営業CFの計算:間接法と直接法『営業CFで読み解く「利益と現金のズレ」』
財務・会計 第5回
「会社の成績表といえば、やっぱり損益計算書の利益ですよね。……その数ヶ月後にその会社が資金ショートで倒産なんて話、聞いたことありませんか?」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、営業キャッシュフローの間接法と直接法、売上債権・棚卸資産・仕入債務の増減の向き、利息・配当金・法人税等の扱いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
利益は出ているのに、なぜ倒産するのか
雑誌の表紙で、社長が「過去最高益」と笑っている。ところが数か月後、その会社が資金ショートで倒産した。そんな話を聞いたことはありませんか。動画はこの謎から始まり、解く鍵として営業キャッシュフロー(営業CF)を掘り下げます。営業CFは、利益の裏に隠れた会社の本当の体力、つまり本業で稼いだ現金のリアルな動きを表すものです。
損益計算書の利益は、会計のルールに乗った「約束の数字」です。商品を売った瞬間、まだお金をもらっていなくても売上に計上されます。でも、会社を動かすのは約束ではなく現実の現金です。営業CFの計算とは、会計上の利益から現金の動きに関係ないものを一つずつ取り除き、「結局、金庫に現金はいくら増えたのか」に答える作業だ、と動画は説明します。
(補足:動画にない話です。商品を売った時点で売上にする考え方は実現主義と呼ばれます(費用を発生した期に計上する発生主義と合わせて、現金の動きとは別に利益を測るルールです)。一方、キャッシュフロー計算書は、現金および現金同等物の増減を「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つに分けて示します。ここで学ぶ営業CFは、その1つめ、本業の活動による現金の動きです。)
計算の道は2つあります。間接法と直接法です。動画は、多くの上場企業が使っているという間接法から見ていきます。
間接法①:現金が出ていない費用を足し戻す
間接法は、損益計算書の利益からスタートして、パズルのように調整していく方法です。出発点は税引前当期純利益です(補足:連結の計算書では「税金等調整前当期純利益」と呼ばれます)。最初のステップは、非資金費用の加算です。
いきなり面白いですね。費用を足すんですか?普通、費用は引くものだから、現金を計算するのに足すのは逆な気がします。
いいところに気づきましたね。そこが、会計と現金のずれの第一歩なんです。
足し戻す費用の代表が減価償却費です。動画は「会計上の幽霊費用」と呼びます。たとえば工場が1,000万円の機械を導入し、10年使えるなら、会計上は毎年100万円ずつ価値が減ると考えて、減価償却費を計上します。でも、その年に誰かへ100万円を現金で支払っているでしょうか。払っていません。お金が出ていくのは、最初に機械を買ったときだけです。
現金は1円も動いていないのに、利益の計算では費用として引かれています。だから、この100万円は会計上の都合で引いただけ、と考えて、いったん足し戻します。(補足:1,000万円÷10年=100万円。これは毎年同じ額を費用にする簡単な例で、使い終わったあとの残りの価値は考えていません。)
貸倒引当金の増加額も同じ理屈です。まだ実際に発生していない損失に備えるための費用なので、現金は出ていません。会計上は引かれてしまったけれど、実際には出ていっていないお金を呼び戻す、というイメージです。
間接法②:本業以外の損益を取り除く
次のステップでは、本業以外の損益を取り除きます。営業CFは、あくまで本業の力を見たいからです。動画が挙げる例を、利益に対する向きとあわせて整理します。
- 受取利息・受取配当金:預金や株式から得たもので、本業の儲けではないので、利益から引く。
- 支払利息:借金の利息。営業外費用として利益から引かれているので、本業の力を見るために足し戻す。
- 固定資産売却:持っていた土地を売って出た利益(売却益)のようなもの。利益から引く。
(補足:動画は支払利息と固定資産売却を「同じように調整する」と言うだけで、向きまでは述べていません。上の向きは、利益に入っているものは引き、費用として引かれているものは足す、という考え方で整理したものです。売却損が出ていれば、逆に足し戻します。)
こうして利益を、純粋な営業活動から生まれたものに近い状態に磨き上げます。ここで引いた利息などは、あとの仕上げで実際の現金の額として加減されます。
間接法③:貸借対照表の増減を調整する
ここからが、間接法の見せ場です。損益計算書の世界から、貸借対照表の世界に足を踏み入れ、営業活動に関わる資産や負債の増減を調整します。違う決算書の情報が入ってくるところが面白い、と動画は言います。
最初に売上債権の増加額を差し引くとありますが、これも直感と逆な気がします。売上が好調だから債権が増えるわけで、いいことではないんですか。
そこがまさに黒字倒産の入り口になりうる、危険な落とし穴なんです。売上債権を簡単に言うと、お客さんへのツケですね。
商品はたくさん売れて、損益計算書には大きな利益が計上されている。でも、お客さんは「支払いは3か月後で」と言っている。銀行口座には、まだ1円も振り込まれていません。だから増えた分は「まだ見せかけの利益」として、容赦なく利益から差し引きます。この数字が急に大きくなっていたら、無理な販売で回収が難しい相手にまで売っていないか、と疑うきっかけにもなります。
棚卸資産(在庫)が増えた場合も差し引きます。増えたということは、現金を使って材料を仕入れ、人件費を払って製品を作ったのに、売れずに倉庫で眠っている状態だからです。現金は出ていっているのに、売上という現金収入に変わっていません。
逆にキャッシュがプラスになるのが仕入債務の増加です。これは売上債権の逆で、仕入先へのツケ、つまり買掛金などです。商品を仕入れたけれど、まだ代金を払っていない。支払いを待ってもらっている分、現金が手元に残るので、増加分は加算します。
動画での整理:増減の向き
- お客さんへのツケ(売上債権)や在庫(棚卸資産)のような営業資産が増える → キャッシュはマイナス。
- 仕入先へのツケ(仕入債務)のような営業負債が増える → キャッシュはプラス。
(補足:これは増えたときの向きです。売上債権が減れば回収が進んだということなので、現金は増える側になります。)
これらの調整をすべて終えると小計が出てきます。ここが間接法のひとつ目のゴール地点です。
直接法:通帳を眺めるように集計する
聞き手が「間接法は、正直ちょっと回りくどい。入ってきた現金から出ていった現金を引くだけの方法はないのですか」と尋ねると、出てくるのが直接法です。現金の出入りを主要な取引ごとに、ありのままに集計する方法で、会社の通帳を1年分眺めるような、直感的なアプローチだと説明されます。柱は大きく4つです。
- 営業収入:お客さんから現金をもらう。
- 仕入支出:仕入れのために現金を払う。
- 人件費支出:従業員に現金を払う。
- その他の営業支出:その他の経費で現金を払う。
収入から支出を引くだけで、非常にシンプルです。
営業収入は、損益計算書の売上高とは違うんですよね。
全く違います。そこが最重要ポイントです。売上高には、さっき話したお客さんへのツケ、つまり売上債権が含まれていますよね。
直接法の営業収入は、売上高から、まだ回収できていない売上債権の増加額を差し引きます。これで、この1年に実際に回収した現金の額が正確に分かります。
仕入支出も同じ理屈です。損益計算書の売上原価をスタート地点に、2つの調整を加えます。まず、棚卸資産(在庫)の増加額を加えます。売れた商品の原価だけでなく、仕入れたけれどまだ売れていない在庫の分も、現金は払っているからです。次に、仕入債務の増加額を差し引きます。仕入れても支払いを待ってもらっている分は、現金が出ていっていないからです。
人件費やその他の経費も、損益計算書の費用から未払いや前払いの分を調整して、実際に払った現金の額を計算します。たとえば給料の未払い分が増えていれば、その分だけ現金の支出は少なくなります。
(補足:動画の営業収入の式は、売上債権だけに絞った基本形です。たとえば商品代金を先にもらう前受金が増えれば、その分は現金が先に入るので、営業収入は増えます。)
山の登り方は違っても、休憩所は同じ
間接法で利益から調整した小計と、直接法で通帳を見るように現金を数えた小計は、同じ金額になる、と動画は言います。動画は、山の登り方が違うだけで、たどり着く休憩所は同じ、とたとえます。だから小計が一致すれば、計算が合っているという検算にもなります。
最後の仕上げ:利息・配当金・法人税等は実際の現金で
小計までで完成かと思いきや、あと一息です。動画によると、小計には、営業活動の一部ではあるものの性質が少し違うので区別して表示される項目を、加減算します。主に3つです。
- 利息および配当金の受取額をプラスする。
- 利息の支払額をマイナスする。
- 法人税等の支払額をマイナスする。
大事なのは、損益計算書に書いてある金額ではなく、実際に現金で受け取ったり支払ったりした額を使う点です。
ということは、税金も損益計算書の法人税額と、実際に払った現金は違う可能性があるのですか。
そうです。期末にまだ支払っていない未払法人税等があったりしますからね。その増減を考慮して、実際に税務署に納付した現金の額を計算し、その金額を差し引きます。利息も、未収利息や未払い利息の増減を反映させます。
(補足:動画にない話です。納付額は「損益計算書の法人税等+期首の未払額−期末の未払額」で求められます。また、動画は利息・配当金を営業活動に含める形で説明しています。会計基準では、投資活動や財務活動に含める方法も認められているとされます。)
設例で確かめる
動画にない、自作の設例です(単位は万円)。売上高2,400、売上原価1,300、人件費300、その他の経費180(現金払い)、減価償却費120、貸倒引当金繰入5、受取利息配当金10(現金で受取)、支払利息20(現金払い)、固定資産売却益15、法人税等160とします。すると税引前当期純利益は500です。期中の動きは、売上債権+80、棚卸資産+50、仕入債務+40、未払給与+10、未払法人税等は期首40から期末50です。
まず間接法です。
| 項目 | 向き | 金額 |
|---|---|---|
| 税引前当期純利益 | 500 | |
| 減価償却費 | 足す | 120 |
| 貸倒引当金の増加 | 足す | 5 |
| 受取利息配当金 | 引く | 10 |
| 支払利息 | 足す | 20 |
| 固定資産売却益 | 引く | 15 |
| 売上債権の増加 | 引く | 80 |
| 棚卸資産の増加 | 引く | 50 |
| 仕入債務の増加 | 足す | 40 |
| 未払給与の増加 | 足す | 10 |
| 小計 | 540 | |
| 利息配当金の受取額 | 足す | 10 |
| 利息の支払額 | 引く | 20 |
| 法人税等の支払額(160+40−50) | 引く | 150 |
| 営業キャッシュ | 380 |
次に、同じ設例を直接法で計算します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 営業収入 | 2,400−80 | 2,320 |
| 仕入支出 | 1,300+50−40 | 1,310 |
| 人件費支出 | 300−10 | 290 |
| その他の営業支出 | 180 | 180 |
| 小計 | 2,320−1,310−290−180 | 540 |
どちらも小計は540で一致しました。ここに利息配当金の受取額10、利息の支払額20、法人税等の支払額150を加減すると、営業CFは380です。税引前当期純利益500と見比べると、売上債権と棚卸資産の増加だけで、合わせて130の現金が滞っています。こうした「ずれの中身」が見えるのが、間接法のよさです。
営業CFをどう読むか
動画は、営業CFを、その企業が本業の事業活動で1年間にどれだけのキャッシュを純粋に生み出したかを示す、最も重要な財務指標の1つだと位置づけます。営業CFがプラスで、かつ利益より大きければ、稼いだ利益をしっかり現金として回収できている健康な状態。逆に、利益が出ているのにマイナスなら、ツケや在庫に現金が吸い取られている危険なサインかもしれない、と述べます。
(補足:動画にない話です。営業CFが利益より大きくなること自体は、減価償却費の大きい会社では珍しくありません。また、仕入先への支払いを遅らせて仕入債務を増やしても、営業CFは一時的に増えます。「利益より大きいから安心」と決めつけず、差を生んでいる項目を確かめましょう。)
直接法のほうが直感的で分かりやすい気もします。どうして多くの会社は、複雑な間接法を使っているんでしょうか。
間接法のプロセス自体に、ものすごい価値があるからなんです。損益計算の利益と手元のキャッシュが、なぜ、どの項目で、どれぐらいずれているのかを、一つ一つ明確に示してくれます。
利益は出ているのになぜかお金がない、という経営者の最大の悩みに、具体的な答えをくれる診断書のようなもの。だから多くの企業や投資家が間接法を重視する、というのが動画の説明です。売上債権や棚卸資産の動きを時系列で追えば、ビジネスモデルの強さや、運転資金をどれだけ効率的に管理しているかといった、経営の質まで読み解けるとも言います。
動画の最後は問いかけです。高い利益を毎年報告している成長企業なのに、営業CFがずっとマイナス、あるいはギリギリのプラスだったら、内部では何が起きているのか。急増するツケや倉庫に眠る在庫は、未来の健全性について何を警告しているのか。自分の言葉で答えてみてください。
まとめ
営業CFの計算:ここだけ押さえる
- 損益計算書の利益は会計ルール上の数字。営業CFは、そこから現金の動きに関係ないものを取り除いて、本業で増えた現金を示す。
- 間接法:税引前当期純利益から出発し、非資金費用の足し戻し、本業以外の損益の調整、営業資産・負債の増減の調整を経て小計を出す。
- 動画では、売上債権・棚卸資産の増加は引き、仕入債務の増加は足す。ツケと在庫は現金を吸い取る。
- 直接法:営業収入、仕入支出、人件費支出、その他の営業支出を集計し、収入から支出を引いて小計を出す。
- 間接法と直接法の小計は同じ金額になる。一致すれば検算にもなる。
- 小計のあと、利息配当金の受取額・利息の支払額・法人税等の支払額を、損益計算書の金額ではなく実際の現金の額で加減する。
- 間接法は、利益と現金のずれの原因を項目ごとに示してくれる点に価値がある、と動画は説明する。

