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全部原価計算 vs 直接原価計算『なぜ利益に差が出るのか』

財務・会計 第48回

財務・会計・財務諸表・会計処理 00812分48秒2026年2月10日公開

「原価計算を学んだ人なら、えっと、誰もが通る道、直接原価計算と全部原価計算。特に中小企業診断士の試験だと、この2つの利益の差額を計算させる問題ってもう定番中の定番ですよね」。動画はこんな会話から始まります。このページでは動画の流れにそって、固定費の扱いの違い、設例で見る20万円の差、利益が変わる3つのパターン、式の覚え方、そして在庫が経営判断を左右する話をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

利益の差の「向こう側」にあるもの

動画は「原価計算を学んだ人なら、えっと、誰もが通る道、直接原価計算と全部原価計算」という呼びかけから始まります。診断士試験では、この2つの利益の差額を計算させる問題が定番中の定番だと聞き手が言い、講師も「必ずと言っていいほど出題されます」と応じます。

ただ、この回のねらいは、計算式の向こう側にある生々しい話です。会計の方法が1つ違うだけで、現場の意思決定がゆがめられ、会社の本当の体力が見えにくくなることがある。講師は、これは単なる計算方法の違いではなく、利益をどう捉えるかという一種の思想の違いだと言います。その違いが経営者を誤った道に導く危険も潜んでいるので、差が生まれるしくみを本質から理解することが、数字に踊らされないための最強の武器になる、という導入です。

  • 直接原価計算と全部原価計算は、固定費の扱いが違う。
  • 同じ売上なのに、設例で利益が20万円違うのはなぜか。
  • 差が出る3つのパターンと、式の覚え方(全直マッシュ)。
  • 利益の見え方が、現場の行動を変えてしまう。

なお、本文中の「補足」は、動画の単純化を直した部分と、動画にない設例です。動画の設例は、そのまま使います。

直接原価計算:売れた分のコストだけを見る

最初に出てくるのは、社内管理でよく使われるという直接原価計算です。聞き手は「非常に直感的で分かりやすい」「売れたものにかかったコストだけを原価と考える」と受け、講師は「その通りです」と応じます。ポイントは、費用を変動費と固定費にきっぱり分けることです。

  • 変動費:製品を1個作るごとに追加でかかる材料費や外注加工費など。これだけを製品の原価(製造原価)とみなします。
  • 固定費:毎月一定額かかる工場の家賃や正社員の人件費など。1個作っても100個作っても基本的に金額は変わらないので、製品の原価にはせず、その月に発生した期間費用として、売れたかどうかに関係なく全額をその月の費用にします。

聞き手は「だから『直接』なんですね」と納得し、計算の順をこう整理します。売上高から変動費を引いて貢献利益を出し、そこから固定費をまとめて引いて営業利益を求める。とてもシンプルで、どれだけ売れば固定費を回収して利益が出るのか、つまり損益分岐点分析がやりやすい、という整理です。講師は「その通りです」と受け、「あとどれくらい売上を伸ばせば黒字になるか」を決めるときの「非常にパワフルなツール」だと言います。

(補足:動画の単純化の訂正です。製品の原価に入るのは、変動費のうち製造にかかる変動製造費です。販売手数料のような変動販売費は製品の原価ではなく、売上から引く変動費として扱います。売上からそれらの変動費をすべて引いたものが貢献利益です。この回の設例には販売費が出てこないので、動画の説明のままで計算できます。)

全部原価計算:固定費も製品の原価に入れる

ここで講師は、重要な点を挙げます。これだけ直感的で分かりやすいのに、動画によると、日本の会計制度では、外部に公表する正式な財務諸表、つまり決算書を作る上では、直接原価計算は認められていません。聞き手は「なぜ正式な方法じゃないのか」と不思議がり、「公的に認められている全部原価計算は固定費も原価に含めるっていうアプローチになるわけですか」と確かめます。講師は「ご名察」と答えます。

全部原価計算は、その名のとおり、製品を作るためにかかった費用は全部、製品の原価に含める考え方です。変動費はもちろん、さきほどの工場の家賃のような固定製造費も、製品の原価の一部として扱います。

直接原価計算全部原価計算変動製造費1個3,000円製品原価売れた分が費用製品原価売れた分が費用固定製造費月100万円期間費用その月に全額売れ残りでも同じ製品原価売れ残り分は在庫として繰越
2つの方法の違いは、固定製造費の行き先だけです。

ちょっと待ってください。固定費が製品の原価になる。ということは、作った製品が売れ残って在庫になったら、その在庫に固定費の一部がくっついていくということですか。

そういうことです。良い点に気づかれましたね。まさにそこが全部原価計算の最大の特徴であり、直接原価計算との利益の差を生み出す根源なんです。

聞き手は、固定費が次の期に繰り越されるのは、実態と違うような不思議な感じがする、とも話しています。その違和感を、講師は具体的な数字で確かめていきます。

(補足:動画の単純化の訂正です。全部原価計算で製品の原価に入るのは固定製造費です。本社の家賃のような、固定の販売費や一般管理費は、全部原価計算でも期間費用です。動画も、このあとの設例では「固定製造費」と言っています。また、外部公表の話は、決算書の製品原価には固定製造費まで含める、という一般的な整理に沿った説明です。基準の細目は資料により異なるため、ここでは立ち入りません。)

設例で確かめる:売上は同じなのに、赤字が20万円違う

動画の設例は、次のとおりです。

  • ある工場の1か月の固定製造費は100万円。
  • 製品1個あたりの変動製造費は3,000円。
  • この月は100個を生産し、そのうち80個を単価1万円で販売した。
  • 期首(月初)の在庫は0。

まず直接原価計算です。売上は80個×1万円で80万円。売上原価になるのは、売れた80個分の変動製造費だけなので、80個×3,000円で24万円です。ここから期間費用の固定製造費100万円を全額引くと、営業利益は80万円−24万円−100万円で、−44万円の赤字になります。聞き手は「発生したコストは全部その月の費用にするから、赤字がストレートに出てくる」とまとめています。

次に全部原価計算です。売上は同じ80万円。製品1個あたりの原価は、変動費3,000円に、固定費100万円を生産した100個で割った1個1万円を加えて、1万3,000円になります。聞き手は「販売単価が1万円だから1個売るごとに3000円の赤字じゃないですか」と驚き、講師は「見かけ上はそうなりますね」と受けます。売上原価は80個×1万3,000円で104万円。営業利益は80万円−104万円で、−24万円です。

項目(万円)直接原価計算全部原価計算
売上高8080
売上原価24(変動費のみ)104(変動24+固定80)
固定製造費(期間費用)100なし(原価に含む)
営業利益−44−24

直接原価計算だと−44万円だったのに、全部原価計算だと−24万円。赤字額が20万円も少なくなっている。売上も販売も同じなのに、どうしてこんなことが起きるんですか。

その魔法の正体は、期末在庫なんですね。

全部原価計算では、売れ残った20個(100個生産して80個販売した残り)は、資産として倉庫に残ります。この在庫には、1個あたり1万円の固定費が染み込んでいます。つまり20個×1万円で20万円分の固定製造費が、今月の費用にならずに、資産として翌月に繰り越されました。この20万円こそが、2つの計算方法の利益の差額です。聞き手は「費用になるはずだった固定費の一部が在庫という名の資産に姿を変えて利益の赤字幅を圧縮した」と言い換え、「ちょっと怖い話かもしれない」と感じています。

固定製造費 100万円(100個で割ると1個1万円)100万円売れた80個売上原価に80万円20個20万円当期の費用になる分在庫(資産)へ直接原価計算なら、100万円が全額その月の費用全部原価計算との差は、在庫に回った20万円
在庫に回った20万円が、2つの利益の差になります(動画の設例)。

(補足:動画にない話で、設例を足しています。直接原価計算では、1個あたりの貢献利益は1万円−3,000円で7,000円です。80個売ると56万円で、固定費100万円を引くと−44万円になり、動画の数字と合います。固定費100万円を貢献利益で回収する損益分岐点は、100万円÷7,000円で約142.9個、つまり143個売れば黒字です。これが「あと何個売れば黒字か」を答えやすい、という動画の説明の具体例です。なお、設例の固定費は実際の生産量100個で割っています。)

利益が変わる3つのパターン

このしくみが分かると、2つの利益の関係は3つのパターンに整理できる、と講師は言います。

  • パターン1 生産量>販売量:在庫が増えるので、増えた在庫に固定費が吸収され、その分だけ費用が翌期に繰り越されます。結果として、全部原価計算の営業利益が直接原価計算の営業利益より大きくなります。
  • パターン2 生産量<販売量:前期からの在庫を取り崩して売る場合です。前期から繰り越されてきた在庫が費用になるので、当期に発生した固定費に加えて、前期以前の固定費も費用になります。状況は逆転して、全部原価計算の営業利益が直接原価計算の営業利益より小さくなります。
  • パターン3 生産量=販売量:期首在庫と期末在庫の量が同じなので、固定費の繰り越しも取り崩しも起きず、2つの営業利益は一致します(聞き手がこう言い、講師が「その通りです」と応じます)。
生産量>販売量在庫が増える(末>首)全部 > 直接全部の利益が大きい生産量<販売量在庫が減る(末<首)全部 < 直接全部の利益が小さい生産量=販売量在庫の固定費が同額(末=首)全部 = 直接利益は一致全 = 直 + 末 − 首末:期末在庫の固定費 首:期首在庫の固定費
差を生むのは、在庫に含まれる固定費の増減です。

この関係を式にすると、全部原価計算の営業利益=直接原価計算の営業利益+期末在庫に含まれる固定製造費−期首在庫に含まれる固定製造費です。先ほどの設例は、−44万円+20万円(期末在庫20個×1万円)−0円(期首在庫なし)で、−24万円になります。

(補足:動画にない話で、設例を足しています。第2期も、固定製造費は100万円、変動製造費は1個3,000円、単価は1万円とします。第1期の期末在庫20個(1個あたり固定費1万円を含む)を、第2期の期首在庫とします。)

ケース(万円)直接全部
第1期:生産100・販売80(期末在庫20個)−44−24
第2期:生産100・販売120(期首20個→期末0)−16−36
第2期:生産100・販売100(期首も期末も20個)−30−30

第2期の販売120個のケースは、差が−20万円で、式の「期末0−期首20万円」と一致します。販売100個のケースは、在庫の量も1個あたりの固定費も同じなので、差がゼロです。なお、動画でも、生産量と販売量が同じなら一致すると確認しますが、正確には、期首在庫と期末在庫に含まれる固定費が同額のときに一致します。1個あたりの固定費が期ごとに違う場合や、在庫の払い出し順の仮定によっては、数量が同じでも固定費の額が変わることがあります。

語呂合わせ「全直マッシュ」

理屈は分かっても、試験の緊張の中では、式のプラスとマイナスを忘れそうになります。聞き手がそう打ち明けると、講師は「そういう時のために便利な語呂合わせがあるんです」と、全直マッシュを紹介します。

期末マイナス期首だったか、期首マイナス期末だったか、迷ってしまいそうです。何か覚えやすいコツはありますか。

全直マッシュです。全は全部原価計算の全、直は直接原価計算の直、マは期末在庫の末、シュは期首在庫の首です。

なるほど。全直、末、首で、全部原価計算の利益は、直接原価計算の利益に、期末在庫の固定費を足し、期首在庫の固定費を引く、という式の骨格になるわけですね。

そういうことです。利益の差額を問われたら、それは「マッシュ」、つまり期末在庫の固定費と期首在庫の固定費のことだと、すぐに分かります。

(補足:語呂の順に、式は「全=直+末−首」になります。符号に迷ったら、在庫が増えた期(末が首より大きい期)は全部原価計算の利益のほうが大きくなる、と考えれば確かめられます。)

会計が「経営のドラマ」になるとき

ここから動画は、会計がただの数字ではなく、経営のドラマになる話に進みます。講師が出す想定は、こうです。ある事業部長のボーナスが、報告された営業利益に連動しているとします。期末が近づき、目標利益に少し足りません。いちばん簡単に利益を作る方法は、販売計画を無視して工場をフル稼働させることです。

うわあ。売れる見込みがなくても、とにかく作って在庫にしてしまえば、固定費がその在庫に吸収されて、帳簿上の利益は増えるわけですね。

そうです。倉庫は製品でいっぱいになりますが、帳簿上の利益は目標を達成して、彼はボーナスを手にします。

でも、会社全体で見れば、売れない在庫を抱え、保管費用はかさみ、キャッシュフローは悪化していきます。講師は、これは決して架空の話ではなく、実際に起こりうる恐ろしい事態だと言い、だからこそ外部報告用の全部原価計算の利益だけでなく、社内の実態を映す直接原価計算の視点も合わせ持つことが、経営者には求められると言います。

(補足:動画にない話で、設例を足しています。先ほどの月で、販売は80個のまま、生産だけを100個から150個に増やしてみます。固定費100万円を150個で割ると1個あたり約6,667円で、1個の原価は約9,667円。売上原価は80個で約77.3万円となり、全部原価計算の営業利益は80万円−約77.3万円で、約+2.7万円と黒字になります。在庫に回る固定費は70個分の約46.7万円で、−44万円+約46.7万円とも一致します。一方、直接原価計算の営業利益は−44万円のままです。さらに、追加で作る50個の変動製造費50個×3,000円=15万円は、現金で出ていきます。)

生産100個(在庫20個)全部−24万円直接−44万円生産150個(在庫70個)全部+2.7万円直接−44万円
売れた数は同じでも、生産を増やすと全部原価計算の利益だけが良く見えます(動画にはない設例)。

考えてみよう:あなたがマネージャーなら

動画の最後は、こんな問いかけです。もしあなたが、営業利益によってボーナスが決まる立場のマネージャーだったら、どう行動するでしょうか。期末に利益を少しでも多く見せたいという誘惑に駆られたとき、生産計画にどんな影響を与えてしまう可能性があるでしょうか。

動画は、会計は単なる過去の数字の記録ではなく、未来の人の行動を左右する強力なインセンティブ、つまり動機づけにもなりうると結びます。その力は、良い方向にも悪い方向にも使える、ということを心にとめておいてほしい、という呼びかけです。営業利益を見るときは、金額だけでなく、生産量と販売量の差、つまり在庫の増減もあわせて確かめる習慣をつけておくと、数字の裏側が見えやすくなります。

まとめ

この回のまとめ

  • 直接原価計算は、変動費だけを製品の原価とし、固定費は期間費用として全額その月の費用にする。社内管理向きで、損益分岐点分析がやりやすい。
  • 全部原価計算は、固定製造費も製品の原価に含める。決算書の作成に使われ、売れ残りの在庫には固定費がくっついて次の期へ繰り越される。
  • 動画の設例(固定製造費100万円、変動製造費3,000円、100個生産・80個販売)では、直接が−44万円、全部が−24万円。差の20万円は、期末在庫20個×1万円の固定費。
  • 生産量>販売量なら全部の利益が大きく、生産量<販売量なら小さい。式は「全=直+末−首」で、語呂は全直マッシュ。
  • 動画の単純化は補足で直した。製品原価に入るのは変動製造費と固定製造費で、生産量=販売量で一致するのは、期首と期末の在庫の固定費が同額のとき。

売上が同じでも、固定費の置き場所と在庫の増減で、利益の見え方は変わります。数字に踊らされないために、営業利益と一緒に在庫の動きも見る。その視点を持って、もう一度動画を聞いてみてください。

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