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中小企業診断士 1次試験

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職務発明と知財の権利は誰のものか

経営法務 第47回

経営法務・知財 00719分41秒2026年4月5日公開

「日々の業務の中で、もしあなたが数十億円の価値を生むような画期的なアイデアを思いついたとします。その富は一体誰のものになるんでしょうか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、職務発明・職務著作、共有の同意ルール、権利の移転の違いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

数十億円のアイデアは、誰のもの?

日々の業務の中で、数十億円の価値を生むような画期的なアイデアを思いついたとします。その富は誰のものになるのでしょうか。あなたの頭脳から生まれたのだから、あなたのものなのか。それとも給料を払い、デスクやパソコンを用意している会社のものなのか。動画はこの問いから始まります。

動画が扱うのは、企業活動の裏側で静かに、でも強力に働いている知的財産権の「帰属」「共有」「移転」の3つのルールです。

  • 帰属:従業員と会社のあいだで、生まれた権利は誰のものになるか。
  • 共有:複数人で権利を持つとき、何が自由で、何に同意が要るか。
  • 移転:権利を売るとき、丸ごとでなければならないのか、切り売りできるのか。

職務発明と自由発明

法律は、従業員が生み出した発明を大きく2つに分けて考えます、と動画は説明します。仕事として行った発明が職務発明、会社の仕事とまったく関係のないところで生み出した発明が自由発明です。

動画のたとえはケーキ屋のパティシエです。お店の厨房で業務中に新作ショートケーキのレシピを完成させたら職務発明。休日に自宅で、趣味のスパイスカレーのレシピを極めたなら自由発明です。自由発明の権利は、発明した従業員個人のものです。

職務発明会社の業務範囲で、本人の職務→ 取り決めがあれば会社へ業務発明(補足)業務範囲だが本人の職務ではない→ 職務発明以外は事前の定めが無効自由発明会社の仕事と無関係→ 本人のもの(事前の定めは無効)
動画は職務発明と自由発明の2つに分けて説明します。

(補足:動画は2分類で話していますが、特許法35条の職務発明は、会社の業務の範囲に属し、かつ、従業員の現在または過去の職務に属する発明、とされています。会社の業務の範囲には入るものの、本人の職務ではない発明は、講学上業務発明と呼ばれることがあります。業務発明も自由発明も職務発明ではないため、あらかじめ会社に権利を取得させる契約や就業規則の定めは無効です(特許法35条2項)。)

特許を受ける権利は、まず従業員のもの

では、会社の給料をもらい、会社の設備で作ったレシピの特許は、自動的に会社のものになるのでしょうか。ここが多くの人が勘違いしやすいところだと、動画は言います。特許を受ける権利は、発明が生まれた瞬間には、原則として従業員に帰属します。

理由は、発明が人間の頭脳による知的な創造だからです。法人という組織は頭脳を持たないので、発明者にはなれません。まずは生身の従業員に権利が発生します。

うちのお金と時間で作ったのに、お前のものかってなりますよね。

そうです。だから会社は防御策を講じる必要があります。具体的には、就業規則などで、特許を受ける権利をあらかじめ会社に取得させると定めておくのです。

この定めがしっかりあれば、権利は発生した時から会社に帰属します。事前のルール作りが全てを左右するわけです。

では従業員はただ働きなのかというと、そうではありません。就業規則などで権利を会社に取得させた場合、従業員は相当の利益を受ける権利を持ちます。動画の説明では、相当の利益は金銭などの経済上の利益です。聞き手が「発明の対価として多額のボーナスが支払われる、あれですね」と言うと、講師は「まさにそれです」と応じています。

従業員が職務発明をする規則等に定めあり定めなし発生した時から会社のもの従業員は相当の利益を受ける権利従業員のもの会社は無償の通常実施権を持つ
就業規則などの事前のルールが分かれ道になります。

反対に、会社がうっかりしていて就業規則に何の定めもなかった場合は、特許を受ける権利は従業員個人のものとして確定します。従業員が「莫大なライセンス料を払え」と言い出したり、ライバル企業に売ったりしたら悪夢です。そこで法律には安全装置があります。権利が従業員に残っても、会社は無償の通常実施権を持ちます。巨額のお金を払わなくても、会社は自由にその発明を実施できます。もともと会社の環境があったからこそ生まれた発明だからです。

(補足:「相当の利益」という言い方は、2015年(平成27年)の特許法改正で、それ以前の「相当の対価」から変わったものです。令和8年4月1日現在は、相当の利益の内容を決める手続きについて、国が指針(ガイドライン)を定めています。また、従業員が特許を受けたとき、または権利を承継した会社が特許を受けたときに、会社が通常実施権を持つ、という形で条文は書かれています(特許法35条1項・3項・4項・6項)。)

動画によると、この職務発明と同様の仕組みは、実用新案権の職務考案、意匠権の職務創作(意匠法15条3項)にもあります。

著作権は逆:職務著作は最初から会社のもの

ところが著作権になると、ルールはガラッと変わります。職務上作成された著作権は、職務著作といい、原則として初めから使用者に帰属します。従業員を経由しません。しかも動画では、会社は著作権という財産権だけでなく、著作者人格権も初めから持つことになる、と説明されます。創作者本人から切り離せないはずの権利まで会社のものになるのです。

なぜ特許はあんなに従業員ファーストなのに、著作権は最初から会社なのか。動画の答えは、企業が作るマニュアルやソフトウェアのプログラムを想像してみて、というものです。法人の名義で公表され、大勢の従業員が関わり、組織全体で作り上げる性格が強い。誰か1人のひらめきというより、日々の業務の積み重ねやチームでの共同作業です。コード1個ごとに個人から権利を移してもらう手続きは現実的ではありません。

(補足:著作権法15条の職務著作には、会社が著作者になるための条件があります。会社の発意に基づくこと、会社の業務に従事する者が職務上作成すること、会社が自己の著作の名義で公表するものであること、そして契約や就業規則に別段の定めがないことです。プログラムの著作物は、公表名義の条件が要らないとされています。会社が「著作者」になる結果として、著作権と著作者人格権の両方を最初から持つ、という理解になります。)

商標に「職務商標」はない

さらに面白いのが商標権です。動画は、商標権には職務商標という概念が存在しないと言います。会社員が新しいブランド名やロゴを考えるのは日常茶飯事なのに、なぜでしょうか。

特許や著作権は、新しいものをゼロから創作したこと自体を保護します。ところが商標は、企業の信用やブランドを表す、いわばビジネスの看板です。誰が思いついた名前かではなく、誰のビジネスの看板として使われているかが重要になります。名前に信用を蓄積していくのは、事業を行う企業そのものです。そもそも従業員個人に権利が発生して、それを会社に譲り渡すという前提が成り立たないのです。

特許最初は従業員のもの(定めで会社へ)著作権最初から会社のもの(職務著作)商標職務商標はない(使う企業の権利)
同じ「職務」でも、権利によって出発点が違います。

共有:持ち分は平等と推定される

ここまでは従業員1人と会社の関係でした。次は、複数人のチームで共同開発した場合です。複数人で出願して特許権を取得すると、その特許は複数の出願人、つまり権利者で共有されます。この考え方は、実用新案権、意匠権、商標権でも同じだと動画は説明します。

では、4人のチームで特許を取ったら、リーダーが半分で、残り3人が少しずつ、という分け方になるのでしょうか。いいえ、特に合意がない場合は、各共有者の持ち分は平等と推定されます。4人なら、きっちり1/4ずつです。貢献度に応じて割合を変えたいなら、契約などで決めておく必要があります。たとえば「リーダー40%、残り3人が20%ずつ」と決めれば、合計は100%になります。

(補足:特許法には持ち分の割合を定める条文はなく、共有一般のルールである民法250条の「持ち分は等しいと推定する」が当てはまります。)

共有の3グループ:別荘で考える

1/4の持ち分を持つ人が、自分の分だけ勝手に他社へライセンスを出してもよいのでしょうか。それはできません。動画は、行為を次の3グループに分けると整理しやすいと言います。ここで聞き手が出した例が、友人4人で共同購入した別荘です。

1つ目は、他の共有者の同意が必要なこと。持ち分の譲渡、専用実施権の設定、通常実施権の許諾です。別荘なら、自分の持ち分を他人に売る、別荘全体を夏のあいだ誰かに独占的に貸す、といったことにあたります。見知らぬ人が「今日から俺もオーナーだ」と入ってきたら、他の3人はパニックです。共有という信頼関係に第三者を引き入れる行為には、全員の同意が不可欠です。

2つ目は、単独でできること。権利の行使、つまり自分で発明を実施することです。自分が週末に別荘へ泊まりに行くのに、他の3人の許可は要りません。さらに、侵害者への差止請求や損害賠償請求も単独でできます。窓を割って入り込んだ不法侵入者を、3人に電話する前に追い出すイメージです。侵害を放置すれば共有者全員が損をするので、全員のプラスになる防御は1人で機敏に動けるようになっています。

他の共有者の同意が必要持ち分の譲渡専用実施権の設定・通常実施権の許諾単独でできる自分での実施(権利の行使)差止請求・損害賠償請求同意があっても単独ではできない出願(全員が共同で行う)
別荘の共有にたとえると分かりやすい3グループです。

3つ目は、同意があっても単独ではできないこと。それが特許の出願です。複数人で発明したものを、誰か1人が代表して単独名義で出願することは、他の全員が同意していてもできません。必ず共同で手続きを行います。

(補足:特許法38条は、特許を受ける権利が共有のとき、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願ができない、と定めています。動画では「特許権の」共有の話の流れで出てきますが、正確には、特許権になる前の「特許を受ける権利」の共有の段階の話です。商標権は、実施権ではなく「使用権」という呼び方をします。)

著作権の共有は「行使」にも全員の合意

ここでも著作権には独自の特例があります。動画は、著作権には専用実施権や通常実施権という概念自体がないが、共有著作権を行使するときは、特許権と違って共有者全員の合意が必要になる、と説明します。特許のような技術的アイデアと違い、著作物は表現そのものだからです。共同で書いた小説を、他の誰かが勝手に映画化の依頼を受けて、内容を昼ドラのように改変してしまったら、他の作者はたまりません。

ただし、著作権でも、持ち分の譲渡には同意が必要で、差止請求や損害賠償請求は単独でできる、という点は特許と同じです。

(補足:「専用実施権・通常実施権」は特許法の用語で、著作権法では、他人に利用を認める利用許諾(著作権法63条)や出版権といった別の仕組みがあります。動画の言う「概念がない」は、特許と同じ名前の制度がない、という意味で受け取るのが正確です。共有著作権の持ち分の譲渡と行使は、著作権法65条が全員の同意・合意を求めています。差止請求を各共有者が単独でできることは、同法117条にあります。)

移転:特許は丸ごと、商標と著作権は切り分けられる

最後のテーマは権利の移転です。聞き手の問いは「別荘のシェアを売るのではなく、ガレージの部分だけを切り離して売れるのか」でした。動画によれば、知的財産権の種類によって移転の自由度は大きく違います。

特許権は、持ち分としての譲渡は同意があればできますが、ある請求項だけ、ある実施形態だけといった一部の譲渡はできないと動画は説明します。特許は1つの不可分な技術的アイデアの塊で、一部を切り離すと技術のまとまりが壊れ、権利の境界があいまいになるからです。自動車のエンジンの特許から、ガソリンを燃焼させる部分の権利だけ売る、というのでは、買った側も売った側も困ってしまいます。

対照的なのが商標権です。指定商品・指定役務ごとに分割して移転できます。アパレル事業と飲食事業の両方で商標登録していた企業が、飲食から撤退するなら、飲食の区分の商標権だけを売り、アパレルの商標権は手元に残せます。アパレルと飲食では消費者が混同するおそれが低く、分けても混乱が生じにくいからです。

著作権も柔軟です。複製権だけをA社に、公衆送信権だけをB社に、といった形で権利の一部だけをバラバラに譲渡できます。著作権がさまざまな活用方法の束でできているからです。

特許権丸ごと・持ち分は可請求項ごとの移転は不可(動画)商標権指定商品・役務ごとに分けて移転できる著作権複製権だけ・公衆送信権だけなど一部も可
特許は一体のもの、商標と著作権は切り分けられるもの、と動画は整理します。

(補足:商標権の分割移転は商標法24条の2、著作権の一部譲渡は著作権法61条1項が根拠とされています。著作権法61条2項は、翻案権などが譲渡契約に特に書かれていないと、譲渡した側に残ったものと推定する、という定めです。なお、著作者人格権は譲渡できません(著作権法59条)。職務著作で会社が最初から持つのは、会社が著作者になるからです。)

この違いは、知財戦略にそのままつながります。特許は丸ごと守るか手放すかの「オール・オア・ナッシング」ですが、商標や著作権なら、自社で使わない分野の権利だけを他者に売って収益化する、という柔軟な打ち手が取れます。

まとめ

3つの関係性の整理

  • 職務発明(帰属):動画では、特許を受ける権利はまず従業員のもの。就業規則などで定めれば会社に帰属し、従業員は相当の利益を受ける。定めがなくても会社は無償の通常実施権を持つ。
  • 著作権・商標:職務著作は最初から会社が著作者になる。商標に職務商標はない。
  • 共有:持ち分は平等と推定される。同意が必要なのは持ち分の譲渡と実施権の設定・許諾。単独でできるのは実施と差止請求・損害賠償請求。出願は共同で行う。著作権は行使にも全員の合意が要る。
  • 移転:特許は丸ごと、商標は指定商品・役務ごと、著作権は権利の一部ごとに移転できる(動画の説明)。

動画は最後に、少し未来の話をします。今日学んだ職務発明は、従業員が行うものという大前提でした。では近い将来、従業員でない主体が画期的な特許技術を生み出したら、相当の利益は誰に支払われるのか。技術が法律を追い越していく時代に、基本ルールがどう変わるのか。動画は、視聴者自身で考えてみてください、と投げかけて終わります。

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