予算制約・需要曲線
経済学・経済政策 第2回
「私たちは毎日何かを買うとき、必ず無意識のうちにある計算をしていますよね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、予算制約線と最適点、企業の最適投入点、価格効果と需要曲線の関係をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
お弁当とお茶を選ぶとき、頭の中で何が起きている?
動画は、毎日の買い物から始まります。コンビニで手持ちの数百円を前に、お弁当とお茶をどう組み合わせれば一番満足できるかを、私たちは無意識に天秤にかけています。この脳内計算をグラフと理論で見えるようにするのが、今回のテーマです。
動画は「限られた条件の中でいかにベストな選択をするか」が経済学の根にある発想だと語り、終盤の総括で3つの概念を挙げます。
- 最適点:予算制約線と無差別曲線が接するところ(消費者の選択)。
- 最適投入点:同じ構造を企業に当てはめた、等量曲線と等費用線の接点。
- 価格効果:価格が下がって予算制約線が広がり、最適点が動くこと。ここから需要曲線が導かれる。
冒頭で挙げられる3つの概念は、音声から確実には聞き取れませんでした。このページは、終盤の総括で述べられる上の3つに沿ってまとめます。
予算制約線:お財布の限界をグラフにする
動画ではまず、これまでに学んだ無差別曲線(同じ満足度になる2財の組み合わせを結んだ曲線)に触れます。ただし、好みだけでは商品は買えません。現実にはお財布の上限があります。そこで登場するのが予算制約線です。予算の範囲内で最大限買える2つの商品の組み合わせを表した直線のことです。
聞き手が自分のランチで例を出します。予算は1000円、商品は200円のコーヒー(X財)と500円のサンドイッチ(Y財)。講師は、この計算がそのまま方程式の正体だと説明します。予算をM、価格をPX・PYと置くと、予算を使い切る買い物は次の式です。
予算制約式
PX×x+PY×y=M(Xの値段×個数+Yの値段×個数=予算)
例:200×x+500×y=1000
動画は、この式をグラフに落とし込めるかが試験で大事だと強調します。横軸にX財、縦軸にY財を取ります。
- X切片(横軸との交点):予算を全部X財に使った量で M/PX。例では1000÷200=5杯。
- Y切片(縦軸との交点):全部Y財に使った量で M/PY。例では1000÷500=2個。
- 傾き:−PX/PY。例では−200÷500=−0.4。
傾きにマイナスが付く理由は、聞き手が「予算が限られている中でコーヒーを増やすなら、サンドイッチを減らさなければならない(トレードオフ)からですね」と言い、講師が「完璧な理解です」と応じます。講師は、この傾きが市場における2つの商品の交換比率を表すとも説明します。例なら、コーヒーを1杯増やすと、サンドイッチは0.4個ぶん減る関係です。
なるほど。単にXの値段と個数をかけたものと、Yの値段と個数をかけたものを足したら、手持ちの予算になりました、という当たり前の事実を式にしただけなんですね。これなら試験本番で式を見ても戸惑わずに済みそうです。
その認識で十分です。さらに重要なのは、この式を頭の中でパッとグラフに落とし込めるかどうかです。
(補足:動画にない話です。グラフ上の点は、1.5杯のように量を細かく分けられる前提です。例の1000円を整数の個数で使い切れる組み合わせは、コーヒー5杯とサンドイッチ0個、またはコーヒー0杯とサンドイッチ2個の2通りだけです。コーヒー2杯とサンドイッチ1個なら900円で、100円が残ります。また、直線の内側も買えますが、多いほど好ましいという前提なら、予算を使い切る直線上の点が選ばれます。)
最適点:無差別曲線とぴったり接するところ
次に、個人の好みを表す無差別曲線を、予算制約線と同じグラフに重ねます。聞き手が「原点に向かってぽっこり出っ張った曲線ですね」と確認し、講師は、右上にいくほど満足度が高いが、予算制約線の外側(予算オーバー)は選べないと説明します。そこで、直線の予算制約線と原点に凸の無差別曲線がちょうど1点で接するときに、満足度(効用)が最大になります。動画はこの接点を最適点と呼びます。
(補足:動画にない話です。なぜ「接する」ところが最適なのかは、こう考えると分かります。無差別曲線が予算制約線と2点で交わっているなら、直線に沿って少し動けば、もっと右上の無差別曲線に乗れます。それ以上は動けなくなる、ちょうど接する点が最適です。)
(補足:動画にない話です。最適点では、無差別曲線の傾きの大きさ(限界代替率)が価格の比 PX/PY に等しくなる、と整理されます。接するとは、傾きが等しいという意味です。ただし2財をどちらも買う場合の話で、片方しか買わない角の解もあります。)
企業にも同じ形があてはまる
診断士試験では、消費者だけでなく企業の行動も分析します。講師は、消費者モデルの構造がそのまま企業モデルに応用できると言います。登場するのは等量曲線(動画では別名として等産出量曲線とも)と等費用線です。
- 横軸は労働(人の手)、縦軸は資本(機械や設備)。
- 等量曲線:同じ生産量になる労働と資本の組み合わせを結んだ曲線。
- 等費用線:同じコストで賄える労働量と資本量を結んだ直線。
- 企業の課題は、ある生産量を最小の費用で達成すること。原点に凸の等量曲線に等費用線が接するとき費用が最小になり、動画はその接点を最適投入点と呼びます。
動画は、個人の満足度の最大化と企業の費用の最小化が、同じ「グラフの接点」というアプローチで解けると述べ、これで頭の中の引き出しが整理されたと語ります。消費者でも企業でも「制約の直線に、好みや技術の曲線がちょうど接するところを選ぶ」という見方は共通です。
(補足:動画にない話です。等費用線は、賃金をw、資本の使用料をrとすると「w×労働量+r×資本量=費用」と書け、傾きは−w/rです。費用最小のところでは、等量曲線の傾き(技術的限界代替率)が要素価格の比に等しくなる、と整理されます。記号や「最適投入点」の呼び方は資料により異なります。)
動画は、2つのモデルを別々に暗記せず、対応させて覚えるテクニックを紹介します。聞き手が「無差別曲線は等量曲線に、予算制約線は等費用線に、最適消費は最適投入点に対応するのですね」と言い、講師が「その通りです」と答えます。
| 項目 | 消費者 | 企業 |
|---|---|---|
| 2つの軸 | X財・Y財 | 労働・資本 |
| 曲線 | 無差別曲線 | 等量曲線 |
| 直線 | 予算制約線 | 等費用線 |
| 目的 | 満足度を最大に | 費用を最小に |
| 接点 | 最適点 | 最適投入 |
価格効果:価格が下がると最適点が動く
ここからは消費者に戻ります。これまでは価格が固定の前提でした。もしX財の価格 PX が、PX1からPX2、PX3と下がったらどうなるでしょう。Y財の価格は変わらないので、Y切片は動きません。一方、X切片は M/PX なので、価格が下がるほど右へ動きます。講師は固定された縦軸を「ドアの蝶番」にたとえ、聞き手は「扇を広げるように」と言い換えます。縦軸を蝶番にして、予算制約線が右へ広がるわけです。
ためしに計算(自作の設例)
予算1200円、X財300円、Y財400円なら、X切片は1200÷300=4、Y切片は1200÷400=3、傾きは−300÷400=−0.75です。X財が150円に下がると、X切片は1200÷150=8に動き、傾きは−150÷400=−0.375とゆるやかになります。Y切片は3のままです。
講師は「実質的な予算が増えたとも考えられる」と述べ、聞き手は「給料が増えたわけではないのに、商品が安くなったおかげで予算が増えたのと同じ効果があるのですね」と受け止めます。予算制約線が広がるのに伴って最適点も右方向へシフトします。このように、ある財の価格の変化に伴って最適点が変わることを価格効果と呼びます。
最適点をつなぐと需要曲線になる
講師は「ここからが一番面白いところ」と言い、縦軸を価格 PX、横軸を消費量 x に取り直します。価格がPX1、PX2、PX3と下がると消費量はx1、x2、x3と増えました。点をつなぐと右下がりの曲線、つまり需要曲線になります。
(補足:自作の設例です。効用がU=x×yで表せるとすると、最適点は x=M/(2PX)、y=M/(2PY) になります。M=1000、PY=500なら、yは常に1です。PXが250円、200円、125円、100円と下がると、xは2、2.5、4、5と増えます。上の図はこの数値を使っています。)
聞き手は、需要曲線が右下がりになるのは「安売りしたらみんな買う」という経験ではなく、予算制約の広がりと満足度最大化の結果として導かれたものだったのですね、と受け止め、講師も「ええ、違うんです」と応じます。聞き手は「単なる暗記になりがちだった成り立ちが腑に落ちた」とも話します。
(補足:動画の単純化の訂正です。動画の流れは、価格が下がると消費量が増える通常のケースを前提にしています。価格効果は、実質所得の変化による所得効果と、割安になった財へ乗りかえる代替効果に分けて考えるのが標準的で、動画の「実質的な予算が増えた」は所得効果にあたります。所得が増えると需要が減る財(下級財)があり、その中でも所得効果が代替効果を上回る極端な場合(ギッフェン財)は、需要曲線が右下がりになりません。動画はこの例外には触れていません。)
理論の先にある、現実の泥臭さ
動画の最後に、講師は問いを投げかけます。ここまでは人も企業も完全に合理的に計算して、常にベストな点を選ぶ前提でした。しかし新商品の価格設定を任されたり、人手不足の中で機械化を進めるか悩んだりするとき、人も市場も常にグラフ通りに動くでしょうか。
この美しく合理的なモデルに、人間の感情というノイズが混ざったとき、接点や曲線のシフトのイメージを、ビジネスの現場でどう応用できるでしょうか。
確かに、私たちはいつも完璧な計算をして買い物をしているわけではありません。高級ブランドのバッグは、値段が高くても買ってしまったりします。
聞き手が挙げた高級ブランドの例は、動画の中では深掘りされません。(補足:価格が高いこと自体が魅力(見せびらかし・地位)になり、値上げで需要が増える財をヴェブレン財と呼びます。所得が高いほど需要が増える上級財で、所得が低いほど需要が増える下級財であるギッフェン財とは別物です。どちらも、需要曲線が右下がりという結論の例外にあたります。この結論は、「他の条件を一定として」合理的に選ぶ場合の話、という位置づけです。)
動画の結びは、理論をただの試験勉強で終わらせず、現実の課題に重ねて考えてほしい、というものでした。理論通りにいかない現実に対処するためにも、まず理論の骨組みを知っておくことが土台になる、という趣旨です。
まとめ
この動画のポイント
- 予算制約線はPX×x+PY×y=M。切片は M/PX と M/PY、傾きは−PX/PY(2財の交換比率)。
- 最適点は、予算制約線と原点に凸の無差別曲線が接するところ(動画の整理)。
- 企業では等量曲線と等費用線の接点が最適投入点。消費者モデルと対応させて覚える(動画の整理)。
- 価格が下がるとY切片は固定のままX切片が右へ動き、最適点が移る(価格効果)。
- 価格ごとの最適点の消費量を結ぶと、右下がりの需要曲線になる。ただし動画は通常のケースの説明で、例外(ギッフェン財)には触れていない。
どれも「限られた条件の中でベストを選ぶ、条件が変わればベストも動く」という1つのロジックでつながっています。問題を見たら、グラフがどうシフトして接点がどう動くかを頭の中で描いてみてください。

