根抵当権の譲渡は全部・分割・一部でどう違う?承諾が要る人と登記の形を比較
抵当権は、お金を貸した相手が変わると担保も一緒についていくのが普通です。ところが、元本が確定する前の根抵当権は、債権だけを譲っても根抵当権はついていきません。では、根抵当権そのものを誰かに引き継がせたいときは、どうすればよいのでしょうか。動画では、全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡という三つの専用の方法を、承諾が要る人と登記の形で見比べていきます。このページでは、三つの違いを比較表と図で整理し、登録免許税の計算、準共有になったあとの扱い、確定との関係までやさしくまとめました。
3行でいうと
- 元本の確定前の根抵当権は、債権を譲っても付いていきません。そこで根抵当権そのものを譲る専用の方法が全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡の三つあり、いずれも設定者の承諾が必要です。
- 登記の形は、全部譲渡と一部譲渡が付記登記。所有権を目的とする根抵当権の分割譲渡だけは主登記で、転抵当権者など根抵当権を目的とする権利者の承諾も必要です。
- 登録免許税は、全部譲渡が極度額、分割譲渡が譲り渡した極度額、一部譲渡が極度額を共有者数で割った額に、それぞれ1000分の2です。
確定前の根抵当権は、債権を譲っても付いていかない
普通の抵当権なら、貸したお金の債権を誰かに譲れば、担保である抵当権も一緒に移ります。ところが根抵当権は違います。民法398条の7第1項は、元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使できない、と定めています。根抵当権は、確定前は特定の債権にくっついているのではなく、「一定の範囲の取引から生じる債権をまとめて担保する枠」だからです。
債権を譲っても、根抵当権はついていかない。根抵当権だけ切り離されるのですね。
そうです。ですから、根抵当権を誰かに引き継がせたいときは、根抵当権そのものを譲る必要があります。そのために用意されているのが、全部譲渡、分割譲渡、一部譲渡という三つの専用の譲り方です。
ふつうの抵当権のように、順位の譲渡や放棄といった処分はできないのでしょうか。
確定前の根抵当権は、転抵当を除いて、そうした処分ができません。民法398条の11第1項です。転抵当というのは、根抵当権自体をさらに別の債権の担保に入れることで、これだけは確定前でも例外的にできます。
全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡の違いを比較表で
最初に、三つの譲渡を並べて比べます。
| 観点 | 全部譲渡 | 分割譲渡 | 一部譲渡 |
|---|---|---|---|
| 条文 | 民法398条の12第1項 | 398条の12第2項・3項 | 398条の13 |
| 譲り方 | 丸ごと第三者へ | 極度額で二つに割り、一方を譲る | 割らずに譲受人と準共有 |
| 設定者の承諾 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 転抵当権者等 の承諾 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 登記の形 | 付記登記 (共同申請) | 主登記所有権が目的のとき | 付記登記 (共同申請) |
| 登記原因 | 譲渡 | 分割譲渡 | 一部譲渡 |
| 登録免許税 ×1000分の2 | 極度額 | 譲り渡した極度額 | 極度額÷共有者数 |
| 申請情報の特記 | ― | 分割後の各極度額 | ― |
三つとも設定者の承諾が必要な点は共通で、違いは「分割譲渡だけ転抵当権者などの承諾が要る」「分割譲渡だけ主登記になる」の二点に集約されます。
全部譲渡:丸ごと第三者に譲る
全部譲渡は、根抵当権者が根抵当権をそのまま丸ごと第三者に譲ることです。譲渡のあとは、譲り受けた人と債務者との取引から生まれる債権が担保され、元の譲渡人の債権はもう担保されません。相手が丸ごと入れ替わるので、設定者の承諾が必要です(民法398条の12第1項)。
この承諾は効力要件です。契約のあとに承諾があったときは、登記原因の日付は承諾の日になります。「契約日と承諾日の遅いほう」と覚えておきましょう。
登記は、登記権利者が譲受人、登記義務者が譲渡人の共同申請で、所有権以外の権利の移転なので付記登記です。登記原因は「年月日譲渡」。添付情報は、登記原因証明情報、譲渡人の登記識別情報、設定者の承諾を証する情報です。承諾書には設定者の印鑑証明書も付けますが(不動産登記令19条2項)、登記名義人である譲渡人の印鑑証明書は不要です。
登録免許税は、極度額に1000分の2を掛けます。極度額が3億円なら60万円です。なお、同じ債権を担保する共同根抵当権を、同じ登記所に同時に申請するなら、一件の移転とみなされます(登録免許税法13条1項)。同じ登記所の管轄区域内の複数の不動産なら、承諾の日がずれて登記原因の日付が違っていても、一つの申請情報にまとめて申請できます(不動産登記規則35条10号)。
全部譲渡では、転抵当権者の承諾は要らないのですか。
要りません。根抵当権が丸ごと移るだけで、転抵当権はそのまま付いていくからです。
では、分割譲渡だと違うのでしょうか。
違います。分割譲渡では、譲り渡した方の根抵当権について、それを目的とする権利が消えてしまうんです。民法398条の12第2項の後段です。だから第3項で、その権利を持つ人、たとえば転抵当権者の承諾が必要になります。
全部譲渡のあと、担保する債権の範囲を変えたくなることがあります。この変更は、譲渡の登記のあとで、新しい根抵当権者である譲受人と設定者が申請します。範囲を縮めるなら、設定者が登記権利者、譲受人が登記義務者です。実務では、根抵当権者Bが債権をCに売る場面で、BからCへ全部譲渡したうえで、債権の範囲に「年月日債権譲渡、譲渡人B、に係る債権」を加える変更をよく行います。これで、譲り受けた既存の債権とCのこれからの取引の両方を担保できます。範囲を広げる変更なので、この場合はCが登記権利者、設定者が登記義務者です。
分割譲渡:極度額を二つに割って一方を譲る
分割譲渡は、根抵当権を極度額で二つに割って、その一方を第三者に譲ることです。たとえば、A所有の甲土地に、B信金を根抵当権者とする極度額5000万円の根抵当権があるとします。これを3000万円と2000万円に分けて、2000万円の方をC社に譲る、というイメージです。分かれた二つは、同じ順位で並ぶ独立の根抵当権になります。
承諾が要るのは、設定者(民法398条の12第2項)に加えて、その根抵当権を目的とする権利を持つ人、たとえば転抵当権者です(同条3項)。全部譲渡との違いは、先ほどの会話のとおりです。
登記の形も違います。所有権を目的とする根抵当権の分割譲渡は、付記ではなく主登記です(規則165条1項)。独立した新しい根抵当権が、同順位で生まれるからです。分割前の順位番号に「あ」「い」の符号を付けて同順位だと示し、元の根抵当権の極度額を減らす変更の登記は、登記官が職権で付記します(規則165条2項〜4項、規則3条2号ハ)。
登記原因は「分割譲渡」です。申請情報には、分割前の根抵当権の債務者と債権の範囲に加えて、分割後の各根抵当権の極度額を書きます(不動産登記令別表60項)。譲り渡す側の極度額だけでは足りません。
登録免許税は、分けた極度額の全部ではなく、譲り渡した方の極度額に1000分の2を掛けます。さきほどの例なら、2000万円の1000分の2で4万円です。
一部譲渡:割らずに、二人で持つ
一部譲渡は、根抵当権を分けずに、第三者と共有する形にすることです(民法398条の13)。根抵当権の共有は、専門的には準共有と呼びます。譲渡人と譲受人が一つの根抵当権を準共有して、両方の債権をまとめて担保します。担保される債権者が増えるので、これも設定者の承諾が必要です。登記は共同申請の付記登記で、登記原因は「一部譲渡」です。
登録免許税は、極度額を一部譲渡後の共有者の数で割った額に1000分の2を掛けます。極度額6000万円を一人に一部譲渡すると、共有者は二人になるので、3000万円の1000分の2で6万円です。
分割譲渡と一部譲渡は、結局どう使い分ければよいのでしょう。
会社の経費の枠で考えると分かりやすいです。分割譲渡は、一つの枠をはっきり二つに分けて、それぞれが自分の枠だけを使うイメージ。一部譲渡は、一つの枠を二人でシェアして、どちらかの取引が少なければ、もう一人がその分まで使えるイメージです。
共同根抵当は、すべての不動産に登記しないと効力が生じない
共同根抵当として登記された根抵当権を譲渡するときは、設定されているすべての不動産について登記をしなければ、効力を生じません(民法398条の17第1項)。一つの不動産だけ根抵当権者が違う、という状態を防ぐためです。条文は「譲渡若しくは一部譲渡」と書いていますが、分割譲渡も民法398条の12第2項が「前項の規定により譲り渡す」としている譲渡の一つなので、同じ扱いです。
準共有になったあとは?配当・権利の譲渡・放棄
準共有になった根抵当権の共有者は、原則として、それぞれの債権額の割合に応じて弁済を受けます。ただし、元本の確定前に、別の割合や、ある人が他の人に先立って弁済を受けることを定めたときは、その定めに従います(民法398条の14第1項)。
共有者が自分の権利を人に譲りたくなったときは、他の共有者の同意と設定者の承諾を得て、自分の権利を全部譲り渡すことができます(民法398条の14第2項)。ただし全部だけで、一部だけを譲ったり、分割して譲ったりはできません。条文が引用しているのが、全部譲渡の398条の12第1項だけだからです。たとえば、DとEが準共有する根抵当権で、Dが自分の権利をFに全部譲渡するなら、Eの同意と設定者Aの承諾を証する情報を添付します。転抵当権者の承諾は、全部譲渡と同じで要りません。
では、権利を譲るのではなく、放棄したらどうなるでしょうか。共有者の一人が権利を放棄すると、その権利は他の共有者に移り、「放棄」を原因とする移転の登記をします。
| 観点 | 共有者の権利の譲渡 | 共有者の権利の放棄 |
|---|---|---|
| 権利の行き先 | 第三者(例:Fへ) | 他の共有者(例:Eへ) |
| 設定者の承諾 | 必要 | 不要 |
| 他の共有者の同意 | 必要 | ― |
| 譲れる範囲 | 全部だけ | ― |
| 登記原因 | 譲渡 | 放棄 |
承諾の要否が分かれるのは、譲渡だと新しい債権者が根抵当権に入ってくるので、設定者の負担が増えるのに対し、放棄は、もともといた共有者に権利が吸収されるだけで、設定者の負担が重くならないからです(持分の放棄があると、その持分は他の共有者に帰属します。民法255条、264条)。
確定との関係:確定のあとは「譲渡」ではなくなる
ここまでの三つの譲渡は、すべて元本の確定前だけの制度です。確定の登記がされたあとは、確定前の日付を登記原因とする譲渡であっても、全部譲渡や共有者の権利の移転の登記はできません。登記記録の上で、すでに確定した根抵当権だと分かるからです。
確定後に根抵当権を移すときは、被担保債権と一緒に動きます。登記原因は「譲渡」ではなく「債権譲渡」や「代位弁済」で、設定者の承諾も要りません。この移転の登記をするには、前提として確定の登記が必要なのが原則です。
確定の登記を省略できるのは、確定が登記記録から明らかなときです。たとえば、根抵当権者が申し立てた差押えの登記がされている場合、根抵当権者自身の申立てで確定しているので、民法398条の20第1項1号にあたります。一部譲渡を受けた準共有者が債権者として差押えを申し立てた場合も、同じ扱いです。確定の登記がなくても、債権譲渡を原因とする移転の登記を申請できます。これは、昭和46年12月27日民三第960号依命通知が示した扱いです。同じ依命通知は、準共有の根抵当権を一つの申請で分割譲渡して、すぐに共有者それぞれの単有の根抵当権に分けることはできない、ともしています。一回の分割譲渡でできるのは、共有者全員でなお共有する元の根抵当権と、譲り受けた人の根抵当権の二つだけです。単有にするには、共有者の権利の譲渡などの登記を別に重ねる必要があります。
逆に、登記記録を見ても確定していると分からない場合もあります。設定者が株式会社で、その会社が破産手続開始の決定を受けた場合(民法398条の20第1項4号)です。この事実は登記記録には現れません。ですから、確定の登記を省略できません。根抵当権の登記名義人が確定の登記を単独で申請できますが、移転の登記の申請と併せてしなければなりません(不動産登記法93条)。
試験ではここに注目
- 「全部譲渡には、転抵当権者の承諾が必要」は誤り。必要なのは設定者の承諾で、転抵当権者の承諾は要りません。要るのは分割譲渡のほうです。
- 「分割譲渡の登記は付記登記でする」は誤り。所有権を目的とする根抵当権なら主登記で、「あ」「い」の符号が付きます。
- 「分割譲渡の申請情報には、譲り渡す根抵当権の極度額だけを記載すればよい」は誤り。分割後の各極度額を記載します。
- 「共有者は、自分の権利の一部を譲り渡すことができる」は誤り。譲れるのは全部だけで、他の共有者の同意と設定者の承諾が要ります。
- 「共有者の権利の放棄による移転の登記には、設定者の承諾を証する情報が必要」は誤り。
まとめ
- 確定前の根抵当権は債権と一緒には移らないので、全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡という専用の譲渡があります。いずれも設定者の承諾が必要で、原因日付は契約と承諾の遅いほうです。
- 登記の形:全部譲渡と一部譲渡は付記登記。所有権を目的とする分割譲渡は主登記で「あ」「い」の符号が付き、元の極度額の減額は登記官が職権で付記します。
- 分割譲渡だけは、根抵当権を目的とする権利者(転抵当権者など)の承諾も必要で、申請情報には分割後の各極度額を書きます。
- 登録免許税:全部譲渡は極度額、分割譲渡は譲り渡した極度額、一部譲渡は極度額÷共有者数に、それぞれ1000分の2。
- 準共有になった後:共有者の権利は全部譲渡だけでき(他の共有者の同意と設定者の承諾が必要、転抵当権者の承諾は不要)、放棄による移転には設定者の承諾は不要です。
- 確定との関係:確定の登記のあとは、確定前の日付でも譲渡の登記はできません。確定後の移転は確定の登記が前提ですが、確定が登記記録から明らかなら省略できます。

