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中小企業診断士 2次試験

知識ではなく、解き方を聞く。

1次試験の合格者に向けて、与件文の読み方、設問の切り分け方、解答の型を、事例ごとに解説します。

事例別の過去問解説重要論点講義ファイナルペーパー
診断士 聞き流しラボ 2次試験対策

加重平均資本コスト、節税効果の掛け方を見抜く

事例Ⅳ 第11回

事例Ⅳ 加重平均資本コストの使いどころと節税効果11分7秒2026年9月11日公開

「『加重平均資本コスト』、1次の財務・会計でしっかり覚えてますよね。計算式もすらすら書けると思うんです」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、与件文のサイン、計算式と節税効果の掛け方、簿価と時価、答案に書く順番、企業価値の算定への接続、混同しやすいポイントをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

知識はあるのに、本番だと分からなくなる

「加重平均資本コスト」、1次の財務・会計でしっかり覚えてますよね。計算式もすらすら書けると思うんです。

はい、暗記はばっちりです。でも二次の答案になると、急に手が止まるんですよね。

そうなんです。知識はあるのに、与件文のどこを見てこの知識を出せばいいのか、本番だと分からなくなる。今日はこの論点の使いどころを一緒に整理していきましょう。

お願いします。正直、計算式は書けても、それをどこでどう使うのか、いつも自信がないまま解いていました。

この論点が二次でどう出るか

まずは、この論点が二次でどう出るかからいきましょう。企業価値を算定する場面、たとえばフリーキャッシュフローを割り引いて現在価値に直す場面や、正味現在価値法で投資判断をする場面で、その割引率として資本コストが必要になります。

なるほど。割引率そのものを求める場面で、加重平均資本コストの出番になるんですね。

そうです。ポイントは、負債のコストに節税効果を反映させる必要があるという点で、そこを外して単純に平均してしまう誤りが起きやすい。だから、答えの数値だけでなく、計算過程を書かせる記述式の問題としても狙われます。

単純平均じゃダメ、っていうところが引っかけになりやすいんですね。

与件文のどんな記述で気づくか

では、与件文のどんな記述が出たら、この論点だと気づけばいいか。まず一つ目は、有利子負債の金額と利子率、それから自己資本、つまり株主資本の金額と株主資本コストが、具体的な数値として示されている記述です。

数字が並んでいたら、まず疑ってみるということですね。

はい。二つ目は、「加重平均資本コスト」や「WACC」という言葉がそのまま出てくる記述、あるいは「資本コスト」とだけ書かれていて、その算出が求められている記述です。三つ目は、負債や株主資本について、簿価ではなく時価を使うようにという指示がある記述です。

時価を使え、という指示までわざわざあったら、それも見逃さない方がいいということですね。

① 具体的な数値が示されている有利子負債の金額と利子率、自己資本の金額と株主資本コスト② 言葉がそのまま出てくる「加重平均資本コスト」「WACC」、または算出を求める「資本コスト」③ 時価を使う指示がある負債や株主資本について、簿価ではなく時価を使うようにという指示この論点だと気づく
与件文のサイン3つ

計算式と、式の中身

そのとおりです。ここからは、その情報をどう整理するかです。計算式は、加重平均資本コスト=負債÷(負債+株主資本)×負債コスト×(1-実効税率)+株主資本÷(負債+株主資本)×株主資本コスト、という形です。

負債の比率と株主資本の比率、それぞれにコストを掛けて足す、というのは覚えている形です。

加重平均資本コスト =負債の比率×負債コスト×1-実効税率負債の比率 = 負債 ÷(負債+株主資本)+株主資本の比率×株主資本コスト株主資本の比率 = 株主資本 ÷(負債+株主資本)1-実効税率を掛けるのは負債コストだけ
加重平均資本コストの式

ここで、式の中身も確認しておきましょう。負債コストは通常、実際に支払っている利子率をそのまま使います。株主資本コストは、実際に支払っている配当金の金額から算出するのが通常です。

負債側は利子率、株主側は配当金の実績から出す、という違いがあるんですね。

なぜ負債コストにだけ1-実効税率を掛けるのか

大事なのは、なぜ負債コストにだけ1-実効税率を掛けるのか、その理由です。支払利息は損益計算書上の費用として、課税所得を減らす節税効果を持ちます。一方で配当金は損益計算書に計上されないので、株主資本コストの側にはこの節税効果を考えません。

そこ、正直あやふやなまま公式だけ覚えていました。

例えるなら、事業のために借りたお金の利子は必要経費として認められて、その分だけ税金の負担が軽くなりますよね。一方で、自分の貯金を取り崩して払う分には、そういう税金の還付はありません。負債のコストだけがこの経費扱いを受けられる、というイメージです。

つまり、負債の利子は税金面で優遇される買い物、株主への配当は優遇されない持ち出し、という感じですね。

まさにそのイメージです。本番でこの違いを見分けるには、与件文や設問文に「支払利息」「損金」「実効税率」といった言葉が出ているかどうかを見ます。これが出ていれば、負債コストの側にだけ1-実効税率を掛ける合図です。

逆に言うと、株主資本コストの方には、そういう税金がらみの言葉がついてこない、ということですね。

負債(支払利息)利子率をそのまま使う損益計算書の費用課税所得を減らす節税効果あり株主資本(配当金)配当金の金額から算出損益計算書に計上されない節税効果は考えない合図になる言葉「支払利息」「損金」「実効税率」
負債と株主資本の扱いの違い

簿価ではなく時価を用いる

そうです。もう一つ、忘れずに整理しておきたいのが、負債と株主資本は簿価ではなく時価を用いるという点です。これは1次の財務諸表で見慣れている貸借対照表の金額とは違う数字を使う、という意味でもあります。

与件文に載っている貸借対照表の数字を、そのまま使ってはいけない場合があるんですね。

そのとおりです。問題文が時価を指示しているか、それとも簿価のままでよいのかを、必ず確認する癖をつけてください。ここを確認せずに、慣れている簿価をそのまま使ってしまうのが、典型的な誤りの一つです。

答案へ落とし込む手順

では、実際に答案へ落とし込むときは、どういう手順で書けばいいですか。

計算過程を示す設問では、まず負債コストに1-実効税率を掛けることを明示します。そのうえで、負債の構成比と株主資本の構成比を、それぞれ正しく算出してから、加重平均資本コストを求めます。

構成比を先に出してから、最後に足し合わせる、という順番ですね。

① 負債コストに1-実効税率を掛けると明示② 負債と株主資本の構成比をそれぞれ算出③ 加重平均資本コストを求める④ 企業価値の算定では割引率としてそのまま使う
答案を書く順番

はい。たとえば負債が6億円、株主資本が4億円だったとすると、合計は10億円ですから、負債の構成比は6割、株主資本の構成比は4割になります。この比率にそれぞれのコストを掛けて、最後に足し合わせるという流れです。

数字を当てはめてみると、式の意味がはっきりしますね。

補足(動画の言い間違い):動画では「株主資本コストは、実際に支払っている配当金の金額から算出するのが通常」と言っていますが、株主資本コストは、株主が求める利回り(要求収益率)のことで、資本資産価格モデル(CAPM)や配当割引モデルなどで見積もります。配当が出てくるのは配当割引モデルで、次期の予想配当・株価・成長率から求める形です。実際に支払った配当金の額そのものではありません(日本語版ウィキペディア「資本コスト」「加重平均資本コスト」の記載で確認。二次資料です)。

企業価値の算定に接続する設問

企業価値の算定に接続する設問では、こうして求めた加重平均資本コストを、そのまま割引率として使います。フリーキャッシュフローをこの割引率で割り引く、あるいは企業価値=フリーキャッシュフロー÷加重平均資本コスト、という簡便な式に当てはめる形です。

求めた数値を、そのまま別の計算の割引率として使い回す、という流れなんですね。

この簡便式も数字で確認しておきましょう。たとえばフリーキャッシュフローが1億円で、加重平均資本コストが7%だとすると、企業価値は1億円÷0.07で、およそ14億3,000万円になります。

割引率が小さいほど、割り算の結果としての企業価値は大きく出る、ということですね。

たとえば、負債の構成比6割、負債コストが5%、実効税率が30%だとすると、負債側は6割×5%×0.7で、2.1%分になります。これに株主資本側の分を足して、加重平均資本コスト全体を出します。

数字を当てはめてみると、答案でどこまで計算過程を書けばいいかもイメージしやすいです。

構成比(負債6億円・株主資本4億円・合計10億円)負債6億円(6割)株主資本4億円(4割)負債側(構成比6割・負債コスト5%・実効税率30%)6割 × 5% × 0.7 = 2.1%企業価値(FCF1億円・加重平均資本コスト7%)1億円 ÷ 0.07 ≒ 約14.3億円
数字で確認

正味現在価値法と企業価値の算定の違い

そうです。同じ加重平均資本コストでも、正味現在価値法では個別の投資案が生み出すキャッシュフローを割り引くのに使い、企業価値の算定では対象企業全体のフリーキャッシュフローを割り引くのに使う、という違いがあります。求め方は同じでも、何を割り引いているのかは設問によって変わります。

割引率としての使い方が同じでも、割り引く対象が「その投資案」なのか「企業全体」なのかを、設問文で確認する必要があるんですね。

場面割り引くもの
正味現在価値法個別の投資案が生み出すキャッシュフロー
企業価値の算定対象企業全体のフリーキャッシュフロー

混同しやすいポイントを二つ

そのとおりです。ここで、混同しやすいポイントを二つ、押さえておきましょう。一つ目は、さっき話した節税効果の有無です。負債コストには1-実効税率を掛けるのに、株主資本コストには掛けない、という非対称な扱いを忘れないでください。

そこ、私、両方に掛けてしまいそうです。

実際、負債コストへの節税効果を掛け忘れる誤りと、逆に株主資本コストの方にも掛けてしまう誤りの両方が、よく起きるパターンです。どちらも、負債と株主資本でコストの性質が違うことを意識していれば防げます。

もう一つの混同しやすいポイントは何ですか。

二つ目は、さっきの簿価と時価の違いです。1次の感覚だと、貸借対照表に載っている金額をそのまま使いたくなりますが、二次では時価を指示されることがある、という点で、同じ「負債」「株主資本」という言葉でも、使う金額の性質が変わってきます。

節税効果の有無と、簿価か時価かという、二つの切り替えポイントがあるんですね。

ポイント気をつけること
節税効果の有無負債コストには1-実効税率を掛け、株主資本コストには掛けない
簿価か時価か二次では時価を指示されることがある

式の中の負債は有利子負債

はい。もう一つだけ、先に押さえておいてほしいことがあります。式の中の負債というのは、買掛金のような無利子の負債ではなく、利子のかかる有利子負債のことを指します。ここを取り違えると、比率の分母から狂ってしまいます。

負債と一口に言っても、対象になるのは利子のかかるものだけ、ということですね。

最後にチェックポイントをまとめる

そのとおりです。最後にチェックポイントをまとめておきましょう。まず、与件文に有利子負債と株主資本の金額、それぞれのコストが具体的に示されているかを確認します。次に、簿価ではなく時価を使う指示があるかを見ます。

そのうえで、負債コストにだけ1-実効税率を掛けて、構成比を正しく出す、という順番ですね。

はい。この加重平均資本コストは、企業価値の算定やフリーキャッシュフローの割引率として、そのまま次の計算につながっていきます。負債と株主資本でコストの扱いが違うという一点さえ押さえておけば、本番でも落ち着いて計算過程を書けるはずです。

公式は覚えていたつもりでしたけど、どこで気づいて、どう使うかまで、今日ではっきりしました。

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