質権・根質権の登記は抵当権と何が違う?登記事項を条文で比較して整理
質権の登記は、抵当権の登記と何が同じで、何が違うのでしょうか。どちらも担保権なので似ていますが、登記事項を1つずつ見ていくと、質権にだけある事項、両方にある事項、どちらにもない事項に分かれます。動画は、不動産登記法95条の登記事項を抵当権の88条と並べて確かめていく流れです。このページでは、その比較を表にまとめ、所有権以外の権利を目的とする質権、変更・抹消の登記、根質権までを順にたどります。まず動画を聞いてから、ここで表を見て確認するのがおすすめです。
3行でいうと
- 質権の登記事項は不動産登記法95条1項、抵当権は88条1項。比べると「質権だけ」「両方」「どちらでもない」の3つに仕分けできます。
- 質権だけにあるのは存続期間など。利息・条件・付加一体物に及ばない旨は両方にあり、弁済期と使用収益できる旨はどちらの登記事項にもなりません。
- 賃借権を目的とする質権は特約の登記の有無で承諾情報の要否が変わり、地役権は目的にできません。根質権は95条2項で根抵当権の規定が準用されます。
質権の登記は抵当権とどう違う?まず全体像から
質権と抵当権は、どちらも債権を担保するための権利です。仕組みは少し違います。質権者は、債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、他の債権者に先立って弁済を受ける権利を持ちます(民法342条)。そして質権の設定は、債権者に目的物を引き渡すことで効力が生じます(344条)。
不動産質権には、その性質に反しない限り抵当権の規定を準用するという規定があります(361条)。だから登記でも、抵当権と見比べながら覚えるのがいちばん効率的です。
質権の登記事項は、共通の事項(不動産登記法59条各号・83条1項各号)のほか、95条1項に1号から7号まで並んでいます。抵当権は、共通の事項のほか、88条1項に並んでいます。今回見比べるのは、この「上乗せ部分」です。
不動産質権の基本ルール(民法356条〜360条)
まず不動産質権のルールを押さえます。登記事項は、このルールを変える「別段の定め」から出てくるからです。
- 356条:不動産質権者は、不動産の用法に従って、使用及び収益をすることができます。
- 357条:不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担(公租公課など)を負います。
- 358条:不動産質権者は、その債権の利息を請求することができません。
- 360条:存続期間は10年を超えることができません。設定行為でこれより長く定めても、10年になります。
そして359条が、356条から358条までは設定行為に別段の定めがあるときは適用しない、と定めています。つまり、使用収益をしない、管理費用は払わない、利息は請求する、といった特別な約束ができます。これらが登記事項になります。
原則は、質権者が使用も収益もできて、そのかわり費用も負担するんですね。
はい。しかも利息は請求できません。ただし359条で、設定行為に別段の定めがあれば、これらは変えられます。登記の問題では、この「変えた場合」が問われやすいところです。
質権と抵当権の登記事項を比較表で整理①:1号〜4号
まず95条1項の1号から4号です。抵当権の88条1項と並べて、表にします。
| 登記事項 | 質権(95条1項) | 抵当権(88条1項) |
|---|---|---|
| 存続期間 の定め | 登記事項 1号 | 88条1項に 規定なし |
| 利息 の定め | 登記事項 2号 | 登記事項 1号 |
| 違約金・ 賠償額の定め | 違約金又は賠償額 3号 | 損害の賠償額のみ 2号(民法375条2項) |
| 債権に付した 条件 | 登記事項 4号 | 登記事項 3号 |
1号の存続期間は、質権にだけある登記事項です。不動産質権には10年という上限があり(360条)、その範囲で期間を定められます。抵当権には存続期間という考え方がなく、88条1項にも出てきません。試験では「存続期間の定めは、質権も抵当権も登記事項である」という形で出題されることがあります。なお、権利の消滅に関する定めは、質権・抵当権を問わず59条5号で共通の登記事項です。
2号の利息と4号の条件は、質権も抵当権も登記事項です。358条の原則とは別に利息を請求できる旨を定めたときは、利息に関する定めとして登記します。
3号は少し違います。質権は「違約金又は賠償額の定め」、抵当権は「民法375条2項に規定する損害の賠償額の定め」です。質権は、346条で違約金も担保の範囲に入っているので、95条にも違約金が出てきます。
質権と抵当権の登記事項を比較表で整理②:5号〜7号とそれ以外
次に95条1項の5号から7号と、そもそも登記事項にならないものです。
| 登記事項 | 質権 | 抵当権 |
|---|---|---|
| 346条 ただし書の 別段の定め | 登記事項 5号 保存費用や隠れた瑕疵の損害を担保しない等 | 該当する 規定なし |
| 使用収益 しない旨・ 費用を負担 しない旨 | 登記事項 6号(356条・357条の別段の定め) | 該当する 規定なし |
| 付加一体物に 及ばない旨 | 登記事項 7号(361条で370条ただし書を準用) | 登記事項 4号 |
| 使用収益 できる旨 | 登記事項に ならない | ― |
| 弁済期 | 登記事項に ならない | 登記事項に ならない ※抵当証券発行の定めがある場合を除く |
5号は346条ただし書です。質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用、債務不履行や質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保します(346条)。ただし、設定行為に別段の定めがあれば別です。たとえば保存の費用は担保しないと定めれば、それが登記事項になります。
6号は、359条の別段の定めのうち、356条・357条に関するものに限られます。使用収益をしないという定め、管理の費用を支払わないという定めや、公租公課を負担しないという定めは、登記事項になります。一方、原則どおりの「使用収益ができる」という内容は、定めるまでもない原則なので、登記事項ではありません。
7号の付加一体物は、質権にも抵当権にもあります。抵当権の効力は付加一体物に及ぶのが原則ですが、設定行為に別段の定めがあれば及びません(370条ただし書)。質権は361条でこれを準用するので、この定めは質権でも登記事項です。
最後に弁済期です。質権でも抵当権でも、弁済期の定めは登記事項になりません。抵当権で弁済期が出てくるのは、抵当証券発行の定めがある場合だけです(88条1項5号・6号)。
整理すると、質権だけにあるのは存続期間、違約金、それから5号と6号の別段の定めですね。
そのとおりです。利息、条件、付加一体物は両方にあって、弁済期と、使用収益できるという原則の内容は、どちらにも出てきません。この3つの仕分けを、白紙から書けるようにしておきましょう。
所有権以外の権利を目的とする質権
質権は、不動産そのものだけでなく、財産権を目的にすることもできます(民法362条1項)。この場合、不動産登記法83条1項3号により、「目的となる権利」も登記事項になります。ここで試験によく出るのが、賃借権と地役権です。
賃借権を質権の目的にするには、賃借権を譲り渡す場合と同じように、賃貸人の承諾が必要です(612条1項)。登記では、次のように分かれます。
| 目的となる権利 | 登記の取扱い | 承諾を証する情報 |
|---|---|---|
| 賃借権 譲渡転貸を許す 特約の登記あり | 質権の設定登記ができる | 不要 |
| 賃借権 特約の登記 なし | 質権の設定登記ができる | 賃貸人の承諾を証する情報を提供 |
| 地役権 | 設定できない | ― 民法281条2項 |
賃借権の登記には、「賃借権の譲渡又は賃借物の転貸を許す旨の定め」を登記事項とする制度があります(不動産登記法81条3号)。この特約が登記されていれば、賃貸人があらかじめ許していることが登記に表れています。そのため、質権の設定登記でも、改めて承諾を証する情報を提供する必要はないと扱われます。これは登記実務の整理で、賃借権の移転や転貸の登記で、同じ特約の登記があれば承諾情報が不要とされている(不動産登記令別表39項・40項)のと同じ考え方です。特約が登記されていなければ、登記原因について第三者の承諾が必要なときの一般的なルール(同令7条1項5号ハ)により、承諾を証する情報の提供が必要です。
一方、地役権は、要役地から分離して譲り渡したり、他の権利の目的にしたりすることができません(民法281条2項)。だから、地役権を目的とする質権は設定できません。賃借権は、承諾の取り方で設定できる。地役権は、そもそも設定できない。この対比で覚えましょう。
質権の変更・抹消の登記で、誰が権利者で誰が義務者か
346条ただし書の定めを廃止する変更登記
346条ただし書の別段の定めを廃止すると、質権の担保する範囲が広がります。すると、登記上、直接に利益を受けるのは質権者、直接に不利益を受けるのは所有者(設定者)です。登記権利者とは権利に関する登記をすることにより登記上直接に利益を受ける者、登記義務者とは直接に不利益を受ける登記名義人のこと(不動産登記法2条12号・13号)なので、権利者は質権者、義務者は所有者になります。
債務者を変更する登記(免責的債務引受)
債務者の変更は、質権者が権利者、設定者が義務者となる共同申請(60条)です。ここで押さえたいのが印鑑証明書です。所有権の登記名義人が登記義務者となる権利に関する登記は、原則として署名だけでは足りず印鑑証明書が必要になります。ところが、規則47条3号イ(1)のかっこ書で、担保権(根抵当権及び根質権を除く)の債務者に関する変更の登記及び更正の登記は、その例外から外されています。そのため、普通質権の債務者変更では、設定者の印鑑証明書は不要です。反対に、根質権の債務者変更では印鑑証明書が必要になります。
抵当権付き債権を目的とする質権の抹消
抵当権で担保された債権を質入れしたとき、その質権の登記は、抵当権の登記に付記されます(不動産登記規則3条5号)。この質権が弁済によって消えたときの抹消の登記は、質権者が登記義務者、抵当権者が登記権利者となって共同で申請します。抹消の登記そのものは、規則3条の付記登記の列挙に入っていないため、主登記でされるのが登記実務の扱いです。抵当権者が権利者なのは、質権という負担がなくなって、直接に利益を受けるのが抵当権者だからです。
根質権の登記
質権にも、根抵当権と同じ形の根質権があります(民法361条で抵当権の規定が準用されるためです)。不動産登記法では、95条2項が、88条2項(根抵当権の登記事項)と89条から93条までを質権に準用しています。
| 比べる点 | 普通質権 | 根質権 |
|---|---|---|
| 登記する 内容 | 債権額など 95条1項・83条1項 | 極度額と 担保すべき債権の範囲 88条2項を準用 |
| 債務者変更の 印鑑証明書 | 不要 規則47条3号イ(1)かっこ書 | 必要 |
| 準用される 規定 | ― | 89条〜93条 順位変更・処分・共同抵当の代位・相続合意の制限・元本確定 |
| 存続期間 | 10年が上限(360条) | 同じく10年が上限 |
根質権で特に押さえたいのは、元本の確定の登記です。存続期間の上限10年は、表のとおり根質権でもそのまま適用されます。93条は、一定の確定事由による元本確定の登記を、登記名義人が単独で申請できるとしています。この単独申請ができるのは、次の場合です。
- 根抵当権者(根質権者)が確定を請求したとき(民法398条の19第2項)
- 競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき(398条の20第1項3号)
- 債務者又は設定者が破産手続開始の決定を受けたとき(398条の20第1項4号)
ただし、2つ目と3つ目(398条の20第1項3号・4号)は、根質権又はこれを目的とする権利の取得の登記の申請と併せてしなければなりません(93条ただし書)。
試験ではここに注目
- 「存続期間の定めは、質権の登記事項であり、抵当権の登記事項でもある」は誤り。存続期間は質権だけです。
- 「付加一体物に及ばない旨の定めは、質権の登記事項とはならない」は誤り。質権でも登記事項です。
- 「使用収益ができる旨は、質権の登記事項である」は誤り。登記事項になるのは、使用収益しない旨の定めなどです。
- 「弁済期の定めは、質権の登記事項である」は誤り。質権でも抵当権でも、弁済期は登記事項になりません。
- 「譲渡・転貸を許す特約が登記された賃借権を目的とする質権でも、賃貸人の承諾を証する情報が必要」は誤り。特約の登記があれば不要です。
- 「地役権を目的とする質権の設定登記ができる」は誤り(民法281条2項)。
- 「346条ただし書の定めを廃止する変更登記では、所有者が登記権利者」は誤り。権利者は質権者です。
- 「普通質権の債務者変更には、設定者の印鑑証明書が必要」は誤り。必要なのは根質権のときです。
補足:動画にない条文のポイント
※ここは動画にない補足です。
- 民法345条は、質権者が、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることを禁じています。質権が「占有を移す担保」であることの裏づけになる条文です。なお抵当権は、占有を移転しないで担保に供した不動産に成立する権利です(369条1項)。
- 民法360条2項は、不動産質権の設定を更新できるとしていますが、更新後も存続期間は、更新の時から10年を超えられません。
まとめ
- 質権の登記事項は95条1項、抵当権は88条1項。「質権だけ」「両方」「どちらでもない」に仕分ける。
- 「質権だけ」の5つ(存続期間、違約金、346条ただし書、使用収益しない旨、費用を負担しない旨)を覚え、残りを「両方」か「どちらでもない」に振り分ける。
- 賃借権は特約の登記があれば承諾情報は不要、なければ必要。地役権は目的にできない。
- 346条ただし書の廃止は権利者が質権者。債務者変更の印鑑証明書は、普通質権で不要、根質権で必要。
- 根質権は95条2項で根抵当権の規定を準用。存続期間は10年が上限のまま。

