サービスの一般的特質と対応(1)
事例Ⅱ 第10回
「与件文を読んでいて、この会社はモノを売っていないな、と気づいた瞬間に、頭の中の引き出しは切り替わっていますか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは、形がないこと、貯めておけないこと、作るのと使うのが同時に起きることの三つの性質について、出題の出方、与件文のサイン、整理の三段階、答案の型、やりがちな間違いを、動画の流れにそってまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
モノを売っていない、と気づけるか
動画は講師の問いかけから始まります。「与件文を読んでいて、この会社はモノを売っていないな、と気づいた瞬間に、頭の中の引き出しは切り替わっていますか」。聞き手は少し考えて、「切り替わっていない気がします。飲食店でも美容室でも、同じ読み方をしていました」と正直に答えます。
講師によると、モノを作って売る会社とは、問題の起き方そのものが違います。今日扱うのは、サービス業の性質のうち前半の三つです。
- 形がないこと(無形性)
- 貯めておけないこと(非貯蔵性。消滅性とも呼ばれる)
- 作るのと使うのが同時に起きること(不可分性)
名前だけなら、聞き手も知っています。ただ、答案に「無形性だから」と書いた記憶はないとのこと。そこで講師が示すのが、この動画の出発点です。
名前は知っています。でも、答案に無形性だから、なんて書いた記憶がないんですよね。
実は、名前そのものを書くことは、ほとんど求められていません。求められているのは、その性質があるせいで何が起きているかを踏まえた助言なんです。
用語を覚えているだけでは足りない、ということですね。
つまり、用語を暗記する話ではなく、その性質のせいで何が起きているのかを与件文から読み取り、助言に生かす話です。このページでは、出題の出方、与件文のサイン、整理の三段階、答案の型、やりがちな間違い、本番のチェックポイントの順に、動画の流れにそってまとめます。
どんな形で出るか:舞台は事例Ⅱ
まず、この論点がどんな形で出てくるかです。舞台になりやすいのは事例Ⅱ、マーケティングと流通の事例です。
題材は、やっぱり飲食店みたいなお店が多いんですか。
飲食店、宿泊業、美容業、教育サービス、それに士業。モノを作らずにサービスを提供する業態が、繰り返し題材になります。
業種を見た時点で身構えられそうですね。
出方は大きく二つあります。
- 正面から聞くパターン:「サービス業特有の課題を踏まえて助言せよ」というように、性質そのものを聞いてきます。聞き手は「これは気づかない方が難しそうですね」と言っていました。
- 一見ふつうのマーケティング施策に見えるパターン:「新規顧客の獲得のために何をすべきか」といった聞き方です。
講師が「問題はもう一つの方です」と言うのは、後者です。聞き手も「それだと私、性質を忘れて施策だけ書いてしまいそうです」と認めます。講師は「多くの人がそうなります」と受けたうえで、その裏にはサービスだからこそ起きている問題が隠れている、と指摘します。具体的には、品質が事前に分からない、需給の調整が難しいといった問題です。
そこを踏まえないと、筋の通らない解答になりますね。
そうです。施策の当てずっぽうになってしまう。サービスだからこそ生じる問題を土台に、助言を組み立てられるかどうかが問われています。
土台、ですね。そこを外すと全部ずれるわけか。
着眼点:与件文のサイン三つ
では、その土台に気づくための着眼点です。与件文のどんな一文が出たら反応するのかを、三つに分けて見ていきます。
一つ目は、形がないこと(無形性)のサインです。品質が伝わりにくい、口コミに頼っている、体験してもらう機会が少ない、サービス内容が顧客に理解されていない。こうした記述が出たら反応します。聞き手は「並べてみると、どれも伝わっていないという話ですね」とまとめ、講師は「いい要約です」と応じました。買う前に中身を確かめられない、という一点でつながっているのです。
動画のたとえ:アプリの無料版
スマホのアプリを課金する前に、まず無料版で試したくなる感覚に近い、と講師は言います。中身を知らないままいきなり有料版は押せない。その押せなさが、そのまま顧客の不安です。
二つ目は、貯めておけないこと(非貯蔵性)のサインです。予約が偏る、繁閑の差が大きい、稼働率が低い時間帯がある、席や枠が余る、あるいは足りない。需給がかみ合っていない記述が目印になります。
美容室の空いた一時間って、明日に取っておけないですもんね。
それです。その一言が出てくれば、この論点はもう自分のものです。
三つ目は、作るのと使うのが同時に起きること(不可分性)のサインです。提供者、つまりスタッフの技量に依存する、その場でしかサービスを受けられない、顧客と接する時間そのものが商品になっている。こうした記述です。
習い事のレッスンみたいに、先生と自分が同じ時間にいないと成立しない、という感じですか。
まさにその構造です。作る側と使う側が切り離せない。だから、試作品も在庫も存在しないんです。
気づいた後の整理:仕分けと三段階
聞き手が次に尋ねたのは、気づいた後にどう整理していけばいいか、です。講師の出発点はシンプルで、課題らしき記述を見つけたら、まずモノの性質に近いのか、サービスの性質に近いのかで仕分けます。そこからが三段階です。
整理の三段階
- 一段目:その記述は、無形性・非貯蔵性・不可分性のどれに当たるか
- 二段目:なぜそれが問題を生んでいるのか
- 三段目:与件文に、その会社がすでに打っている対応策が書かれていないかを拾う
二段目では、同じ「困っている」でも原因が三種類あることを区別します。顧客が事前に品質を判断できないのか、需給のミスマッチが起きているのか、提供者の質がそのままサービスの質になっているのか。講師は、ここを区別できるかどうかが分かれ目だと言います。
| 性質 | 覚え方 | 問題の中身 |
|---|---|---|
| 無形性 | 形がない | 顧客が事前に品質を判断できない |
| 非貯蔵性 | 貯めておけない | 需給のミス |
| 不可分性 | 作るのと使うのが同時 | 提供者の質=サービスの質 |
三段目の「すでに打っている対応策」とは、体験会をやっている、予約制度がある、マニュアルを作った、といった記述です。聞き手が「何のために拾うのですか」と尋ねると、講師はこう答えます。
すでにやっていることを拾うのは、何のためですか。
設問が課題を聞いているのか、対応策を聞いているのか、効果を聞いているのかで、使う場所が変わるからです。すでに手を打っているなら、それを強化する方向で書けます。
三段階で整理すれば、どの聞かれ方にも対応できますね。
答案の型:問題点、対応策、効果
答案の基本は、性質に起因する問題点、対応策、効果の順に圧縮して書くことです。聞き手が「三点セットを一本につなげるイメージですか」と確かめると、講師は「そうです」と答えます。無形性なら、「品質を事前に把握できないため、体験の機会や情報発信で見えるようにして、購買前の不安を解消し新規顧客の獲得につなげる」という並びです。
対応策の語彙は、性質ごとに事前にストックしておくと速い、と講師は勧めます。動画で挙がったものを整理します。
- 無形性(見えるようにする施策):無料体験のキャンペーン、顧客紹介の制度、口コミの公開、ホームページやSNSでサービスの風景やイメージ映像を載せる
- 非貯蔵性(タイミングの調整):予約制、繁閑に応じて価格を変える、稼働率の平準化、オンラインでの予約受付、混んでいる時間と空いている時間を顧客に公開する、店舗間で情報を共有して繁閑を吸収する、振替の制度を用意する、必要なときに補講を出す
- 不可分性:標準化、マニュアル化、事前の情報提供。加えて、提供する内容を繁閑に合わせて変える、決まった型で回す時間と個別に合わせる時間を使い分ける
空いている時間を教えるのは、こちらから需要をずらしにいく感じですか。
その通りです。ほかにも、店舗の間で情報を共有して繁閑を吸収する、振替の制度を用意する、必要なときに補講を出す、といった手も同じ発想です。
なるほど、全部タイミングの調整なんですね。
もう一つ、字数配分についての大事な指摘があります。性質の名前そのものよりも、なぜその対応策が有効なのかという理由づけに文字数を割く、という点です。
無形性のため、と書いただけで満足しない、ということですね。
はい。名前は数文字で済ませて、残りを因果関係に使う。読み手に効いてくるのは、そのつながりの方です。
答案の書き方(動画の整理)
- 性質の名前は数文字で済ませる
- 問題点、対応策、効果を一本につなげる
- 残りの字数は、なぜその対応策が有効かという因果関係に使う
やりがちな間違い三つ
聞き手の希望で、やりがちな間違いも挙がります。講師は三つ挙げました。
一つ目は、形がないことと、提供者によって品質がばらつくことの混同です。聞き手は「どちらも品質が読めない、という話に見えます」と戸惑います。講師は、困っている中身が違うと説明します。前者は、見えない、事前に把握できないことが問題。後者は、人によって品質がばらついてしまうことが問題です。
原因が違えば、打つ手も変わります。見えないことへの対応は可視化と体験、ばらつきへの対応は標準化とマニュアル化です。ここを取り違えると、助言が的外れになります。
二つ目は、貯めておけないことを、ふつうのモノの在庫管理の話にしてしまう誤りです。聞き手も「在庫の話、つい書いてしまいそうです」と言っていました。講師によると、モノなら倉庫に置いておけますが、サービスは物理的に貯蔵できません。本質はそこなので、対応は在庫の持ち方ではなく、需給のタイミングを調整することが中心になります。予約制と、価格を変えること、が代表です。
三つ目は、作るのと使うのが同時だという話を、「対面でないと売れない」程度に小さくしてしまうことです。聞き手は「まさにその理解で止まっていました」と打ち明けます。
同時に起きるからこそ、品質の確認が事後にしかできない。そして提供者への依存度が高くなる。この構造まで理解しておくと、書ける助言の幅が変わります。
事後にしか確認できないというのは、なかなか怖いですね。
| 誤り | どこがずれるか | 正しくは |
|---|---|---|
| 無形性と | 困りごとが別 | 可視化・体験 |
| 非貯蔵性を | 物理的に | 需給の |
| 不可分性を | 理解が小さい | 事後確認・ |
本番のチェックポイント
最後に、講師は本番で使うチェックポイントを三手順にまとめます。サービス業の事例だと分かったら、次の順で進めます。
本番での三手順
- 課題らしき記述を見つけるたびに、三つのどれに当たるかを決める(形がない/貯めておけない/同時に起きる)
- なぜそれが問題なのかを一言で言えるようにする(事前に判断できない/需給がずれている/提供者に依存している)
- 答案は問題点、対応策、効果の順に並べ、理由づけへ字数を寄せる
聞き手はこれを「用語を思い出す作業ではなくて、原因を特定する作業なんですね」と受け止めました。講師は、そこが今日いちばん持ち帰ってほしいところだと言います。この三手順を持っていけば、初見の事例でも手が止まりません。
試験ではここに注目(動画の整理)
- 与件文が「モノを売っていない」会社かどうか(事例Ⅱの飲食・宿泊・美容・教育・士業など)
- 課題の記述が、三つの性質のどれのサインか
- 答案が、問題点・対応策・効果の順で、理由づけに字数を使っているか
まとめ
動画の整理
- サービス業の性質のうち、今回は前半の三つ:形がない(無形性)、貯めておけない(非貯蔵性)、作るのと使うのが同時(不可分性)
- 名前を書くことは、ほとんど求められていない。求められるのは、その性質のせいで何が起きているかを踏まえた助言
- 出方は二つ。性質を正面から聞く形と、新規顧客の獲得など一見ふつうの施策を聞く形。後者の裏には、品質が事前に分からない、需給の調整が難しいといった問題が隠れている
- 整理は、モノかサービスかの仕分けのあと、どの性質か、なぜ問題か、すでにある対応策、の三段階
- 答案は、問題点、対応策、効果の順に圧縮し、理由づけに字数を寄せる
- 間違いは三つ:無形性とばらつきの混同、非貯蔵性を在庫管理にすること、不可分性を対面販売の話に小さくすること
動画の終わりで、講師は「サービスの性質はこの三つだけではありません」と予告します。次回は、取引が元に戻せないこと、需要が特定の時期に集中すること、品質にばらつきが出ること、人手に頼る度合いが高いこと、の四つです。今日の三つと合わせて七つ。そろえば、サービス業の事例で読み落とす場所はかなり減る、と講師は言います。聞き手も「楽しみにしています」と応えていました。
動画で聞く
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