多角化の分類と、妥当性・留意点をセットで書く型
事例Ⅰ 第6回
「多角化って、1次のときに関連型と非関連型っていう分け方、勉強しましたよね」。動画は、こんな問いかけから始まります。このページでは、多角化の問われ方、与件文のサイン、シナジーの言語化と留意点、実現可能性の4視点、答案の型、混同しやすい誤答を、動画の流れにそってまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
用語は知っているのに、与件文で使えない
動画は、多角化の「関連型と非関連型」という分け方から入ります。1次試験のときに勉強した知識です。ところが、事例Ⅰの与件文に「新事業に進出した」という記述が出てきたとき、それが関連型なのか非関連型なのか、そもそも妥当なのかを、パッと判断できるでしょうか。講師がそう問いかけると、聞き手は「用語は知っているのに、与件文のどこを見て関連型だと判断すればいいのか、そこがつかめていない」と答えます。
この回のテーマは、まさにそこです。講師の言葉でいえば、「知識はあるのに現場で使えない」というところを埋めていく。与件文のどこを見て、どう仕分けて、どう答案に落とすか、という手順まで一緒に確認していきます。
用語は知っているのに、与件文のどこを見ればいいのかが、あやふやなんです。
そこなんですよね。知識を、与件文を読む手つきに変えていく。今日はそれをやります。
多角化は、なぜ難しい戦略なのか
講師によると、多角化は中小企業の事例では一番難易度が高い戦略として扱われます。理由は、新しい市場に新しい商品を出す、つまり自社にとって未知の領域が二重に重なるからです。
だから設問も、「無条件にやるべき」という答えを求めてきません。「妥当か」「やるならどこに気をつけるか」を問う形になりやすいのです。聞き手が気づいたとおり、多角化を勧める答案を書くにしても、手放しで賛成してはいけません。
難しい戦略だから、勧めるにしても「ただし〜」が要る、ということですね。
その通りです。賛成か反対かではなく、条件をつけて評価する。これがこの論点の基本姿勢です。
この回の基本姿勢
- 多角化は、未知の領域が二重に重なる、難易度の高い戦略
- 無条件の賛成でも、無条件の反対でもない
- 「妥当か」「どこに気をつけるか」を、条件つきで評価する
多角化の4つの問われ方
では、この論点はどんな形で問われるのか。講師が挙げたパターンは4つです。
| 問われ方 | 場面 |
|---|---|
| 妥当性・留意点 | 既存事業が停滞し、新事業に乗り出す |
| 理由・狙い | 新事業に進出した理由そのもの |
| 成長戦略の助言 | 複数の事業を持つ企業の今後 |
| 問題点 | 手を広げた結果、業績が落ちている |
4つ目は、進出する場面ではなく、すでに手を広げた結果として業績が落ちている企業の問題点を問うパターンです。
進出する場面だけじゃなくて、広げすぎて失敗している場面でも出るんですね。
そうです。どのパターンでも共通しているのは、無条件の賛成でも無条件の反対でもなく、条件つきで評価する視点が求められるということです。
与件文のサインで、関連型か非関連型かを見分ける
次は、与件文のどこを見れば関連型か非関連型か判断できるのか、です。講師が示した判断軸はシンプルで、既存事業と何かを共有できているかどうか。この軸で、サインを拾っていきます。
関連型と判断できるサインは、次のような記述です。
- 既存事業と開発技術や生産技術が共通している
- 製品の用途が近い、同じ顧客層に売れる、同じ流通経路が使える
- 管理のノウハウや営業の仕組み、ブランドが流用できる
- 「これまで培ってきた何かを活かして」という言い回し
逆に、非関連型を疑うサインは3つあります。既存事業とのつながりが資金と一般的な経営管理の能力しか見当たらない記述。まったくの異業種への進出で、技術も顧客も流通も別という記述。そして、外部の企業や人材に頼らないと事業が成り立たない記述です。
「培ってきた技術を活かして」みたいな一文が出たら、関連型のサインだと反応すればいいんですね。
そうです。逆に、共有できるものがお金と経営管理能力しかないなら、非関連型を疑います。
情報整理の手順は5段階
サインを拾えたら、次は情報の整理の仕方です。講師の整理を一枚にまとめると、こうなります。
最初の一歩は、共有できる資源の有無で関連型か非関連型かを判定することです。ここは、さきほどのサインで判断します。問題は、関連型だと判断したあとです。講師は「次にやることが重要」と言います。
関連型なら「シナジーがある」で終わらせない
関連型と判断したら、「シナジーがある」というだけで済ませてはいけません。それだけでは根拠が薄い答案になります。
あ、私それやりがちです。シナジーがあるから収益性が上がる、で終わっちゃいます。
そこが差がつくところです。シナジーの中身を、具体的に一つずつ言語化してください。
講師が挙げた言語化の例は、技術が使える、顧客が重なる、販路が使える、ブランドが通用する、というものです。何が共有されているのかを言葉にして、初めて根拠になる、というのが講師の説明です。
| 書き方 | 中身 |
|---|---|
| 弱い | 「シナジーがある」だけ |
| 根拠になる | 技術・顧客・販路・ブランドのどれが共有か |
留意点は、型ごとに必ず一つ用意する
シナジーを書いたら、次に必ず用意するのが留意点です。関連型と非関連型で、書く留意点が違います。
| 型 | 留意点 |
|---|---|
| 関連型 | 主力事業の市場で自社の他事業と競合し、かえって収益性が落ちる恐れ |
| 非関連型 | シナジーがないため、外部資源の活用が不可欠 |
関連型でも非関連型でも、それぞれ違う留意点を一つ持っておく、ということですね。
はい。関連型は近いからこその競合、非関連型は共有できるものがないからこその外部頼み。それぞれ書けるようにしておきます。
実現可能性は4つの視点で、裏づけのある項目だけ
さらにもう一段、実現可能性という視点も外せません。講師が示した4つの視点は、資金、人材とノウハウ、顧客、そして仕入れや競争優位です。
- 資金:投資する資金があるか、返済が可能か
- 人材とノウハウ:担う人材がいるか、そのノウハウがあるか
- 顧客:新事業の顧客をつかめるか
- 仕入れ・競争優位:仕入先が確保できるか、自社の中核的な強みが活きる領域か
4つ全部を無理に埋めようとするんじゃなくて、与件文に根拠がある項目だけ拾う、ということですね。
そうです。与件文に裏づけがある項目だけを拾います。ない項目を想像で埋めないことが大切です。
「なぜやるのか」の視点:中小企業なら停滞への対応を疑う
「なぜやるのか」という視点も大事だ、と聞き手が尋ねました。講師の答えは、理由づけにはパターンがある、というものです。
| 理由づけ | どんな企業に多いか |
|---|---|
| 既存ビジネスの停滞への対応 | 中小企業で多いパターン |
| 人・物・お金に余裕がある | どちらかというと大企業 |
| 既存の強みが活きる | 理由づけとしてもちろんある |
中小企業の与件文なら、まず停滞への対応という理由を疑ってみる、ということですね。
そうです。既存事業の停滞への対応として、成長分野に進出する。この理由づけが、中小企業では多いパターンです。
答案への落とし込み:妥当性を問われたら
ここからは、解答への落とし込み方です。まず、妥当性や理由を問われた場合の型を見ます。
「妥当である。」と結論を先に書き、既存事業で培った技術と顧客基盤を新事業に活用でき、シナジーにより収益性を高められるため、と理由を続けます。そして最後に、「ただし何々には留意する」と添える。妥当性を認めるだけで終わらせず、必ず留意点をセットで書く。講師は、これが型の核心だと言います。
(補足:動画にない、自作の例です。与件文に「創業以来培ってきた金属加工の技術を活かし、医療機器部品に進出した」とあったとします。この場合は「妥当である。金属加工の技術を新事業に活用でき、シナジーにより収益性を高められるため。ただし、既存事業と市場が重なる場合は自社事業間の競合に留意する。」のように、型に与件文の語を入れていきます。)
最後の「ただし何々には留意する」の部分に、さっきの留意点を入れるんですね。
その通りです。型の中で留意点が使えるように、先に用意しておくわけです。
留意点を問われたら:押さえたい3つのキーワード
留意点を直接問われた場合の型は、3つの組み立てです。既存の主力事業と顧客や市場が重なる場合は、自社事業間の競合に留意する。担う人材とノウハウを確保する。段階的に投資し、既存事業の資源を圧迫しない。
押さえたいキーワード
- 競争回避
- 段階的に
- 強みを生かす
- シナジー効果
「段階的に」っていうのは、キーワードとして押さえておくべきですか。
はい。特に中小企業の助言では、既存顧客との関係は維持しながら段階的に、という組み立てが安全です。
一気に全部を新事業に振るんじゃなくて、既存を守りながら少しずつ広げるイメージですね。
そのイメージで大丈夫です。
混同・誤答しやすい6つのポイント
最後に、講師が整理した混同・誤答しやすいポイントです。順に見ていきます。
| ミス | どう直すか |
|---|---|
| 多角化を無条件に推奨する | 最も難しい戦略という前提を置き、留意点を書く |
| 関連型なのに「シナジーがある」だけ | 何が共有できるかを具体化する |
| 関連型の落とし穴を知らない | 自社事業同士の競合リスクを書く |
| 非関連型を無理に肯定する | 基本的に慎重に評価する |
| 多角化と新市場開拓の混同 | 商品が新しいかどうかで分ける |
| 社内ベンチャーや事業部制の話に流れる | 設問が問う側で答える |
1つ目は、多角化を無条件に推奨してしまうミスです。難易度が最も高い戦略という前提を落とすと、留意点を書かない浅い答案になります。2つ目は、関連型なのに「シナジーがある」としか書かないミスで、何が共有できるのかを具体化する必要があります。
3つ目は、関連型の落とし穴を知らないミスです。主力事業に近い領域に広げると、自社の事業同士が同じ市場で競合し、収益性が下がる恐れがある。講師は、この一言が書けると差がつくと言います。
関連型は良いことばかりじゃなくて、近すぎるからこその競合リスクがある、ということですね。
そうです。近いことが強みであり、同時にリスクでもあります。
4つ目は、非関連型を無理に肯定してしまうミスです。中小企業が経営資源に余裕なく異業種に出るのは、基本的に慎重に評価すべきだと講師は言います。
5つ目が、多角化と新市場開拓の混同です。既存の商品を新しい顧客層に売るのは新市場開拓で、新商品を新市場に出すのが多角化です。
あ、これ紛らわしいです。商品が同じで顧客だけ広げるなら新市場開拓、商品も顧客も新しいなら多角化、という違いですね。
その通りです。商品が新しいかどうかが分かれ目になります。
6つ目は、社内ベンチャーや事業部制の話に流れてしまうミスです。組織の話と戦略の話を混ぜず、設問が問うている側で答えることが大事です。多角化そのものの妥当性を聞かれているのに、組織体制の話にすり替えない、と聞き手も確認していました。
試験ではここに注目
- 与件文に、共有できる資源(技術・顧客・販路・ブランド)の記述があるか
- 設問は妥当性か、留意点か、理由か、問題点か
- 答案に、シナジーの具体化と留意点がセットで入っているか
- 多角化の話をしているか(新市場開拓や組織の話にすり替えていないか)
まとめ
動画の整理
- 多角化は中小企業の事例で難易度が高い戦略。「妥当か」「どこに気をつけるか」を条件つきで評価する
- 問われ方は4つ:妥当性・留意点、理由・狙い、成長戦略の助言、業績低下の問題点
- 関連型か非関連型かは、共有できる資源の有無で判定する。与件文のサインを拾う
- 関連型なら、シナジーの中身を具体的に言語化する。型ごとの留意点も一つ用意する
- 実現可能性の4視点と「なぜやるのか」は、与件文の裏づけがある範囲で確認する
- 妥当性を問われても留意点を問われても、必ず留意点をセットで書く
動画の終わりで、聞き手は「用語は知っていても、与件文のどこを見て、どう仕分けて、どう答案に落とすか、その手順まで分かっていなかった」と話しています。講師は、そこが二次試験の核心だと答えました。知識を、与件文を読む手つきに変えていく。この手順を、本番で思い出してください。
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