生産形態の分類とポイント『受注・見込✕多種・少種』
運営管理 第53回
「注文を受けてから作るべきか、それとも需要を見越して先に作っておくべきか。たくさんの種類の製品を少しずつ作るべきか、それとも少ない種類の製品を大量に作るべきか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、受注生産・見込生産・多種少量生産・少種多量生産の4つの方式と、それぞれの課題と打ち手(モジュール化、デカップリングポイント、グループテクノロジーなど)をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
注文を受けてから作る?先に作る?
動画は、診断士としてコンサルティングする場面を想像してほしい、という問いかけで始まります。一見シンプルな「いつ作るか」「何をどれだけ作るか」の選択が、会社の効率、コスト、顧客満足度まで左右する分かれ道になる、という話です。
動画は、この選択の軸になる4つの生産方式を取り上げます。それぞれの特徴とメリットに加えて、抱える課題とその打ち手までをセットで押さえるのがコツだとされます。
- 受注生産と見込生産:いつ作るか(時間の軸)。
- 多種少量生産と少種多量生産:何をどれだけ作るか(種類と量の軸)。
JIS Z 8141(生産管理用語。2001年版の本文で確認)も、生産形態を「生産時期(見込生産・受注生産)」と「生産品種・生産量(多種少量・中種中量・少種多量・変種変量)」などで区分しています。動画の2軸は、この区分に沿っています。
受注生産:お客さんの注文から始める
受注生産は、その名のとおり、お客さんから「こういうものが欲しい」という注文(オーダー)を受けてから生産を始める方式です。オーダーメイドのスーツや、オプションを細かく選ぶ新車の購入が分かりやすい例です。JISの定義でも「顧客が定めた仕様の製品を生産者が生産する形態」とされています。
動画によると、受注生産には2つの顔があります。
- 個別受注生産:注文のたびに設計図を書き起こす、一品物の世界。造船や、特定の工場向けの特殊な機械などです。
- 繰り返し受注生産:基本的な設計はすでに固まっていて、注文が入るたびに製造ラインを動かす方式。
(補足:図の下2段は動画にない整理です。専門媒体は、受注と生産の関係から、個別受注生産(ETO=Engineer to Order)、繰り返し受注生産(MTO=Make to Order)、受注組立生産(ATO=Assemble to Order)、見込生産(MTS=Make to Stock)の4つに分けます。受注組立生産は、部品までを見込みで作って在庫し、注文後に組み立てて出荷する形です。略称の対応は資料で違うので、後ろの補足で整理します。)
受注生産の課題は「待たせること」
どちらの方式でも、注文を受けてから作る以上、お客さんを待たせてしまいます。リードタイム(注文から納品までの時間)をどう短くして納期を守るかが最大の腕の見せどころで、納期は企業の信用問題に直結する、と動画は言います。知恵が2つ紹介されます。
1つめは設計要素のモジュール化です。機能ごとに完成させた部品(モジュール)をいくつか用意しておき、お客さんがパズルのように組み合わせて自分だけの製品を作れるようにします。例はパソコンのBTO(Build to Order)で、CPUやメモリを選ぶだけで自分のパソコンが完成するので、ゼロから設計するよりずっと早い、という説明です。
(補足:JIS Z 8141の「モジュール生産」は「部品又はユニットの組合せによって顧客の多様な注文に対応する生産方式」です。)
2つめは部品の共通化です。見た目の違うA製品とB製品でも、中のネジや基板の一部を同じものにします。すると部品の種類が減って管理が楽になり、まとめ買いでコストも下がり、現場も混乱しにくくなります。どちらもリードタイム短縮とコスト削減に有効です。
モジュール化と部品の共通化は、どう違うのですか。
モジュール化は、部品の組合せでお客さんの注文に応える工夫です。共通化は、違う製品で同じ部品を使い回して、部品の種類そのものを減らす工夫です。目的はどちらも、早く安く作ることです。
見込生産:需要を予測して先に作る
お店で「これください」と言えばその場で手に入る製品は、コンビニのおにぎりのように、注文を受けてから作るわけにはいきません。これが見込生産で、メーカーが需要を予測して先に作っておく方式です。お菓子、ジュース、家電製品のほとんどがこれにあたります。JISでは「生産者が市場の需要を見越して企画・設計した製品を生産し、不特定な顧客を対象として市場に出荷する形態」です。
予測が当たれば、お客さんはすぐ手に入れられ、企業も作った分だけ売れます。ところが外れると、作りすぎた在庫と売り逃しの両方に苦しみます。動画は、アパレル業界の記事にある「予測の適中率は良くて50%、コイン投げと変わらない」という言葉を紹介します(この数字の出どころは確認できませんでした)。見込生産の課題は、過剰在庫と機会ロスのリスクです。
デカップリングポイント:どこまで予測で作る?
予測が外れる前提なら、闇雲に予測するのではなく、外れをどう吸収するかを考えるべきです。そこで出てくるのがデカップリングポイントで、動画は「どこまでは予測で作っておき、どこから先はお客さんの注文に応じて作るか、という戦略的な在庫の置き場所」と説明します。
動画の例はペンキ屋さんです。何百色ものペンキを完成品の缶で在庫すると、売れ残りのリスクが大きすぎます。そこで、色の元になる白いベースと顔料だけを中間在庫として持っておきます。お客さんから「この絶妙な青が欲しい」と注文が入って初めて、その場で機械を使ってベースと顔料を混ぜ、完成品を渡します。この混ぜる直前の時点がデカップリングポイントです。
こうすると、需要の変動に柔軟に対応しながら、最終製品のリードタイムも大きく短縮できます。見込生産と受注生産の「いいとこ取り」です。これを工場・配送センター・店舗のどこに置くかは、競争力を大きく左右する経営判断だと動画は強調します。
(補足:専門媒体は、その点が下流に行くほど注文から出荷までは短くなる一方、在庫量は増える、これが「納期と在庫のトレードオフ」の構造だと説明します。完全な受注生産はまれで、途中まで見込みで作るのが普通だともあります。)
補足:2つの方式は二者択一ではない
受注生産と見込生産は、きれいに二分できるとは限りません。専門媒体のMONOistの連載は、完全な受注生産はまれで、部品や半製品までは見込みで作っておき、注文を受けてから仕上げる形が多いと説明しています。動画のデカップリングポイントも、どこまでを見込みで進め、どこから注文に応じて作るかを分ける考え方です。
以下は筆者の見方で、動画の主張でも出題実績に基づくものでもありません。事例問題で企業の生産方式を問われたときは、「どこまでを見込みで進め、どこから注文を受けているか」に注目すると整理しやすいかもしれません。
多種少量生産:きめ細かな対応と、複雑さとの戦い
ここから視点を、種類と量の軸に移します。多種少量生産は、たくさんの種類の製品を、それぞれ少しずつ生産する方式です(JISは「多品種少量生産ともいう」と書いています)。小ロットの印刷を請け負う印刷会社や、季節ごとに限定ビールを次々と作るクラフトブルワリーが例です。きめ細かく応えられるのが最大の強みで、受注生産とは相性がよい、と動画は言います。
しかし工場の中は大変です。この方式の最大の課題は複雑さです。部品や材料の種類が多く、工程も製品ごとに違うので、工場内のモノの動きが蜘蛛の巣のように錯綜します。隣の機械が製品B待ちで止まっていたり、注文の変動が激しく、残業続きの部署と手持ちぶさたの部署が同時に出たりと、能力のアンバランスも起きやすくなります。
グループテクノロジー:混沌の中から類似性を見つける
この混沌に秩序をもたらす手法がグループテクノロジー(GT)です。一見バラバラな多種多様な部品の中から、形状が似ているもの、加工方法が似ているものを探し出して、いくつかのグループに分けます。たとえば「丸くて穴があいた部品のグループ」や、「板状で曲げ加工が必要な部品のグループ」といった具合です。
グループごとに専用の機械を置き、同じ製品を流すように生産します。巨大な工場の中に、整然とした小さな専門工場(セル)がいくつも生まれ、モノの移動距離が短くなって生産性が上がります。動画はこれを、多種少量生産の複雑さを疑似的に少種多量生産のシンプルさに近づける発想だと説明します。JIS Z 8141の定義も「多種類の部品を、形状・寸法・素材・工程などの類似性に基づいて分類し、多種少量生産に大量生産的効果を与える管理手法」です。
でも、最初のグループ分け自体がものすごく大変そうです。分類だけで数年かかって、市場の変化に乗り遅れたら本末転倒では。
鋭い指摘です。GTは万能薬ではなく、導入には相応の分析力と時間のコストがかかります。どこまでの類似性なら同じグループとみなすか、その匙加減がコンサルタントの腕の見せどころになります。
(補足:まとめた部品の集まりを「部品ファミリー」、加工に使う機械の組を「機械セル」と呼ぶ説明もあります。セル生産は別の回で扱います。)
少種多量生産:規模の経済と、人の問題
その対極にあるのが少種多量生産です。少ない種類の製品を、とにかくひたすら大量に作る方式で、特定のサイズのネジだけを延々と作る工場や、飲料のボトリング工場が例です。最大のメリットは規模の経済です。作れば作るほど、製品1つあたりの固定費(工場の減価償却費など)が薄まって、コストが下がります。専用の高速機械や、材料の大量発注による安い仕入れも強みです。
人の面にも特徴があります。作業が徹底的に単純化・細分化されるので、専門的なスキルを持たない担当者でも作業ができます。一方で、働く人にとっては、作業が非常に単調になりがちです。動画は、チャップリンの映画『モダン・タイムス』(1936年)のベルトコンベアの場面を引き合いに、単調な作業はモチベーション低下やヒューマンエラーの原因にもなる、と指摘します。作業のローテーションや改善提案の奨励など、働きがいを高める工夫が求められます。
見方を変えると、この徹底した単純さは、自動化やロボット化を容易にしたともいえます。動画は、テスラが巨大な鋳造機(ギガプレス)を導入して、何十個もの部品でできていた車体後部を1つの部品で作る例を挙げ、少種多量の考え方をテクノロジーで究極まで進めた例だと言います。少種多量生産は自動化との親和性が高く、単純作業を機械に任せて品質を安定させ、人をより創造的な仕事に振り向けられる、という整理です。
(補足:報道では、Model Yの後部下部車体(リア・アンダーボディ)が従来約70部品から1つの鋳造品になったと説明されます。テスラ自身は前後を合わせて70点超と説明する資料もあり、数え方に揺れがあります。)
試験の注目点:少種多量はフレキシビリティが低い
少種多量生産は、工程の自動化がしやすい反面、品種の変化に対するフレキシビリティ(柔軟性)は低く、需要変動に弱い、というのが基本です。逆に、品種の変化に柔軟なのは多種少量生産です。予備校教材は、平成28年第2問として「少種多量生産は品種の変化に対するフレキシビリティが高い」を誤りの選択肢に挙げています(年度・問番号は教材の表記で、原本は未確認)。
4つを「対比」で、課題と対策をセットで覚える
動画のまとめは、時間の軸(受注か見込みか)と種類と量の軸(多種少量か少種多量か)が作るマトリックスで立体的に捉えることです。試験対策では、4つの方式を対比で覚え、最大の課題と代表的な対処策をセットで記憶します。
| 方式 | 最大の課題 | 代表的な対策 |
|---|---|---|
| 受注 | リード | モジュール化、 |
| 見込 | 過剰在庫・ | デカップリング |
| 多種 | 複雑さ | グループ |
| 少種 | 単調さ、 | 自動化、 |
このフレームワークがあれば、事例問題でもまず「この会社は4つのうちどのタイプか」という切り口で分析を始められます。現場で企業の現状を把握する武器にもなる、と動画は言います。
補足:2つの軸の対応と、資料による言い方の違い
ここからは動画にない補足です。まず2つの軸の関係です。予備校教材は、受注生産は注文ごとに仕様や納期が違うので多品種少量・個別生産に、見込生産は少品種多量・連続生産になることが多い、と整理しています。個別・ロット・連続生産との対応は別の回で扱います。
ただし「多い」という傾向で、決まりではありません。中小機構のJ-Net21には、多品種少量の精密プレス部品メーカーの事例があります。受注の頻度とロットサイズで製品を4つに分け、多頻度・小ロットの製品は、受注のたびに段取りをすると赤字が膨らむので在庫で対応し、少頻度の製品は受注生産で対応します。多品種少量の工場でも、製品ごとに受注と見込みを使い分けるわけです。JISも大量生産を「見込生産によって複数品種の製品を大量に低価格で生産する形態」としています。
次に、受注生産まわりの呼び名です。資料によって、略称と中身の対応が違います。
| 呼び名 | 動画・専門媒体 | 資料による違い |
|---|---|---|
| 個別受注 | 注文後に | 「受注設計生産」とも。 |
| 繰り返し | 設計済みで | BTOを |
| 受注組立 | 部品まで | デルのBTOを |
JIS Z 8141(2001年版)には「デカップリングポイント」「受注設計生産」「受注組立生産」「繰り返し受注生産」の語が見当たらず、「少種多量生産」も区分名だけで定義はありません。デカップリングポイントは、海外の研究では顧客注文デカップリングポイント(CODP)といい、Fraunhofer研究所の論文は、予測に基づく工程と顧客注文に基づく工程の境目にある、最後の在庫の置き場所という趣旨で説明します。動画が日本語で「分離点」とも呼ぶという点は、確認できた資料に見当たらず、専門媒体は「カップリング・ポイント」「在庫ポイント」と書いていました。
動画の最後の問い:マスカスタマイゼーションは第5の方式?
動画は最後に、マスカスタマイゼーションを挙げます。好きな色や素材を組み合わせて自分だけのスニーカーを注文できるサービスのように、受注生産の要素と、大量生産の効率を追う少種多量の要素を合わせ持つように見えます。4つの分類のどこに入るのか、それとも「第5の生産方式」なのか。動画は答えを出さず、自分なりの答えを考えてみてほしい、と問いかけて終わります。
(補足:正解のある問いではありません。事典類では、マスカスタマイゼーションは「大量生産に近い生産性を保ちつつ、個々の顧客のニーズに合う商品・サービスをつくること」(Tseng&Jiao、2001)と定義され、用語は1987年にスタン・デービスが提唱したとされます。製品設計ではモジュール設計と、最終仕様を後から決める遅延差別化を併用する戦略だと説明されます。この回の言葉でいえば、部品のモジュール化と、ペンキ屋さんのように最後の仕様決定を注文後に回す考え方の組合せで、受注組立生産に近い発想です。この整理は筆者の見立てで、資料にそう書かれているわけではありません。)
まとめ
この回のポイント
- 生産形態は時間の軸(受注生産・見込生産)と種類と量の軸(多種少量・少種多量)で整理する。
- 受注生産の課題はリードタイムの長さ。対策はモジュール化と部品の共通化。
- 見込生産の課題は過剰在庫と機会ロス。対策はデカップリングポイントの設定。
- 多種少量生産の課題は複雑さ。対策はグループテクノロジー(導入には分析の手間がかかる)。
- 少種多量生産の強みは規模の経済。課題は作業の単調さと需要変動への弱さ。対策は自動化と働きがいの向上。
- 事例問題では、まず「4つのうちどのタイプか」を考え、課題と対策をセットで答える。
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