変革の反発・混乱・対立をほどく実行のマネジメント
事例Ⅰ 第43回
「変革の必要性はもう社内で共有できている、なのに実際に進めようとすると、なぜか現場が動いてくれない」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、実行段階で起きる抵抗・混乱・対立の切り分け、与件文のサイン、問題ごとの打ち手、答案の書き方、やりがちな誤答をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
必要性は共有できたのに、現場が動かない
動画は、こんな場面から始まります。変革の必要性はもう社内で共有できている。なのに、実際に進めようとすると、なぜか現場が動いてくれない。聞き手も「危機感は伝わっているはずなのに、いざ実行段階に入ると、急に空気が重くなる感じ、ありますよね」と共感します。講師の答えは、「変革は動かし始めた瞬間から、また別の壁にぶつかります」というものです。
聞き手は、前に扱った「必要性の認識から実施・定着までの大きな流れ」とは違う話なのかを確かめます。講師によると、あれは変革全体の大きな順序の話でした。今回扱うのは、その実施段階、実際に動かす局面でこそ起きる問題です。全体の順序ではなく、動かし始めてから出てくる障害への対処が主題になります。
実行段階だからこそ起きる問題、ということですね。
そうです。二次試験では、この局面がいろいろな聞かれ方で出てきます。
講師が挙げた二次試験での聞かれ方は、次のとおりです。
- 変革を進める際に、社長が留意すべき点は何か
- 反発が予想される中で、どう改革を進めるか
- 新体制へ円滑に移行するには、どうすればいいか
聞き手は「反発が予想される、というのは分かりやすいですけど、それだけじゃないんですか」と尋ねます。講師は、単に丁寧に説明すればいい、で終わらせてしまう人が多いと指摘したうえで、実は起きている問題は一つではないと言います。このページでは、問題の切り分け、与件文のサイン、問題ごとの打ち手、答案の書き方、やりがちな誤答の順に、動画の流れにそってまとめます。
実行段階の問題は「抵抗・混乱・対立」の3つ
講師は、実行段階で起きる問題を抵抗、混乱、対立の3つに分けます。それぞれ性質が違うので、打ち手も変わってきます。
| 問題 | 起きていること |
|---|---|
| 抵抗 | 変化そのものへの拒否反応 |
| 混乱 | 新しいやり方が周知されていない |
| 対立 | 集団同士・実力者同士の力関係の問題 |
聞き手は、丁寧に説明するだけだとなぜ不十分なのかを聞きます。講師の答えは明快です。説明で解消できるのは、情報が足りないことによる混乱くらい。ベテランが変化そのものを嫌がっている抵抗や、集団同士の力関係がこじれている対立には、説明だけでは効きません。
問題の種類によって、効く薬が違う、ということですね。
そうです。だからこそ、まず何が起きているかを切り分けることが最初の一歩になります。
反発という一つの言葉でまとめてしまうと、打ち手がぼやけます。「反発がある」と読んだ時点で止まらず、その中身が抵抗なのか、混乱なのか、対立なのかを考える。これが動画の出発点です。
与件文のサインで3つを見分ける
「3つも切り分けるんですね。与件文のどこを見れば、どの問題か分かるんですか」。聞き手の問いに、講師は記述のサインを挙げていきます。
- 抵抗のサイン:ベテランや古参の社員が変化を嫌う、現状維持を望む声が強い、という記述。
- 混乱のサイン:新しいやり方が分からず現場が混乱している、役割が曖昧になっている、という記述。
- 対立のサイン:部門間や派閥間で対立している、一部の実力者が非協力的だ、という記述。
聞き手が確認したのは、言い回しの幅です。「現状維持を望む声が強い」と「変化を嫌う」は、両方とも抵抗のサインとして読んでいいのか。講師は、言い回しは違っても、変わること自体への拒否反応だと分かれば、どちらも抵抗問題のサインとして扱ってよいと答えます。混乱も同じで、「役割が曖昧」という記述だけでも混乱のサインです。
役割が曖昧、という記述だけでも、混乱のサインとして扱っていいんですか。
いいんです。誰が何をすべきか分からない状態は、新しいやり方が周知されていない証拠なので、混乱問題として整理してください。
こちらは、気持ちというより、やり方が定まっていないことが原因なんですね。
そうです。
ここで聞き手は、もう一つ疑問を挟みます。抵抗と対立は似ているようで違うのか、という点です。
抵抗と対立って、似ているようで違うんですか。
違います。抵抗は変化そのものへの拒否反応、対立は集団同士や実力者同士の力関係の問題です。混同すると打ち手がずれてしまいます。
見分けの軸は、拒否の相手が変化そのものなのか、別の集団や実力者なのかです。この軸を持っておくと、与件文を読むときに迷いが減ります。
抵抗への打ち手:巻き込み、報い、時間をかけ、育てる
切り分けができたら、次は対処です。講師は、問題ごとに打ち手をまとめて挙げていきます。まず抵抗問題には、次の5つの手を打ちます。
- 現行組織の問題点を周知徹底すること
- 変革の過程に参加させること
- 支持してくれた人には報酬を配分すること
- 現状から抜け出すための時間と機会を与えること
- 新しい組織に向けた教育や訓練を行うこと
巻き込んで、報いて、時間をかけて、育てる、というイメージですね。
その通りです。
ここで押さえたいのは、打ち手が一つではないことです。変化を嫌う気持ちに対して、周知する、参加させる、報いる、時間と機会を与える、教育する、と複数の角度から手を打つ。この「複数あること」は、あとの誤答の話にもつながります。
混乱と対立への打ち手
混乱問題の打ち手は3つです。望ましい新しい組織の姿を具体的に示すこと。関係者の間で緊密かつ継続的に情報を伝達すること。問題が起きたときに迅速に解決できる体制を確立すること。聞き手は「混乱には、具体像とコミュニケーションで対応するんですね」とまとめ、講師は「そうです」と応じています。やり方が定まっていないことが原因なので、やり方の具体像と情報の流れを整える、という筋の通った打ち手です。
次に対立問題です。打ち手は2つ。中心的な権力を持つ集団の協力を確保すること、そして対立している集団に共通の外部の敵を作って一緒に行動させ、集団全体を統合することです。
共通の敵を作る、というのは面白い発想ですね。
内輪もめをしている場合ではない、という状況を作って、視線を外に向けさせるイメージです。
中心的な権力を持つ集団の協力を確保する、というのも、対立をおさめるために必要なんですか。
そうです。力を持つ集団を味方につけずに統合を進めようとすると、その集団が抵抗勢力になってしまい、かえって対立が深まってしまいます。
誰を味方につけるかも、対立を整理するうえで大事な視点なんですね。
そうです。
ここまでの3つの問題と打ち手を、図で並べました。抵抗には5つ、混乱には3つ、対立には2つ。問題によって、打ち手の数も中身も違うことが分かります。
与件文に当てはめる:書くのは出ているサインの分だけ
講師は、ここまでの内容を実際の与件文にどう当てはめるかを、例で見ていきます。聞き手が最初に出したのは、こんな設定でした。古参社員が新しいシステムに反発していて、しかも部門同士も仲が悪い。
講師の整理はこうです。この場合は抵抗と対立の両方が起きているので、参加させて報いる打ち手と、キーパーソンの協力を得る打ち手の両方を書く必要があります。
一つに絞らず、起きている問題の分だけ手を打つ、ということですね。
そうです。
次は逆の設定です。講師が、対立や抵抗の記述はなく、新しいやり方が分からず現場が混乱している、役割が曖昧だ、という記述だけが目立つ会社ならどうか、と問いかけます。聞き手は、混乱問題だけに絞って、新しい組織像を明示することと、情報伝達を手厚くすることに解答の中心を置けばいいのでは、と答え、講師は「その通りです」と認めています。
講師はこう続けます。起きていない問題まで無理に書く必要はありません。与件文に出ているサインの分だけ、対応する打ち手を選んで書くのが基本です。
3つ全部を毎回書かなきゃいけない、というわけではないんですね。
そうです。字数配分で言えば、与件文で強く示唆されている問題に多くの字数を割いて、示唆が薄い問題は軽く触れる程度でとどめる、というバランスが自然です。
均等に3つ書こうとすると、逆にどれも浅くなってしまいそうですね。
そうです。
| 与件文の示唆 | 字数のかけ方 |
|---|---|
| 強く示唆されている | 多くの字数を割く |
| 示唆が薄い | 軽く触れる程度 |
| 出ていない | 無理に書かない |
解答の型と、3つの定番の切り口
では、答案はどんな流れで書けばいいのか。講師が示した解答の型は、次のとおりです。変革過程に参加させ、支持に報い、教育して抵抗を和らげ、新しい組織像を明示し、情報共有して混乱を防ぎ、キーパーソンの協力を得て対立を統合する、という流れで書きます。
聞き手は、参加させる、情報を共有する、キーパーソンを巻き込む、というのはどの問題にも効くのかと尋ねます。講師の答えは「そうなんです」。この3つは、抵抗にも混乱にも対立にも効く定番の切り口です。
この3つは抵抗にも混乱にも対立にも効く、定番の切り口として覚えておくと便利です。
なるほど、共通の道具として持っておけるんですね。
| 問題 | 書く切り口 |
|---|---|
| 抵抗 | 参加・報酬・教育 |
| 混乱 | 具体像・情報伝達 |
| 対立 | キー |
これは、講師が最後のチェックポイントで挙げた切り口とも一致します。本番では、この組み合わせを頭に置いて、与件文のサインに合わせて選んでいきます。
やりがちな誤答4つ
ここからは、講師が挙げたやりがちな誤答です。4つあります。
1つ目は、抵抗・混乱・対立を区別せずに、反発があるから丁寧に説明する、と一括りにしてしまうパターンです。講師によると、これが一番多い誤答です。聞き手が言うとおり、問題の中身が違うのに対処法を一つにまとめてしまう誤りです。
2つ目は、前回扱った変革全体の大きな順序の話と混同するパターンです。今日の論点はあくまで実行段階で起きる障害への対処だと切り分けるよう、講師は求めています。
全体の地図の話と、実行中に起きるトラブル対応の話、ということですね。
そうです。
3つ目は、権限で押し切るような解答にしてしまうことです。講師は、参加や情報共有、巻き込みで納得を作るのが基本の考え方だと言います。
力ずくではなく、納得を作る、という方向なんですね。
そうです。
4つ目は、抵抗への手を一つだけ挙げて満足してしまうことです。参加させる、報いる、時間と機会を与える、教育する、といった抵抗への打ち手はいくつもあります。聞き手のまとめのとおり、与件文の記述に合ったものを選んで組み合わせる必要があります。
抵抗への打ち手はいくつもあるから、与件文の記述に合ったものを選んで組み合わせる、ということですね。
そうです。与件文にどの記述があるかで、使う打ち手の組み合わせも変わってくると意識してください。
| やりがちな誤答 | 直し方 |
|---|---|
| 「丁寧に説明」で一括り | 3つに切り分ける |
| 全体の順序と混同 | 実行段階の障害に絞る |
| 権限で押し切る | 参加・共有・巻き込みで納得 |
| 抵抗への手が一つだけ | 記述に合う手を組み合わせる |
動画が示した本番のチェックポイント
- 抵抗、混乱、対立のどれが与件文に出ているかを見極める
- 打ち手を、参加・報酬・教育、具体像・情報伝達、キーパーソンの協力という切り口で書く
- 権限ではなく、納得で進める視点を忘れない
まとめ
動画の整理
- 実行段階で起きる問題は、抵抗・混乱・対立の3つ。性質が違うので打ち手も変わる
- 説明で解消できるのは、情報不足による混乱くらい。まず何が起きているかを切り分ける
- サインは、変化を嫌う・現状維持の声(抵抗)、やり方が分からない・役割が曖昧(混乱)、部門間や派閥間の対立・実力者の非協力(対立)
- 打ち手は、抵抗に5つ、混乱に3つ、対立に2つ。参加・情報共有・キーパーソンの巻き込みは3つ全部に効く定番
- 書くのは与件文に出ているサインの分だけ。強く示唆された問題に多くの字数を割く
- 誤答は、一括りの説明、順序との混同、権限での押し切り、抵抗への手が一つだけ
動画の最後に、聞き手は「同じ反発でも、原因を切り分けてから打ち手を選ぶ、という順番を意識します」と話しています。反発という言葉の手前で止まらず、抵抗なのか、混乱なのか、対立なのかを与件文から読み取る。そのうえで、参加・報酬・教育、具体像・情報伝達、キーパーソンの協力という切り口から、サインに合う手を選んで書く。この順番が、事例Ⅰの実行段階の問題に向き合うときの基本の型です。
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