請負の報酬と所有権|完成しただけでは代金を払わなくていい?
「もし家を新築するとしたら、その工事代金って、どのタイミングで払うことになると思いますか?」動画はこんな問いから始まります。このページでは動画の流れにそって、請負の意味、報酬を払う時期、完成した建物が誰のものになるかをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
3行でいうと
- 請負は、ある仕事を完成させることを約束し、相手がその結果に報酬を払うことを約束する契約です(民法632条)。頼む人が注文者、引き受ける人が請負人です。
- 報酬は、仕事の完成とは同時履行になりません(完成が先)。でも目的物の引渡しとは同時履行です(633条)。
- 完成した建物の所有権は、請負人が材料の全部・主要部分を出した場合、特約がなければ完成時は請負人、引渡しで注文者。代金の全額を前払いしていたなら、特別な事情がなければ完成と同時に注文者のものになります(判例)。
家を建ててもらう代金は、いつ払う?
動画は「もし家を新築するとしたら、その工事代金って、どのタイミングで払うことになると思いますか?」という問いから始まります。契約したその日に全額、というイメージはないですよね。建物が建ってからかな、と。まさにそれです。実は、民法にそのタイミングを決めているルールがあります。
請負ってどんな契約?
今日のテーマは請負です。建物の建築を頼む契約は、請負の代表的な例です。民法632条の定義はこうです。当事者の一方が、ある仕事を完成することを約束し、相手方が、その仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束することで成立する契約。ここが請負のすべての出発点になります。
仕事を頼む側が注文者、仕事を引き受ける側が請負人です。家を建てる例なら、家を建ててほしい人が注文者、工事をする会社が請負人。試験でもこの2つの言葉がそのまま出てくるので、どちらがどちらかを必ず押さえておきましょう。
たとえば
言葉を覚えるときは、家を建ててもらう場面ごと覚えてしまうのがおすすめです。「家を建てたい人(注文者)が、工務店(請負人)に頼んで、完成した家を引き渡してもらい、代金(報酬)を払う」。この場面を土台にしておくと、あとの論点でも迷いにくくなります。
契約が成立すると、お互いにこんな義務を負います。
- 注文者:報酬を支払う義務
- 請負人:仕事を完成させ、完成したものを引き渡す義務
請負人の義務は、完成させることと引き渡すことの2つあるんですね。
よく気づきましたね。完成させただけでは終わりではなく、引き渡すところまでが請負人の仕事です。作りっぱなしはダメ、ということですね。
完成って、どこまでできたら完成なんでしょう。
建物でいえば、建物ができあがったときです。請負は仕事の完成そのものが目的の契約なので、途中まで進んでいても、目的を果たしたことにはなりません。裏を返せば、注文者は完成したものを受け取れる契約でもあります。
報酬はいつ払う?
では本題です。注文者は、いつ報酬を払えばよいのでしょうか。答えは「完成してから」です。請負は仕事の完成が目的の契約なので、注文者は、請負人が仕事を完成させるまでは報酬を払わなくてかまいません。
これを法律の言葉で表すと、仕事の完成と報酬の支払いは同時履行の関係に立たないとなります。
同時履行って、なんですか?
お互いの義務を、同じタイミングで果たしましょう、という関係です(533条)。通販の代金引換をイメージするとわかりやすいですよ。荷物を渡すのと、お金を払うのが、その場で同時に行われますよね。
配達員さんに商品と引き換えにお金を渡すやつですね。
そうです。ところが請負では、仕事の完成と報酬の支払いは同時履行にならず、完成のほうが先に来ます。これが原則です。「完成と報酬の支払いは同時履行の関係に立つ」と書いてあったら、誤りだと見抜けるようにしておいてください。
ただし、同時履行になる組み合わせもあります。それが目的物の引渡しと報酬の支払いです。民法633条も、報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならない、と定めています。
ですから、請負人が仕事を完成させたのに、まだ引き渡してくれていない場合、注文者は報酬の支払いを拒むことができます。完成はしていても、まだ渡してもらっていないなら、こちらもまだ払わない、と言えるのです。物を渡すのとお金を払うのを同時に行う関係だからです。請負人にとっては、完成しただけではまだ報酬を請求できない、というのが大事なポイントです。
たとえば
工務店が家を完成させても、鍵を渡してくれないうちは、注文者は残りの代金を払わなくてよい、ということです。鍵を受け取る(引渡し)のと、代金を払うのが、セットで行われます。
見分け方は「完成」か「引渡し」か
完成と報酬は同時履行にならなくて、引渡しと報酬は同時履行になる。似ているのに扱いが逆で、混ざりそうです。
だからこそ見分け方を持っておきましょう。問題文に出てくるのが、仕事の完成なのか、目的物の引渡しなのか。そこだけ見ます。完成なら同時履行にならない、引渡しなら同時履行になる、です。
なお、演奏や運送のように、物の引渡しを要しない仕事もあります。その場合は、仕事が終わった後でなければ、報酬を請求できません(633条ただし書、624条1項)。
完成した建物は、いつ誰のもの?
最後にもう1つ、請負でよく問われるテーマがあります。できあがった物の所有権です。「注文して作ってもらったのだから、最初から注文者のものじゃないの?」と思いますよね。ところが、そう単純ではありません。ここでは、請負人が材料の全部、または主要な部分を出した場合を見ていきます。
請負人が材料を出した場合(特約なし)
この場合、特約がない限り、完成した目的物は、いったん請負人の所有物になります(判例)。そのあと、注文者への引渡しによって、はじめて注文者の所有物になります。完成した時点では請負人のもの、引き渡された瞬間に注文者のもの、という流れです。
材料を出して、手間をかけて作ったのは請負人だから、というのがこの考え方の背景です。工務店が自分で木材を仕入れて建てた家なら、完成した家は、いったん工務店のもの、というイメージです。
ここで大事なのが「特約がない限り」という前置きです。当事者が別の取り決めをしていれば、そちらが優先されます。いま説明した流れは、当事者が何も決めていなかったときの原則です。問題文に「特約がない場合」と書いてあるかどうか、自然にチェックする習慣をつけましょう。
代金の全額が先に払われていた場合
もう1つのパターンは、完成する前に、請負代金の全額がすでに支払われていた場合です。この場合は、特別な事情がない限り、目的物は完成と同時に注文者の所有物になります(判例)。引渡しを待たずに、完成した瞬間に注文者のものです。代金を全額先払いしているという事情が、所有権が誰のものかの判断に影響するわけです。
なお、動画では扱っていませんが、材料を出したのが注文者のほうなら、完成した物は、はじめから注文者のものになると考えられています。材料を誰が出したのかが、大切な目印です。
「いつ払う」と「いつ誰のもの」は別の質問
はじめて学ぶ人がつまずきやすいのは、所有権が移るタイミングと、報酬を払うタイミングをごちゃ混ぜにしてしまうところです。どちらの話にも「引渡し」が出てきますからね。報酬の話は「いつ払うか」、所有権の話は「いつ誰のものか」。問われているものが別だと意識して、読み分けてください。
問題文を読むときは、まず何の話かを見分けるんですね。報酬なら「完成か引渡しか」、所有権なら「材料」と「代金の払い方」を見る、と。
そのとおりです。今日は、家を建てる場面を思い浮かべながら聞くと、イメージしやすかったと思います。
まとめ
- 請負は、仕事を完成させること(請負人)と、その結果に報酬を払うこと(注文者)を約束する契約。請負人の義務は「完成」と「引渡し」の2つ
- 報酬は、仕事の完成が先で、完成とは同時履行にならない。目的物の引渡しとは同時履行で、引渡しがなければ支払いを拒める
- 請負人が材料の全部・主要部分を出した場合、特約がなければ、完成時は請負人のもの、引渡しで注文者のもの
- ただし、代金の全額が前払いされていたときは、特別な事情がなければ、完成と同時に注文者のもの
試験ではここに注目
- 請負は仕事の完成が目的。注文者は、請負人が完成させるまで報酬を払わなくてよい
- 仕事の完成と報酬の支払いは同時履行の関係に立たない。目的物の引渡しと報酬の支払いは同時履行の関係に立つ(633条)
- 「完成」と「引渡し」の言葉を入れ替えたひっかけに注意
- 請負人が材料の全部または主要な部分を提供したとき、特約がなければ、完成時は請負人の所有、引渡しで注文者の所有になる
- 代金の全額が完成前に支払われていたときは、特別な事情がなければ完成と同時に注文者の所有になる
- 問題文の「特約」「材料を出した人」「代金の払い方」の3点を必ず確認する

