費用関数とグラフ
経済学・経済政策 第8回
「経済学ってグラフや数式がたくさん出てきて、ちょっとハードルが高いなって感じることありますよね」。動画はこんな共感から始まります。このページでは動画の流れにそって、費用の分け方、逆S字の総費用曲線、3次関数の式、平均費用と平均可変費用のグラフの見方、そして2つの平均の上下関係をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
経済学の費用は、まっすぐな直線ではない
動画は、「経済学ってグラフや数式がたくさん出てきて、ちょっとハードルが高い」という共感から始まります。そのうえで、企業の目的である利益の最大化を取り上げます。利益は売上から費用を引けば出ます。今回はその費用の正体を、経済学の視点で調べていきます。
財務・会計で学ぶCVP分析では、費用を「固定費+売上に比例して増える変動費」と考え、まっすぐな直線で描きました。損益分岐点をざっくりつかむには便利な考え方です。ところが経済学が知りたいのは、利益を最大にするには生産量をどのくらいにすればよいかという問いです。生産量を増やすほど費用が同じペースで直線的に増え続ける、というのは現場の感覚に合いません。そこで、より現実に近い費用関数を使う、と動画は説明します。
- CVP分析:費用は直線。実務の計算や損益分岐点の把握に便利。
- 経済学の費用関数:費用は曲線。最適な生産量を考えるために使う。
固定費用・可変費用・総費用
経済学では費用を2つに分けます。呼び方は財務・会計と少し違います。動画はパン屋さんでたとえます。
| 用語 | 意味 | パン屋さんの例 |
|---|---|---|
| 固定費用(FC) | 生産量が0でも100でも、一定でかかる費用 | 家賃、オーブンのリース代 |
| 可変費用(VC) | 生産量によって変わる費用 | 小麦粉やバターの仕入れ代、忙しいときのアルバイト代 |
| 総費用(C(x)) | ある生産量x をつくる全体の費用 | 固定費用+可変費用 |
ここまでは財務・会計の考え方とよく似ていて、すんなり入ってきますね。
ええ、でもここからが経済学の面白いところです。生産量x と総費用C(x)の関係をグラフにすると、右肩上がりの直線ではなく、ぐにゃっと曲がった逆S字カーブになります。
なぜ逆S字になるのか:パン屋さんの厨房
動画は「なぜ曲がるのか」を考えることが今回の最大のポイントだと言います。オープンしたばかりのパン屋さんの厨房を想像してみましょう。
- 前半:動画では聞き手が、最初は新しいオーブンの使い勝手に慣れていないが、毎日たくさん焼くうちに作業のコツをつかんで手順が最適化される、と答えます。講師はこれを経験曲線効果と呼び、パンを1個追加でつくるのに余計にかかる費用が徐々に抑えられる、と説明します。グラフの傾きが少しゆるやかになる部分です。
- 後半:さらに生産量を増やして一定のラインを超えると、現場はキャパオーバーになります。動画では聞き手が、「オーブンは空きがなく、狭い厨房に人がひしめき合う」「機械の故障や深夜残業で高い人件費がかさむ」と具体的な様子を挙げ、講師が「機械も作業員もいっぱいいっぱいになると効率が著しく低下する」と受けます。パンを1個余分につくる費用の増え方が急に大きくなり、傾きが再び急になります。
(補足:動画は、グラフの前半で増え方がゆるむ理由を「経験曲線効果」と呼んでいます。ただ、一般にこの言葉は、累積した生産量が増えるほど、作業に慣れて1個あたりの費用が下がっていく、時間をかけた学習の効果を指します(1960年代にBCGが提唱)。この図の曲線は、設備が決まっているなかで、ある期間の生産量xを変えたときの費用の関係なので、同じ意味ではありません。似た言葉も整理しておきます。規模の経済は、同じ時点で生産規模を大きくすると、1個あたりの費用が下がること。範囲の経済は、複数の製品を別々に作るより、まとめて作るほうが費用が低くなることです。この動画の前半は、作業に慣れ、手順が整って、あと1個の費用が下がっていく「習熟」のイメージとして受け止めてください。)
3次関数で式にする
では、この逆S字を式でどう表すのでしょうか。動画によれば、ミクロ経済学では費用関数C(x)を3次関数で表すことが非常に多く、次の形になります。
3次関数の費用関数
C(x) = ax³ + bx² + cx + d
アルファベットが多くて難しく見えますが、固定費用と可変費用のイメージに落とし込めば簡単です。固定費用は、生産量x が0でもかかる費用でした。式のx に0を入れると、x がついている項はすべて0になり、dだけが残ります。つまりd が固定費用で、グラフでは縦軸との交点(切片)です。残りのax³+bx²+cxが可変費用にあたります。3乗や2乗を含むこの部分があるから、逆S字カーブが描けるわけです。
(補足:3次関数なら何でも逆S字になるわけではありません。たとえばa>0、b<0、c>0とし、b²<3ac を満たすと、費用はつねに増えながら、傾きが途中でいちど小さくなってから大きくなる形になります。試験ではこうした条件を覚えるより、「dが固定費用、x がついた部分が可変費用」という読み方のほうが大切です。また、固定費用dが残るこの形の費用関数は、固定的な設備がある期間(短期)の費用を表すものとされるのが一般的です。)
1個あたりの費用:平均費用と平均可変費用
経営コンサルタントとして数字を見るときは、全体の費用だけでなく、製品1個あたりいくらかかっているかも重要です。そこで平均費用が出てきます。動画の数値例で確かめましょう。費用関数を C(x)=x³-2x²+6x+10 とします。固定費用は10、残りが可変費用です。
製品を10個つくるとき、C(10)=1000-200+60+10=870。1個あたりの平均費用は870÷10=87です。式で整理すると次のとおりです。
| 名前 | 記号 | 式 |
|---|---|---|
| 平均費用 | AC(x) | C(x)÷x = ax²+bx+c+d/x |
| 平均可変費用 | AVC(x) | 可変費用÷x = ax²+bx+c |
平均費用は、総費用の式を全体としてx で割っただけです。平均可変費用は、可変費用だけをx で割ったものです。同じ数値例で、いくつかの生産量を並べると次のようになります(筆者が検算)。
| 生産量x | 平均費用AC | 平均可変費用AVC |
|---|---|---|
| 1 | 15 | 5 |
| 2 | 11 | 6 |
| 3 | 約12.3 | 9 |
| 5 | 23 | 21 |
| 10 | 87 | 86 |
ACがAVCより大きく、その差が10÷x(固定費用÷生産量)になっていることに注目してください。x=10なら差は1、x=1なら差は10です。平均費用が下がる区間では、1個あたりの固定費用d/xが小さくなる効果も効いています。
グラフで見る平均費用:原点から引いた直線の傾き
動画は、平均をグラフ上で直感的につかむ方法を示します。頭の中に、横軸が生産量x、縦軸が総費用C(x)のグラフを描き、縦軸の切片(固定費用)からスタートする逆S字を思い浮かべてください。
平均費用はC(x)÷x ですから、グラフでは原点から曲線上の点へ引いた直線の傾きです。原点にペンの根元を固定し、ペンの先を曲線に沿って右へ滑らせていくと、次のように変わります。動画では、聞き手がペンの動きを言葉にして確かめ、講師が「まさにその瞬間です」と応じます。
- 最初は曲線が高い位置にあるので、ペンの角度は急です。
- 右へ進むと、曲線がゆるやかになるので、ペンの傾きもだんだん小さくなります(平均費用が下がる)。
- ある点で、ペンが曲線の下のふくらみにぴたりとくっつきます。ここが接線です。傾きがいちばん小さく、平均費用が最小になる生産量です。
- さらに右へ進み、キャパオーバーの領域に入ると、ペンは再び上を向きます(平均費用が上がる)。
この傾きの変化だけを別のグラフに描き直すと、下がって、底を打って、また上がるので、下に凸のU字カーブになります。平均費用の最小点は、原点から引いた直線が接線になる点、というのが動画の整理です。
平均可変費用は「dの点」から引く
平均可変費用も考え方は同じです。違うのは、固定費用を含まないので、直線のスタート地点が原点ではなく、縦軸の切片(固定費用dの点)になることです。この点にペンを置いて曲線をなぞると、やはり最初は傾きが下がり、あるところで接線になって底を打ち、また上がっていきます。つまり平均可変費用も下に凸のU字カーブです。
原点から引くか、dの点から引くか。スタート地点の違いなんですね。
そうです。平均費用は固定費用も含む総費用を、平均可変費用は可変費用だけを、それぞれx で割っています。そのぶん、直線を引き始める場所が違います。
絶対法則:平均費用は、つねに平均可変費用より大きい
動画は、試験対策として絶対に間違えてはいけない法則を伝えます。平均費用と平均可変費用、2つのU字カーブの上下の位置関係です。
平均費用の式は、平均可変費用の式にd/x(固定費用を生産量で割ったもの)を足した形でした。生産量が0より大きい限り、固定費用が存在するので d/x は必ずプラスの値です。したがって、同じ生産量なら、平均費用のほうが平均可変費用より常に大きい。グラフでは、平均費用のカーブは平均可変費用のカーブより常に上にあり、交わることも下回ることもありません。
差のd/x は、生産量が増えるほど小さくなります。上の数値例でも差は10、5、3.3、2、1と縮んでいきました。2本のカーブは近づいていきますが、交わりません。
試験の注目点(動画の整理)
動画は、「ある生産量で平均可変費用が平均費用を上回る」という選択肢が出たら、数式の構造とグラフの映像を思い出して、バツだと見抜けると話します。固定費用が正(d>0)で、生産量が0より大きい場合に成り立つ関係です。実際の出題の傾向は、今回は確認していません。
補足:2本のカーブの底と、限界費用
(補足:動画にない話です。曲線の接線の傾きは、生産量を1単位増やしたときの総費用の増加分にあたる限界費用MC(C(x)を微分したもの)です。原点から引いた直線が接線になる点では、直線の傾きと接線の傾きが等しくなるので、そこではAC=MCになります。同じように、dの点から引いた直線が接線になる点ではAVC=MCです。)
(補足:先ほどの数値例 C(x)=x³-2x²+6x+10 では、MC=3x²-4x+6 です。AVCの底は x=1 で、AVC=MC=5。ACの底は x が約2.12のところで、AC=MC=約11.0です。AVCの底のほうが、ACの底より左(生産量が少ない側)にあります。これは筆者がPythonで検算しました。)
動画の最後の問いかけ
動画の締めくくりは、考えさせる問いです。機械や作業員がいっぱいいっぱいになると効率が落ち、平均費用が再び上昇し始める。この性質は、単なる試験の数式ではなく、「企業は1つの工場や組織のまま、無限に効率よく成長し続けられるのか」という経営の限界と本質に関わる問いを投げかけている、と動画は言います。そして、経営コンサルタントとして現場を見たとき、費用の底(最低点)がどこにあるかを見極められるか、と結びます。逆S字やU字の映像が武器になる、という励ましで終わります。
まとめ
動画の流れの整理
- CVP分析の費用は直線。経済学は最適な生産量を考えるため、より現実に近い費用関数を使う。
- 費用は固定費用(FC)と可変費用(VC)に分け、合計が総費用C(x)。
- 総費用が逆S字になる理由は、前半が慣れによる生産性の向上、後半がキャパオーバーによる効率の低下。
- 式はC(x)=ax³+bx²+cx+d。x に0を入れて残る d が固定費用、ax³+bx²+cx が可変費用。
- 平均費用AC(x)=C(x)÷x は原点から引いた直線の傾き、平均可変費用AVC(x)は dの点から引いた直線の傾き。どちらも接線になる点が最小で、下に凸のU字。
- 固定費用があるので、ACの式はAVCの式にd/xを足した形。同じ生産量ならACはAVCより常に大きい。
数式を暗記するのではなく、「パン屋さんの厨房」と「ペンを滑らせる映像」を結びつけておくのがコツです。式の意味とグラフが頭の中でつながれば、選択肢の正誤は落ち着いて判断できます。まず動画を聞いて、あとからこのページで復習してください。
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