く、っていうのが厚みを出すコツなんですね。
そうです。字数配分もメリットとデメリットをほぼ同じ比重にして、残りを本社の調整機能や人事交流の仕組みに充てるイメージで書くとバランスが取れます。
ここで大事なのは、対応策がデメリットへの手当てになっていることです。本社の調整機能は、一つ目のデメリット(本社から見えにくい)や事業部間の壁に、横断の連携・人事交流は、人材・技術交流が難しくなる点に、それぞれ効いてきます。なお、字数の割り振りは動画の言葉どおり「メリットとデメリットはほぼ同じ、残りが対応策」というイメージで、何字ずつという数字は示されていません。
(補足:動画にない例です。上の三つの流れを一続きの文章にすると、たとえば次のようになります。「事業部制は、利益責任が明確になり、環境変化に迅速に対応でき、事業部長の経営者育成にもつながる。一方で、設備や人員の重複、短期業績志向、事業部間のセクショナリズムが生じやすい。そこで本社が全社的な調整機能を担い、事業部横断の連携や人事交流の仕組みを整える。」実際の答案では、与件文の事実に合わせて言葉を入れ替えてください。)
誤答パターン3つ
型が分かったところで、聞き手が「気をつけたほうがいい誤答パターンってありますか」と尋ねます。講師が挙げたのは3つです。
| 誤答 | なぜ誤りか |
|---|---|
| メリットだけを書く | 重複・短期志向・セクショナ |
| 「専門性が高まる」をメリットに入れる | 専門性は機能別組織の強み。事業部制は各事業部に機能が重複するため薄まりやすい |
| 単一事業・小規模に勧める | 事業部制は複数事業を持ち、一定の規模がある会社で効く |
1つ目は、迅速な対応や経営者育成といったメリットだけを書いて、重複や短期志向、セクショナリズムというデメリットを落とすパターンです。聞き手が「さっき自分がやりそうって言ってたやつですね」と言うと、講師は「まさにそれです」と応じます。
2つ目は、専門性が高まるというメリットを事業部制に入れてしまうパターンです。専門性は機能別組織の強みで、事業部制はむしろ各事業部に機能が重複するため、専門性は薄まりやすい、と講師は説明します。
あ、これ前回の機能別組織のときの誤答パターンと逆向きのミスですね。取り違えやすいところが同じなんですね。
そうなんです。
3つ目は、単一事業・小規模の事例に事業部制を勧めてしまうパターンです。事業部制は複数事業を持ち、一定の規模がある会社で効くものなので、規模も事業の数も見ずに勧めると評価が下がる、と講師は言います。
着眼点と誤答は表裏一体
聞き手は、3つ目の誤答を聞いて「さっきの着眼点で言っていた、複数事業かどうかを確認するっていう話が、ここでも効いてくるんですね」と気づきます。講師の返事は次のとおりです。
そうです。着眼点と誤答パターンは表裏一体なんです。与件文でサインを見つけるための目と、答案で落とし穴を避けるための目は、実は同じところを見ているんですよ。
別々に覚えるんじゃなくて、一つの視点として持っておけばいいんですね。
そうです。
たとえば、複数事業かどうかを与件文で確かめる習慣は、「単一事業に勧めてしまう」誤答を避ける習慣と同じです。プラスのサインとマイナスのサインを両方探す姿勢は、「メリットだけ書く」誤答を避ける姿勢と同じです。サインを探す練習をすることが、そのまま誤答を減らす練習になる、ということです。
試験ではここに注目(動画の整理)
- 与件文に、複数の事業・製品ラインや多角化の記述があるか
- メリットのサイン(責任・後継者育成)と、デメリットのサイン(重複・セクショナリズム・事業部の壁・短期志向)が両方見えているか
- 答案に、メリット、デメリット、本社の調整や人事交流などの対応策が三段で入っているか
まとめ
動画の整理
- 事業部制はメリットが目立つ分、デメリットを見落としやすい。メリットだけの答案は減点されるパターン
- 二次では、メリット・デメリットを問う設問や、機能別組織からの移行を助言する設問で出る。事例Ⅰの頻出論点で、機能別組織とセットで理解する
- 与件文のサインはプラスとマイナスの両方。複数事業・多角化、責任・後継者育成、重複・セクショナリズム・事業部の壁・短期志向
- メリット5つ・デメリット5つは、権限を渡した分だけ自由になり、渡した側から見えにくくなるトレードオフ
- 答案はメリット、デメリット、対応策の三段。メリットとデメリットはほぼ同じ比重で、残りを本社の調整機能や人事交流にあてる
- 誤答は、メリットだけ書く、専門性を事業部制の利点にする、単一事業・小規模に勧める、の3つ
動画の最後に、講師は本番で意識する三つを挙げます。まず、与件文にその会社が複数事業を持っているという記述があるか確認すること。次に、利益責任の明確化や経営者育成のメリットと、重複や短期志向、セクショナリズムのデメリットを両方拾うこと。そして、本社による調整や人事交流という対応策までセットで答案に書くこと。
聞き手は、今日の一番の学びを「権限委譲のいい面だけに引っ張られずに、渡した分だけ見えにくくなるという裏側までちゃんと拾うこと」とまとめました。講師は「知識はもう十分あるので、あとはメリットとデメリットを対で見る目を持って、与件文を読む練習を重ねてください」と締めくくります。知っていることを、本番で拾える形にする。そのための練習が、この論点の仕上げです。
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