聞き流しラボby kufu-yaWebテキストNEW
中小企業診断士 2次試験

知識ではなく、解き方を聞く。

1次試験の合格者に向けて、与件文の読み方、設問の切り分け方、解答の型を、事例ごとに解説します。

事例別の過去問解説重要論点講義ファイナルペーパー
診断士 聞き流しラボ 2次試験対策

不満対策とやる気対策を切り分ける動機づけ

事例Ⅰ 第38回

事例Ⅰ 組織・人事 不満対策とやる気対策を切り分ける動機づけ7分38秒2026年8月6日公開

「従業員の士気を高める方法を問われたとき、知識はあるのに答案がどれも同じような書き方になってしまう」。動画は、こんな悩みから始まります。このページでは、二次での出方、与件文のサイン、不満を防ぐ要因とやる気を引き出す要因の切り分け、内発的な動機づけ、答案の書き順と字数配分、よくある3つの間違いを、動画の流れにそってまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

士気の答案が、どれも同じ書き方になってしまう

従業員の士気を高める方法を問われたとき、知識はあるのに、答案がどれも同じような書き方になってしまう。動画は、こんな悩みから始まります。聞き手も「給与を上げる、待遇を良くする、みたいな答えばかり書いてしまって、なんだか浅い気がしている」と打ち明けます。講師によれば、こうなってしまう人は多いそうです。

講師の見立てははっきりしています。モチベーション理論を知っていても、不満をなくすこととやる気を引き出すことを一緒くたにしていると、答案が薄くなってしまう、というのです。

不満をなくすことと、やる気を引き出すこと、そんなに違うものなんですか。

全然違います。この違いを切り分けられるかどうかが、この論点を使いこなせるかどうかの分かれ目なんです。

動画は「二次でどう出るか」「与件文のどこで気づくか」「答案にどう落とし込むか」の順に進みます。このページも同じ順に整理し、そのあとで間違いやすい点と、本番でのポイントまでまとめます。

二次での出方:「金銭的な報酬以外で」に注意

まず出方です。講師が挙げた聞かれ方は、次の3つです。

  • 従業員の士気やモチベーションを高めるには、どうすべきか
  • 離職を防ぐには、どうすべきか
  • 金銭的な報酬以外でやる気を引き出すには、どうすべきか
従業員の士気・モチベーションを高めるには離職を防ぐには金銭的な報酬以外でやる気を引き出すには差がつくのは不満の解消とやる気の喚起の切り分けさらに内発的な動機づけまで踏み込む
3つの聞かれ方。給与を上げるだけで終わらせないのがポイントです。

聞き手が気にしたのは3つ目です。「金銭的な報酬以外で、とわざわざ聞かれるんですね」。講師は、そうなんです、と答えます。給与を上げるだけで終わらせず、不満の解消とやる気の喚起を切り分けて、さらに内発的な動機づけまで踏み込めるかどうかで差がつく、という話でした。

内発的な動機づけまで、ですか。奥が深そうです。

その中身は、このあと整理で出てきます。まずは与件文のどこでこの論点に気づくかを見ていきましょう。

与件文のサイン:記述の種類を読み分ける

講師は聞き手に問いかけます。与件文にどんな記述が出たら、この論点を使うと気づけるでしょうか。聞き手の答えは「給与や労働条件への不満、職場環境が悪い、みたいな記述は分かりやすそう」。講師は、その通りだと受けます。これらは、まず不満を防ぐ側の課題として読みます。

一方で、達成感ややりがいがない、認められない、成長を実感できない、という記述が出たら、それはやる気を引き出す側の課題です。同じ「士気が低い」場面でも、書かれている記述の種類が違う、というのが動画の指摘です。

不満を防ぐ側の課題給与・労働条件への不満職場環境が悪いやる気を引き出す側達成感・やりがいがない認められない成長を実感できない自分で決める感覚が弱ったサイン細かく管理されている・裁量がない表彰や成果給を入れたのに効果が続かない
記述の種類で、不満を防ぐ側か、やる気を引き出す側かを読み分けます。

3つ目のサインは、細かく管理されている、裁量がない、という記述です。講師は、これを自分で決めるという感覚が損なわれているサインとして読みます。

聞き手が続けます。「表彰制度や成果給を入れたのに効果が続かない、みたいな記述もありそうですね」。講師は「鋭いですね」と受けて、それはまさに、外から与える報酬に頼りすぎて、自分で決めているという感覚が弱ってしまっているサインだと説明します。

では、こういう記述が出てきたら、頭の中でどう整理すればいいんですか。

二つの理論で整理します。次の章から順に説明しますね。

整理その1:不満を防ぐ要因と、やる気を引き出す要因

講師が挙げる一つ目は、不満を防ぐ要因と、やる気を引き出す要因を分ける考え方です。会社の方針や経営のあり方、監督のされ方、人間関係、作業条件、給与。これらの要因は、満たされないと不満につながります。

不満を防ぐ要因会社の方針・経営のあり方監督のされ方人間関係作業条件給与やる気を引き出す要因達成すること周囲から認められる仕事そのものの面白さ責任を持たされる昇進・成長満たしても不満がなくなるだけ満たすと本当にやる気が高まる
完全に別のグループです。給与は左側に入ります。

ここが、動画で「一番の落とし穴」と呼ばれるところです。これらの要因は、満たされても、不満がなくなるだけで、やる気には直結しません。

でも満たせば満たすほどやる気が出る、というわけではないんですよね。

そうなんです。満たされても不満がなくなるだけで、やる気には直結しません。ここが一番の落とし穴です。

満たされても、ゼロに戻るだけで、プラスにはならないってことですか。

その通りです。

これに対して、達成すること、周囲から認められること、仕事そのものの面白さ、責任を持たされること、昇進、成長。こうした要因は、満たされると本当にやる気が高まります。聞き手が「完全に別のグループなんですね」とまとめたとおり、不満を防ぐ側と、やる気を高める側は別物です。

整理その2:内発的な動機づけと、報酬の落とし穴

二つ目の理論が内発的な動機づけです。講師によれば、人が自分から動きたくなる一番の条件は、2つあります。自分にはできるという有能感と、自分で決めているという自己決定の感覚です。

有能感「自分にはできる」自己決定「自分で決めている」内発的な動機づけ自分から動きたくなる外からの報酬お金・表彰など報酬のためにやる感覚意欲が弱まることも弱まることが「あり得る」という話で、必ずではありません
内発的な動機づけの条件は2つ。外からの報酬は、これを弱めることがあります。

そして講師が「ここが重要」と強調するのが、外からお金や表彰といった報酬を与えることで、かえってこの内発的な動機づけが弱まってしまうことがある、という点です。自分がやりたくてやっていたことに、外から報酬をつけられると、報酬のためにやっているという感覚に変わってしまい、本来の意欲が損なわれてしまうのです。

よかれと思って報酬を出したのに、逆効果になることがあるんですか。

あり得ます。報酬のためにやっているという感覚に変わってしまうんです。

(補足:動画にない呼び名の紹介です。自己決定理論(SDT)は、人の基本的な心理的欲求として自律性・有能感・関係性を挙げる理論で、その中の認知的評価理論が、報酬などの外からの働きかけが内発的な動機づけに与える影響を扱います。動画の「有能感」と「自己決定」は、この自律性と有能感にあたります(自己決定理論の公式サイト selfdeterminationtheory.org の解説で確認)。)

たとえ話:提案一件につき一律の金一封

聞き手が「ちょっとイメージしにくいので、例を挙げてもらえますか」と頼み、講師が出した設例がこれです。

講師の設例:改善提案への金一封

現場の社員が、自発的に業務改善の提案をしている会社があります。会社がよかれと思って、提案一件につき一律の金一封を出す制度を始めました。

講師が「どうなると思いますか」と聞くと、聞き手は「最初はやる気が出そうな気もしますけど」と答えます。講師の説明では、実際には、金一封が出る提案しか出さなくなったり、金一封が出ないなら改善しなくていい、という感覚になってしまったりすることがあります。もともと自分の意思で取り組んでいたことが、報酬のためのタスクに変わってしまうわけです。

よかれと思って始めた制度が、逆に自発性を奪ってしまうんですね。怖いです。

だからこそ、事例を読むときには、見極めが必要なんです。

事例を読むときは「二軸」で見極める

講師は、見極める軸を2つ挙げます。課題が不満の解消なのかやる気の喚起なのか。そして、外的な報酬の話なのか内発的な動機づけの話なのか。聞き手はこれを「二軸で整理する、というイメージですね」と受けました。

見極める軸一方他方
課題の種類不満の解消やる気の喚起
報酬の種類外的な報酬内発的な動機づけ

与件文の記述を、まずこの2つの軸にあてはめて読みます。給与や労働条件への不満が書かれていれば不満の解消の側、達成感の不足が書かれていればやる気の喚起の側、と前の章のサインに戻って判断します。表彰制度や成果給が出てくれば、外的な報酬の話かどうかを疑う、という流れです。

答案への落とし込み:不満対策を先に、やる気対策を後に

ここから答案の書き方です。講師が示した型は、次の順番です。まず、給与や労働条件、人間関係といった不満を防ぐ要因の課題を取り除く。そのうえで、達成や承認、責任、成長といったやる気を引き出す要因や、裁量を与える工夫で士気を高める。

① 不満を防ぐ要因の課題を取り除く給与・労働条件・人間関係など② やる気を引き出す要因を使う達成・承認・責任・成長③ 裁量を与える工夫を加える内発的な動機づけ(職務充実・権限委譲)
不満対策を先に、やる気対策を後に、別々の打ち手として書きます。

不満対策を先に書いて、やる気対策を後に書く、という順番なんですね。

はい。不満対策とやる気対策は別々の打ち手として書きます。そして外的な報酬に偏らず、裁量や成長の機会を与えるという内発的な動機づけの視点も入れる。この二点を押さえると答案が締まります。

聞き手が「職務充実や権限委譲といった論点ともつながりそうですね」と言うと、講師は「まさにそうです」と答えます。裁量を与えるという打ち手は、職務充実や権限委譲の考え方そのものなので、そこと接続して書けると答案に厚みが出る、とのことです。

(補足:動画にない書き方の例です。架空の設例で、与件文に給与への不満と、成長実感の不足が出ていたとします。たとえば「給与への不満を解消して不満を取り除くとともに、業務の裁量を広げ、成果を認める機会を設けて成長を実感させ、士気を高める。」のように、不満対策とやる気対策を一文の中で別の打ち手としてつなぐと、型として使いやすくなります。実際の字数は設問の指定に従ってください。)

字数配分に迷ったら:与件文の記述の分量に合わせる

聞き手は「字数配分に迷ったら、どちらを厚く書けばいいんですか」と質問します。講師の答えは、事例の記述の分量に合わせて配分を変えるのが基本、というものです。

与件文の様子厚く書く側
不満の記述が目立つ不満対策
達成感・成長実感の不足が目立つやる気対策
両方が読み取れる両方に触れて比重を調整

両方が読み取れる事例では、両方に触れたうえで、比重を調整してください、というのが動画の言い方です。どちらか片方だけで書き切らない、ということになります。

論点同士がつながっているんですね。では、よくやってしまう間違いはどんなものがありますか。

大きく3つあります。次の章で順に挙げますね。

よくある3つの間違い

講師が挙げた間違いは3つです。

間違い起きること直し方
不満の要因を直せば、やる気が上がると誤解不満がなくなるだけやる気は別の要因で高める
やる気の打ち手を給与・賞与に一本化給与は不満を防ぐ側達成・承認・責任・成長を使う
外的な報酬を万能視内発的な動機づけを損なうリスクの見落とし裁量・成長機会の視点も入れる

1つ目は、不満を防ぐ要因を改善すればやる気が上がる、と誤解することです。実際には不満がなくなるだけで、やる気自体は別の要因で高める必要があります。聞き手が「満たしてもゼロに戻るだけ、という話ですね」と確認したとおりです。

2つ目は、やる気を引き出す打ち手を、給与や賞与を上げることに一本化してしまうことです。給与はどちらかというと不満を防ぐ側の要因なので、やる気を引き出すには、達成や承認、責任、成長といった要因を使う必要があります。

給与でやる気を出す、という発想自体がずれているんですね。

そうなんです。冒頭の「給与を上げる、待遇を良くする」ばかりの答案は、まさにこの2つ目にあたります。

3つ目は、表彰や成果給といった外的な報酬を万能視してしまい、かえって内発的な動機づけを損なうリスクを見落とすことです。聞き手は「よかれと思って報酬を厚くする提案が、実は逆効果になり得る、という視点は持っておかないといけない」とまとめました。講師も、その通りだと応じています。

本番で使うときのポイント

動画の終盤で、講師は本番でこの論点を使うときのポイントを3つにまとめます。

動画が挙げる本番のポイント

  • 給与や労働条件への不満か、達成感や成長実感の不足かを見極める
  • 不満を防ぐ要因とやる気を引き出す要因を分けて整理する
  • 外的な報酬だけに頼らず、裁量や成長機会という内発的な動機づけの視点も入れる

聞き手は「不満対策とやる気対策を分けて考える、というだけで、答案の見え方がずいぶん変わりそうです」と話し、講師は、この二つを切り分けて書けるようになれば、モチベーション理論は本番で確実に得点源になる、と締めくくります。

まとめ

動画の整理

  • 出方は「士気を高めるには」「離職を防ぐには」「金銭的な報酬以外でやる気を引き出すには」。給与だけで終わらせない
  • 与件文のサインは3種類。給与・労働条件や環境への不満は不満を防ぐ側、達成感・承認・成長実感の不足はやる気を引き出す側、細かい管理や外的報酬の効果切れは自分で決める感覚の弱りのサイン
  • 整理は2つ。不満を防ぐ要因は満たしても不満がなくなるだけ。やる気を引き出す要因は満たすと本当にやる気が高まる。内発的な動機づけは有能感と自己決定が条件で、外からの報酬で弱まることがある
  • 答案は、不満を防ぐ要因の課題を取り除き、やる気を引き出す要因や裁量を与える工夫を続ける。字数配分は与件文の記述の分量に合わせる
  • 間違いは3つ。不満の改善でやる気が上がると誤解する、やる気の打ち手を給与・賞与に一本化する、外的な報酬を万能視する

知識があるのに答案が浅くなる原因は、不満をなくすことと、やる気を引き出すことを混ぜてしまうことでした。与件文の記述の種類を読み分け、不満対策とやる気対策を別々の打ち手として書き、裁量や成長の機会という内発的な視点を一言添える。まずはこの切り分けを、過去問の事例を読むたびに試してみてください。

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