景気動向指数
経済学・経済政策 第5回
「雲を見上げて、黒い雲が出てきたなあと思ったとき、あなたならどうしますか」。動画はこんな天気の問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、景気動向指数の先行・一致・遅行の3つの系列に分けられる理由と、総合指標であるCIとDIの違いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
黒い雲、雨、水たまり:経済の波も同じ順番で読む
動画は、天気の話から始まります。黒い雲を見れば雨を予想して傘を用意し、降り出せば「いま降っている」と現状を知り、水たまりを見れば「さっきまで降っていた」と過去を確かめる。経済の動き(景気動向)を語るときも、未来の予測なのか、現在の状況なのか、過去の確認なのかを区別することが大切だ、という導入です。
この時間軸のずれを整理したものが景気動向指数です。内閣府が作っていて、生産・雇用・消費・物価・金融など、景気に敏感な指標を30本選んで合成しています。動画は、分類表の丸暗記ではなく「なぜその時間軸に入るのか」というロジックで覚えよう、という進め方をします。
- 先行系列:景気に先行して動き、将来の動向を予測するのに使う(黒い雲)。
- 一致系列:景気とほぼ一致して動き、現在の景気の状況を把握するのに使う(降っている雨)。
- 遅行系列:景気より遅れて動き、過去の景気の状況を確認するのに使う(水たまり)。
(確認:内閣府の手引きでも、先行指数は一致指数に数か月先行して景気予測に、遅行指数は一致指数に数か月から半年程度遅れて事後的な確認に使う、と説明されています。採用系列は先行11・一致10・遅行9の計30系列で、現行の系列は2021年1月分から使われています。)
雇用の指標:求人は先、失業率は後
最初は身近な雇用の指標です。ここには3つの時間軸がきれいに並びます。
先行の新規求人数は、企業が「これから売れそうだ、事業を広げよう」と考えたとき、最初に取る行動が求人を出すことだから、景気に先行します。一致の有効求人倍率は、仕事を探している人に対していま求人がどれだけあるかを示し、現在の求人市場の熱量をそのまま表します。
(補足:公式の採用系列名は、どちらも「除学卒」、つまり新卒の学生向けを除いた数字です。)
むずかしいのは遅行側です。動画では常用雇用指数と完全失業率が遅行系列に入ります。ここで聞き手が、ひっかかりやすい疑問を出します。
不景気のニュースには失業率の悪化がセットで出てきますよね。だから失業率は、いまの景気を表す一致系列のような気がしてしまうんですが。
そこが間違いやすいところです。あなたが経営者で、業績が傾き始めたとしたら、真っ先に社員を解雇しますか。
いえ、避けます。採用にも育成にもコストがかかっていますから。
その通りです。景気が戻ったときに人が足りなくなりますから、まず残業を減らし、新規採用を止めて耐えます。解雇や人員削減は最後の手段。耐えて耐えて、どうにもならなくなって初めて失業者が増えます。だから遅れるんです。
景気がよくなるときも同じで、企業はまず今いる社員の残業を増やして対応し、回復が本物だと確信してから新しく雇います。失業率が上がっているのを見たら、「いま不景気だ」ではなく「少し前まで企業が耐えられないほどの不景気だった」という過去の答え合わせをしている、というのが動画の整理です。
(補足:公式の採用系列では、常用雇用指数は「調査産業計・前年同月比」、完全失業率は景気と逆向きに動く逆サイクルの系列です。逆サイクルとは、指数の上昇・下降が景気の動きと反対になる指標のことで、景気動向指数を計算するときは符号を逆にして景気と同じ向きにそろえます。)
生産・販売の指標:もっとも名前がまぎらわしい
次は専門用語がもっとも密集している、生産と販売のカテゴリーです。動画が挙げた主な指標は次のとおりです。
| 系列 | 動画が挙げた指標 | ひとこと |
|---|---|---|
| 先行 | 実質機械受注/中小企業売上 | これからお金を使うと決めた、最初の動き |
| 一致 | 生産指数/労働投入量指数/商業販売額/鉱工業用 | いま工場とお店で起きている活動量 |
| 遅行 | 最終需要財在庫指数/実質法人企業 | 決めてから形になるまで時間がかかる |
先行系列の機械受注、売上見通し(公式名は「中小企業売上げ見通しDI」)、住宅の着工は、どれも「これからお金を使おう」と決断した最初のアクションです。動画は住宅を例に、数千万円のローンを組むのは「これから自分の収入も景気もよくなるはず」という未来への期待があるからだ、と説明します。
試験で引っかかる「在庫率」と「在庫」
動画が「ここが試験で非常に引っかかりやすい」と強調するのが、先行系列に最終需要財在庫率指数と鉱工業用生産財在庫率指数が入っている一方、遅行系列には名前がそっくりな最終需要財在庫指数が入っている点です。「率」の1文字があるかないかで、未来の予測と過去の確認に分かれてしまいます。
- 最終需要財:完成した自動車や家電など、私たちが最終的に買う商品。
- 生産財:自動車をつくるための鉄鋼や半導体のような部品・材料。
なぜ「率」は先行なのか。動画は割り算で説明します。在庫率は、持っている在庫を出荷で割った数字です。
景気が悪くなり始めて車や家電が急に売れなくなると、まず出荷が落ちます。在庫の絶対量がまだ増えていなくても、分母の出荷が減るので、在庫率は一気に跳ね上がります。工場がラインを止める前に売れ行きの悪化が数字に出るので、「これから不景気が来る」という早期警戒のアラームになり、先行系列に入る、という説明です。
一方、アラームが鳴ってから工場がラインの速度を落とし、部品の発注を止めるまでには時間がかかります。その間にも作りかけの製品は完成して倉庫に積み上がります。この物理的に積み上がった在庫の量が最終需要財在庫指数で、景気の波のずっと後にピークを迎えるため、遅行系列です。
試験の注目点:「率」と「量」の区別
- 在庫率指数(出荷に対する在庫の比率)は先行系列。出荷の変化に敏感で、早期のアラームになる。
- 最終需要財在庫指数(在庫の量)は遅行系列。積み上がった結果なので、景気の波より遅れてピークを迎える。
(補足:経済産業省の解説では、在庫率指数は在庫と出荷の比率で示す「率指数」で、「景気の回復は在庫調整が進んだ後になるので、在庫率の動きは景気の先行きを示すといわれる」とされ、景気動向指数でも先行系列に採用されています。なお、動画の「在庫÷出荷」は考え方の説明で、実際の指数は品目ごとの比率をもとに作る「率指数」という特殊な算式です。2系列とも景気動向指数では逆サイクルの扱いです。)
一致系列と、遅行系列の設備投資
一致系列には、生産指数、労働投入量指数、商業販売額などが入ります。工場でいまどれだけ作られ、お店でどれだけ売れているかという今の活動量そのものです。鉱工業用生産財の出荷指数や投資財出荷指数も一致です。部品や機械がいまトラックで運ばれているなら、受け取る工場がいまフル稼働している証拠になるからだ、というのが動画の説明です。
遅行系列の実質法人企業設備投資は、雇用と似ています。新しい工場をつくると決裁してから、土地を探し、設計し、建設して、実際にお金が動いて設備投資として記録されるまで長い時間がかかります。決裁から実行までの長さが、そのままタイムラグになる、というわけです。
お金と物価:株価は先、物価は最後
最後のカテゴリーは、お金や物価です。ここは一致系列がなく、先行の次がいきなり遅行になる、と動画は述べます。
| 系列 | 指標 | 理由(動画の説明) |
|---|---|---|
| 先行 | 東証株価指数/投資環境指数/マネーストック | 投資家は半年後の儲けを見て投資する。お金の量が増えるのは、これから投資や消費をするエネルギーがたまった状態 |
| 遅行 | 法人税収入/きまって支給する給与/消費者物価指数 | 利益が確定して納付するのは最後。給与は春闘などを経て上がり、物価は需要が供給を上回り続けた末に上がる |
動画が強調するのは、物価は遅行系列だという点です。ニュースで「物価が上がって生活が苦しい」と聞くと、いまが不景気に思えますが、経済の波としては最後に現れる動きです。景気がよくなって物が売れ、企業の利益が増え、給与が上がり、さらに買い物が増えて、ようやく物価が上がる。物価の上昇は、過去の経済の熱狂の最終結果だ、という整理です。
たとえ:消費者物価指数のニュースを聞いたら
「消費者物価指数が上がりました」と聞いたら、動画は「ああ、これは水たまりだ」と考えるよう勧めています。いまの景気ではなく、過去の経済活動の結果がようやく現れた、という見方です。
(補足:公式の採用系列では、消費者物価指数は「生鮮食品を除く総合・前年同月比」、きまって支給する給与は「製造業・名目」です。)
総合指標のCIとDI:量と広がり
テキストの最後に出てくる2つの総合指標が、CIとDIです。様々な指標をまとめ上げたもので、それぞれ先行・一致・遅行の3つの指数があります。
CI(コンポジット・インデックス):景気の量感
動画の説明では、CIは景気の動向を量的にとらえる指標です。基準となる年を100として、そこからどれくらい景気のボリュームが大きくなったか小さくなったかを割合で示します。学生時代のテストで、基準のテストを100点としたとき今回は110点分の実力が出せた、という感覚だとたとえられます。
(補足と訂正:内閣府の手引きでは、CIは主として景気変動の大きさやテンポ(量感)を測る指標です。基準年は2020年(令和2年)=100(2023年5月分速報から、2015年基準を変更)。見方は、CI一致指数が上昇しているときは拡張局面、低下しているときは後退局面で、変化の大きさから拡張・後退のテンポを読み取ります。「100より大きいか小さいか」だけで景気の良し悪しを決める指標ではありません。)
DI(ディフュージョン・インデックス):景気の広がり
DIは、採用している指標のうち改善している指標の割合です。ディフュージョンは「波及・広がり」の意味で、すべて悪化なら0%、すべて拡大なら100%。動画は、景気判断の基準を50%とし、50%より多ければ拡大局面、半分未満なら悪化局面と説明します。学校にたとえると、「クラスのうち前回より成績が上がった生徒の割合」です。
(補足:公式では、各系列の値を3か月前と比べ、増加なら「+」、横ばいなら0.5、減少なら「-」として数えます。たとえば10系列のうち増加が6、横ばいが2、減少が2なら、DIは(6+0.5×2)÷10×100=70%です。数字は説明用の自作例です。内閣府は、一致DIは「景気拡張局面では50%を上回り、後退局面では下回る傾向がある」としています。)
合計の点数と、成績が上がった生徒の割合。それがCIとDIの違いなんですね。
そうです。特定の巨大企業だけが絶好調で、ほかの産業がボロボロだったら、合計であるCIは高く出ることがあっても、波及度合いを示すDIは低く出ます。景気の回復が社会全体に広く及んでいるかを見るのに、DIが有効なんです。
試験の注目点:CIとDIの基準を入れ替えた選択肢
- CIは量(景気の勢い)、DIは広がり(改善した系列の割合)。
- 動画では「CIは50%を基準とする」といったダミーの選択肢が紛れ込むと注意しています。50%の目安はDIのほうです。
(補足:内閣府の手引きでは、DIは景気拡張が経済活動のより多くの分野に浸透したことを示す指標で、拡張が加速していることを示すものではないとされています。DIが同じ数値でも、各系列が大きく拡張していればCIも大きく上がるため、CIの変化幅の寄与度やDIをあわせて見るのが望ましい、と説明されています。また、2008年4月分以降、公表はCI中心になり、DIは参考指標として引き続き作成されています。)
まとめ:先行・一致・遅行を理由で覚える
| 系列 | 動画が挙げた主な指標 |
|---|---|
| 先行 | 新規求人数/実質機械受注/中小企業売上見通しDI/新設住宅着工床面積/最終需要財在庫率指数/鉱工業用生産財在庫率指数/東証株価指数/投資環境指数/マネーストック |
| 一致 | 有効求人倍率/生産指数/労働投入量指数/商業販売額/鉱工業用生産財出荷指数/投資財出荷指数 |
| 遅行 | 常用雇用指数/完全失業率/最終需要財在庫指数/実質法人企業設備投資/法人税収入/きまって支給する給与/消費者物価指数 |
(補足:上の表は動画が挙げた指標です。公式の30系列には、このほかに先行の消費者態度指数・日経商品指数、一致の耐久消費財出荷指数・営業利益・輸出数量指数、遅行の第3次産業活動指数・家計消費支出などもあります。)
- 天気にたとえると、先行=黒い雲、一致=降っている雨、遅行=水たまり。
- 雇用は、求人(先行)→求人倍率(一致)→失業率・常用雇用指数(遅行)。解雇は最後の手段だから遅れる。
- 在庫率(率・先行)と在庫(量・遅行)を区別する。出荷が落ちると在庫率が先に上がる。
- 株価・マネーストックは先行、法人税・給与・物価は遅行。物価は最後に動く。
- CIは量感(基準年2020年=100、一致指数の上昇=拡張)、DIは広がり(改善した系列の割合、50%が目安)。
動画は最後に、ニュースを3つの時間軸で分類するゲームを頭の中で始めてみよう、と呼びかけます。フロントガラスの先の未来を見ているのか、足元の現在を見ているのか、バックミラーで過去を確認しているのか。そう意識するだけで、暗記が世界を読み解く道具に変わる、というメッセージです。

