登記識別情報を提供できないときは?事前通知・本人確認情報・前の住所への通知の違いを比較
実印や免許証をどこにしまったか分からなくなって、家じゅうを探し回ったことはありませんか。不動産登記にも、名義人だけが知っている「合言葉」である登記識別情報を出せなくなる場面があります。そのとき登記所は、どうやって本人かどうかを確かめるのでしょうか。動画は、三つのルートの関係から順番に積み上げていきます。このページでは、事前通知・資格者代理人の本人確認情報・公証人の認証の違いを比較表で整理し、申出の期間と方法、前の住所への通知がされる場合とされない場合の見分け方までをやさしくまとめました。
3行でいうと
- 登記識別情報を出せないときの原則は事前通知(23条1項)。例外が、資格者代理人の本人確認情報と公証人の認証(4項)で、どちらも登記官が「相当」と認めることが条件です。
- 事前通知の申出期間は、発送の日から2週間(外国に住所があれば4週間)。期間内に申出がなければ却下されます(25条10号)。
- 前の住所への通知は所有権の登記だけ。法人・3か月経過・行政区画の変更や錯誤・確実な本人確認情報があれば不要で、3か月は住所変更登記の受付日から数えます。
登記識別情報を提供できないとき、まず何が起きる?
共同で申請する登記では、申請人は登記義務者の登記識別情報を提供しなければなりません(不動産登記法22条本文)。登記識別情報は、いわば登記名義人だけが知っている合言葉です。これを出せること自体が、「本当に名義人本人が申請している」という証明になります。
ところが、その合言葉を出せない場面があります。そこで22条ただし書は、登記識別情報が通知されなかった場合その他、提供できないことに正当な理由がある場合は、提供しなくてよいと定めています。通知を希望しなかった、失効させた、失念した、といった場合がこれに当たります。その代わり、申請情報には「提供することができない理由」を書きます(不動産登記令3条12号)。
事前通知・本人確認情報・公証人の認証、三つのルートの違いは?
合言葉が出せないとき、登記官はどうやって本人確認をするのか。答えは23条にあり、ルートは三つです。原則が1項の事前通知で、登記官が登記義務者に「こういう申請がありました。内容が真実だと思うなら、期間内に申し出てください」と通知します。しかも期間内は、申出がない限り登記ができません。合言葉の代わりに、名義人本人へ直接たずねて意思を確かめるわけです。
一方、4項には、事前通知をしなくてよい場合が二つあります。どちらも、登記官がその内容を相当と認めることが条件です。
| 観点 | ①事前 通知 | ②本人 確認情報 | ③公証人 の認証 |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 23条1項 | 23条4項1号 | 23条4項2号 |
| 確かめる人 | 登記官 | 資格者 代理人 | 公証人 |
| 登記官の 「相当」判断 | 不要 | 必要 | 必要 |
| 相当でない とき | ― | 事前通知に戻る | 事前通知に戻る |
| 登記の 進み方 | 申出まで 登記不可 | 事前通知 なし | 事前通知 なし |
ルートは、事前通知、本人確認情報、公証人の認証の三つですね。
そうです。原則が事前通知で、あとの二つは、事前通知をしなくてよい例外です。ただし例外が使えるのは、登記官が内容を相当と認めたときだけです。
では、相当と認められなかったらどうなるのでしょう。
そこが誤解されやすいところです。23条4項は「相当と認めるとき」に限って1項を適用しない、と定めているだけです。相当と認められなければ原則に戻って、事前通知が行われるだけで、申請が却下されるわけではありません。
具体的な場面で考えてみます。Aさんが甲土地をBさんに売り、所有権移転の登記を申請します。ところがAさんは、登記識別情報の通知書をどこにしまったか思い出せません。何もしなければ、申請後に登記所からAさんへ事前通知が届き、Aさんが期間内に「間違いありません」と申し出るのを待って登記がされます。これでは、代金決済の当日に登記を確定させられません。そこで実務では、決済に立ち会う司法書士がAさんと面談して本人確認情報を作るか、Aさんが公証役場で認証を受けるかして、事前通知を省略することがよく行われます。
事前通知はどう届く?送り方と申出期間
通知は、必ず書面を送付して行います(規則70条1項)。送り方は、登記義務者が誰か、どの住所に宛てるかで決まります。
| 登記義務者・宛先 | 送り方 | 申出期間 |
|---|---|---|
| 自然人 | 本人限定受取郵便名宛人本人にしか渡さない郵便 | 2週間 |
| 法人(本店宛て) | 書留郵便など | 2週間 |
| 法人(代表者の住所宛て) | 本人限定受取郵便 | 2週間 |
| 外国に住所を有する | 書留郵便など | 4週間 |
ひっかけの定番は、法人です。法人は原則として本店に宛てて書留郵便などで送りますが、代表者の住所に宛てて送るときは、自然人と同じ本人限定受取郵便になります。代表者個人の自宅に届く以上、代表者本人の手に確実に渡る方法にする、という理屈です。「法人だから書留だろう」と早合点させる問題が出ています。
申出の期間は、通知を発送した日から2週間です。ただし、登記義務者が外国に住所を有する場合は4週間に延びます。郵便の往復に時間がかかるからです(規則70条8項)。期間内に申出がなければ、申請は却下されます(25条10号)。
繰り返し狙われるのが、外国に住所がある人についての「2週間以内に申出がなければ却下される」という記述です。これは誤りで、4週間までは待ってもらえます。
申出の方法は、申請の方法に合わせる
通知は常に書面で届きます。けれども、返事をするときの方法は、申請したときの方法に合わせます(規則70条5項)。
| 申請の方法 | 申出の方法 |
|---|---|
| 電子申請 | 通知書に書かれた通知番号で申請を特定し、「真実である旨」の情報に電子署名をして登記所へ送信 |
| 書面申請 | 通知書に「真実である旨」を書いて記名し、申請書または委任状に押したのと同じ印で押印して提出 |
同じ印を求めるのは、申請のときの押印と申出のときの押印を照合して、同一人の意思だと確かめるためです。ですから、「オンライン申請なのに申出は書面でなければならない」も、逆に「書面申請なのにオンラインで申出ができる」も、どちらも誤りです。表と裏で、何度も出ています。
では、申出があった日が受付日になるのでしょうか。なりません。受付は、申請情報が提供された時点でされて受付番号が付きます(19条)。権利の登記は、その受付番号の順に行います(20条)。事前通知は受付のあとに行う確認の手続にすぎないので、受付日はあくまで申請の日のままです。
もう一つ、事前通知を受けた登記義務者が、申出をする前に亡くなってしまった場合です。不動産登記事務取扱手続準則46条1項は、相続人が、相続人全員から相続があったことを証する情報を提供し、書面申請なら申請内容が真実である旨を書いて記名押印し印鑑証明書を添付して(電子申請なら電子署名をして)申出をしたときは、その申出を適法なものとして取り扱って差し支えない、としています。亡くなった名義人の立場を引き継いだのがだれなのか、相続人全員の分をそろえて確かめる、ということです。
前の住所への通知(23条2項)はいつされる?
所有権に関する登記の申請で事前通知をする場合に、登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、登記官は、事前通知のほかに、登記記録上の前の住所にも「申請がありました」と通知します(23条2項)。狙いはなりすまし対策です。
例えば、甲土地の名義人Aさんが東京から大阪へ引っ越して住所変更の登記がされ、その直後に、大阪の住所のAさんを登記義務者とする売買の登記が、登記識別情報なしで申請されたとします。事前通知は大阪の住所に届きます。もし住所変更の登記自体がなりすましの犯人の仕業なら、事前通知も犯人の手に渡ってしまいます。そこで東京の前の住所にも知らせて、本物のAさんが気づけるようにしているのです。この通知は、転送されては意味がないので、転送不要の郵便で送ります(規則71条1項)。
ただし、この通知はいつでもされるわけではありません。まず条文上、所有権に関する登記に限られます。抵当権の設定や移転の登記では、住所変更の登記があっても前の住所への通知はされません。そのうえで、規則71条2項が定める除外が四つあります。
| 除外の場面 | なぜ通知しなくてよい? |
|---|---|
| 住所変更の原因が、行政区画・字の変更、または錯誤・遺漏 | 本人が実際に引っ越したわけではないから |
| 最後の住所変更登記の受付日から3か月を経過 | なりすましの危険は、住所変更の直後に集中するから |
| 登記義務者が法人 | 規則71条2項3号で除外されている |
| 本人確認情報の内容から、申請人が登記義務者本人であることが確実 | 本人確認が別の形でできているから |
この3か月は、実際に引っ越した日からのカウントですか。
いいえ、そこが定番のひっかけです。起算点は引っ越した日ではなく、住所変更の登記の申請の受付日です。ですから住所変更の登記と所有権移転の登記を同時に申請した場合、引っ越しが何年前でも受付日が同じなので、3か月は経過していません。前の住所への通知はされます。
前の住所への通知を受け取った人から異議が出たらどうなるでしょうか。直ちに却下されるわけではありません。不動産登記事務取扱手続準則33条1項4号により、登記官が本人確認の調査をして判断します。前の住所への通知は、あくまで本人確認を補助する手段だからです。
なお、申請に25条の却下事由があるときは、10号の申出期間を過ぎた場合を除いて、事前通知も前の住所への通知もしません(23条3項)。却下すべき申請について、本人にたずねる意味がないからです。
本人確認情報には何を書く?(規則72条)
事前通知を省略できる一つ目のルートが、資格者代理人による本人確認情報です。ここには、申請人と面談した日時・場所・状況を書きます。さらに、面識があれば「面識がある旨とその経緯」を、面識がなければ「提示を受けた書類の内容と、本人だと認めた理由」を書きます(規則72条1項)。提示を受ける書類は、規則72条2項で次の組合せが決まっています。
| 提示を受ける書類 | 必要な数 |
|---|---|
| 運転免許証・個人番号カード・旅券・在留カードなど | いずれか1つ |
| 資格確認書・介護保険被保険者証など | いずれか2つ以上 |
| 資格確認書など1つ+官公庁発行の書類1つ | 組合せで可 |
さらに、資格者代理人は、自分が登記の申請の代理を業とすることができる者であることを証する情報を、あわせて提供します。司法書士なら、司法書士であることの証明です(規則72条3項)。本人確認を任せる以上、その人が本当に資格者かどうかも確かめる必要があるからです。
公証人の認証は、委任状でもよい
二つ目のルートが公証人の認証です。認証の対象は、申請書でもよいし、代理人が申請するなら委任状でもかまいません。条文の括弧書に、委任による代理人によって申請する場合は「その権限を証する情報」とあるからです(23条4項2号)。ですから、委任状に認証があれば、申請書に認証がなくても事前通知は不要です。
なお、認証の依頼を本人ではなく代理人がした場合は、認証があっても登記官が相当と認めず、事前通知がされる、という解説があります。この点を直接定めた条文はないので、深入りせず、「認証の趣旨は、公証人による登記義務者の確認にある」と理解しておけば十分です。
登記識別情報が出せないと、印鑑証明書も必要になる
最後に、印鑑証明書との関係です。所有権以外の権利の登記名義人、例えば地上権者や抵当権者が登記義務者になる場合、ふだんは申請書に印鑑証明書を付ける必要がありません。ところが、登記識別情報を提供できない場合は話が別で、記名押印と印鑑証明書が必要になります(規則47条3号ハ、48条)。合言葉が使えない分、実印と印鑑証明書で本人であることを補うわけです。なお、法人なら、会社法人等番号を申請情報に記載すれば、印鑑証明書の添付を省略できます(規則48条1号)。
試験ではここに注目
- 「本人確認情報を登記官が相当と認めなかったときは、申請は却下される」は誤り。事前通知に戻るだけです。
- 「外国に住所がある登記義務者も、通知の発送から2週間以内に申出がなければ却下される」は誤り。4週間です。
- 「法人が登記義務者のときは、常に書留郵便で通知する」は誤り。代表者の住所に宛てるなら本人限定受取郵便です。
- 「オンライン申請をしたが、申出は書面でする」は誤り。申出の方法は申請の方法に合わせます。受付日は申出の日ではなく申請の日です。
- 前の住所への通知の3か月は、引っ越した日ではなく住所変更登記の受付日から。同時申請なら通知されます。
補足:動画にない条文のポイント
※ここは動画にない補足です。
- 本人確認情報のために提示を受ける運転免許証や資格確認書などは、提示を受ける日に有効なものに限られます(規則72条2項ただし書)。
- 令和8年4月1日から、所有権の登記名義人の住所・氏名の変更について、変更の日から2年以内に変更登記を申請する義務が定められました(不動産登記法76条の5)。また、登記官が職権で住所等の変更登記をする仕組みもできました(同法76条の6)。ただし、登記名義人が自然人のときは、その申出があるときに限られます。前の住所への通知の「3か月」は、最後の変更登記が職権による登記であるときは、その登記の日から数えます(規則71条2項2号括弧書)。
まとめ
- 原則は事前通知。例外は、資格者代理人の本人確認情報と、公証人の認証。どちらも登記官が相当と認めることが条件で、認められなければ事前通知に戻ります。
- 事前通知は書面で、自然人と法人の代表者の住所宛ては本人限定受取郵便、法人の本店宛ては書留郵便など。
- 申出期間は発送の日から2週間(外国に住所があれば4週間)。なければ却下。申出の方法は申請の方法とセットで、受付日は申請の日のまま。
- 前の住所への通知は所有権の登記に限られ、法人・3か月経過・行政区画の変更や錯誤・確実な本人確認情報があれば不要。3か月の起算点は受付日で、同時申請なら通知される。異議が出ても、まず登記官が調査する。
- 所有権以外の権利の名義人でも、登記識別情報を出せないときは印鑑証明書が必要。

