表見代理の3類型の違いは?授与表示・権限外の行為・消滅後の代理と重畳適用を比較
取引先に「本人から任されています」という人が現れ、それを信じて契約したのに、実は代理権がなかった。その契約はなかったことになるのでしょうか。原則は「本人には効果が及ばない」ですが、本人にも落ち度があるときは、外見を信じた相手を守る必要があります。それが表見代理です。動画は、代理権授与表示、権限外の行為、代理権消滅後の代理の3つの型を順に見て、最後に重畳適用までたどります。このページでは、3類型の違いを比較表にまとめました。まず動画を聞いてから、表と図で確認してみてください。
3行でいうと
- 表見代理は、代理権がない(または範囲を超えた)のに、本人の帰責性と相手方の信頼があるとき、本人が責任を負う制度です。型は109条1項・110条・112条1項の3つ。
- 立証責任の向きが違います。109条1項は相手方の悪意・有過失を本人が、110条は正当な理由を相手方が立証します(110条は109条1項の本文だけを準用するため)。
- 範囲を超えた場合の重畳適用は、令和2年4月1日施行の改正で109条2項・112条2項になりました。相手方は二段階の信頼を示す必要があります。
表見代理とは?原則と例外
代理権のない人が、本人の代理人として契約をしても、原則としてその効果は本人に及びません。ここまでは自然ですね。ところが、それを貫くと、外見を信じた相手方だけが損をしてしまいます。そこで、本人の側にも原因があるときは、本人に責任を負わせることにしました。これが表見代理です。
ただし、外見を信じてもらえれば何でも保護される、というわけではありません。本人がその外観を作った、あるいは放置したという帰責性が必要です。帰責性とは、責任を負わされても仕方がない、本人側の落ち度のことです。たとえば、看板を掲げた以上は、それを信じたお客さんに責任を負う、という感覚です。表見代理は帰責性と信頼の組合せで、三つの型は、その中身と信頼の程度の違いで整理できます。
任せていない人の契約なら、本人には関係ないんじゃないですか?
原則はその通りで、効果は本人に及びません。ただ、外見を信じた相手だけが損をするのは公平ではないので、本人にも原因があるときは本人に責任を負わせます。ただし、本人の帰責性と相手方の信頼のセットが必要です。
表見代理の3つの類型を比較表で整理
今回見るのは、代理権授与表示(109条1項)、権限外の行為(110条)、代理権消滅後の代理(112条1項)の3つです。まず全体像を図で確認しましょう。
次に、類型ごとの要件と立証責任を、1枚の表にまとめます。ここを白紙から書けるようになるのが、この回のゴールです。
| 観点 | 109条1項 授与表示 | 110条 権限外 | 112条1項 消滅後 |
|---|---|---|---|
| 代理権 | 与えてない 表示のみ | 基本代理権 あり・超過 | かつてあり 今は消滅 |
| 相手方 の信頼 | 善意無過失 | 正当な理由 | 知らず 過失なし |
| 立証 責任 | 悪意有過失 →本人 | 正当な理由 →相手方 | 知らない →相手方 過失→本人 |
| 本人の 落ち度 | 表示した | 代理権を 与えた | 外観を 消さず |
次の節から、1つずつ見ていきます。
109条1項|代理権授与表示による表見代理
最初は109条1項です。第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内でその他人がした行為について、責任を負います。ただし書で、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない、とされています。
授与表示とは、「あの人に代理権を与えましたよ」と第三者に表示することです。典型は委任状の交付ですが、口頭で告げる場合も含みます。具体例を見ましょう。本人Xが取引先Zに「今後の仕入れはYに任せています」と告げ、委任状も渡しました。ところが、実際にはYに代理権を与えていません。YがXの代理人としてZと仕入契約を結べば、XはZに責任を負います。看板を出した以上、「頼んでいない」は通らないわけです。
要件は三つです。
- 本人が、代理権を与えた旨を表示したこと
- 表示された範囲内の行為を、代理人がしたこと
- 相手方が、代理権がないことを知らず、知らないことに過失もなかったこと
三つ目の要件はただし書の形です。善意は知らないこと、悪意は知っていること、過失は注意すれば知れたのに知らなかった落ち度です。だから、相手方の悪意または有過失は、責任を免れたい本人が立証します。相手方は、表示を受けたことと、その範囲内で取引したことを示せば足ります。
白紙委任状と名義の使用許諾
白紙委任状とは、代理人欄や委任事項を空欄のまま渡し、後で補充して使われる委任状です。判例は、おおよそ次のように整理されています(動画の説明に沿った整理で、個々の判決の事件名はこのページでは挙げていません)。
- 本人が直接渡した相手が自分で使った場合は、授与表示があったものとして109条の問題にします。
- 転々と渡って、予定外の人が使った場合は、白紙委任状は転々流通することを常態とする書類ではないので、直ちに授与表示があったとはいえず、109条は当然には適用されません。ただし、本人が転々流通や第三者による行使を許容していたような特段の事情があるときは別です。
- 受け取った人が濫用した事案で、相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があれば、109条と110条を重ねて適用して本人の責任を認めた判例もあるとされています。
どの場合も、相手方に悪意や過失があれば、ただし書で責任は否定されます。また、本人が他人に自分の名前での取引を許した場合も、判例は109条の趣旨を類推して本人の責任を認めることがあります。類推とは、似た場面に、条文と同じ考え方を当てはめることです。根拠は、本人が外観を作ったという帰責性です。
110条|権限外の行為の表見代理
次は110条です。109条1項の本文を準用して、代理人が権限外の行為をした場合に、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき、本人が責任を負うとしています。準用とは、別の条文の規定を借りて当てはめることです。
見どころは、準用されるのが109条1項の本文だけで、ただし書は準用されないことです。ただし書がない代わりに、要件に「正当な理由」という積極的な要件が入っています。だから、正当な理由があったことは相手方が立証します。
109条は本人、110条は相手方と、向きが逆なんですね。
そうです。ただし書を準用しないから、相手方の側が正当な理由を示す形になる。この違いは試験でも狙われます。
110条の要件も三つです。
- 代理人に基本代理権があること
- その権限を超える行為を、代理人としてしたこと
- 相手方に、権限があると信ずべき正当な理由があること
基本代理権とは、権限外の行為の出発点になる、もともとの代理権です。例を見ましょう。Xが、Yに乙土地の賃貸の代理権だけを与えていたところ、Yが乙土地を売る契約をZと結んだとします。賃貸の代理権が基本代理権で、売却が権限外の行為です。Zに、Yに売却の権限があると信ずべき正当な理由があれば、XはZに売買の責任を負います。
基本代理権はどこまで認められる?判例の整理
基本代理権の範囲は、判例が広げたり絞ったりしています。動画で出てくる4つの場面を表にまとめました。
| 場面 | 結論 |
|---|---|
| 登記申請の 代理権 (公法上) | 原則として基本代理権にならない。私法上の取引の一環として与えられた場合は別(最判昭和46年6月3日) |
| 法定代理 | 110条は適用される |
| 夫婦の 日常家事 代理権 | そのままは適用せず、日常の家事の範囲内と信ずる正当な理由があるときに限り、110条の趣旨を類推適用(最判昭和44年12月18日) |
| 本人自身の 名で行為 | 相手方がその人を本人自身だと信じ、信ずる正当な理由があるとき、110条を類推適用 |
夫婦は財産的に独立しているので、日常家事代理権の場合にそのまま110条を適用すると、他方配偶者の財産の独立を損なうおそれがあります。だから、日常の家事の範囲内と信ずる正当な理由まで求めます。「権限があると信じた」だけでは足りません。
「正当な理由」はどういうときに認められる?
正当な理由とは、代理権があると信じてもやむを得ない事情のことで、判例は、相手方が善意無過失であることと同じ意味に考えています。判断は、取引時点の客観的な事情によります。
- 信頼を支える事情:本人の実印や権利証、印鑑証明書を代理人が持参していた。親族や使用人など近い関係にある。
- 無過失といえない方向に働く事情:高額で重要な取引なのに本人に電話一本確認していない。代理人の説明に不自然な点がある。
112条1項|代理権消滅後の表見代理
三つ目は112条1項です。代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその範囲内で他人が第三者との間でした行為について、消滅の事実を知らなかった第三者に責任を負います。ただし書は、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない、です。
例です。XがYに仕入れの代理権を与えた後、委任が終了したのに、YがXの代理人としてZと契約しました。Zが終了を知らず過失もなければ、XはZに責任を負います。
なぜ本人が責任を負うのでしょうか。代理権の消滅は外から見えにくいのに、本人は委任状を回収したり、取引先に知らせたりして、外観を消せたはずだからです。看板の下ろし忘れ、というイメージです。
109条との違いは前提です。112条は、かつて代理権が存在したことが前提で、最初からなかった場合は109条の問題です。取り違えやすい点なので注意してください。立証責任は、消滅の事実を知らなかったことが本文の要件なので相手方、過失があったことがただし書なので本人です。
重畳適用|109条2項・112条2項
ここまでの三つの型は、どれも代理権の範囲内の行為が前提でした。でも現実には、表示された範囲や、消滅した代理権の範囲を超えて動くことがあります。改正前は条文がなく、判例が109条や112条に110条を重ねて適用して、相手方を保護していました。それが令和2年4月1日施行の改正で条文になりました。これが重畳適用です。
109条2項は、表示した者が、範囲内の行為なら1項で責任を負うべき場合に、代理人が範囲外の行為をしたとき、第三者がその行為について代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限って責任を負う、という定めです。112条2項は、同じ仕組みを消滅後に当てはめたものです。構造は、二つの関門で整理できます。
例です。XがZに「Yに賃貸の代理権を与えた」と示していたのに、YがZと売買契約を結びました。Zに、売却の権限もあると信ずる正当な理由があれば、XはZに責任を負います。実際にXがYに代理権を与えていなくても、構造は同じです。
表見代理が成立したら?効果と主張の仕方
表見代理が成立すると、契約の効果は本人に帰属し、本人は「無権代理だから効果は及ばない」とは言えなくなります。ただし、使うかどうかは相手方が選べます。
- 有権代理の主張の中に、表見代理の主張は当然には含まれないと説明されます。表見代理は、無権代理を前提に本人の責任を認める別の制度だからです。有権代理は、本当に代理権があったという主張です。
- 表見代理が成立する場面でも、相手方は表見代理を主張せず、無権代理人の責任を追及できます。最高裁は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人の責任を問えるとしています(最判昭和62年7月7日)。
試験ではここに注目
- 要件が善意で足りるか善意無過失か。109条1項・112条1項は過失がないことまで必要、110条は「正当な理由」(善意無過失と同じ意味)です。
- 立証責任の誤り。109条1項で、相手方が自分の善意無過失を立証しなければならない、は誤り。相手方の悪意・有過失はただし書にあたるので本人が立証します。逆に、110条の正当な理由は相手方の立証です。
- 「110条は109条を準用しているから、ただし書も準用される」は誤り。準用されるのは1項の本文だけです。
- 「112条は、代理権が最初からなかった場合にも適用される」は誤り。かつて代理権があったことが前提です。
- 日常家事代理権を基本代理権とする場合に「権限があると信じた」だけで110条が適用される、は誤り。日常の家事の範囲内と信ずる正当な理由があるときに限り、趣旨が類推されます。
補足:動画にない条文のポイント
※ここは動画にない補足です(令和9年4月1日基準の条文で確認)。
- 夫婦の日常の家事に関する債務の連帯責任は、民法761条に定めがあります。夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方も連帯して責任を負います(予告した場合を除く)。
- 無権代理人の責任は117条に定めがあります。他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、履行又は損害賠償の責任を負います(117条1項)。相手方が代理権のないことを知っていたときなどは適用されません(同条2項)。
まとめ
- 表見代理は、本人の帰責性と相手方の信頼があるときに本人が責任を負う制度。型は109条1項(授与表示)・110条(権限外の行為)・112条1項(消滅後の代理)。
- 立証責任:109条1項は相手方の悪意・有過失を本人が立証。110条は109条1項の本文だけを準用するので、正当な理由は相手方が立証。112条1項は、知らなかったことは相手方、過失は本人。
- 110条の基本代理権:公法上の行為(登記申請)だけでは原則足りない/法定代理にも適用/日常家事代理権は範囲内と信ずる正当な理由で趣旨類推/本人名義の行為にも類推。
- 重畳適用は令和2年4月1日施行で109条2項・112条2項に。①1項で責任を負うべき場合であること、②範囲外の行為に正当な理由(立証は相手方)、の二段階。
- 表見代理を使うか、無権代理人の責任を追及するかは、相手方が選べる。有権代理の主張に表見代理の主張は当然には含まれないと説明される。

