市場の失敗
経済学・経済政策 第17回
通勤の電車や、家事・移動の合間にイヤホンで聞いているかもしれない「あなた」への語りかけから、動画は始まります。このページでは動画の流れにそって、市場の失敗の4つの要因、競合性と排除性による財の分類、公共財とフリーライダー、準公共財、共有地の悲劇と対策をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
市場に任せれば、本当にうまくいく?
動画は、通勤電車の中や家事の合間に聞いている「あなた」への語りかけから始まります。今回のテーマは、経済学の市場の失敗という考え方と、公共財などの財の分類です。数式やグラフのイメージが先に立ちやすい経済学も、実は人間や社会の動きがもとになっている、というのが動画の入り口でした。
出発点は完全競争市場という理想のモデルです。市場の動きに任せておけば、最適な資源配分が実現する、つまり必要なところに、いちばん効率よくモノやサービスが行き渡る、と考えます。ところが現実には、必ずしもその通りになりません。最適な配分が実現しない状態を市場の失敗といいます。市場は万能ではない、ということです。
動画は、テキストの範囲での市場の失敗の要因を、次の4つにまとめていました。
動画の中で詳しく掘り下げられるのは、このうち①の公共財です。②〜④は名前の紹介が中心で、動画も「しっかり覚えておいてください」と念を押すにとどまります。
(補足:動画にない話です。②の費用逓減産業は、設備などの固定費が大きく、生産量が増えるほど1単位あたりの費用が下がり続ける産業のことで、電力や水道のように、1社が供給したほうが安くなるため独占になりやすいとされます。③の外部効果は、公害のように、取引の当事者ではない人に影響が及ぶことです。④の情報の非対称性は、中古車のように、売り手のほうが商品の質をよく知っている、といった状況です。なお、市場の失敗の要因の挙げ方は資料によって異なり、独占や寡占などの不完全競争を別に挙げるものもあります。)
財を分ける2つのものさし
公共財をきちんと理解するために、経済学では、世の中の財(モノやサービス)を2つの軸で分類します。動画では、聞き手がこれを「魔法のメガネ」にたとえていました。
- 競合性:ある人が消費すると、別の人が消費できる分が減る性質。自分が使うと他の人の分が減るなら、競合性があります。
- 排除性:対価を払わない人を、使うことから排除できる性質。お金を払わない人をシャットアウトできるなら、排除性があります。
自分が普段買っているものは、この2つの性質を持っているかな、と考えながら聞けばいいんですね。
そうです。動画もそう呼びかけていました。この2つを掛け合わせると、世の中の財は4つに分類できます。
4つの分類を順に見る
表の4つを、動画の例と一緒に確認しましょう。
- 私的財(競合性あり・排除性あり):食料品など。お金を払わないと手に入らず、自分が食べてしまえば他の人は食べられません。私たちが普段買っているものの多くが、これに当たります。
- クラブ財(競合性なし・排除性あり):動画の例は、有料の配信サービスです。会員にならないと見られないので排除性があります。けれど、あなたが見ているからといって、他の人が見られなくなるわけではないので、非競合です。
- 共有資源(競合性あり・排除性なし):動画の例は、水産資源、木材、一般道路です。誰でも勝手に使えるので非排除ですが、魚を獲りすぎたり、道路が混雑したりすると、他の人が使えなくなるので競合性があります。
- 公共財(競合性なし・排除性なし):国防、警察、消防が代表例です。税金を払っていない人だけ守らない、とはできないので非排除。あなたが守られていても他の人の安全が減るわけではないので、非競合です。
(補足:現実の財は、きれいに4つに分かれないこともあります。たとえば、有料配信サービスも、同時接続が増えすぎると混雑します。また、一般道路は混雑しなければ非競合に近く、有料道路は対価を払わない車を排除できるため、クラブ財に近いとされます。分類は、どの面に注目するかによって変わる目安です。)
4つを性質ごとに並べると、次のようになります。
| 分類 | 競合性・排除性 | 動画の例 |
|---|---|---|
| 私的財 | 競合あり・排除あり | 食料品など |
| クラブ財 | 非競合・排除あり | 有料の配信サービス |
| 共有資源 | 競合あり・非排除 | 水産資源・木材・一般道路 |
| 公共財 | 非競合・非排除 | 国防・警察・消防 |
試験でよく出る「準公共財」
動画は、ここで試験のポイントとして準公共財を挙げ、「引っかけ問題で出やすい」と注意していました。動画の説明では、非競合性か非排除性、どちらか一方のみの性質を持つ財をまとめて準公共財と呼びます。つまり、先ほどのクラブ財と共有資源を合わせた呼び方です。競合性も排除性もない、純粋な公共財とは区別します。
試験の注目点:動画の整理
- 公共財=非競合性かつ非排除性(動画では「純粋な公共財」とも)
- 準公共財=どちらか一方だけの性質を持つ財(動画ではクラブ財と共有資源)
(補足:準公共財の範囲は、資料によって定義が異なります。教育や医療のように、公的な供給と民間の供給が混在する財を、準公共財と呼ぶ説明もあります。問題文で定義が示されているときは、その定義にそって考えましょう。なお、「準」は、私的財と公共財の中間にあたる、という意味合いで覚えることもできます。)
公共財:ただ乗りが起きると、過小供給になる
ここからが動画の山場です。なぜ公共財と共有資源が、市場の失敗を引き起こすのか。まずは公共財です。公共財は非競合性と非排除性を持つので、対価を払わずに利益だけを得ようとする人が現れやすくなります。これがただ乗り(フリーライダー)です。自分がお金を出さなくても誰かが供給してくれるなら、ただで使ってしまおう、という心理です。
フリーライダーがいる中で、市場の取引に任せておくと、誰もお金を払わなくなります。その結果、公共財は過小供給になりやすい、というのが動画の説明です。十分な量が供給されないから、市場が失敗するわけです。だからこそ、公共財は国や公的機関によって供給されることが多くなります。聞き手が、政府が税金で警察や消防を維持するのには経済学的な理由があるのですね、と受け、講師も「非常に合理的な理由」だと応じます。
たとえ話:街灯の費用(自作のたとえ)
夜道を照らす街灯を、住民の会費で立てるとします。街灯の明かりは、会費を払わない人だけ照らさない、とはできませんし、誰かが明かりの下を歩いても、他の人の明るさは減りません。すると、「自分は払わなくても、どうせ明るい」と考える人が増え、会費が集まらず、街灯が立たなくなってしまいます。これがただ乗りによる過小供給のイメージです。
それなら、お金を出す人だけが使えるようにすれば、解決しませんか?
それができないのが公共財の特徴です。非排除性があるので、払っていない人を締め出せません。締め出せるなら、それはクラブ財に近づきます。だから、税金のように、みんなから集める仕組みが出てくるわけです。
(補足:動画は「誰もお金を払わなくなる」と説明しましたが、現実には、自発的にお金を出す人もいます。ただ、そうした負担だけでは、社会全体で望ましい量には届かなくなりやすい、というのが過小供給の意味だと整理されます。)
共有資源:自分だけ我慢しても、意味がない
次は共有資源です。水産資源や木材のように、非排除性があって競合性がある財は、市場に任せておくと、みんなが自分の利益を追求します。動画では、聞き手が、自分だけ我慢しても他の人が取ってしまうから、われ先に取ってしまうのですね、と言い換え、講師が「そうです」と応じます。その結果として過剰に消費され、資源が枯渇してしまう。これが共有地の悲劇と呼ばれる現象です。市場に任せると過剰消費になる場合がある、これも市場の失敗です。
(補足:共有地の悲劇は、生態学者ギャレット・ハーディン(Garrett Hardin)が1968年に雑誌『Science』に発表した論文「The Tragedy of the Commons」で広まった言葉です。論文では、誰もが自由に使える牧草地が例にされました。また、共有資源は資料によって「コモンプール財」とも呼ばれます。共有地の悲劇は、他の人の利用が資源を減らす外部不経済として説明されることもあり、次の回の外部効果の話につながります。)
魚を獲りすぎたら、自分たちも困るはずなのに、どうして止められないんでしょう?
自分だけが我慢しても、その分は他の人に獲られてしまうからです。我慢した人だけが損をするので、全員が「それなら先に獲ろう」となってしまいます。動画の説明のとおりです。
共有地の悲劇を、数字でつかむ
動画は数字を使っていませんが、イメージしやすいように、牧草地の設例(自作)で確認します。誰でも羊を飼える牧草地があり、羊が全部でn頭のとき、1頭あたりの収益は(20−n)万円、飼育費は1頭2万円とします。羊が増えるほど草が足りなくなり、1頭あたりの収益が下がる、という想定です。
農家全体の利益は n×(20−n)−2n=n×(18−n) です。これが最大になるのは、n=9頭のときで、利益は 9×9=81万円です。ところが、誰でも自由に飼えるなら、1頭あたりの利益(18−n)がプラスの間は、新しく飼いはじめる農家が出てきます。参入が止まるのは、1頭あたりの利益が0になるn=18頭のときで、全体の利益も18×0=0円になってしまいます。
自分1頭ぶんの得は見えても、羊を増やすことで他の農家の収益を下げてしまうコストは、誰も負担しません。これが、みんなが自分の利益を追うと全体では損になる、という悲劇の中身です。
悲劇はどう防ぐ?
動画によると、テキストに示された解決策は、人々の消費行動をコントロールすることです。具体的には、有償の許可や課税といった方法です。聞き手は、無料だったものにあえてコストを課して過剰消費にブレーキをかけるわけですね、と言い換えます。管理者である政府などが介入してルールを作ることで、悲劇を防ぐ、という説明でした。
先ほどの設例でいえば、1頭あたり9万円の許可料を課すと、1頭あたりの利益は(18−n)−9となり、n=9頭で0になります。参入はそこで止まり、頭数は最適な9頭になります。(許可料の総額は9頭×9万円=81万円で、これは政府の収入になります。)
試験の注目点:動画のロジック
- 公共財:非競合・非排除 → ただ乗り → 過小供給 → 国や公的機関が供給
- 共有資源:競合あり・非排除 → 過剰消費(共有地の悲劇) → 有償の許可・課税
- 動画は、市場の失敗から対策までのつながりを理解することが試験対策だ、と話しています
(補足:共有資源への対策として、有償の許可や課税のほかに、資源の使い方のルールづくりなどが説明されることもあります。動画は、テキストに示された方法として、この2つを挙げています。)
最後の問い:地球規模の共有資源は?
動画の最後は、リスナーへの問いかけでした。もし共有資源が、1つの国の中ではなく、地球全体のものだとしたらどうでしょう。海の資源や空気のような地球規模の共有資源に対して、誰がルールを決め、誰が公平に課税や許可を行うべきなのか。動画では、世界政府のようなものはない、現代社会が直面している最も難しい課題の1つかもしれない、と話していました。国内なら政府が介入できても、国をまたぐと、その担い手がいないという問題です。(補足:現実には、国どうしの条約などの取り決めで管理しようとする試みがあります。)
まとめ
- 完全競争市場の理想が崩れて、最適な資源配分が実現しない状態が市場の失敗。動画が挙げる要因は、公共財、費用逓減産業、外部効果、情報の非対称性の4つ。
- 財は、競合性と排除性で4つに分かれる。私的財、クラブ財、共有資源、公共財。
- 動画では、非競合性か非排除性のどちらか一方だけを持つ財(クラブ財と共有資源)を準公共財と呼んでいる。
- 公共財はただ乗り(フリーライダー)が生まれて過小供給になりやすいので、国や公的機関が供給することが多い。
- 共有資源は過剰消費になり、共有地の悲劇が起きる。対策として、動画は有償の許可や課税を挙げている。
動画で聞く
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