引当金『これから起こるかもしれない悪いことリスト』
財務・会計 第51回
決算書にある引当金は、将来の損失に備えるお金のことだが、見方を変えれば「これから起こるかもしれない悪いことリスト」とも言えるのでは。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、引当金になれる4つの条件、評価性引当金と負債性引当金の違い、貸倒引当金の洗い替え法と差額補充法、貸倒れが起きたときの処理をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
「これから起こるかもしれない悪いことリスト」とは
動画は、決算書にある引当金という項目から始まります。聞き手が、引当金は将来の損失に備えるお金のことだが、見方を変えれば「これから起こるかもしれない悪いことリスト」とも言えるのでは、と切り出し、講師は面白い切り口だと応じます。ねらいは、この数字から、企業が何を恐れ、未来をどう読んでいるのかという深層心理を読み解くことです。講師は、引当金を、経営陣が将来のどんな痛みを予測し、どれだけ正直に備えているかを示す「人間臭い数字」だと言います。
ここで聞き手が、もっともな疑問を挟みます。将来の不安を言い出せばきりがないし、景気が悪くなりそうだからと多めに計上して、企業の貯金箱のように使えてしまうのではないか、というものです。講師は、まさにそこが引当金の核心だと答えます。恣意的な運用ができないよう、会計のルールで4つの厳格な要件が定められている、という流れです。
(補足:動画の「将来の損失に備えるお金」という言い方は、引当金が現金の積み立てのように聞こえます。実際の引当金は、将来の費用や損失を、発生する前に見積もって計上する会計上の処理で、現金を別に取りのけておくわけではありません。貸借対照表では、負債、または資産のマイナスとして表示されます。)
引当金になれる4つの条件
講師が挙げる条件は4つで、これを全部クリアしない限り引当金とは認められない、と説明されます。
1つ目は、将来の特定の費用または損失であること。ポイントは「特定」で、なんとなく不安だから、という理由では認められません。何に対する備えなのかが明確である必要があります。聞き手が例に出したのは、A社の売掛金が回収できないかもしれない、来年のボーナスの支払い、といった具体的なもので、講師が肯定します。
2つ目は、発生原因が当期以前の事象に起因していること。講師が「すごく大事なポイント」と強調する条件で、原因は今か過去になければいけません。聞き手が、来年新しい工場を建てるための資金はだめで、今年売った製品の保証のように、今年の活動が原因で将来お金が出ていくかもしれないものに限られるのですね、とまとめ、講師が肯定します。
3つ目は、発生の可能性が高いこと。「もしかしたら」のレベルではだめで、客観的に見て、発生する確率がかなり高いと判断される必要があります。4つ目は、金額を合理的に見積もれること。いくらかかるか見当もつかないものは、引当金にできません。
でも、「可能性が高い」という基準には、経営者のさじ加減が入り込む余地がありそうです。業績をよく見せたいときは「まだ低い」と判断して、利益が出すぎた年にはどかんと積んで利益を調整することもできてしまうのでは。
おっしゃる通りで、そこは会計士の腕の見せどころでもあります。見積もりの要素は入りますが、判断にはちゃんとした合理的な根拠が求められます。過去のデータや法的な見解など、なぜ可能性が高いと判断したのかを説明できなければなりません。
ここで聞き手が、特定の目的で、原因が過去にあり、発生可能性が高く、かつ金額が見積もれる、この4つの門を全部突破しないと引当金にはなれないのですね、とまとめ、講師が肯定します。聞き手は、これは貯金箱どころか、かなりガチガチのルールだと受け止めます。講師は、だからこそ計上されている引当金には意味がある、とつなげます。
(補足:企業会計原則の注解では、引当金について、将来の特定の費用または損失で、発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もれる場合に、当期の負担に属する金額を費用または損失として繰り入れる、という趣旨の定めがあるとされています。動画の4条件は、これを言い換えたものと読めます。文言の細かい点は、お手元のテキストでご確認ください。)
(補足:動画の例にある「来年のボーナス」は、2つ目の条件と合わせて読むのがコツです。賞与引当金で計上するのは、支給が翌期でも、すでに働いた期間に対応する分だけとされます。動画にない設例です。賞与600万円、対象期間が12月1日から5月31日の6か月、決算日が3月31日なら、決算までの4か月分で、600万円×4/6=400万円になります。)
2つの分類:資産のマイナスか、負債か
引当金は、性質によって大きく2つに分けられます。動画の言い方では、「将来の損失に備えるもの」と「支出に備えるもの」です。
将来の損失に備える、つまり資産の価値が目減りするリスクに備えるのが評価性引当金です。代表は貸倒引当金で、売掛金や受取手形といった売上債権が、取引先の倒産などで回収できなくなるリスクに備えます。動画の例は、売掛金1億円に対して、過去の経験から1%は回収できないと分かっているなら、100万円を貸倒引当金として設定する、というものです。これは資産のマイナス評価なので、貸借対照表の資産の部にマイナスで表示されます。売掛金1億円のすぐ下に貸倒引当金100万円を書き、差し引きの9,900万円が、この債権の実質的な価値だと示します。
もう一方が負債性引当金です。将来の具体的な支出に備えるもので、発生の可能性が高いものです。貸借対照表では負債として計上されます。
(補足:動画は、負債性引当金を、キャッシュアウトが「確定している」ものに備えるものだと言います。ただ、引当金は確定債務ではなく、4つの条件を満たす見積計上です。確定している未払いは、未払金・未払費用などで処理します。)
評価性引当金は資産のマイナスだったのに、こっちは負債になるんですね。全然違います。具体的にはどんなものがあるのでしょう。
従業員への賞与引当金や、将来の退職金支払いのための退職給付引当金が典型です。ほかに、航空会社が数年ごとに行うエンジンのオーバーホールや、鉄鋼会社が高炉を改修する費用のように、巨額で計画的な支出に備える修繕引当金もあります。販売した製品の保証期間内の修理に備える商品保証引当金も同じです。
修繕引当金について、聞き手は、積んでいなければ実施した年に莫大な費用が突然発生して、その年の利益が吹き飛ぶこともありうるのですね、と確認します。講師も、そうならないよう毎期少しずつ費用として計上して将来の支出に備える、と答えます。商品保証引当金は、過去の実績から売上の何%かは修理費用がかかると分かっているので、あらかじめ負債として計上しておく、という説明です。
(補足:動画の「1%」は、貸倒れの見込みを一律の率で見積もる例です。金融商品会計の基準では、債権を状況に応じて、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分して見積もるとされています。細かな算定方法は資料により説明が異なるため、ここでは大まかな整理にとどめます。)
| 債権の区分 | 見積もりの考え方(大まか) |
|---|---|
| 一般債権(通常の取引先) | 過去の貸倒実績率などで見積もる。動画の1%の例に近い |
| 貸倒懸念債権(経営不振など) | 債権ごとに、担保等を引いた残額を見積もる方法などで算定する |
| 破産更生債権等(破産など) | 担保・保証で回収できる見込額を引いた残りを、貸倒見積高とする |
(補足:修繕引当金は、動画のように定期的な大規模修繕に備えるものとして説明されます。ただ、2つ目の「原因が当期以前の事象にある」という条件との関係が論点になりやすく、資料により扱いが異なるとされています。試験では、お手元のテキストの整理に合わせてください。)
負債性引当金の2つの切り口
動画は、負債性引当金をさらに2つの切り口で分類します。1つは会計上の計上方法、もう1つは法的な義務の有無です。
| 分類(切り口) | 動画の例 |
|---|---|
| 収益性引当金(計上方法):売上から直接マイナスする | 売上割戻引当金 |
| 費用性引当金(計上方法):販管費などの費用にする | 賞与・修繕など、ほとんどの負債性引当金 |
| 債務性引当金(法的義務):支払う義務が確定 | 賞与・退職金(労働契約上の義務) |
| 非債務性引当金(法的義務):義務は未確定でも可能性が高い | 損害補償損失引当金 |
収益性引当金の代表は売上割戻引当金で、たくさん買ってくれた得意先に、あとから代金の一部を返すリベートに備えるものです。売上そのものが減るのと同じ効果なので、収益から直接控除します。非債務性引当金の例は、製品の欠陥で訴訟を起こされていて、過去の判例から賠償金を支払うことになりそうだ、という場合の損害補償損失引当金です。
判決はまだ出ていなくても、負ける可能性が高いと企業が判断したら、引当金を積むわけですね。
そういうことです。
でも、それってある意味、負けを認めるようなものだから、計上するのには勇気がいりそうです。
(補足:「収益性引当金」は動画の呼び方です。収益を減らす性質から、収益控除性などと呼ぶ資料もあり、呼び名は資料により異なります。また、売上割戻は、現在の収益認識の基準では、顧客に返すと見込まれる額を売上から差し引いて返金負債とする整理が一般的とされています。「売上割戻引当金」という名前が出てくるかどうかは、使うテキストの版で確認してください。)
引当金は、企業の誠実さのバロメーター
講師は、聞き手の「勇気がいりそう」という言葉を受けて、ある話を紹介します。動画によると、過去に大手メーカーが、巨額の損失が見込まれる事案でなかなか引当金を計上しなかったことがありました。すると市場は「何か隠しているのではないか」と疑心暗鬼になり、株価は下がり続けた。ところが、ついに損失が確定して巨額の引当金を計上したときには、むしろ「やっと正直になった」と市場に受け入れられ、株価が反発した、といいます。講師は、引当金は企業の誠実さを測るバロメーターにもなる、と話します。
(補足:動画はこの大手メーカーの名前も時期も挙げていないため、話の裏づけは確認できていません。株価は多くの要因で動くので、ここでは「引当金の計上姿勢が市場の見方に影響しうる」という一般的な話として受け取るのがよいでしょう。)
貸倒引当金の決算処理:洗い替え法と差額補充法
ここから、試験でもよく問われそうな貸倒引当金の処理に進みます。決算での処理は、洗い替え法と差額補充法の2つです。
洗い替え法は、期末に残っている前期からの引当金の残高を、いったんすべて収益(貸倒引当金戻入)として処理して、残高をゼロにします。そのうえで、当期末に必要だと見積もった金額の全額を、あらためて費用(貸倒引当金繰入)として計上する方法です。手間がかかるように聞こえますが、当期に計上する費用の額が、当期に見積もった貸倒れリスクの総額と一致するので、費用の中身が分かりやすい、というのが講師の挙げるメリットです。
差額補充法はもっとシンプルで、期末の残高と、当期末に必要な見積額を比べて、その差額だけを調整します。動画の例は、前期からの残高が100万円で、今期末の見積額が120万円なら、足りない20万円だけを費用として追加計上する、というものです。逆に、残高100万円に対して見積額が80万円になったら、余った20万円は収益として戻し入れます。
たとえ:お財布とお小遣い
聞き手のたとえです。差額補充法は、お財布に残っているお金に、足りない分だけお小遣いを足してもらう感じ。洗い替え法は、いったんお財布を空にして、今月必要な分を全額あらためてもらう感じ。洗い替え法は毎月いくら必要だったのかがはっきりする、と整理され、講師も「まさにその通り」と応じます。
動画の数字を、2つの方法で並べて確かめておきます。どちらの方法でも、損益に出る純額と期末の残高は同じになります。
| 場面(万円) | 洗い替え法 | 差額補充法 |
|---|---|---|
| 残高100→必要額120 | 戻入100・繰入120(差し引き費用20) | 繰入20 |
| 残高100→必要額80 | 戻入100・繰入80(差し引き収益20) | 戻入20 |
実際に貸倒れが起きたら
備えていた引当金は、実際に貸倒れが起きたときに使われます。動画の例は、取引先が倒産して、50万円の売掛金が回収できなくなった場合です。
残高が100万円あるなら、まず引当金の残高から50万円を取り崩して、損失を補います。聞き手は、50万円回収できなかった事実があるのに、損益計算書には何も影響がないのですか、と驚きます。講師の答えは、引当金の範囲内なら損益計算書に新たな費用は計上されない、というものです。貸倒引当金繰入として、見積もりの段階で費用の計上はすでに済んでいる。想定内の出来事だったからです。投資家から見ると、キャッシュは入ってこなかったのに、損益計算書の上では何も起こらなかったように見える。この点は意外かもしれない、と講師は言います。
では、引当金の残高が30万円しかないのに、50万円の貸倒れが起きたら。この場合は、残高の30万円を全額取り崩し、それでも足りない20万円を、貸倒損失という勘定科目で、当期の費用として計上します。当初の見積もりを超えた想定外の損失が出た、ということです。引当金という防波堤でカバーできる分はそれで処理して、あふれた分だけが貸倒損失としてその期の損益計算書に乗ってくる、と聞き手がこう整理します。
(補足:動画にない設例で、引当金を取り崩したあとの期末までつなげます。前期末の残高100万円、期中に50万円の貸倒れで残高50万円、期末の必要額120万円なら、差額補充法で繰り入れるのは70万円です。なお、当期に発生した売掛金が、同じ期のうちに貸倒れた場合は、引当金を取り崩さず貸倒損失で処理するのが一般的な整理です。)
まとめ
動画の流れのまとめ
- 引当金は、見方を変えれば「これから起こるかもしれない悪いことリスト」。経営陣が将来をどう読み、どれだけ正直に備えているかが出る(現金の積み立てではない、と補足で確認)。
- 引当金になれるのは4条件をすべて満たすもの。特定の費用・損失/原因が当期以前/発生の可能性が高い/金額を合理的に見積もれる。
- 評価性引当金は資産のマイナス(貸倒引当金)、負債性引当金は負債(賞与・退職給付・修繕・商品保証など)。
- 負債性引当金は、計上方法で収益性・費用性、法的義務で債務性・非債務性に分けられる。
- 貸倒引当金の決算処理は、洗い替え法(いったん全額戻して全額繰入)と差額補充法(差額だけ調整)。
- 貸倒れが引当金の範囲内なら損益に新たな費用は出ず、超えた分だけ貸倒損失になる。
動画の最後は、まず聞き手が、引当金は単なる会計処理の話ではなく、将来のリスクをどう読んでどれだけ誠実に財務諸表に反映させるかという、企業の姿勢そのものが問われる項目だ、と受け止めます。講師は、決算書を読むときは、引当金の金額が前期から増えているのか減っているのか、その理由は何かを考えるだけで、経営陣が何をリスクだと考えているのかが見えてくる、と応じます。そして動画は、ただの数字としてではなく、企業の未来予測の物語として引当金を読んでみると新しい発見がある、という言葉で締めくくられます。まずは、4条件と、評価性・負債性の違い、そして貸倒引当金の2つの処理を押さえておきましょう。
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