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中小企業診断士 1次試験

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スルツキー分解と価格効果

経済学・経済政策 第3回

経済学・経済政策・ミクロ経済学 00318分52秒2026年3月16日公開

「経済学の勉強、毎日本当にお疲れ様です」。動画はこんな労いの言葉から始まり、スルツキー分解と財の分類を、丸暗記ではなく消費者の心理として理解しようと呼びかけます。このページでは動画の流れにそって、予算線と無差別曲線、4ステップの分解、代替効果と所得効果、上級財・中立財・下級財、ギッフェン財をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

グラフを「頭の中の気持ち」で読み解く

動画は、移動中や家事の合間に耳だけで聞くことを前提に、「スルツキー分解」と「財の分類」を、丸暗記ではなく買い物客の気持ちとして理解しよう、と呼びかけて始まります。価格が変わったとき、私たちの買い物かごの中身はなぜ変わるのか。グラフ上の点の移動ではなく、消費者の頭の中で起きていることとして解きほぐす、という方針です。

動画の流れは次の通りです。このページも同じ順に進みます。

  • 前提の用語:予算線と無差別曲線
  • スルツキー分解の4ステップ(X1、X2、X3の3つの点)
  • 代替効果と所得効果、そして価格効果
  • 所得弾力性による財の分類(上級財・中立財・下級財)
  • 下級財の極端な例、ギッフェン財

前提の用語:予算線は「財布の限界」、無差別曲線は「同じ幸せのライン」

予算線は、動画の言葉でいえば「お財布の限界」です。持っているお金で買える2つの財の組み合わせの限界を、まっすぐな線で表します。たとえば1,000円で、全部牛肉を買うか、全部豚肉を買うか、その間の組み合わせにするか、という限界のラインです。

無差別曲線は、消費者の好みを表す曲線です。聞き手が「満足度の温度計」と言い、講師も「ぴったり」と応じます。たとえば牛肉3単位と豚肉1単位の満足度が、牛肉1単位と豚肉4単位の満足度と同じなら、この2点は同じ無差別曲線の上にあります。曲線上のどこにいても、幸せの度合いは変わりません。

つまり、予算線は「買える範囲の限界」、無差別曲線は「同じだけ幸せなライン」です。この2つを頭に入れてから本題に入ります。

スルツキー分解の4ステップ

動画の設定は、横軸がX財の牛肉、縦軸がもう1つの財の豚肉です。ある日スーパーに行くと、牛肉がぐっと安くなっていました。牛肉の購入量が最終的にどう変わるかを、4つのステップで追います。

ステップ1価格が変わった後の新しい予算線を引く牛肉が安いと予算線が外側へ広がるステップ2新しい予算線に平行で、元の無差別曲線に接する架空の線を引く価格比は新しいまま、満足度は元のままステップ3架空の線と元の無差別曲線の接点を X2 とするX1 から X2 が代替効果ステップ4新しい予算線と、より高い無差別曲線の接点を X3 とするX2 から X3 が所得効果
動画の「魔法の4ステップ」を並べました。

ステップ1:新しい予算線を引く

牛肉が安くなれば、同じ予算でも牛肉をより多く買えます。そのため予算線は、牛肉の軸の方向へ外側に広がります。聞き手は「扇子を片方だけバッと開くようなイメージ」と言い換え、講師は「まさにそれです」と応じます。これが新しい現実の壁です。

ステップ2:架空の線を引く

ここで動画は、聞き手が最初のつまずきを代弁する場面を置いています。

ステップ2では、新しい予算線に平行で、初期の無差別曲線に接する直線を引くんですよね。でも、それは現実には存在しない架空の線です。なぜ、急にこんな線を引くんですか。

そこが多くの受験生がつまずくところであり、経済学のいちばん面白い思考実験の部分でもあります。消費者の頭の中で起きている2つの感情を、スパッと切り離して分析するための線なんです。

動画が挙げる「2つの感情」は、「豚肉より牛肉のほうが割安になったぞ」という気持ちと、「手元のお金が余って、少しお金持ちになった気分だぞ」という気持ちです。消費者はこの2つを同時に抱くので、聞き手が、純粋な割安感とお金持ちになった感を分けるための「メスを入れる作業」が架空の線の役目だと言い換え、講師も「その通りです」と応じます。

架空の線は、「牛肉が安くなった新しい価格比のままで、満足度を元の無差別曲線と同じに保つとしたら、予算はどれくらいで済みますか」というシミュレーションです。新しい予算線と傾きが同じで、元の無差別曲線にピタッと接するところまで、内側にずらした線になります。

ステップ3:X2を置く

元の無差別曲線と架空の線が接する点をX2と置きます。スタート地点X1から架空の点X2までの動きが、純粋な割安感だけを取り出した変化です。

ステップ4:現実に戻ってX3を置く

最後に、ステップ1で引いた現実の新しい予算線と、より高い満足度を示す新しい無差別曲線が接する点をX3と置きます。お金持ちになった気分も味わって、最終的に落ち着く現実のゴール地点です。これで、スタートのX1、架空のシミュレーション地点X2、現実のゴールX3という3つの点がそろいます。

数値で確かめる(補足:自作の設例)

補足です。ここは動画にない、このページ用の設例です。牛肉も豚肉も1単位100円、予算は1,000円とします。満足度(効用)を「牛肉の量×豚肉の量」で表すと、最初は牛肉5単位・豚肉5単位を買うのが最適で、満足度は25です。ここで牛肉が1単位50円に値下がりしたとします。

豚肉牛肉X1X2X3元の無差別曲線(満足度が低い)より高い無差別曲線元の予算線新しい予算線架空の線
数値例のグラフ(豚肉1単位100円、牛肉1単位100円から50円、予算1,000円)。

数値を計算すると、次のようになります。

  • X1:牛肉5単位、豚肉5単位(満足度25)
  • X2:満足度25を保つ架空の予算線上の点。牛肉は約7.07単位、豚肉は約3.54単位。このとき必要な予算は約707円
  • X3:新しい予算線(牛肉は最大20単位)で最適な点。牛肉10単位、豚肉5単位(満足度50)

この設例では、牛肉の購入量は5から約7.07へ(代替効果)、そこから10へ(所得効果)と動きます。割安感で豚肉3.54まで減らし、浮いた約293円(1,000円−約707円)の余裕で、豚肉が5まで戻っています。

代替効果、所得効果、価格効果

3つの点がそろったところで、動画は点と点の差に名前をつけていきます。

0510牛肉の購入量(単位)X1X2X3代替効果+2.07所得効果+2.93価格効果 +5
価格効果=代替効果+所得効果(数値例)。

代替効果:X1からX2

代替効果は、先ほど取り出した純粋な割安感による行動の変化です。グラフでは、同じ無差別曲線の上、つまり同じ満足度の中での動きになります。牛肉が安くなると、相対的に高くなった豚肉を減らして、牛肉に乗り換えるのが合理的、という単純なシフトです。

動画は、ここを「試験で絶対に間違えてはいけない鉄則」と強調します。代替効果では、安くなった財の消費量は必ず増える。つまりグラフ上でX2はX1より右側に来る。これは例外のないプラスの変化だ、という説明です。

(補足:代替効果は、安くなった財の消費を減らす方向には働きません(0以上)。無差別曲線がなめらかに凸なふつうの形なら必ず増え、左右の財をセットでしか使わないL字型の無差別曲線のように角がある場合は0になります。試験では、動画の通り「安くなった財の代替効果はプラス」と押さえて問題ありません。)

所得効果:X2からX3

所得効果は、ステップ2の架空の線から、ステップ1の現実の新しい予算線へ、平行な予算線の間で起きる動きです。割安感はもう考え終わったので、ここでは純粋に「予算が余ったこと」の効果だけを見ます。牛肉が安くなって、お財布に余剰資金が生まれた。実質的に所得が上がったのと同じ状態で、「この余ったお金で何を買いますか」という問いへの消費者の答えが所得効果です。

価格効果:X1からX3

代替効果に所得効果を足し合わせた、スタートからゴールまでのトータルの変化が価格効果です。

ここまでの整理

  • 代替効果=X1からX2(割安感)
  • 所得効果=X2からX3(お財布の余裕)
  • 価格効果=X1からX3(代替効果+所得効果)

(補足:ここで動画が「スルツキー分解」と呼んでいる手順は、元の無差別曲線に接する架空の線を使うものです。資料によっては、この方法を「ヒックス分解」と呼び、スルツキー分解は「新しい価格のもとで、元の購入点X1がちょうど買える所得」にそろえて分ける方法として区別します。資料により、前者もスルツキー分解の名前で説明されることがあります。呼び名は資料により異なるので、問題文の指示や図に従って考えてください。設例(自作)で後者を計算すると、新しい価格(牛肉50円)ではX1の購入に750円かかり、その線上の牛肉は7.5、代替効果は+2.5、所得効果も+2.5で、合計は同じ+5です。)

所得弾力性で財を分ける

余ったお小遣いをどう使うか。その動きに人間の欲望が出る、と動画は続けます。経済学では、所得の変化に対する需要の反応の度合いを所得弾力性と呼び、その違いで財を上級財、中立財、下級財の3つに分けます。

マイナス01所得弾力性下級財所得が増えると減る中立財ちょうど0上級財(正常財)0より大きい必需品0〜1の間奢侈品(贅沢品)1以上動画の分類
所得弾力性で財を分けると、動画の3分類になります。

上級財(正常財)

所得弾力性が0より大きい財です。お財布に余裕ができたら、もっと買いたくなります。所得効果で消費量が増えるので、グラフではX3がX2よりさらに右に来ます。

動画は上級財をさらに2つに分けます。所得弾力性が1以上のものが奢侈品(贅沢品)で、例はボーナスが出たので豪華なディナーに行く、というケースです。0より大きく1より小さいものが必需品で、給料が上がったので、普段食べるお米を少し良いブランド米にする、というたとえが出ます。これらの例は聞き手が挙げ、講師が「そうですね」と応じる形です。どちらも、お金があるほど消費が増える点では同じです。

中立財

所得弾力性がちょうど0の財です。所得に関わらず、常に一定の消費が行われます。所得効果が0なので、X3とX2は同じ位置になります。例はトイレットペーパーで、聞き手が、年収が10倍になっても、1回に10倍の長さを巻き取ることはありませんね、とたとえます(補足:所得弾力性がぴったり0の財は理論上の理想形で、現実の財はごくわずかでも変化します)。

下級財

所得弾力性が0より小さい、つまりマイナスの財です。お財布に余裕ができると、かえって買わなくなります。所得効果がマイナスに働くので、X3はX2より左に引き戻されます。動画の例は、安いビール系飲料の「第3のビール」です。給料前は節約のために買っているが、給料が上がったら普通のビールにする。お金持ちになった結果、消費量が減る財です。

動画はここから、ビジネスへの示唆にも触れます。クライアントの商品が下級財の性質を持つなら、景気が悪くなった今こそチャンスだと助言できる、という流れです。

(補足:これは動画の単純化です。下級財は「所得が減ると需要が増える財」ですが、実際の景気後退では、所得以外の事情も同時に動きます。下級財だから不況で必ず売れる、とは言い切れません。ここは考え方のヒントとして受け取ってください。)

価格効果がマイナスになるのは?:ギッフェン財

ここまでをまとめると、動画では代替効果は必ずプラスで、所得効果の符号は財の種類で変わります。通常の下級財では、所得効果で少し消費が減ってX3は左に戻りますが、最初の代替効果のプラス幅のほうが大きい。だから、X1からX3のトータルはプラスで、値段が下がれば全体としては少し多く売れます。

しかし動画は、常識を覆すレアケースがあると言います。下級財の中でも、さらに極端な性質を持つギッフェン財です。動画は「超下級財」と呼びます(試験用語ではなく、動画の言い換えです)。所得効果のマイナス幅が、代替効果のプラス幅を完全に上回ってしまう、非常に珍しいケースです。

牛肉の購入量(右ほど多い)通常の下級財X1X2代替効果 大きいX3ギッフェン財X1X2X3所得効果が大きく戻す
下級財でも、X3がX1より左に来るのはギッフェン財だけです。

動画の説明では、値段が下がって割安だから買おうと一瞬思うものの、同時に実質的にお金持ちになった気分になり、「こんなに余裕があるなら、こんな安物はやめて、もっと良いものを買おう」という力が勝ってしまいます。その結果、X3は代替効果を経たX2より左に動くだけでなく、スタート地点のX1よりも左に来ます。価格が下落したのに、消費量が減る。これがギッフェン財です。

動画はここで、売上が落ちているからさらに値下げしましょうという提案は、致命的なミスになりうると述べます。値下げするほど「こんな安物は買わない」という強いマイナスの所得効果が働き、さらに売れなくなる、という理屈です。試験でも、直感に反するひっかけとして出やすいので、「ギッフェン財は価格が下がると価格効果がプラスになる」という選択肢が出たら、マイナスだと見抜けるようにしておく、というのが動画の注意点です。

(補足:ギッフェン財は下級財の一種ですが、下級財ならすべてギッフェン財になるわけではありません。所得効果のマイナスが代替効果のプラスを上回る場合に限られます。また、現実に存在するかは議論が続いています。中国の極貧家庭でコメがギッフェン財的に振る舞ったとする2008年の研究(JensenとMiller)がある一方、かつて例とされたアイルランド飢饉のジャガイモは後の研究で否定されています。試験では理論上の例外として扱われます。動画の「値下げは絶対にやってはいけない」は、あくまでそのような商品だった場合の話です。)

まとめ

動画のまとめ

  • 価格効果は、代替効果と所得効果を合わせたもの。
  • 上級財、中立財、そして代替効果が所得効果より大きい通常の下級財までは、価格効果がプラス。値段が下がればトータルで消費量は増える。
  • 所得効果のマイナスが代替効果のプラスを上回るギッフェン財だけは、価格効果がマイナスになる。
  • 架空の線は、割安感とお金持ちになった感を切り離すための思考実験。

動画の最後には、デジタル社会へのたとえが出てきます。無料アプリはお金の面では究極の低価格ですが、広告で私たちの時間という別の予算を奪っている。お金や時間という予算に余裕ができたとき、無料アプリを捨てて有料のプレミアム版に移る。そう考えると、無料アプリはデジタル時代の下級財、あるいはギッフェン財に見えてくる、という問いかけです。

(補足:これは動画が出した見方で、試験の論点ではありません。無料は価格が0なので、価格が下がって代替効果と所得効果が生まれる、という本文の分解とは同じ形では当てはめにくい点に注意してください。お金だけでなく時間やデータも予算と考える発想は、身近な買い物を経済学のレンズで見直す練習として使えます。)

勉強に行き詰まったら、自分の買い物のレシートやスマホのアプリを見ながら、「これは上級財かな、下級財かな」と考えてみるのも立派な試験対策になります。

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