商標権・意匠権の効力
経営法務 第46回
「5年の月日と何億円もの開発費をかけて、まったく新しい革新的なデザインのスマートフォンを完成させたとします」。動画はこんな設例から始まります。このページでは動画の流れにそって、商標権の専用権・禁止権、防護標章登録、地域団体商標、そして意匠権の効力と、部分意匠・組物意匠・関連意匠をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
名前を守っても、見た目を真似されたら?
動画は、こんな設例から始まります。あなたの会社が、5年の月日と何億円もの開発費をかけて、まったく新しい革新的なデザインのスマートフォンを作ったとします。キャッチーな製品名を考えて、商標権もしっかり取りました。ところが発売1か月後、ライバル企業が、サイズやボタンの配置まで1ミリの狂いもなく同じ見た目のスマホを、まったく違う名前で売り出したのです。
名前しか権利にしていなければ、残念ながらこのライバルに文句は言えません、と動画は説明します。そこで見ていくのが、ブランドを守る商標権と、デザインを守る意匠権の2つです。単なる暗記科目ではなく、企業が築いたアイデアを守る「防衛戦術」として整理していきます。
(補足:動画にない話です。形の模倣は、不正競争防止法の「商品形態の模倣」の規定で対応できる場合もあるとされています。ただし保護される期間などに限りがあり、意匠権のような権利としての強さとは別物、と考えておくと整理しやすいでしょう。)
商標権の効力:専用権と禁止権
登録された商標は、指定した商品や役務(サービスのこと)について、独占的・排他的に使えます。この独占して使える力を専用権といいます。専用権の範囲では、商標権者は自分で独占的に使えるだけでなく、第三者の使用を排除することもできます。動画は、これを「自分だけの絶対領域、お城のようなもの」とたとえます。
ただ、お城だけでは安全といえません。そこで商標には、外堀の役割をする禁止権がもう1つ備わっている、と動画は説明します。出所の混同を生じる可能性のある類似の商標を、類似の商品や役務に使うことを禁止できる権利です。消費者が「あの有名なブランドの商品かな」と勘違いしてしまうような状況を、お堀の段階で食い止めるわけです。
| 権利 | 対象の範囲 | できること |
|---|---|---|
| 専用権 | 登録商標と同一の商標を、指定商品・役務に使う | 自分が独占して使う。他人の使用も排除する |
| 禁止権 | 類似の商標、または類似の商品・役務 | 他人が使うのを禁止する(自分が使える権利ではない) |
(補足:専用権は商標法25条、禁止権にあたる部分は同法37条(侵害とみなす行為)が根拠とされます。動画は、混同の可能性を類似の考え方として説明しています。外堀にあたる類似の範囲は、専用権の範囲より広い、という位置づけです。)
防護標章登録制度:業界が違っても守る盾
通常、商標の効力は、指定した商品・役務とその類似の範囲にしか及びません。車メーカーなら、車とその類似の範囲、というイメージです。ところが、広く需要者に認識されて著名になった商標は、類似だけでなく非類似の商品・役務に対しても使用を禁止できる権利を持てる、と動画は説明します。この仕組みが防護標章登録制度です。
業界がまったく違うなら、ビジネス上の競合にならない気もします。なぜそこまで広く認められるのですか。
競合するかどうかではなく、ブランドの信用がただ乗りされたり、傷つけられたりするのを防ぐためです。
なるほど。有名なロゴがついていれば、新事業を始めたのかと混同して買ってしまうかもしれませんね。
その結果、長い時間をかけて築いたブランドの価値が薄まってしまいます。それを防ぐ最強の盾が、この制度です。
(補足:この制度は商標法64条に定められ、登録商標の商標権者が出願するものです。条文上の要件は、登録商標が需要者の間に広く認識されていて、指定商品・役務と非類似の商品・役務で他人が使用すると、出所の混同を生ずるおそれがあることです。動画は「ブランドの価値が薄まるのを防ぐ」という趣旨で説明していますが、条文の言葉は「混同を生ずるおそれ」です。実務では高い周知(著名)性が求められるとされています。また、著名な商標は、商標法4条1項15号・19号や不正競争防止法で守られる場面もあります。)
同意があれば、似ていても登録できる
商標の世界は、敵を排除するだけではありません。動画は、先行する商標権者が同意していて、かつ出所の混同のおそれがないなら、登録商標と類似する商標を新たに登録できると説明します。条件は「同意」と「混同のおそれがないこと」の2つです。市場で当事者同士がうまく住み分けできているなら、現実に合わせて共存の道を残している、というわけです。
(補足:この同意(承諾)による登録の制度は、令和5年の商標法改正で導入され、令和6年4月1日に施行されたとされています。令和8年4月1日現在は、すでに施行済みです。古い問題集では「先に登録された類似商標があれば登録できない」とだけ書かれていることがあります。)
地域団体商標:夕張メロンを守る仕組み
地域に深く結びついたブランドは、地域団体商標登録制度という特殊な枠組みで守られます。たとえば「夕張メロン」のように、地域名と商品名からなる商標です。動画が注目するのは、出願できる主体の幅広さです。商工会や商工会議所のような組織だけでなく、NPO法人も出願できます。農業協同組合のように、地域のさまざまな組織が主体となってブランドを育てていくからだ、と説明されます。
登録には周知性が必要ですが、動画では、日本全国で誰もが知っているレベルまでは求められず、複数の都道府県に及ぶ知名度でよいと説明されます。隣の県で「あそこの名産品だよね」と知られていれば、クリアできる可能性がある、という話です。
そして最大の特徴が、せっかく登録した地域団体商標の権利は譲渡できず、専用使用権も設定できないという点です。聞き手が「個人の財産ではなく地域のインフラのように扱われているからか」と答えたのに対し、講師は「その通り」と応じています。もし夕張メロンの権利が、東京のまったく関係ないIT企業に売られて独占されたらどうなるか。「あの土地と気候で作られたからおいしい」という根本的な信頼が崩れてしまいます。だから特定の企業や個人が独占して売買の対象にしてはいけない、という設計思想です。
| 項目 | 動画の説明 |
|---|---|
| 商標の形 | 地域名と商品名からなる(例:夕張メロン) |
| 出願できる主体 | 商工会、商工会議所、NPO法人など |
| 周知性 | 複数の都道府県に及ぶ知名度でよい |
| 権利の扱い | 譲渡できない。専用使用権も設定できない |
(補足:根拠は商標法7条の2とされています。出願できる主体は、事業協同組合などの特別の法律でつくられた組合、商工会、商工会議所、NPO法人などです。周知性の程度は、審査基準などでは、少なくとも隣接する都道府県に及ぶ程度、と説明されることが多いようです。資料により表現が異なるため、動画の「複数の都道府県」とあわせて覚えておくとよいでしょう。商標法では、専用の使用許諾は「専用使用権」、通常の許諾は「通常使用権」と呼びます。地域団体商標は専用使用権を設定できませんが、構成員に通常使用権を許諾して使わせることは想定されています。なお、譲渡できないのは商標法24条の2第4項、専用使用権を設定できないのは同法30条1項ただし書によります。)
意匠権の効力:類似にも及ぶ。判断するのは需要者
ここからが、冒頭のスマホの悪夢に戻る後半戦です。名前をまねされなくても、見た目デザインをコピーされたらどう守るのか。その答えが意匠権です。
動画によると、意匠権の効力は、同一の物品・同一の形態だけでなく、類似する物品・類似する形態にも及びます。そこで問題になるのが、形態が類似かどうかを誰が判断するかです。聞き手はデザイナーや芸術家が専門的に判定すると考えましたが、講師は「違う」と答えます。判断するのは、デザイナーではなく需要者、つまり一般の消費者の感覚です。
理由は、意匠法が守ろうとしているのが、芸術性や美術的価値ではなく、産業上のルールだからだと動画は説明します。消費者が店頭に並んだ商品を見て、「あのブランドの商品だ」とパッと見で間違えて買ってしまうのを防ぐことが目的です。プロがルーペで見て「ここが1ミリ違うから別物」と言い張っても、買い物に来た需要者が「似ているな、勘違いしそうだ」と思えば、アウトということです。
(補足:意匠法の目的は、意匠の保護と利用を図り、創作を奨励して産業の発達に寄与すること(意匠法1条)とされます。意匠権者は、登録意匠とこれに類似する意匠を業として実施する権利を専有します(同法23条)。類似かどうかは、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものと定められています(同法24条2項)。なお、意匠権では「専用実施権」「通常実施権」と呼び、商標権の「使用権」とは言葉が違います。)
部分意匠と組物意匠
製品のデザインは、いつも1つの塊とは限りません。そこで登場するのが、部分意匠と組物意匠です。
部分意匠は、物品の一部にも独立した意匠権を認める制度です。動画の例は、スマートフォンの特徴的なカメラのレンズ配置部分や、スニーカーの独特な部分だけを登録する場合です。動画によれば、その効力は、部分意匠と同一または類似の意匠を含む全体に及びます。相手がスマホ全体の形を変えて「別物だ」と主張しても、カメラの配置さえ真似していれば侵害にできる、ピンポイントで意匠を守る強力な武器、という説明です。
組物意匠は、2個以上の独立した物品に対して1つの意匠権を認める制度です。典型例は、ナイフ・フォーク・スプーンのセットです。ここには落とし穴があります。セットで登録した場合、効力はセットとして及び、セットの中のナイフだけ、スプーンだけを真似してバラ売りされた場合には、意匠権は及びません。組物意匠が守るのは、セット全体としての統一感だからです。
| 項目 | 部分意匠 | 組物意匠 |
|---|---|---|
| 登録の対象 | 物品の一部 | 2個以上の物品のセット |
| 効力 | 同一・類似の部分を含む全体に及ぶ | セットとして及ぶ。1品だけには及ばない |
斬新なカトラリーセットを組物意匠で登録しても、スプーンだけ真似されて、バラ売りされたら防衛を突破されてしまいますよね。
だから実務では戦略的な権利の取り方が必要です。組物意匠でセット全体を登録しつつ、特徴的なスプーン単体でも意匠登録を行います。さらにスプーンの柄の彫刻部分だけを部分意匠として登録するのです。
点と線と面で、バリアを何重にも張るわけですね。
(補足:意匠法は令和元年改正(令和2年4月1日施行)で、保護の対象が物品だけでなく、建築物や画像にも広がりました。組物意匠は意匠法8条の定めで、組物として登録できるのは、同時に使用される2以上の物品、建築物または画像のうち、経済産業省令で定めるものとされています。動画の「ナイフ・フォーク・スプーン」はその典型例です。)
関連意匠:デザインの系譜を守る
デザインは、時間とともに進化します。車のモデルチェンジのように、基本コンセプトを保ちつつ、少しずつ姿を変えてシリーズ展開していくことも多いでしょう。そのデザインの系譜を守る仕組みが関連意匠制度です。
意匠権は類似の形態にも及ぶので、本来は、すでに登録されている自分の意匠に似た別の意匠は、新たに登録できないはずです。ところがそれでは、マイナーチェンジのたびに弾かれて、バリエーションを展開する企業の足かせになります。そこで、同一の出願人であれば、1つの意匠(本意匠)に類似する複数の意匠を、特別に関連意匠として登録できる、というのがこの制度です。
動画の説明を整理すると、次の3点です。
- 関連意匠は、本意匠の出願から10年以内であれば登録できます。
- 関連意匠の意匠権の存続期間は、基礎意匠の出願日から25年です。基礎意匠とは、最初に本意匠として選んだ1つの意匠のことです。
- 親にあたる本意匠の意匠権が放棄などで消滅しても、関連意匠の意匠権自体が消滅していなければ、基礎意匠の出願日から25年存続します。
(補足:「本意匠が消滅しても存続」は、関連意匠が設定登録されたあとの話です。関連意匠の設定登録の時点で本意匠の意匠権がすでに放棄・無効・料金不納などで消滅していると、その関連意匠は登録を受けられません(意匠法10条1項ただし書)。本意匠に専用実施権を設定している間も、関連意匠は登録できません(同条6項)。また基礎意匠と関連意匠の意匠権は、分離して移転できません(同法22条)。)
さらに動画は、関連意匠のみに類似する意匠も登録できると説明します。本意匠に似た子を登録して、その子にだけ似た孫を登録して、とつなげていけるのです。意匠を点ではなく面と時間の広がりで囲い込む、実務で重要で高度な戦略、というまとめでした。
簡単な設例で確認します。基礎意匠を出願して、9年後に新モデルを関連意匠として出願したとします。動画の説明に沿えば、10年以内なので出願できます。守られる期間の終わりは基礎意匠の出願日から25年なので、自分の出願から数えて25-9=16年です。10年目ぎりぎりでも25-10=15年は残ります。
(補足:関連意匠を出願できる期間は、意匠法10条1項で「本意匠の意匠登録出願の日から10年を経過する日前まで」と定められています。関連意匠にだけ類似する意匠(子・孫)を出願するときも、同条4項・5項により、数えるのは最初に選んだ基礎意匠の出願日からです。親・子・孫と連鎖させても10年の起点は動きません。存続期間も基礎意匠の出願日から25年です(同法21条2項)。動画が言う「類似する意匠は新たに登録できない」というのは、実際には先に出願された意匠や、すでに知られている意匠に類似するものが、登録を受けられないという意味です。関連意匠は、自分の本意匠との関係ではその例外として扱われます。意匠法10条が根拠です。)
まとめ
動画の最後は、商標が名前と信用を専用権・禁止権のお堀と、防護標章という盾で守り、意匠が商品の視覚的な魅力を、部分意匠のピンポイント防御や関連意匠の系譜で守る、という形で締めくくられます。最後に、2つの権利を並べて整理しておきましょう。
| 項目 | 商標権 | 意匠権 |
|---|---|---|
| 守るもの | ブランド名・ロゴと、その信用 | 製品の見た目(形) |
| 効力の広がり | 専用権+禁止権(類似まで) | 登録意匠と類似の意匠 |
| 範囲を広げる制度 | 防護標章登録、地域団体商標 | 部分意匠、組物意匠、関連意匠 |
動画のまとめ
- 商標権は、専用権(お城)と禁止権(外堀)で守る。著名な商標は、防護標章登録で非類似の範囲まで禁止できる。
- 先行する商標権者の同意があり、混同のおそれがなければ、類似の商標も登録できる。
- 地域団体商標は、NPO法人も出願できる。譲渡できず、専用使用権も設定できない。
- 意匠権は類似にも及び、類似かどうかは需要者の感覚で判断する。
- 部分意匠はピンポイント、組物意匠はセット全体、関連意匠は時間の広がりを守る。
次にスーパーや家電量販店で商品を手に取るとき、そのパッケージや形が、どんな権利の組み合わせで守られているのか、想像してみてください。
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