産業財産権(特許・実用新案・意匠・商標)
経営法務 第41回
「世界のトップを争う2つの巨大企業が、それぞれ莫大な開発費をかけて、まったく同じ画期的なテクノロジーを完成させ、奇跡的に同じ日に特許を出してしまった。独占権は一体どちらの企業に与えられると思いますか?」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、同日出願の決着のつけ方、4つの権利の存続期間、商標権の更新と分割納付のトラップをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
同じ日に特許を出したら、どちらのもの?
動画は、こんな想像から始まります。世界のトップを争う2つの巨大企業が、それぞれ莫大な開発費をかけて、まったく同じ画期的な技術を完成させた。しかも奇跡的に、同じ日に特許を出してしまった。独占権はどちらに与えられるのでしょうか。聞き手は「利益を半分ずつ分けるのか、早い者勝ちが崩れてパニックになるのか」と想像しますが、講師は「法律が用意している答えは、どちらでもありません」と切り返します。
今回の動画が扱うのは、産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)の同日出願の扱いと、登録後の存続期間です。4つの権利は一見似たルールで動いていますが、ビジネスでの役割が違うので、決着のつけ方がずいぶん対照的になっている、というのが動画の見立てです。「なぜ権利ごとに扱いが違うのか」という背景まで聞くと、暗記しやすくなります。
前提:4つの権利はすべて先願主義
まず大前提です。特許出願・実用新案登録出願・意匠登録出願・商標登録出願は、すべて先願主義です。先に出願したものが登録される、という原則ですね。講師は「ビジネスの現場では開発スピードが命なので、先願主義は非常に合理的」と説明します。
ところが、同じ日に複数の出願が重なると、先後がつけられません。ここからが本題で、決着の方法は権利によって分かれます。
特許と意匠:まず協議、まとまらなければ共倒れ
特許と意匠は、同日に出願が重なると、まず出願人どうしの協議になります。特許庁長官がいきなり決めるのではなく、当事者が話し合うのです。動画は「うちが譲る代わりにライセンス契約を結ぼう」といった交渉を例に挙げています。
では協議が不成立だったらどうなるか。動画によると、どちらの出願も、特許(意匠の場合は意匠登録)を受けることができません。(補足:条文でいうと、特許法39条2項、意匠法9条2項にあたるとされています。)
え、両方ダメになっちゃうんですか。せっかく素晴らしい発明を生み出したのに、話し合いが決裂しただけで両方とも幻になるなんて、厳しすぎませんか。
確かに厳しいですよね。でも、特許や意匠は絶対的な独占権です。同じ内容の権利を重ねて与えるわけにはいきません。だからこそ、当事者どうしでの解決が第一に求められます。
お互いに譲らないと両方沈んでしまう、チキンレースみたいですね。
動画はこの仕組みを、「共倒れという相互破壊の脅威をちらつかせて、妥協点を見つけるよう強く促している」と説明します。聞き手の「チキンレース」という言い方は、この性格をよく表しています。
実用新案:協議なしで即、共倒れ
次は特許の弟分ともいえる実用新案です。ここで動画は「最初の大きなトラップ」として、同日に2つ以上の出願があった場合は、協議のプロセスは一切なく、協議の有無に関わらず即座に共倒れになる、と説明します。理由として、実用新案は特許ほど高度ではない考案を、より早く低コストで保護する制度であり、協議を見守る時間やコストをかけるのは制度の趣旨に反するから、と述べています。聞き手は「話し合いの余地すらなく一発アウトなんて、特許や意匠よりも冷酷ですね」と驚いています。
補足(条文の確認):動画の説明は条文どおりです。実用新案法7条2項は、同じ考案について同じ日に2つ以上の出願があったときは、いずれも登録を受けることができないと定めていて、特許法39条2項のような協議の規定はありません。なお、同じ日に特許出願と実用新案登録出願が重なった場合だけは、特許法39条4項・実用新案法7条6項により協議があり、協議が成立しなければ双方とも登録を受けられません。試験では「特許・意匠は協議、不成立ならいずれも不可」「実用新案は協議なしでいずれも不可」「商標は協議、不成立ならくじ」と分けて覚えましょう。
商標:協議のあとは、くじ引き
残るのは商標です。ブランドのロゴなどを守る商標も、特許や意匠と同じく、まず協議が行われます。違うのは、協議が不成立のときの結末で、動画によると特許庁長官が行うくじによって、1人を決めます。(補足:商標法8条に定めがあるとされています。なお、同日出願でも、全員が互いに承諾し、混同のおそれがないときは全員が登録を受けられると定められています(8条2項ただし書。令和6年4月1日施行)。動画の「協議不成立ならくじ」は、そうでない場合の原則です。)
ちょっと待ってください。ビジネスの重要な権利を、運任せのくじで決めちゃうんですか。
驚きますよね。でも、これにも理由があります。特許や意匠は、新しいものを自ら作り出したという創作性への保護です。一方、商標は自社の商品と他者の商品を区別するためのマークで、極端にいえば、既存の言葉を選ぶだけでも商標になり得ます。
偶然マークを選んだ2者の間には、どちらがより優れた創作をしたか、という優劣がないんですね。
優劣がつけられない以上、両方を拒否してブランドをつぶすより、くじという事務的で客観的な方法で決めるのが一番公平だ、というのが動画の説明です。聞き手の言葉を借りれば、特許・意匠は「チキンレース」、実用新案は「一発アウト」、商標は「くじ引き」と、それぞれの性質を表しているわけです。
動画が「試験で狙われる」と強調した点
- 同日出願の決着が、特許・意匠(協議、不成立ならいずれも不可)、実用新案(協議なしでいずれも不可)、商標(協議、不成立ならくじ)で違うこと(動画はこの違いを「試験で狙われるポイント」と述べ、背景の理解もすすめています)
存続期間:特許20年・実用新案10年・意匠25年
ここからは、無事に登録されたあとの話、つまり権利がいつまで続くのかです。動画は、次の3つを挙げます。
| 権利 | 起点 | 存続期間 |
|---|---|---|
| 特許権 | 出願日 | 20年 |
| 実用新案権 | 出願日 | 10年 |
| 意匠権 | 出願日 | 25年 |
この3つに共通するのは、登録された日ではなく、特許庁に書類を提出した出願日から数えることです。理由として動画は「審査にかかる時間の不確実性を排除するため」と説明します。出願日を起点にすれば、社会全体に対して、いつ権利が切れるのかが明確になり、第三者から見ても予測しやすいからです。
(補足:意匠権の「出願日から25年」は、令和元年の意匠法改正(令和2年4月1日施行)後の出願に当てはまるとされています。それより前の出願では、登録日から20年でした。)
たとえば令和8年に出願した特許は、おおむね令和28年に満了する、といったイメージです。実用新案なら令和18年、意匠なら令和33年ごろになります(年の見当だけで、満了日そのものの計算は別です)。
特許だけの例外:存続期間の延長
聞き手が、いい質問をします。「特許は審査にすごく時間がかかったり、特定の分野ではすぐにビジネスに使えなかったりしませんか」。講師は「まさにそこが特許権の例外規定につながる」と答え、農薬や医薬品のように認可を得るために時間がかかるもの、特許権の設定登録が遅くなった場合などを挙げます。そして、一定の場合には5年を限度として存続期間の延長が認められる、と述べます。
補足(動画の単純化の訂正):延長には2種類あります。①薬機法の承認や農薬取締法の登録など、政令で定める処分を受けるのに時間がかかり、特許発明を実施できなかった期間がある場合は、5年を限度として延長できます(特許法67条4項)。②特許権の設定登録が、出願から5年を経過した日または審査請求から3年を経過した日のいずれか遅い日以後になった場合は、審査の遅れなどの期間を一定の方法で計算した延長可能期間の範囲で延長できます(同条2項・3項)。動画は両方を挙げたうえで「5年を限度」と述べていますが、5年の限度があるのは①です。
商標権:登録日から10年、更新すれば何度でも
ここで聞き手が「商標だけルールが違いそうですね」と気づきます。そのとおり、商標権は起点が登録日です。存続期間は登録から10年で、他の権利より短く感じますが、更新登録申請をして更新登録を受ければ、何度でも更新できます。聞き手の言葉でいえば、事実上は永遠に守り続けられる「最強の権利」になり得ます。
なぜ更新できるのか。動画は、特許やデザインは時代とともに古くなるが、ブランドの名前やロゴは長く使われるほど信用が積み重なって価値が出る、商標は信用の保護が目的だから、と説明します。
さらに、更新登録申請のときには実体審査は行われません。一度登録されて問題なく使われているものを、更新のたびに厳格に審査し直すのは無意味だから、と講師は述べます。
ここまでの整理(動画の内容を一覧にしたもの)
- 特許・実用新案・意匠:出願日が起点。期間が過ぎれば終わり(特許だけ、一定の場合は延長あり。処分による延長は5年が限度)
- 商標:登録日が起点。更新で何度でも延ばせる。更新時に実体審査なし
商標権の落とし穴:分割納付と、さかのぼって消える
動画の山場です。聞き手が「この最強の権利にも落とし穴があると聞きました」と尋ね、講師が「更新にはうっかりすると全てを失う恐ろしいトラップがある」と答えます。
更新登録のときの登録料は、10年分を一括で納付するか、5年ごとに分割して納付するかを選べます。動画は、これを「出願のときと同じ」と説明しているように聞こえます。(補足:設定登録のときの分割納付は、登録査定の謄本の送達から30日以内に前期分、存続期間の満了前5年までに後期分を納めます(商標法41条の2第1項)。更新のときは同条7項です。)
問題は、分割して払った場合の、後半の5年分です。これを払い忘れると、どうなるか。聞き手は「その日から権利が消える」と答えますが、講師は「違う」と言います。動画によると、商標は存続期間満了前5年の日にさかのぼって消滅します。つまり、今日から権利がなくなるのではなく、「過去の5年間、あなたの商標権は存在していませんでした」という扱いになる、というわけです。
さかのぼって消滅ということは、過去に戻って、権利が最初からなかったことにされるということですか。まるでタイムマシンで過去に戻って殺されるみたいじゃないですか。
単に今日から権利がなくなります、ではなく、過去の5年間、権利は存在していませんでしたよという法的なリセットがかかるんです。
(補足:ここで気をつけたいのは、聞き手の「最初から権利がなかったことに」という言い方は大げさで、条文の考え方では、さかのぼって消えるのは納付しなかった後期分の5年だと整理されるとされています。前期の5年分は有効です。後期分割登録料は、納付期限(存続期間の満了前5年まで)を過ぎても、その後6か月以内なら追納できます(商標法41条の2第5項。更新時は同条8項)。この追納期間内にも納付しないと、商標権は存続期間の満了前5年の日にさかのぼって消滅したものとみなされます(同条6項)。動画の「うっかり忘れると全てを失う」は、追納の機会も逃したときの話と受け取るのが正確です。)
動画は、この「さかのぼって消滅する」ルールが、権利維持に伴う厳しい責任を表しており、試験でも正誤判定のポイントになりやすい、と強調します。
まとめ
今回の動画の流れを、補足を含めて整理します。
| 権利 | 同日出願 | 存続期間 |
|---|---|---|
| 特許権 | 協議、不成立は共倒れ | 出願日から20年(延長あり) |
| 実用新案権 | 協議なし、同日ならいずれも不可 | 出願日から10年 |
| 意匠権 | 協議、不成立は共倒れ | 出願日から25年 |
| 商標権 | 協議、不成立はくじ | 登録日から10年、更新自由 |
- 4つの権利はすべて先願主義。同日出願のときだけ、決着が権利ごとに分かれる。
- 特許・意匠は協議、不成立ならどちらも登録なし。実用新案は協議がなく、同日ならいずれも登録を受けられない。
- 商標は協議のあと、特許庁長官が行うくじで決める。
- 存続期間は、特許20年・実用新案10年・意匠25年、いずれも出願日から。特許だけは一定の場合に延長がある(処分による延長は5年が限度)。
- 商標は登録日から10年で、更新登録を受ければ何度でも更新できる。更新時に実体審査はない。
- 商標の登録料を分割納付して後期分を納めないと、さかのぼって消滅する。
動画は最後に、ルールの1つ1つにビジネス上の明確な理由がある、と締めくくっています。数字の暗記だけで終わらせず、「なぜそうなっているか」とセットで思い出せるようにしておくと、本番で迷いにくくなります。
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