余剰分析:完全競争市場
経済学・経済政策 第10回
「実は私たちが日常の買い物で感じる『安く買えてラッキー』という得した気分を、極めて論理的に説明しているだけなんですよ」。動画はこんな話から始まります。このページでは動画の流れにそって、余剰とは何か、完全競争市場の条件、消費者余剰・生産者余剰・政府余剰と社会的総余剰、試験での出題のされ方をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
「余剰」は、余り物ではなく「得」のこと
経済学のグラフや分析と聞くと、無機質な数式や難しい理論ばかりを思い浮かべるかもしれません。ところが動画は、日常の買い物で感じる「安く買えてラッキー」という得した気分を、論理的に説明しているだけだと話しはじめます。通勤電車の中や休憩中に、コーヒーを飲みながら聞いても構わない内容だそうです。
今回のキーワードは余剰です。日常会話の「人員の余剰」「在庫の余剰」は、余り物や無駄というネガティブな響きですよね。聞き手もそこを疑問に思います。講師の答えは「全く逆」。経済学でいう余剰とは、市場での取引によって得られる利益、つまり取引に参加して得たプラスの価値のことです。
利益ですか。物じゃなくて、得した分の価値ということですね。
そうです。取引に参加したことで得られたプラスの価値です。
利益を得るプレイヤーは3者いる
動画では、この利益を得るプレイヤーを大きく3者に分けます。
- 消費者:モノやサービスを買う側。得る利益が消費者余剰。
- 生産者:モノを作って売る側。得る利益が生産者余剰。
- 政府:税金などを通して得る利益が政府余剰。
この3つを全部合計したものが、社会全体で得られる余剰、社会的総余剰です。聞き手は「社会全体のハッピーの合計値みたいなもの」と言い換え、講師も「まさにそういうこと」と応じています。今回は、この社会全体のハッピーがどう変化するかを分析していくのがミッションだと説明されます。
(補足:ここでの余剰は会計上の利益とは別物です。また、動画の「直角三角形」は、需要曲線・供給曲線が直線のときの形です。資料によっては「社会的余剰」「総余剰」とも呼ばれます。指していることは同じです。)
まず舞台設定:完全競争市場
現実の複雑な経済をいきなり扱うのは難しいので、まずはシンプルで理想的な市場を想像します。それが完全競争市場です。動画が挙げる条件は次のとおりです。
- 同質な商品が取引されている。
- 完全な情報のもとで取引されている。
- 多数の供給者と需要者がいる。
- 市場への参入も撤退も自由。
聞き手が、現実にはなかなかない、理想的で完璧な条件ですね、と感想を述べると、講師は「その理想の舞台にグラフを描いていきます」と進めます。
グラフは、買いたい人の気持ちを表す右下がりの需要曲線と、売りたい人の気持ちを表す右上がりの供給曲線です。2本が交わる点では、需要と供給がぴったり一致します。そのときの数量をQ0、価格をP0として決まるのが均衡です。動画では、講師がアルファベットのXのような形と言い、聞き手は、需要と供給の綱引きが釣り合った交差点の数量と価格ですね、と受け止めます。
(補足:需要曲線は「この価格ならこれだけ買う」という読み方のほかに、「この数量目の1個には、最大でこの価格まで払ってもよい」という読み方もできます。余剰分析では、後者の読み方が土台になります。供給曲線も同様に、「この数量目の1個は、最低でもこの価格なら売ってもよい」と読みます。)
消費者余剰:払ってもよい額と実際の価格の差
動画は、需要曲線を「単にこれくらい売れるという線」ではなく、消費者が最大限支払ってもよいと思っている価格をグラフにしたものだと説明します。聞き手が「これ以上は絶対に出さない」というギリギリのラインと言い換えます。価格がP1のとき、その価格で買ってもよい消費者がQ1だけいる、という見方をします。
記号だとイメージしづらいので、動画は具体的な数字で考えます。ある商品に、1000円なら買ってもよいと考えている消費者が1万人いる(1000円がP1、1万個がQ1)。1人1個買うものとします。ところが実際の価格P0は800円でした。1000円払う覚悟でお店に行ったら値札が800円。「200円も安く買えるじゃん」とテンションが上がります。差し引き200円分の得が生じていて、これが消費者余剰です。
グラフでは、需要曲線と実際の価格線にはさまれた直角三角形の部分にあたります。実際の価格が安くなるほど、この三角形は大きくなります。聞き手は「買い手の本音が図形になるのは面白い」と感想を述べています。
生産者余剰:実際の価格と売りたい最低額の差
次に、物を作る生産者の気持ちです。供給曲線は、生産者が最低限この値段なら売ってもよいと考えている価格をグラフにしたものです。聞き手が「これ以下では元が取れないから絶対に嫌だ」という限界のラインと言い換えます。
動画の数字では、最低でも500円で売りたいと考えていた生産者が、実際には800円で売れました。予想より高く売れて得をした分、差し引き300円分の得が生じており、これが生産者余剰です。グラフでは、実際の価格線と供給曲線にはさまれた直角三角形にあたります。
(補足:この図のとおり、買い手の上限1000円と売り手の下限500円の差である500円が、この1個の取引で生まれた得の合計です。価格が800円なら、買い手に200円、売り手に300円と分かれます。価格が高ければ売り手の取り分が増え、安ければ買い手の取り分が増えるだけで、合計の500円は変わりません。動画にある「価格が安くなるほど消費者余剰の三角形は大きくなる」という話と、向きが合っています。)
(補足:図は、動画の2つの数字を、仮に同じ1個の取引にあてはめて並べた自作の整理です。動画ではそれぞれ別の例として話されています。)
聞き手は「消費者の三角形と生産者の三角形が、価格の横線をはさんで上下にぴたっとくっついているイメージ」と整理し、講師は「見事に視覚化されている」と応じました。市場での取引によって、買い手も売り手もそれぞれの三角形の分だけ得をしているわけです。
消費者の三角形も生産者の三角形も、価格の横線が基準になっているんですね。
ええ。だから「どこが消費者余剰で、どこが生産者余剰か」は、価格の線の上か下か、そして需要曲線と供給曲線のどちらとはさまれているかで見分けます。
(補足:動画の「200円」「300円」は、1個の取引で生じる得を示した例です。グラフの三角形は、そうした1人ひとりの得を、需要曲線・供給曲線のうえで全員分積み上げた面積です。需要曲線が右下がりなのは、払ってもよい額が人によって違い、高い人から順に並んでいるからだと説明されることがあります。もし全員が1000円なら、曲線ではなく水平な線になります。また、生産者余剰は、売上(総収入)から可変費用を引いたものとして定義されます。利潤は売上から固定費用と可変費用の両方を引くので、生産者余剰は、利潤に固定費用を足したものに等しくなります(利潤そのものではありません)。完全競争の企業では、供給曲線は限界費用の曲線に沿います。前の回の限界費用ともつながる話です。)
政府余剰はゼロ、そして社会的総余剰は最大になる
ここで聞き手が、「消費者も生産者もハッピーなのは分かったが、3人目の政府はどうなっているのか」と尋ねます。講師の答えは、完全競争市場には政府の介入が一切ない、というものでした。税金を取ったり補助金を出したりしないので、政府が得る利益もなく、政府余剰は0になります。
そして動画が示す重要な結論が、政府の介入がないこの状態のとき、社会的総余剰は最大になる(補足:正確には、均衡の取引量で最大になる、という意味です。税があれば取引量が減って死荷重が出ます)、つまり消費者と生産者の三角形を足し合わせた面積がいちばん大きくなる、というものです。誰かの利益を無理に増やそうとしたり、国が税収を得ようとしたりせず、自由に取引が行われているときが、社会全体のハッピーの合計が最大になる、と講師は説明します。
現実には税金がないと社会が回りませんが、ベースラインとしてこの最大化された状態を知っておくことが大事なんですね。
まさにその通りです。
では、なぜ均衡のときに面積が最大になるのでしょうか。動画にない話ですが、数字で確かめてみましょう(補足:自作の数値例です)。
需要曲線をP=1000−Q、供給曲線をP=200+Qとします(Qは個数、Pは円)。2本が交わる均衡は、Q0=400個、P0=600円です。三角形の面積を計算すると、次のようになります。
- 消費者余剰:底辺400個×高さ(1000−600)400円÷2=8万円
- 生産者余剰:底辺400個×高さ(600−200)400円÷2=8万円
- 政府余剰:0円。社会的総余剰は合計16万円。
では、取引を300個で打ち切ったらどうなるでしょうか。300個目の買い手は700円まで払ってよく、300個目の売り手は500円から売ってよいので、この取引にはまだ200円の得の余地があります。300個目から400個目までの取引は、得の余地が少しずつ小さくなりながらも、まだプラスです。取引を打ち切ると、その分の小さな三角形(200円×100個÷2=1万円)の余剰が失われます。社会的総余剰は15万円に減ります。
つまり、均衡よりも少なくても多くても、余剰は均衡のときより小さくなる、という見通しになります。(補足:動画の結論は、「完全競争市場で政府の介入がない」という理想の条件を置いたうえでの話です。外部性など、条件が崩れる場合はこの結論どおりにならないとされています。この先の回で、政府が介入する場合などの応用パターンを学ぶ流れだと動画は話しています。)
試験では「図形のパズル」、手を動かして覚える
動画の説明では、診断士1次試験の余剰分析は、図形のパズルのような形で出題されます。ここから先の学習で、政府の介入があった場合などの応用パターンを学ぶことになりますが、まずは今回の基本パターンをしっかり理解することが必須だと講師は話しています。聞き手が確かめるように、どこが消費者余剰で、どこが生産者余剰か、その位置を押さえることが出発点だと言い換えます。
講師が強く勧めているのは、テキストの図を目で見て分かった気にならず、実際に手を動かしてグラフを書くことです。次の手順をくり返すとよい、という話でした。
- 交差する点(均衡点)を書く。
- 価格の横線を引く。
- 自分で斜線を引いたり、色を塗ったりして、消費者余剰・生産者余剰を確かめる。
- 問題を解きながら、パターンを押さえていく。
聞き手が「見るだけじゃダメなんですね」と確かめると、講師は「ダメです」と答え、あとで「頭の中だけで考えるのは危険ですからね」とも言っています。
まとめ
この回で動画が話したこと
- 余剰は余り物ではなく、市場での取引で得られる利益(得)のこと。
- 利益を得るのは消費者・生産者・政府の3者。3つの合計が社会的総余剰。
- 完全競争市場の条件として、動画は同質な商品、完全な情報、多数の供給者と需要者、参入・撤退の自由を挙げている。
- 需要曲線は「最大限払ってもよい価格」、供給曲線は「最低限これなら売ってもよい価格」。
- 消費者余剰は需要曲線と価格線の間、生産者余剰は価格線と供給曲線の間の三角形。
- 完全競争市場では政府の介入がなく政府余剰は0。動画はこのとき社会的総余剰が最大になると説明している。
- 動画では、試験は図形のパズルの形で出る。手を動かしてグラフを書くことがすすめられていた。
動画の最後には、思考の種として次の問いかけが出されます。最近「安く買えてラッキー」と思った商品について、売った企業はどれくらいの生産者余剰を得ていたでしょうか。日常の買い物を三角形のパズルにあてはめてみると、価格の見え方が少し変わってくるかもしれません。
動画で聞く
続けて読む
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- 第6回 課税の効果と弾力性経済学・経済政策・ミクロ経済学 006
- 第7回 収穫逓減・利潤最大化経済学・経済政策・ミクロ経済学 007
- 第8回 費用関数とグラフ経済学・経済政策・ミクロ経済学 008
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