暗号化と無線LANセキュリティ
経営情報システム 第26回
「今あなたがこの音声を聞いているまさにこの瞬間も、あなたのパスワードや銀行のデータ、プライベートなメッセージが、電波となって部屋中を飛び交っているんですよね」。動画はこんな話から始まります。このページでは動画の流れにそって、共通鍵暗号方式・公開鍵暗号方式・ハイブリッド暗号方式と、無線LANのWEP・WPA・WPA2、Wi-Fiの意味、MACアドレスフィルタリングの限界をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
いま、あなたのデータは電波に乗っている
動画は、少しドキッとする話から始まります。いま音声を聞いているこの瞬間も、あなたのパスワードや銀行のデータ、プライベートなメッセージが電波になって部屋中を飛び交っている。もし悪意のある第三者が近くで安価なアンテナを広げていたら、空中からそのデータを簡単に傍受できてしまう、というのです。
それでも私たちの生活が崩れていないのは、デジタルの世界に「見えない数学の城壁」が築かれているから。今回はその正体として、データを守る暗号化の仕組みと、毎日頼りきっている無線LANのセキュリティを扱います。動画は、診断士の一次試験対策としても重要なトピックだと話しています。
暗号化・復号・鍵:まず3つの言葉
最初は基本の3語です。データを一定の規則に従って変換し、第三者が内容を読み取れないようにする処理が暗号化。暗号化されたデータを元の読める状態に戻す操作が復号です。そして、変換のしかたを決める基準になるものが鍵です。
この鍵をどう扱うかで、暗号の方式は大きく2つに分かれます。
共通鍵暗号方式:同じ合鍵で閉めて、同じ合鍵で開ける
1つ目は共通鍵暗号方式です。秘密鍵暗号方式とも呼ばれます。送信側と受信側が全く同じ秘密の鍵を共有して、暗号化も復号も行います。動画のたとえでは、頑丈な金庫が1つあって、あなたと相手が同じ合鍵を持っている状態です。箱を閉めるのも開けるのも、同じ鍵を使います。
仕組みがシンプルなので、処理速度が速いのが大きなメリットです。大量のデータをやり取りするのに向いています。
代表的な規格として、動画はまずDESを挙げます。かつては世界中で広く普及しましたが、計算能力の向上とともに安全性が下がり、鍵のパターンを片っ端から試す総当たり攻撃で破られるようになりました。そこで現在は、より強固なAESが使われています。動画によると、AESは単に鍵を長くしただけでなく、変換の規則そのものが桁違いに複雑で、実用的な時間内に総当たりで破るのはまず無理だとされています。
(補足:DESの規格FIPS 46-3は、NISTが2005年5月19日に廃止しています(一次資料)。DESの鍵は56ビットです(二次資料)。AESはFIPS 197で定められ、鍵の長さは128・192・256ビットの3種類です(一次資料)。なお、動画の「変換の規則が桁違いに複雑」という点は、今回の資料では確認していません。)
(補足:自作の計算です。1秒に1兆通りの鍵を試せると仮定して、すべての鍵を試し終えるまでの時間です。)
| 方式 | 試す鍵の数 | 全部試す時間 |
|---|---|---|
| DES (56ビット) | 約7.2京通り | 約20時間 |
| AES-128 (128ビット) | 約3.4×1038通り | 約1,100京年 |
ここで聞き手が、根本的な矛盾に気づきます。
共通鍵って、2人が同じ鍵を持つ必要がありますよね。一番最初、まだ鍵を持っていない相手に、どうやって安全に渡すんですか?途中で鍵を盗まれたら、AESの金庫が強固でも全く意味がないじゃないですか。
素晴らしい視点ですね。まさにそこが、共通鍵暗号方式のいちばんの弱点です。
事前に鍵を安全に渡しておく必要があるので、鍵の管理や受け渡しに手間がかかります。ネットショッピングのたびに、お店へ物理的な鍵を郵送するわけにはいきません。
公開鍵暗号方式:開いた南京錠を世界中にばらまく
この問題に対して、人類は全く新しい発想を生み出しました。それが2つ目の公開鍵暗号方式です。暗号化と復号で、それぞれ異なる鍵を使います。暗号用の鍵は公開鍵として世界中に公開してしまい、受信者は自分だけが管理している復号用の秘密鍵でデータを開きます。代表例はRSAです。
動画のたとえ:開いた南京錠
開いた状態の自分専用の南京錠を、世界中にばらまくイメージです。私に機密データを送りたい人は、その南京錠で箱を閉めます。いったん閉まったら、秘密鍵を持っている私しか開けられません。だから、事前の鍵の共有は要りません。
でも、公開されている南京錠の構造をじっくり調べられたら、ハッカーが鍵の形を推測して、開けてしまわないんですか?
そこがこの方式の面白いところで、一方通行の数学的なトリックが使われているんです。
動画は絵の具で説明します。黄色と青を混ぜて緑にするのは、誰でも一瞬でできます。これが公開鍵で暗号化する処理にあたります。ところが、できあがった緑の絵の具を、元の黄色と青に完全に分けて戻せと言われたら、ほぼ不可能です。RSAなどの方式では、これと同じことが数字の世界で行われている、という説明です。暗号化は一瞬でも、正しい秘密を知らずに元へ戻そうとすると、気が遠くなるほど複雑な計算が必要になります。
(補足:RSAの安全性の根拠は、桁数の大きな合成数の素因数分解が現実的な時間では困難だと信じられていることです(百科事典・二次資料)。IETFのRFC 8017は、RSAの暗号化は受信者の公開鍵で、復号は対応する秘密鍵で行うと定め、典型的な使い道に、鍵のデータを安全に届ける場面を挙げています(一次資料)。)
では、全部この公開鍵暗号方式にすればいいのでは? 動画は、そこが技術のジレンマだと言います。計算処理が非常に複雑で時間がかかるため、共通鍵方式と比べると遅すぎて、動画のような大量のデータを送るのには向いていないのです。
| 比べる点 | 共通鍵暗号方式 | 公開鍵暗号方式 |
|---|---|---|
| 鍵 | 暗号化と復号で同じ | 別々(公開鍵と秘密鍵) |
| 処理速度 | 速い | 遅い |
| 鍵の受け渡し | 事前に安全な共有が必要 | 事前の共有は不要 |
ハイブリッド暗号方式:両方のいいとこ取り
では、現実の世界ではどうしているのか。動画の答えは、両方のいいとこ取りをしたハイブリッド暗号方式です。まさか妥協しているわけではありません。
まず、1回の通信(セッション)ごとに、その時だけ使う使い捨ての共通鍵を作ります。動画ではこれをセッション鍵として説明しています。次に、この小さな鍵のデータだけを、相手の公開鍵で暗号化して送ります。無事に共通鍵を共有できたら、あとは大容量のデータを、その共通鍵で暗号化してやり取りします。
安全だけれど遅い公開鍵暗号を、最初の鍵の受け渡しの一瞬だけ使う。鍵のデータはごくわずかなので、遅くても一瞬で終わります。公開鍵暗号の鍵管理のしやすさと、共通鍵暗号の処理の速さを掛け合わせた、スマートな解決策です。
無線LANは、なぜ狙われやすいのか
ここからは、箱を運ぶ「道」の話です。有線ケーブルなら、線を切らないとデータを盗めません。ところが無線LANは電波なので、届く場所なら手軽に通信できる反面、傍受や不正侵入の標的になりやすいネットワークです。動画は、カフェで隣の席の人があなたのスマホの電波を全部傍受している可能性も「十分ありえる」と話します。だから、通信内容の暗号化が不可欠なのです。
WEP:最初の盾は、なぜ破られたのか
無線LANの暗号化も、最初から完璧ではありませんでした。初期の規格として普及したのが、共通鍵暗号方式をベースにしたWEPです。しかし、容易に解読されてしまうことが判明し、現在は使用が推奨されていません。動画は、熟練のハッカーなら、バリスタがコーヒーを入れ終わるより短い時間でWEPのパスワードを解読できる、と表現しています。
WEPが破られたなら、単純にパスワードを100文字くらいの長いものにすればよかったんじゃないですか?
問題は長さではなく、パターンが固定されていたことにあったんです。WEPは同じ鍵をずっと使い続けたため、ハッカーがたくさん電波を集めると、そこから数学的な法則性を見つけ出せてしまいました。
(補足:資料で確認しました。WEPの鍵は40ビットまたは104ビットに、24ビットの初期化ベクトル(IV)をつなげて使い、入力する鍵は5文字または13文字の英数字です。100文字のパスワードは、そもそも設定できません(二次資料)。解読の速さは論文でも示され、2007年のTewsらの報告では、104ビットのWEP鍵を半数の場合で4万フレーム未満で回復でき、IEEE 802.11gのネットワークなら必要なフレームを1分未満で集められるとされました(一次資料)。)
(補足:自作の計算です。IVは24ビットなので16,777,216通りしかなく、ランダムに選ばれるなら、約4,800パケットで同じIVが出る確率が約50%になります。動画の「パターンが固定」がこれと結びつくかは、動画では説明されていません。)
WPAとWPA2:鍵を替え、エンジンを替える
その弱点を克服するために登場したのが、安全性を向上させたWPAと、さらに強固なWPA2です。動画の説明を表にまとめます。
WPAでは、TKIPという技術が採用されました。動画の説明は、一定期間ごとに鍵を自動的に更新する仕組み、というものです。聞き手は「パターンが読めそうな瞬間に鍵を新しくするんですね」と受け止め、講師は「ええ」と応えて、さらに強力なWPA2へ話を進めます。
WPA2では、先ほど出てきたAESをベースにしたCCMPという暗号化通信手順が使われます。聞き手のまとめは、「WPA2が安全なのは、新しいからではなく、中身のエンジンにAESを組み込んでいるからなんだ」。講師も「そういうことです」と答え、通信の盾の素材そのものが破格の防御力を持つようになった、と表現しています。
(補足:TKIPは、百科事典(二次資料)によると、秘密のルート鍵とIVを関数で混ぜてからRC4に渡す、パケットごとに異なる鍵を使う、鍵の再発行の仕組みを持つ、という内容です。動画の「一定期間ごとに更新」は、この再発行の仕組みにあたると考えられます。「攻撃を察知した瞬間に鍵を替える」とまでは確認できませんでした。なおWPA(TKIP)はWEPの弱点への暫定的な対策で、TKIP自体も現在は非推奨です。)
(補足:NISTのSP 800-97(現在は廃止扱い)は、WEP・TKIP・CCMPのうちFIPS承認のAESを使うのはCCMPだけだと述べ、連邦機関の無線LANにCCMPを要求しています(一次資料)。)
(補足:動画にない、いまの状況です。Wi-Fi Allianceのページでは、WPA3はWi-Fi CERTIFIEDの機器で必須と説明されています(一次資料)。総務省のテレワークセキュリティの資料は、無線LANにWPA2またはWPA3を使い、暗号化のためのパスワード(パスフレーズ)を推測されにくいものにするよう求めています(一次資料。版は未確認)。)
Wi-FiとIEEE 802.11は、何が違うのか
ここで聞き手が、整理しておきたいことを尋ねます。よく言う「Wi-Fi」は、無線LANの規格そのものとは違うのか、と。
Wi-Fiって、無線LANの規格そのものとは違うんですか?
無線LANの国際標準規格には、IEEE 802.11という正式なものがあります。私たちが普段Wi-Fiと呼んでいるのは、この規格に沿った機器同士の相互接続性を、Wi-Fi Allianceという団体が保証しているブランド名称にすぎません。
メーカーが違うルーターとスマホでも、ちゃんとつながりますよ、という認定マークみたいなものなんですね。
(補足:IEEE 802.11は、IEEEの802.11作業部会が無線LANの規格として作っています(一次資料)。Wi-Fiについて百科事典は、Wi-Fi Allianceに認定されたIEEE 802.11の無線通信規格で、認定ロゴを表示できるかどうかが「無線LAN」との違いだと説明します(二次資料)。)
玄関口の対策:SSID・パスワード・MACアドレス
ここまでは、電波の中身を暗号化して守る話でした。次は、怪しい相手を最初からネットワークに入れない、玄関口の対策です。暗号化以外の対策として、アクセスポイントへの接続制御も一般的です。動画は、アクセスポイントを識別するためのネットワーク名をSSIDと呼び、ここに接続パスワードを設けるのが基本だと説明します。スマホの設定画面に出てくる、あの名前とパスワードです。
でもSSIDって周囲に丸見えですし、万が一パスワードが漏れたら、結局誰でもつながってしまいますよね。
ええ、パスワードだけでは心もとない場合もあります。
(補足:SSIDはネットワークの名前で、パスワードそのものではありません。SSIDの定義は、今回は一次資料で確認できませんでした。)
もっと根本的に、「お前は誰だ」と入口で弾くガードマンのような仕組みが、MACアドレスによる接続制限(MACアドレスフィルタリング)です。パソコンやスマートフォンなどの端末には、それぞれ固有の識別番号であるMACアドレスが割り当てられています。あらかじめ登録した端末のMACアドレスだけ通信を許可し、未登録の機器からの不正接続を遮断できます。
パスワードに加えて、端末の指紋のようなMACアドレスで身元確認をするなら、これで絶対に安心ですね。
と言いたいところですが、そこにも落とし穴があります。MACアドレスは確かに身分証のように機能します。でも本物の指紋と違って、知識のあるハッカーなら、自分のパソコンのMACアドレスを、許可された端末の番号に偽装できます。つまり、なりすましが簡単にできてしまうんです。
ガードマンの目の前で、他人の偽造IDカードを見せて突破できてしまう、ということですか?
ええ、その通りです。
だから、MACアドレスだけで安心するのは非常に危険で、あくまで多層的な防衛の1つにすぎません。突破されても中身が読み取れないように、強力な暗号化などの対策を組み合わせることが不可欠。これが動画の結論です。入口のガードと、中身の強力な金庫、そして複雑な鍵の受け渡し。すべてが組み合わさって、はじめてデータが守られています。
(補足:MACアドレスは、Wi-FiやイーサネットのEUI-48の場合48ビットです。設定で変更できる機器もあり、フィルタリングは突破される可能性がある、と百科事典(二次資料)は説明します。Appleは、iPhoneなどがネットワークごとに異なるWi-Fiアドレスを使い、定期的に変更する場合があると説明しています(一次資料)。)
最後の問い:量子コンピューターが来たら?
動画の締めくくりは、聞き手への問いかけです。いまはAESのような解読困難な暗号や多層防御が、デジタル生活を堅牢に守っています。でもWEPも、かつては絶対に安全だと信じられていました。もし将来、量子コンピューターのように、現在の計算能力の常識を根本から覆す未知の技術が実用化されたら、いま絶対に破られないと信じられている強固な鍵はどうなるのでしょうか。動画は答えを示さず、人類はまたどんな新しい「見えない壁」を発明するのか、想像してみてください、と呼びかけて終わります。
(補足:NISTは2024年8月13日、量子コンピューターの攻撃に耐えるよう設計した暗号アルゴリズムの最初の標準3つを確定し、システム管理者に早めの移行を呼びかけました。その1つのFIPS 203は、一般的な暗号化向けの主要な標準とされています(一次資料)。)
まとめ
このページのまとめ
- 共通鍵暗号方式:動画では、処理は速いが鍵の受け渡しに手間がかかる方式。DESからAESへ。
- 公開鍵暗号方式:事前の共有は不要だが処理が重い。代表例はRSA。
- ハイブリッド暗号方式:使い捨ての共通鍵(セッション鍵)を公開鍵で送り、大きなデータは共通鍵で暗号化。
- 無線LAN:WEPは容易に解読され、WPA(TKIP)、WPA2(AESとCCMP)へ。いまの資料はWPA2またはWPA3を挙げています。
- 入口の対策:SSIDとパスワード、MACアドレスフィルタリング。MACアドレスは偽装されうるので、暗号化と組み合わせます。
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