余剰の変化と死荷重
経済学・経済政策 第11回
「ニュースで政府が新しい税金を導入するという報道を見たとき、市場の裏側で実際に何が起きているのか、考えたことはありませんか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、課税前の余剰、従量税による供給曲線のシフト、政府余剰と死荷重、税負担の割合と弾力性との関係をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
税金のニュースの裏側で、何が起きているのか
「ニュースで政府が新しい税金を導入するという報道を見たとき、市場の裏側で実際に何が起きているのか、考えたことはありませんか」。動画は、こんな問いかけから始まります。ただ値段が上がる、というだけの話ではありません。動画の言葉を借りれば、消費者と生産者、そして政府の間で、目に見えない余剰の綱引きが行われているのです。
動画では、税金が入ったときの余剰の変化は経済学の根幹であり、グラフの形を丸暗記するのではなく、なぜその面積になるのか、誰がどの部分を負担しているのかというロジックを理解することが応用問題の鍵だと説明されます。音声だけで聞けるように、頭の中でグラフを描きながら進みます。このページでは、その流れを図にして、4つのステップで整理しました。
- 課税前:消費者余剰と生産者余剰が、1つの大きな三角形をつくる。
- 課税後:供給曲線がシフトし、価格は上がり、生産量は減る。
- 余剰の行き先:政府余剰が生まれ、一部は死荷重として消える。
- 税の負担:動画では、消費者と生産者のどちらが多く負担するかは、需要曲線の傾き(弾力性)で変わると説明される(くわしくは本文の補足)。
なお、動画の最後には「需要曲線が完全に垂直、あるいは完全に水平なら、税金を100%負担するのはどちらか」という宿題が出されます。答えは動画では明かされませんが、このページの最後で補足として触れます。
まずは税金のない「課税前」の市場から
動画はまず、税金が一切ない、課税前の完全競争市場のイメージを作ります。横軸に生産量、縦軸に価格を取り、右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線が交わる点が均衡点です。このときの価格をP1とします。
ここで重要になるのが余剰です。動画では、市場取引で得られる利益や満足度を、グラフ上の面積として捉える考え方だと説明されます。色分けすると、次のようになります。
- 消費者余剰:P1の水平線より上で、需要曲線との間にできる三角形(動画では薄いピンク)。
- 生産者余剰:P1の水平線より下で、供給曲線との間にできる三角形(動画では薄いグレー)。
- 政府余剰:課税前は政府が介入していないので0。
- 社会的総余剰:消費者余剰と生産者余剰を足し合わせた、大きな1つの三角形。
消費者余剰は、本当はもっと高い価格でも買ってよいと思っていたのに、市場価格P1という安い価格で買えた分の差額です。需要曲線の高さは、消費者が支払ってもよいと考える最高価格を表します。生産者余剰は逆で、本当はもっと安い価格でも提供できるのに、P1という高い価格で売れた分の差額です。
たとえ
1,000円まで出してもよいと思っていたお弁当を、800円で買えたら、200円分トクをした気分になりますよね。この「トクをした気分」の合計が消費者余剰です。売る側にも同じことがあり、600円で作れるお弁当を800円で売れたら、200円分が生産者余剰です。
ピンクとグレーを合わせた大きな1つの三角形、ということですね。
そうです。これが、市場が最も効率的に機能している状態です。ここに政府のルールが落ちてくるわけです。
従量税で、供給曲線が上にずれる
ここに、1単位あたりtの従量税がかかったとします。動画は供給側の視点で説明します。商品を1単位売るごとにtだけ税金を納めなければならないので、実質的には、商品をつくるコストがtだけ上がったのと同じ状態です。企業は、これまでと同じ量を提供し続けるなら、tの分だけ価格を引き上げないと赤字になってしまいます。
そのため、元の供給曲線Sは、税額tの分だけ真上に平行移動します。これを課税後の供給曲線S+t(動画ではST)とします。需要曲線Dとの新しい交点は、左斜め上にスライドします。
課税後の変化
新しい均衡価格は、元のP1からP2へ上昇します。取引される生産量は、元のQ1からQ2へ減少します。
(補足:動画は、税金を生産者に課す前提で、供給曲線がシフトすると説明しています。一般的な部分均衡の分析では、納税義務者を買い手にしても、需要曲線が税額分だけ下にシフトするだけで、買い手が実際に払う価格、売り手が手にする価格、取引量は同じ結果になるとされます。誰に課すかではなく、需要と供給の形が負担を決めます。)
縮んだ余剰は、どこへ行ったのか
価格がP2に上がると、グラフの色を塗った面積が変わります。消費者余剰は、底辺が上に押し上げられて小さくなります。生産者余剰も、手元に残る金額が減り、取引量も減ったので小さく縮みます。どちらも自分の取り分が減って、痛みを伴う状態です。
では、消えてしまった面積はどこへ行ったのでしょうか。動画は、そこに政府余剰が登場すると説明します。元の供給曲線Sと、課税後の供給曲線S+tに挟まれた、平行四辺形の部分です。縦の高さが税額t、横の幅が新しい取引量Q2なので、掛け算すると政府が受け取る税金の総額になります。
(補足:動画は、元の供給曲線Sと課税後の供給曲線S+tに挟まれた平行四辺形と説明しますが、その面積はt×Q2で、価格P2と生産者の手取りP2−tに挟まれた横Q2・縦tの長方形と同じ大きさです。図では長方形で描いています。「税収=税額×課税後の取引量」と覚えれば十分です。)
そして、課税後の社会的総余剰を計算します。縮んだ消費者余剰、縮んだ生産者余剰、政府余剰を全部足し合わせます。ところが、課税前の大きな三角形と比べると、ぴったりはまらず、グラフの右側に隙間があきます。動画では、斜線で示される小さな三角形です。
死荷重(動画の整理)
この三角形は、消費者にも生産者にも政府にも行かなかった部分で、税金によって社会全体から純粋に減ってしまった、誰の利益にもならない損失です。経済学では死荷重、あるいは社会的損失(デッド
動画は、試験対策としては、この死荷重がグラフのどこに発生するのかを視覚的に理解しておくことが大切だと強調します。(補足:死荷重は、資料によって「超過負担」と呼ばれることもあります。)
数字で確かめてみよう(補足:自作の設例)
動画にない話ですが、面積のイメージをつかむため、簡単な数字で確かめます。需要曲線を P=100−Q、供給曲線を P=20+Q、従量税を t=20 とします。課税前の均衡は、Q=40、P=60です。課税後は、買い手が払う価格が70、売り手が手にする価格が50(税20を引いた額)となり、取引量Qは30に減ります。
| 項目 | 課税前 | 課税後 |
|---|---|---|
| 消費者余剰 | 800 | 450 |
| 生産者余剰 | 800 | 450 |
| 政府余剰(税収) | 0 | 600 |
| 社会的総余剰 | 1,600 | 1,500 |
消費者余剰は 1/2×30×30=450、生産者余剰も同じく450、税収は 20×30=600です。合計は1,500で、課税前の1,600より100減っています。この100が死荷重で、底辺t=20、高さ(Q1−Q2)=10の三角形の面積、1/2×20×10=100と一致します。(補足:需要曲線と供給曲線が直線の場合の計算です。)
この税金、結局だれが払っているのか
全体が減ったことは分かりました。では、その税金は、消費者と生産者のどちらが払っているのでしょうか。聞き手のこの疑問に、講師は「それがまさに究極の疑問」と応じます。動画は、課税後の均衡点(価格P2、生産量Q2)に注目して、税額を2つに分けます。基準は、元の均衡価格P1の線です。
- TC(消費者の負担分):P1より上、P1からP2に上がった部分の長方形。元はP1で買えたのにP2に値上がりした分なので、まるまる消費者が被ったダメージ。
- TS(生産者の負担分):P1より下の長方形。税Tがかかっても、企業は全額を価格に上乗せできたわけではなく、この部分は企業が身銭を切って負担している。
先ほどの設例では、買い手の払う価格は60から70に上がった(TC=10×30=300)、売り手の手取りは60から50に下がった(TS=10×30=300)ので、2人で半分ずつを負担しています。ただし、動画は大事な点を指摘します。消費者の負担分TCと生産者の負担分TSの割合は、常に半々とは限りません。
負担の割合を決めるのは「傾き」
では、どちらが多く負担するかは何で決まるのでしょうか。動画の答えは、需要曲線Dの傾き、つまり弾力性です。需要曲線の傾きが急になるほど消費者の負担の割合が大きくなり、緩やかになるほど生産者の負担が多くなります。
生活必需品みたいに、どうしても買わなければならないものは、需要曲線が急になって、消費者が税金を多く負担させられる、ということですね。
逆に、贅沢品みたいに高くなったら買わないよ、となるものは、需要曲線が緩やかで、企業側が税金をかぶって、泣く泣く売るしかない、と。
まさにその通りです。このルールの理解は、試験でも必須ですから、頭の片隅に置いておいてください。
(補足:動画の「傾き=弾力性」は少し単純化された言い方です。弾力性は、価格が1%変わったとき需要量が何%変わるかという比率で、傾きそのものではありません(グラフ上の同じ点では、傾きが急なほど弾力性が小さいという関係にあります)。また、負担の割合は、需要側だけでなく供給側の傾きとの相対的な大きさで決まります。動画の説明は、供給曲線を固定して需要曲線の傾きだけを動かした場合の話です。)
設例で確かめます。需要曲線を P=140−2Q(傾きが急)、供給曲線を P=20+Q、t=15とします。課税前はQ=40、P=60。課税後はQ=35で、買い手が払う価格は70、売り手の手取りは55です。
- 消費者の負担:(70−60)×35=350
- 生産者の負担:(60−55)×35=175(税収は合計525、負担の比は2対1)
需要曲線の傾きの絶対値が2、供給曲線が1の組み合わせで、消費者がより多く負担する結果になりました。確かに、需要曲線が急なほうが消費者の負担は重くなります。(この直線の例では、消費者の負担割合は「需要の傾き÷(需要の傾き+供給の傾き)」=2/3と一致します。)
動画の宿題:垂直と水平のとき
動画の最後は、リスナーへの問いかけです。もしある商品の需要曲線の傾きが完全に垂直、あるいは完全に水平だったら、税金の負担を100%被るのは、消費者と生産者のどちらでしょうか。答えは動画では明かされず、次回のお楽しみとされています。
(補足:動画で答えは出ていないので、ここで一般的な結論を書いておきます。動画の流れを自分で考えてから確認してください。)
- 需要曲線が垂直:価格が上がっても買う量は変わりません。供給曲線が税額分だけ上にずれると、価格が税額分そのまま上がるので、消費者が100%負担します。
- 需要曲線が水平:価格が少しでも上がると、買う量がゼロになります。企業は価格を上げられず、生産者が100%負担します。
動画の「急なほど消費者の負担が大きい」という方向は、この両極端でも通じています。
まとめ
この動画で押さえたいこと
- 課税前は、消費者余剰と生産者余剰を合わせた大きな三角形が社会的総余剰。政府余剰は0。
- 従量税tがかかると、供給曲線がtだけ上にシフトし、価格はP1からP2に上がり、生産量はQ1からQ2に減る。
- 消費者余剰・生産者余剰は縮み、価格P2と生産者の手取りP2−tに挟まれた部分が政府余剰(税収=t×Q2。動画は平行四辺形と説明)。
- 合計しても元に戻らない小さな三角形が死荷重。誰の利益にもならない、純粋な損失。
- 税の負担は、元の均衡価格P1を境に、上がTC(消費者)、下がTS(生産者)。割合は常に半々ではない。
- 動画では、需要曲線が急なほど消費者の負担が大きく、緩やかなほど生産者の負担が大きいと説明される。
動画は、グラフを頭の中で動かしながら、面積の変化を追うことが一番の近道だと締めくくります。通勤中に聞きながら、頭の中で線を引いて確かめてみてください。わからなくなったら、このページの図を見ながら、もう一度動画を聞き直すのがおすすめです。
動画で聞く
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