中小企業の海外展開、攻めと守りの助言術
事例Ⅰ 第48回
「海外展開の論点、知識としては持っているのに、いざ与件文で出てきたときに『これ使うところだ』って気づけない」。動画は、こんな声から始まります。このページでは動画の流れにそって、与件文の合図の見つけ方、効果と課題の2つの箱への整理、効果と課題プラス対応をセットにした解答の型、事例Ⅰらしい人・組織への着地、やりがちな失敗と本番のチェックポイントをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
知識はあるのに、与件文で気づけない
動画は、こんな悩みから始まります。海外展開の論点を知識としては持っているのに、いざ与件文に出てきたとき「これ使うところだ」と気づけない。聞き手も「海外展開の効果とか課題とか、一通り言えるんですけど、本番でどこに反応すればいいのか正直自信ないです」と打ち明けます。
これに対して講師は、与件文の中にはとても分かりやすい合図があると言います。ある種の言葉が出てきたら、もうほぼ確実にこの論点を使う場面だ、というのです。そこで動画は、合図の見つけ方から、実際にどう解答へ落とし込むかまでを通しで整理していきます。このページも、その流れにそってまとめました。
- 設問の聞かれ方と、事例Ⅰらしい切り口
- 与件文の3種類の合図(動機・課題・効果)
- 効果の箱と課題の箱への整理のしかた
- 設例で拾い方を練習し、解答の型に流し込む
- やりがちな失敗と、本番のチェックポイント
2次試験は、知っていることを書く試験というより、与件文のサインを拾って答案の形にする試験です。この動画は、まさにその「拾い方」と「形にする型」を扱っています。
どんな聞かれ方をするのか
聞き手が最初に尋ねたのは、事例Ⅰでこの論点が出るとき、どういう聞かれ方が多いのかでした。講師が典型として挙げたのは次の3つです。
- 「海外展開すべきか」
- 「海外進出にあたっての課題と対応を助言せよ」
- 「海外展開が国内事業にもたらす効果を述べよ」
聞き手が整理したように、効果を聞かれるパターンと、課題への対応を聞かれるパターンの両方があります。あとで見るとおり、動画は効果と課題を2つの箱に分けて整理します。聞かれ方が違っても、まずこの2つの箱を頭に置いて与件文を読む、という使い方になります。
効果を聞かれるパターンと、課題への対応を聞かれるパターン、両方あるんですね。
そうなんです。しかも事例Ⅰは組織・人事の話が軸になる事例なので、聞かれ方だけでなく、切り口にも特徴があります。
事例Ⅰらしい切り口は「人・組織」
講師によると、事例Ⅰは組織・人事の話が軸になる事例なので、海外展開もただの売上拡大策としてではなく、人材育成、組織の国際化、国内事業の高度化にどうつながるか、という切り口で問われやすくなります。
単に「海外に出て儲かる」じゃなくて、組織や人がどう変わるかというところまで意識するってことですね。
その通りです。海外展開が出てきたら、売上の話だけで終わらせず、必ず「この会社の人・組織にどう効くか」まで考える癖をつけておくといいです。
与件文を読み始める段階から、売上の話と人・組織の話、両方にアンテナを張っておく感じですね。
そうです。読み始めの時点でその意識があるかどうかで、拾える情報の量がかなり変わってきます。
海外展開を見る2本のアンテナ
- 売上・市場の話:新しい市場や取引先が得られるか
- 人・組織の話:人材育成、国際化、国内事業の高度化にどう効くか
与件文の3種類の合図
では、与件文のどんな一文が出たら、海外展開の論点だと気づけばいいのか。講師はいくつかのパターンを挙げ、聞き手は最後にそれを「動機のサイン、課題のサイン、効果のサインの3種類」と整理しました。
動機のサインは、「国内市場が縮小している」「新たな取引先を開拓したい」という記述です。海外で新しい市場や取引先を得ようとする動機を示しています。
課題のサインは3種類あります。「現地の人材が育たない」「現地を任せられる管理者がいない」は、現地マネジャー層が不足しているという課題。「現地の賃金が上がってきた」は賃金コストの上昇。「品質が安定しない」は品質管理の難しさ、という課題のサインです。
効果のサインは2種類。「国内では高付加価値品に集中したい」という記述は、低付加価値のものを海外に移して国内は高付加価値化する、という変革のサインです。「若手に国際経験を積ませたい」という記述は、従業員の国際化やキャリア形成という効果のサインになります。
| 種類 | 与件文の記述 | 読み取り |
|---|---|---|
| 動機 | 国内市場が縮小している | 新市場を得たい |
| 動機 | 新たな取引先を開拓したい | 取引先を得たい |
| 課題 | 現地の人材が育たない | 現地 |
| 課題 | 現地の賃金が上がってきた | 賃金コスト上昇 |
| 課題 | 品質が安定しない | 品質管理の困難 |
| 効果 | 国内では高付加価値品に集中したい | 国内の高付加価値化 |
| 効果 | 若手に国際経験を積ませたい | 国際化・キャリア形成 |
けっこう具体的に読み分けられるんですね。つまり、動機のサイン、課題のサイン、効果のサインと、大きく3種類の合図を拾えばいいんですね。
そうです。この合図さえ拾えれば、あとは整理して型に流し込むだけなので、まずはこの読み分けを体に染み込ませてほしいです。
頭の中の整理:効果の箱と課題の箱
合図を拾ったあと、頭の中ではどう整理するのか。講師の答えは、まず大きく「効果」と「課題」の2つの箱に分ける、というものです。
効果の箱に入るのは、次の5つです。
- 国内では持てなかった新たな取引先や市場の開拓
- 国際企業としてのブランド価値の向上
- 低付加価値品を海外へ移し、国内を高付加価値品の製造に集中させること
- 海外で得た収益の国内事業への再投資
- 従業員の国際化やキャリア形成を通じた後継者・幹部の育成
課題の箱に入るのも5つです。
- 現地マネジャー層の不足
- 現地労働者の賃金コスト上昇
- 品質管理の困難
- 現地でのさらなる販路拡大
- 現地の税制や法制度の変化
全部覚えて全部書くというより、与件文がどれに触れているかを拾う、という感覚ですか。
そうです。事例ごとに触れられている数は違うので、与件文がどの効果・どの課題に触れているかを拾って、効果を伸ばして課題に手を打つ、という形に組み立てるのが整理のコツです。
ここは大事なところです。5つずつ、合計10項目を暗記して全部を無理に当てはめるのではありません。与件文に出ている分だけを確実に拾い、効果と課題のバランスで答案を組み立てる。聞き手も「出ている情報を漏れなく拾うことのほうが、全部暗記して当てはめようとするより大事なんですね」とまとめていました。2つの箱は、与件文の情報が迷子にならないための整理棚、と考えるとよさそうです。
設例で拾い方を練習する
講師は、こんな会社を例に拾い方を示します。国内の主力商品が成熟して伸び悩んでいて、海外の新しい市場に取引先を見つけたいと考えている、という設定です。
この設定なら、まず効果の箱で新規取引先の開拓が拾えます。そこに、海外で得た利益を国内の設備投資に回したい、という記述があれば、収益の国内再投資という効果も拾えます。一方で、現地に任せられる管理者がいないという記述があれば、課題の箱の現地マネジャー層の不足として拾います。
さらに、この設定でもし「品質が安定しない」という記述まで出ていたら、それも現地の品質管理の課題として、対応策とセットで拾っておきます。
効果と課題、両方の箱に振り分けながら読んでいく感じですね。イメージがつかめました。
一つの設定の中でも、複数の効果や課題をまとめて拾えることがあります。課題を拾ったら、その場で対応策も考えておくのがポイントです。
答案の型:効果と課題と対応をセットで
整理ができたら、解答は型に流し込みます。講師が示した型は、効果と課題プラス対応をセットにしたものです。
講師が示した型のイメージ
「①海外展開により、新市場開拓や国内の高付加価値化、人材の国際化といった効果が期待できる。②一方で、現地マネジャー層の不足や品質管理の困難といった課題があるため、現地管理者の育成・派遣や品質管理体制の整備で対応する」
効果だけじゃなくて、課題とその対応まで書く、という型なんですね。
はい。しかも事例Ⅰは組織・人事の事例なので、特に「海外経験を通じた幹部・後継者の育成」という組織・人事の効果に結びつけると評価されやすいです。
聞き手が「事例Ⅰらしく人の話に着地させるのがポイントなんですね」と確認すると、講師はこう言います。売上の話だけで終わらせず、最後は人と組織の話に戻す。これが事例Ⅰでこの論点を使うときの一番のコツだ、と。
(補足:動画にない書き方の例です。先ほどの設例に合わせると、たとえば「海外展開により新規取引先を開拓でき、海外収益を国内投資に再投資できる。一方、現地管理者の不足や品質の不安定さには、管理者の育成・派遣と品質管理体制の整備で対応し、幹部育成にもつなげる。」のように、効果、課題、対応、人への着地を一続きにできます。字数は設問の指定に合わせて調整してください。)
やりがちな失敗3つ
聞き手が「やりがちな失敗はありますか」と尋ねると、講師は3つ挙げました。
1つ目は、効果だけを並べて、課題への対応を書かないパターンです。効果を書いて満足してしまい、人材・品質・法制度といった課題側に触れずに終わってしまうのが一番多い、と講師は言います。
2つ目は、「コストが安いから海外へ」という理由だけに寄ってしまうパターンです。賃金コストが上がっていくという現実、つまり課題側を見落とします。低コストだけを理由に挙げると、賃金が上がった後にどう対応するのかという視点が抜けて、解答全体の説得力が弱くなります。
3つ目は、海外展開を国内事業と切り離して論じてしまうパターンです。国内の高付加価値化や人材育成といった、国内へのプラス効果を落としてしまいます。海外の話だけで完結させず、必ず国内にどう跳ね返るかまで書くことが大事です。
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 効果だけ並べる | 課題への対応が抜ける | 課題と対応もセットで |
| 低コストだけが理由 | 賃金上昇を見落とす | 上昇後の対応まで書く |
| 海外だけで完結 | 国内への効果が落ちる | 国内への跳ね返りを書く |
コストの安さだけで押し切らず、その先で起きる変化まで見据えておく必要があるんですね。
そうです。しかも3つとも、2つの箱のどちらかを落としている、という共通点があります。効果と課題、国内と海外、両方を見る意識が大事です。
本番のチェックポイント3つ
最後に聞き手が、本番でこの論点を使うときのチェックポイントをまとめてほしい、と頼みます。講師が挙げたのは3つです。
動画が挙げたチェックポイント
- 与件文で「市場縮小」「新規取引先」「現地人材」「賃金上昇」「品質」「高付加価値」「国際経験」といった記述を見つけたら、この論点だと気づく
- 効果と課題の2つの箱に振り分ける
- 解答では効果と課題プラス対応をセットで書き、事例Ⅰなら人材育成の効果に着地させる
講師は「この3つを押さえておけば、本番でも迷わず使えると思います」と言います。聞き手も「効果と課題を分けて拾って、対応までセットで書いて、最後は人の話に戻す」と自分の言葉にまとめていました。
まとめ
動画の整理
- 海外展開は、「海外展開すべきか」「課題と対応を助言せよ」「国内事業への効果を述べよ」といった形で聞かれる
- 事例Ⅰは組織・人事が軸なので、売上の話だけでなく、人材育成・国際化・国内事業の高度化への効き方まで考える
- 与件文の合図は3種類:動機(市場縮小・新規取引先)、課題(現地人材・賃金上昇・品質)、効果(高付加価値化・国際経験)
- 整理は効果5つ・課題5つの2つの箱。全部を当てはめず、与件文に出ている分だけを拾う
- 解答は効果と課題プラス対応をセットにし、最後は幹部・後継者の育成など人と組織の効果に着地させる
- 失敗は3つ:効果だけで終わる、低コストだけが理由、国内への効果を落とす
動画の最後で、講師は「それができれば、海外展開の論点は十分に得点源にできます」と話します。知識として効果と課題を言えることと、与件文の合図を拾って答案の形にできることは別です。合図を見つける、2つの箱に振り分ける、セットで書いて人の話に戻す。この3つの動きを体に入れておけば、本番で「これ使うところだ」と気づけるはずです。
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