独占市場と独占的競争
経済学・経済政策 第12回
「あなたがもし、ある市場でたった1人の売り手だったとしたら、どう行動しますか?」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、独占企業の利潤最大化、限界収入曲線の傾き、独占による死荷重、そして独占的競争の短期と長期の違いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
たった1人の売り手なら、価格は自由自在?
「あなたがもし、ある市場でたった1人の売り手だったとしたら、どう行動しますか?」。動画はこの問いかけから始まります。聞き手は、ライバルがいないなら価格は完全に自由に決められるはず、と答えます。今回は、この「ライバルがいない状態」を経済学でどう分析するかを、動画の流れにそって整理します。
動画が扱うのは次の3つです。どれも、これまで見てきた完全競争市場のモデルから一歩踏み出す内容です。
- 独占企業の利潤最大化:限界収入MRと限界費用MCが等しくなる点で生産する。
- 独占による社会的な損失:生産量が絞られ、死荷重(デッドウェイト
ロス)が生じる。 - 独占的競争:差別化された商品で競う状態。短期は独占に近いが、長期は利潤がゼロになる。
まず比較のために、完全競争のおさらいです。動画によると、完全競争市場では財の価格は市場全体の需要と供給のバランスだけで決まり、1つの企業が価格を決めることはできません。与えられた価格をそのまま受け入れるしかない主体をプライス
これに対して、独占企業は価格に影響を与えられるプライス
(補足:動画の冒頭で聞き手が言う「価格は完全に自由自在」は、少し単純化した言い方です。独占企業でも、価格と販売量を両方好きに決められるわけではありません。需要曲線が右下がりですから、価格を高くすれば売れる量が減ります。独占企業が選べるのは、需要曲線の上の「どの点で売るか」です。以降の話は、すべてこの前提で進みます。)
限界収入曲線は、需要曲線の2倍の傾きになる
動画では、講師が重要な結論があると切り出し、聞き手が限界収入曲線MR(x)の傾きは、需要曲線D(x)の傾きの2倍になるという法則を挙げ、講師が「その通り」と応じます。試験でもよく問われるところだと強調されます。ただし、動画で証明しているとおり、これは需要曲線を直線と仮定したときの話です。結論だけを暗記している人が多いので、聞き手が数学的な裏付けを確かめようと提案し、講師が数式で示します。
需要曲線を直線とみて、D(x)=−ax+p0と置きます。傾きが−a、切片がp0です。独占企業が供給量xのときにこの価格で売るとすると、収入は「価格×供給量」ですから、次のようになります。
- 収入R(x)=D(x)×x=−ax²+p0x(xの2次関数)
- 限界収入MR(x)は収入R(x)を微分したもの。−ax²を微分すると−2ax、p0xを微分するとp0。
- よってMR(x)=−2ax+p0。傾きは−2aで、D(x)の傾き−aのちょうど2倍。
動画は、数学が苦手な人は微分を無理に覚えなくてもよく、「MRはDの2倍の傾きの直線になる」という結論だけでも押さえておけば十分戦える、と続けます。図のように、縦軸の切片は共通で、MRは需要曲線より速く下がっていくイメージです。
(補足:切片が共通で傾きが2倍ということは、MRが横軸と交わる点は、需要曲線が横軸と交わる点のちょうど半分の位置になります。たとえばD(x)=100−xなら、MR(x)=100−2xで、MRは x=50 で0になります。)
(補足:なぜMRが需要曲線より下になるのか、直感的にはこう考えられます。独占企業が1個多く売るには、価格を下げなければなりません。しかも、その値下げは追加の1個だけでなく、それまで売っていた分にも及びます。そのため、1個増やしたときの収入の増え方(MR)は、価格(需要曲線の高さ)より小さくなります。完全競争企業は価格が一定なので、MRと価格が一致し、P=MCになるのです。)
独占企業の利潤最大化:MC=MRで量を決め、需要曲線で価格を決める
では、独占企業はどこを目指すのでしょうか。動画によると、独占企業の利潤が最大になるのは限界費用MC(x)と限界収入MR(x)が等しくなる点です。この点の生産量がQMで、グラフ上ではMC曲線とMR曲線の交点で決まります。ここで動画は、聞き手の疑問を取り上げます。
生産量はその交点で決まるとして、価格はどうやって決めるんですか。その交点の高さの価格で売るわけではないですよね。
そこが非常に重要なポイントです。価格PMは、生産量がQMとなる位置から上に線を伸ばして、需要曲線にぶつかった点で決まります。
需要曲線は「消費者がいくらまで払ってもよいか」を示しています。ですから独占企業は、QMだけ売るときに売れる最も高い価格、つまり需要曲線上の価格PMを設定するわけです。動画は、生産量を決める点(MCとMRの交点)と、価格を決める点(需要曲線上)はグラフ上で別の位置にあるので、頭の中でイメージできるようにしておくよう言っています。
設例で確かめる(補足:この数値は説明用に作ったものです)
需要曲線を D(x)=100−x、限界費用を一定のMC=20とします。完全競争ならP=MCより価格20、生産量80です。独占企業はMR=100−2x=20を解いてQM=40で生産し、価格は需要曲線からPM=100−40=60。利潤は(60−20)×40=1,600です。完全競争より少なく作って、高く売っています。
社会全体で見ると損をしている:死荷重
独占企業は利潤が最大になってハッピーですが、社会全体で見るとどうでしょうか。動画は、完全競争市場と独占市場を余剰で比べます。独占価格PMで売られているとき、消費者余剰は需要曲線と価格の間の部分、生産者余剰は価格と限界費用曲線の間の部分です。この2つの合計が、独占市場の社会全体の余剰になります。
一方、完全競争市場の生産量はQ*(需要曲線と限界費用曲線の交点)でした。この場合は、需要曲線と限界費用曲線で囲まれた大きな部分が全体の余剰です。つまり、完全競争のほうが余剰は大きい。独占企業が生産量を減らしたことで、本来得られたはずの余剰の一部が失われます。動画はこの失われた部分を、死荷重(デッドウェイト
図の色で整理すると、青い三角形が消費者余剰、黄色の長方形が生産者余剰、赤い三角形が死荷重です。(この図の設例は限界費用が一定で固定費がないので、黄色の長方形は独占企業の利潤と一致します。)独占企業は生産量をQMに絞って価格を上げ、その結果、赤い部分が社会から消えます。(補足:高い価格のために買えなくなる人が出る、という見方もできます。)
動画は、企業が利潤を最大化する行動が、必ずしも社会全体にとって最適な結果に結びつかない、と説明します。独占の弊害がはっきり見える場面です。
| 先ほどの設例 | 完全競争 | 独占 |
|---|---|---|
| 生産量 | 80 | 40 |
| 価格 | 20 | 60 |
| 消費者余剰 | 3,200 | 800 |
| 生産者余剰(利潤) | 0 | 1,600 |
| 合計の余剰 | 3,200 | 2,400 |
(補足:この設例は限界費用が一定の場合です。完全競争では価格=限界費用で生産者余剰が0になります。独占では合計が3,200から2,400に減り、その差800(=(80−40)×(60−20)÷2)が死荷重です。計算はPythonで検算しました。)
独占的競争:差別化された商品で戦う状態
ここまでは完全な独占でした。現実のビジネスにもっと近いのが独占的競争だと、動画は続けます。動画の説明では、独占的競争とは、多くの企業が差別化された商品で競争している状態です。各企業の製品が十分に差別化されていれば、他と違うので少し高くても買ってもらえます。つまり、自社製品に価格支配力を持てるわけです。
そのため、差別化された製品を扱う企業は、短期的には独占企業のように振る舞えます。動画は、限界収入曲線は需要曲線の2倍の傾きを持つ直線で、MC=MRとなる量だけ生産する、と説明します。短期なら、差別化によるうまみをしっかり受け取れる、というわけです。
しかし、長期になると話が変わります。ここで動画は、聞き手と講師のやり取りで次のように進みます。
そんなに儲かるおいしい市場なら、他の企業が黙っていないんじゃないですか。
まさにその通りです。長期的には新規参入者がどんどん参入してきます。似たような差別化商品を出してくるので、最初に独占的な利益を得ていた企業の需要量は減っていきます。
動画は、この変化を需要曲線が左にシフトすると表現します。お客さんをライバルに奪われ、需要曲線自体が小さくなっていくイメージです。では、新規参入が続くと、需要曲線はどこまでシフトするのでしょうか。聞き手は「利潤が出なくなるまでですか」と答え、講師が「その通り」と応じます。動画によると、最終的に需要曲線は平均費用曲線ACの接線の位置までシフトし、その結果、価格Pと平均費用ACが等しくなります。
P=ACですから、利潤は0です。動画はこれを、差別化によって得られていた優位性が長期的には完全に失われる、短期的なうまみと長期的な厳しい現実、と説明しています。
(補足:動画の「平均費用曲線の接線の位置」は、正確には「需要曲線が平均費用曲線に接する位置」のことです。接点では価格と平均費用が等しく、利潤が0になります。)
設例で確かめる(補足:この数値は説明用に作ったものです)
固定費100、限界費用10(一定)とすると、平均費用はAC=100÷x+10です。参入前の需要を P=50−x とすると、MC=MRより生産量20、価格30、AC15で、利潤は(30−15)×20=300。参入が進んで需要が P=30−x に移ると、生産量10、価格20、AC=100÷10+10=20で、P=ACとなり利潤は0です。このとき需要曲線の傾き−1と、ACの傾き−100÷10²=−1が一致しており、ちょうど接しています。なお接点でも、MR=30−2×10=10=MCが成り立っています。
(補足:動画にない話です。独占的競争の長期均衡では、接点が平均費用の最も低い点より左側になる、と一般に説明されます。この設例でも、ACは x=10 より右でさらに下がります。ただし、この点は動画では触れられておらず、ここでは設例での確認にとどめます。)
最後の問いかけ
動画の締めくくりは、リスナーへの問いかけです。差別化によるうまみのある市場は、いずれ新規参入者によって需要曲線が左にシフトし、最終的に利潤が0に収束します。だとしたら、企業が生き残り続けるには、この「利潤0の重力」をどう振り切り、一時的な独占を生み出し続けなければならないのか。動画は、イノベーションの連続が求められるのかもしれない、と問いかけ、自分のビジネスや学習の視点で考えてみてほしいと呼びかけます。これは動画からの問いかけで、試験の正解として暗記するものではありません。
まとめ
動画の要点
- 完全競争企業はプライス
テイカーで、P=MCで生産する。独占企業はプライス メーカーで、生産量を絞って価格を上げる。 - 需要曲線を直線とすると、MRの傾きはDの2倍(D=−ax+p0のとき、MR=−2ax+p0)。
- 独占企業はMC=MRで生産量QMを決め、価格PMはQMの真上の需要曲線上で決まる。
- 独占では、完全競争より生産量が減り、余剰の一部が死荷重として失われる。
- 独占的競争は、差別化された商品で競う状態。短期は独占企業に近く、長期は参入で需要曲線が左にシフトし、P=ACで利潤0になる。
どれも動画が試験で重要なテーマだと話している部分です。「完全競争はP=MC、独占はMC=MR」「価格は需要曲線で決まる」「独占的競争の長期は利潤0」の3点を、グラフとセットで思い浮かべられるようにしておきましょう。まず動画を聞いて、あとからこのページで復習してください。
動画で聞く
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