連結決算『のれん(Goodwill)の正体』
財務・会計 第43回
動画は、企業の買収や子会社の設立のニュースは毎日のように耳にするけれど、グループ全体の本当の実力はどうやって見ればいいのか、親会社の成績だけ見ていても全体像はつかめない、という問いかけから始まります。このページでは動画の内容を、連結財務諸表の作り方、のれんの計算、日本基準とIFRSでの扱いの違い、持分法をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
グループ全体の実力は、親会社だけ見てもわからない
動画は、企業の買収や子会社の設立のニュースは毎日のように耳にするけれど、グループ全体の本当の実力はどうやって見ればいいのか、親会社の成績だけ見ていても全体像はつかめない、という問いかけから始まります。個々の会社が好調でも、グループ全体で見ると大きなリスクを抱えていることがある。そこで出てくるのが連結決算という考え方です。
今回のテーマは、グループ会計の心臓部である連結の仕組みと、そこで生まれるのれん(Goodwill)の正体です。動画は、これを単なる会計の暗記ではなく、企業の成長戦略とその裏にあるリスクを読み解くための「強力なレンズ」だと説明します。グループを1つの生命体として捉える視点、というわけです。
親会社の成績だけ見ていても、グループ全体の姿はつかめないですよね。
まさにそこがポイントです。個々の会社がすごく好調でも、グループ全体で見ると大きなリスクを抱えている、ということがありますから。
この記事は、次の順で整理します。まず複数の会社の財務諸表を1つにまとめる手順(相殺消去と資本連結)、次にのれんの発生と計算、そののれんの扱い(償却と減損)、負ののれん、最後に支配まではしていない会社に使う持分法です。動画では、のれんの計算は後半の数値例で扱われますが、ここでは先にまとめました。
連結の第一歩:全部足して、身内の取引を消す
複数の会社の財務諸表を、どうやって1つにまとめるのか。動画によると、出発点は、親会社と子会社の資産・負債・資本・収益・費用を、単純に合算することです。文字どおり、全部足し合わせます。
ちょっと待ってください。全部足すと、たとえば親会社が子会社に100億円を貸していた場合、親会社の貸付金と子会社の借入金が、両方ともグループの財務諸表に載ってしまいませんか?
鋭い点を突かれました。その通りです。だから単純な合算のあとに、相殺消去という大事な手続きが必要になります。
動画のたとえでは、こうした取引は「右手から左手にお金が移動しただけ」です。グループの外から見れば、お金はグループの中を動いただけなので、外部に示す表からは消します。身内のやり取りはノーカウントにする、という整理です。
相殺消去のなかでも、今回のテーマの核になるのが資本連結です。親会社が子会社に出資している投資(子会社株式)と、それを受けている子会社側の資本とを、互いに打ち消す作業をいいます。
これをしないとどうなるのか。動画は、親会社の資産である子会社株式と、子会社の純資産が二重に計上されてしまい、グループ全体の資産が実態より過大に見えてしまう、と説明します。そこで、親会社の投資勘定と、それに対応する子会社の資本勘定を打ち消し合わせます。
のれんの正体:帳簿にない価値に払った上乗せ
この資本連結の過程で、いよいよのれんが登場します。聞き手が、どうしてのれんが生まれてくるのか、と尋ねると、講師はこう答えます。企業を買収するとき、買収先の純資産の帳簿上の金額ちょうどで買うケースは、ほとんどないからだ、と。通常は純資産額に、ある程度の上乗せ額(プレミアム)を乗せて支払います。
動画の説明では、支払った買収金額と、買収された企業の純資産額との差額が、のれんの正体です。聞き手が「つまり帳簿には乗っていない価値にお金を払っているということですね」と確かめ、講師は「おっしゃる通り」と応じます。例として挙がるのは、その会社のブランド力、独自の技術、顧客リスト、優秀な人材など、目に見えないけれど将来大きな収益を生み出しそうなものへの対価です。
のれんは、経営陣の「自信の値段」
買収する側の経営陣は、「自分たちの経営資源と組み合わせれば、この会社の目に見えない価値を最大限に引き出し、支払ったプレミアム以上のリターンを生み出せる」と宣言しているようなものだ、と講師は言います。言ってみれば経営陣の自信の値段、という表現です。単なる会計上の数字ではない、というのが動画の強調点です。
(補足:動画の単純化の訂正です。動画は、のれんを「買収金額と、買収先の帳簿上の純資産額との差額」と説明しています。連結では、買収した時点で子会社の資産・負債を時価で評価し直し、その評価後の純資産のうち親会社の持分を基準にして差額を求めるのが基本とされています。時価と帳簿価額に差があれば、その分はのれんではなく、その資産・負債の評価差額として扱われます。次の設例は、動画にならって、評価差額がない場合で考えます。)
設例:P社がS社の80%を2,000で買ったら
動画の数字例です。仮に、親会社のP社が、純資産1,500のS社の株式の80%を、2,000という価格で買収したとします(金額の単位は動画では示されていません)。ここで大切なのは、P社が80%しか取得していない点です。残りの20%は、P社以外の株主が持っています。動画は、この親会社に属さない部分の株主を非支配株主と呼びます。
- S社の純資産1,500を、P社の持分と非支配株主の持分に分ける。P社の持分は1,500×80%=1,200、残りの300が非支配株主持分。
- P社は、1,200に相当する部分を手に入れるために2,000を払った。差額がのれんで、2,000-1,200=800。
P社は、S社の価値のうち1,200に相当する部分を手に入れるために、いくら支払ったでしょうか。
2,000ですね。
そうです。つまり、1,200の価値のものを2,000で買った。この差額の800がのれんになります。
| 項目 | 金額 | 求め方 |
|---|---|---|
| S社の純資産 | 1,500 | 設例で与えられた値 |
| P社の持分(80%) | 1,200 | 1,500×80% |
| 非支配株主持分(20%) | 300 | 1,500×20% |
| 株式の取得価額 | 2,000 | 設例で与えられた値 |
| のれん | 800 | 2,000-1,200 |
聞き手は、この800を、P社が評価したS社の目に見えない価値、つまり先ほどの経営陣の自信の値段だ、と言い換えます。さらに、連結財務諸表の上では800がのれんとして資産に、300が非支配株主持分として計上され、グループ全体の財産状況が示される、と整理し、講師は「完璧な理解です」と応じます。この一連の流れが資本連結の基本で、グループ会計の出発点になります。
(補足:次の2点は、動画の言い方の訂正と、仕訳の形での確認です。1つめ。聞き手の言う「資本の部」は、現在の貸借対照表では「純資産の部」で、非支配株主持分は株主資本とは別の項目として表示されます。2つめ。上の設例の資本連結を仕訳の形で書くと、借方はS社の資本1,500とのれん800、貸方はS社株式2,000と非支配株主持分300で、借方も貸方も2,300になり、つり合います。なお、この設例のように親会社の持分に対応する分だけをのれんにする方法は日本基準の考え方とされ、IFRSでは非支配株主持分の測り方の選択によって、非支配株主に対応する分を含めたのれんを計上することもできるとされています。)
のれんのその後:償却するか、減損テストか
のれんは、貸借対照表の無形固定資産に計上されます。動画は、ここからが少し複雑で、その扱い方が会計基準によって異なる、と話を進めます。
動画の説明では、日本の会計基準は、のれんを最大20年以内の一定期間で規則的に償却する、つまり毎年少しずつ費用として処理していくのが原則です。毎年価値が減っていくと考える、という考え方です。
一方、IFRS(国際財務報告基準)のようなグローバルスタンダードでは、動画によれば、原則としてのれんは償却しません。その代わり、毎期末に減損テストを行って、のれんの価値が本当に維持されているかを厳しくチェックします。
| 項目 | 日本基準 | IFRS |
|---|---|---|
| のれんの扱い | 20年以内の一定期間で規則的に償却 | 原則として償却しない |
| 価値の確認 | (補足)兆候があれば減損会計 | 毎期末に減損テスト(補足:年1回以上) |
| 価値が落ちたとき | (補足)減損損失は特別損失 | 減損処理(補足:特別損益の区分はない) |
テストに落ちたらどうなる?
聞き手が「もしそのテストに落ちたらどうなるんですか?」と尋ねます。講師の例は、買収した会社の状況が想定よりも大幅に悪化した場合です。このときは、のれんの価値が毀損したと判断し、その価値を切り下げる減損処理を行います。その損失は、特別損失として一気に計上されます。
自信の値段が、一転して巨額の損失に変わる可能性があるわけですか?
その通りです。だからM&Aのニュースを見るときは、買収額の大きさだけでなく、どれだけののれんが発生したのか、それが将来の減損リスクにならないかを考えることが大切です。
ここまでを数字で確かめましょう。ここからは動画にない設例です。のれん800を、仮に10年で均等に償却すると、毎年800÷10=80ずつ費用になり、1年後の帳簿価額は720です(20年なら毎年40)。一方、買収先の状況が悪化して、のれんの価値が500まで下がったと判断されたなら、800-500=300を一気に損失にします。実際の減損の測り方はもっと複雑ですが、動画の「価値を切り下げる」という説明を、数字で表した簡略例です。
(補足:動画の単純化の訂正です。動画の対比では、日本基準は償却、IFRSは減損、と聞こえます。しかし日本基準にも固定資産の減損会計があり、のれんも対象になるとされています。違いは、日本基準では減損の兆候があるときに減損の判定をするのに対し、IFRSでは兆候の有無にかかわらず、のれんについて年1回以上テストをするとされる点です。動画の「毎期末」は、この意味では単純化です。また、IFRSの損益計算書には、日本基準のような特別損益の区分はないとされています。)
安く買えたら? 負ののれん
動画は、ここで一言だけ触れます。もし運よく、純資産より安い価格で買収できた場合は、負ののれんが発生し、これは買収した年の特別利益として計上される、という説明です。たとえば先ほどの設例で、P社の持分1,200に対して1,100で買えたなら、差額は1,200-1,100=100になります。
(補足:動画の単純化の訂正です。日本基準では、負ののれんが生じそうなときに、まず取得した資産・負債の識別や時価評価が適切かを見直し、それでもなお差額が残る場合に、特別利益(負ののれん発生益)として処理するとされています。IFRSでは、割安購入益として当期の損益に計上されるとされています。)
持分法:影響力の分だけ、成績表に取り込む
ここまでは支配している子会社の話でした。聞き手は、もう1つのパターンを尋ねます。完全な支配はしていないけれど、たとえば株式を30%保有していて、重要な影響力を持つ関連会社の場合です。
この場合も、財務諸表を全部合算するんですか?
いえ、全く違うアプローチを取ります。それが持分法です。
関連会社は、経営を完全にコントロールしているわけではありません。そのため、資産や負債を全部連結するのは実態に合わない、というのが動画の説明です。
動画の説明では、持分法は非常にシンプルです。関連会社の当期純利益または損失のうち、自社の出資比率(持分)に応じた金額だけを、自社の利益または損失として取り込みます。
動画の例はこうです。30%出資している関連会社が、1年間で1億円の利益を上げたとします。その30%の3,000万円を、持分法による投資利益として、自社の損益計算書に計上します。同時に、貸借対照表に載っているその関連会社への投資の価値も、3,000万円分だけ増えます。
聞き手は、連結法のように全てを合算するのではなく、自分の影響力の分だけを「純粋なエッセンス」として取り込むイメージだ、と言い換えます。講師もこれに賛成し、連結法がグループを1つの体として見るのに対し、持分法は、親しいビジネスパートナーの業績を自分の成績に一部反映させるスタンスの違いがある、と話します。
(補足:持分法は動画の説明どおりですが、次の点を補います。1つめ。「投資の価値が3,000万円増える」のは配当がない場合です。たとえば関連会社が4,000万円の配当をすると、30%の1,200万円は受け取った配当として損益には出ず、投資の帳簿価額を減らします。投資は3,000-1,200=1,800万円の増加にとどまります(動画にない設例)。2つめ。関連会社に当たるかどうかは、議決権の20%以上を持つことが目安とされ、動画の30%はその一例です。ただし、20%以上でも影響力がないことが明らかなときは除かれ、20%未満(15%以上)でも影響力があれば含まれる例外があります。)
考えてみよう:のれんの期待と、減損リスク
動画の最後は、こんな問いかけです。のれんは将来の収益力への期待を数値にしたものだが、見込みが外れたときは、減損という形で企業の財務に深刻なダメージを与えるおそれもある。もしあなたが企業の経営者なら、のれんという見えない資産がもたらす成長への期待と、将来の減損リスクを、どのように天秤にかけ、マネジメントしていくか。動画は答えを示さず、考えてみてほしいと投げかけています。
ここまで見てきた材料で整理すると、手がかりは3つです。1つめは、のれんの大きさ。先ほどの設例では、買収額2,000のうち800(4割)がのれんでした。2つめは、そののれんをどう扱うか。償却して毎年少しずつ費用にするのか、償却せず減損テストで確かめるのか。3つめは、買収先の状況が悪化したときの影響。減損になれば、一気に損失が出ます。買収額の大きさだけでなく、のれんの大きさと、将来の減損リスクをあわせて見る。こうした見方が手がかりになります(記事側の整理です)。
まとめ
この回のまとめ
- 連結財務諸表は、親会社と子会社の資産・負債・資本・収益・費用を合算し、身内の取引を相殺消去して作る。
- 資本連結は、親会社の子会社株式と子会社の資本を打ち消す手続き。しないと資産が二重に計上される。
- のれんは、買収金額と、買収先の純資産のうち親会社の持分との差額。設例では2,000-1,200=800で、非支配株主持分は300。
- のれんの扱いは基準で異なる。動画では、日本基準は20年以内で規則的に償却、IFRSは償却せず減損テスト。日本基準にも減損会計がある(補足)。
- 減損処理では、のれんの価値を切り下げ、損失を一気に計上する。純資産より安く買えたときは負ののれんが生じる。
- 持分法は、関連会社の損益のうち自社の持分に応じた金額だけを取り込む。30%×1億円=3,000万円。
動画の途中で、聞き手はのれんを「M&Aや戦略の光と影を映し出す鏡のような存在」と整理し、講師も受けていました。買収額の裏で、企業がどんな期待を抱き、どんなリスクを背負ったのか。その見え方を意識しながら、もう一度動画を聞いてみてください。
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