収穫逓減・利潤最大化
経済学・経済政策 第7回
「経済学の学習を進めていると、数式やグラフが連続する部分でふっと手が止まってしまうことってありますよね」。動画はこんな語りかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、生産関数、平均生産性と限界生産性、収穫逓減、利潤最大化条件(P×F′(L)=W)をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
平均と限界、2つの生産性
動画は、数式やグラフが続くミクロ経済学で手が止まってしまう人への呼びかけから始まります。今回の題材は生産関数。その中でも、生産性の観点から企業の利潤最大化条件を導きます。動画では、費用の観点からのアプローチもあるが、今回は生産性にしぼる、と説明されています。
まず記号です。生産に必要な労働時間や設備などを生産要素といい、その投入量をLとします。動画のたとえはカフェです。スタッフの労働時間がL、その時間で提供できたコーヒーの杯数が生産量F(L)。F(L)は、Lを入れたら生産量が出てくる「変換ルール」だと説明されます。
ここで大事な2つの指標が出てきます。
- 平均生産性:F(L)÷L。動画の例では、10時間の労働でコーヒー100杯なら100÷10=10、つまり1時間あたり平均10杯。全体の成績表のような指標です。
- 限界生産性:F(L)をLで微分したF′(L)。今から労働時間をあと1時間増やしたら、コーヒーが追加で何杯増えるか、という指標です。
グラフでは、平均生産性は原点からその点へ引いた直線の傾き、限界生産性はその点での接線の傾きです。動画は、振り返りには平均生産性が便利だが、これからどうするかを決める経営判断には限界生産性が大事だと言います。勉強にたとえて、これまでの総勉強時間あたりの平均点が平均生産性、あと1時間勉強したら本番で何点上がるかが限界生産性、という説明もありました。
(補足:「あと1時間増やしたら」は分かりやすい言い方ですが、厳密には限界生産性は、投入量をごくわずか増やしたときの変化率(微分)です。1単位の増加で見た増分は、その近似になります。)
「限界」は「もう無理」ではない
動画では、「限界」という言葉の意味にも時間を割いています。日常会話では「もう限界だ」と、これ以上無理という意味で使います。経済学の限界(マージナル)は、追加的な1単位という意味です。聞き手は日常語の「限界」を例に出し、講師がそれを経済学の意味に言い換えていました。
限界って、日常会話だと「もう無理」というリミットの意味で使いますよね。
そうなんです。でも経済学の限界は、追加的な1単位という意味です。今の状態からほんの少しだけ足したらどうなるか、という変化を表します。
接線の傾きが急なら、あと少し労働時間を増やすとコーヒーがぐんと増えます。傾きが緩やかなら、増やしてもコーヒーはちょっぴりしか増えません。
収穫逓減:増やすほど、追加の成果は小さくなる
生産関数のグラフには、一般的な特徴があると動画は言います。Lが大きくなる(グラフの右へ行く)ほど、接線の傾き、つまり限界生産性がだんだん緩やかになる。この状態を収穫逓減といいます。逓減は「少しずつ減る」という意味です。
動画の説明は、カフェの厨房です。1人入れば一気にコーヒーが作れるようになり、2人目が入れば注文を取る人と作る人で分業できて、さらに効率が上がるかもしれません。しかし店の広さやエスプレッソマシンの数には物理的な限界があります。5人、6人と詰め込めば、ぶつかり合ったりマシンの空きを待ったりして、追加の1人が生む杯数は、最初の頃の追加の1人より少なくなります。これが収穫逓減の姿です。
動画は、対義語もあわせて押さえるよう勧めています。限界生産性がだんだん増えていく状態が収穫逓増、ずっと変わらない状態が収穫一定です。動画では、試験でもこの言葉の定義が問われる、と述べられています。
(補足:動画の厨房の例は、2人目で効率が上がる場面にも触れています。これは、その区間だけ見れば限界生産性が上がる、つまり収穫逓増の区間です。ただ動画が示すグラフは、一貫して右へ行くほど傾きが緩やかになる形で、これを一般的な特徴としています。また、収穫逓減が起きる理由は、設備や店舗の広さなど他の生産要素を一定にしたまま、労働だけを増やしているからだと考えると整理しやすくなります。動画は「他の要素を一定にした」とは明言していないので、この点は補足です。なお、試験では「規模に関する収穫(全ての生産要素を同じ倍率で増やしたときの生産量の増え方)」という別の概念も出てきます。ここで動画が説明している収穫逓減・逓増・一定は、労働だけを増やしたときの限界生産性の変化のことです。)
費用・収入・利潤を式にする
ここから動画は、物の量の話からお金の話に切り替わります。企業が本当に欲しいのは、コーヒーをたくさん作ることではなく、最終的な利益だからです。
- 要素価格W:生産要素1単位あたりの価格。労働なら時給(賃金)。Wは一定と仮定します。
- 総費用:W×L。時給W円で労働時間がL時間なら、W×L円です。
- 商品の価格P:コーヒー1杯の価格。
- 総収入:R(L)=P×F(L)。1杯の値段に杯数をかけたものです。
- 利潤:π(L)=P×F(L)−W×L。収入から費用を引いたものです。
(補足:動画の式はPとWを一定として扱っています。つまり、企業は自分の力で価格を動かせず、市場で決まる価格をそのまま受け入れる状況です。また、ここでは労働だけが変えられる要素で、設備などの費用は考えていません。)
微分して0:P×F′(L)=W
企業は、利潤π(L)を最大にする最適な投入量Lを見つけたい。山の頂上では接線の傾きが0になるので、π(L)を微分して0になる点を探します。動画の展開は次のとおりです。
- 収入R(L)=P×F(L)をLで微分すると、Pは定数なのでP×F′(L)。
- 費用C(L)=W×LをLで微分すると、W。
- つまり π′(L)=P×F′(L)−W。これを0とおく。
- Wを右辺に移すと、P×F′(L)=W。
左辺のP×F′(L)を限界生産物価値と呼びます。追加の1単位が生み出した商品数(限界生産性)に、商品の価格Pをかけたもの、つまり追加の1単位が稼ぎ出す売上金額のことです。動画の結論はこうです。利潤が最大になるのは、限界生産物価値(追加投入が生む売上)が要素価格(追加投入にかかるコスト)に等しくなるとき。
グラフでは、右下がりの限界生産物価値P×F′(L)の曲線と、水平な要素価格Wの直線が交わる点が、最も儲かる投入量です。
(補足:微分して0とおくだけでは、その点が山の頂上(最大)か谷底(最小)かは決まりません。収穫逓減、つまりF′(L)がLとともに減る形のときは、利潤の曲線が山型になり、傾きが0の点が最大になります。動画は「山の頂上では接線の傾きが0」と説明していますが、収穫逓減との関係まではっきりとは述べていないので、これは補足です。この式は価格Pが一定の場合の形です。表記も、資料によってはVMPなど別の記号を使うことがあります。)
数値例で確かめる(自作の設例)
動画にはない、確かめ用の数値例です。カフェで、コーヒー1杯の価格を100円、時給(要素価格)を2,500円とします。労働時間ごとの総生産量が次の表のとおりだとします。
| 労働時間 | 追加の杯数(限界生産性) | 追加の売上(限界生産物価値) |
|---|---|---|
| 1時間目 | 60杯 | 6,000円 |
| 2時間目 | 50杯 | 5,000円 |
| 3時間目 | 40杯 | 4,000円 |
| 4時間目 | 30杯 | 3,000円 |
| 5時間目 | 20杯 | 2,000円 |
| 6時間目 | 10杯 | 1,000円 |
平均生産性も並べてみましょう。総生産量を時間で割ると、1時間で60杯、2時間で55杯、3時間で50杯、4時間で45杯、5時間で40杯、6時間で35杯です。限界生産性(追加の杯数)は60、50、40、30、20、10杯と、平均よりも速いペースで下がっています。限界生産性が平均を下回っている間は、平均生産性も下がり続けます。平均の成績が少しずつ落ちていくときは、追加の1時間が平均より低い成果しか生んでいない、と読めます。
追加の杯数がだんだん減っているので、収穫逓減の例です(総生産量は1時間で60杯、2時間で110杯、3時間で150杯、4時間で180杯、5時間で200杯、6時間で210杯)。1時間追加するたびに時給2,500円がかかるので、追加の売上が2,500円を上回る間は増やす価値があります。4時間目の追加の売上は3,000円で2,500円より大きく、5時間目は2,000円で小さくなります。そこで4時間がちょうどよいと分かります。利潤そのものを計算しても確認できます。
| 労働時間 | 総収入−総費用 | 利潤 |
|---|---|---|
| 3時間 | 15,000−7,500 | 7,500円 |
| 4時間 | 18,000−10,000 | 8,000円 |
| 5時間 | 20,000−12,500 | 7,500円 |
費用の観点との関係(補足)
動画は、費用の観点からのアプローチもあるが今回は生産性にしぼる、と話していました。そこで補足として、費用の側から同じ結論を見ておきます。追加の1時間でF′(L)杯増えて、その1時間にW円かかるなら、コーヒー1杯を追加で作るための費用は、W÷F′(L)円です。この追加1単位あたりの費用を限界費用といいます。P×F′(L)=Wの両辺をF′(L)で割ると、P=W÷F′(L)、つまり価格が限界費用に等しい、という形に書き換えられます。
数値例で見ると、4時間目は2,500÷30で約83円、5時間目は2,500÷20=125円です。価格100円と比べると、4時間目までは追加の1杯が100円で売れて約83円の費用ですから得をし、5時間目は125円の費用がかかるので損をします。限界生産性が下がる(収穫逓減)と、追加の1杯を作る費用は上がっていく、という関係です。生産性で見ても費用で見ても、たどり着く点は同じです。
4時間のとき利潤が最大です。この例は1時間刻みなので、P×F′(L)=Wがぴったり成り立つ点はなく、「追加の売上がWを上回る間は増やし、下回ったらやめる」という形で考えました。連続的な曲線なら、動画のとおり両者が等しくなる点が最大です。平均生産性は4時間で180÷4=45杯ですが、最適な時間を決めたのは平均ではなく限界の側でした。
動画の最後の問いかけ
動画の最後は、経営者としての問いです。限界生産物価値P×F′(L)が時給Wを下回ってしまったら、どう判断するか。これに対して動画では、労働時間を減らすか雇用を見直すしかない、と答えていました。式で見ると、追加の売上が追加の費用より少ないので、その1時間は利潤を減らしているからです。
続けて、あなた自身が1人の労働者なら、自分の限界生産物価値を時給以上に高めるために何ができるか、という問いが出ます。限界生産性F′(L)を高めるスキルを身につけるのか、自分の生み出す商品の価値Pを上げるのか。動画は、これを自分のキャリアに引き直して考えてみてほしい、と投げかけています。
もしあなたが経営者で、限界生産物価値が時給を下回ってしまったら、どうしますか。
稼ぎ出す売上が払う時給より少ないのなら、労働時間を減らすか、雇用を見直すしかないですよね。
まとめ
動画の流れ
- 生産関数F(L)は、投入量Lと生産量の関係。平均生産性はF(L)÷L、限界生産性はF′(L)(接線の傾き)。
- 経済学の「限界」は「追加的な1単位」。「もう無理」という意味ではない。
- 限界生産性がだんだん下がるのが収穫逓減、増えるのが収穫逓増、変わらないのが収穫一定。
- 利潤π(L)=P×F(L)−W×L。微分して0とおくと、P×F′(L)=W。
- P×F′(L)は限界生産物価値。追加の売上と追加のコストが等しくなるところが、利潤を最大にする投入量。
式の暗記だけでなく、「追加の1単位が稼ぐお金」と「追加の1単位にかかるお金」を比べる、という意味ごと覚えておくと、数式を見ても迷いにくくなります。動画を聞き流したあとに、このページで式の流れを復習してみてください。
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