不正競争防止法の要点まとめ
経営法務 第51回
「あなたがもし外部から完全に遮断された秘密の工場を運営しているとしてみてください」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、不正競争防止法が定める10の行為と、営業秘密の3要件や侵害の推定をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
秘密の工場から設計図が盗まれたら
動画は、こんなたとえから始まります。外から完全に遮断された秘密の工場で、何年もかけて新製品の設計図を作った。ところがある日、ライバルが全く同じ仕組みの新製品を大々的に発表した。設計図が盗まれたに違いない。でも、相手の施錠された工場に押し入って証拠を探すわけにはいかない。泣き寝入りするしかないのか。動画は「そんなことはない」と答えます。企業の努力の結晶を守る、目に見えない防衛システムが用意されているからです。その代表が不正競争防止法です。
動画では、この法律の目的を、不正競争を防止することと、不正競争があった場合の損害賠償を定めることだと説明します。事前に防ぐ盾と、やられたあとの賠償という剣の両方を持つ、という整理です。
補足:動画の説明は短くまとめたものです。法律の第1条は、事業者間の公正な競争とこれに関する国際約束の的確な実施を確保するために、不正競争の防止と損害賠償に関する措置などを講じ、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする、と定めています。差止めの請求もこの法律の大事な手段なので、「盾(差止め)と剣(損害賠償)」と覚えると実際の姿に近くなります。
10の行為を一気に見渡す
動画は、禁止される行為を10個に分けて順番に見ていきます。最初に全体の地図を置いておきます。これは動画の順番ではなく、このページで「何を守る行為か」で並べ直したものです。
補足:条文は細かく場合分けされていて、数え方は資料により異なります。動画の「10」は、類型をまとめて数えたものと考えてください。試験では、行為の名前と、守る対象の組み合わせを押さえておくのが基本です。
周知表示混同惹起行為:紛らわしい表示
最初に出てくる、呪文のように長い名前が周知表示混同惹起行為です。動画は「要するに紛らわしい行為」と言い換えます。需要者の間に広く知られている他人の商品等表示と、似たような紛らわしい表示を使う行為のことです。
商品等表示は、会社名だけではありません。動画によると、人の業務にかかる氏名、商号、商標、商品の容器や包装など、それを見れば「その商品や事業が誰から提供されているか」が分かる表示のことです。動画の例は、道頓堀の動くカニの看板(かに道楽)です。あれを見ればどこの店かすぐ分かります。別の会社が似た動くカニの看板を掲げたらどうなるか。動画では、不正競争の対象とされ、看板の使用禁止と損害賠償が認められたケースだと紹介しています。
ここで大事なのは、実際にお客さんが間違えていなくてもよい、という点です。動画では、混同が起こりそうな紛らわしいものであれば対象になる、と説明されます。
著名表示冒用行為:もっと強い守り
では、混同しようがないほど違う業界で使われたらどうでしょうか。聞き手がそう尋ねたところで、動画は著名表示冒用行為を紹介します。周知よりさらに有名なレベルの商品等表示を、自分のものとして使う行為です。この場合は、混同のおそれがなくても不正競争の対象になります。
混同するかどうかの議論すら要らないんですか。なぜそこまで徹底的に守るんでしょう。
著名な表示が勝手に使われると、持ち主は3つの深刻な不利益を被るからです。
3つの不利益は次のとおりです。動画は、1つ目が築いてきたブランドにただ乗りされるフリーライド、2つ目がブランドの価値が薄まる希釈化(一般にダイリューションと呼ばれます)、3つ目が自社のブランドイメージが悪くなるポリューション(汚染)だと説明します。
混同がなくても、この3つは起こり得ます。だから著名なブランドは、混同の有無に関係なく守られる、というのが動画の説明です。
補足:動画が3つ挙げた不利益は、著名表示を守る理由として一般によく説明されるものです。条文に「3つ」と書いてあるわけではない点に注意してください。
商品形態模倣行為:デッドコピー
看板やブランド名ではなく、商品そのものの形はどう守られるのか。これに対応するのが商品形態模倣行為、いわゆるデッドコピーです。他人の商品の形態を真似た商品を譲渡したり、展示したりする行為を指します。動画の例は、昔のブームになった「たまごっち」です。当時、便乗した類似商品が出回り、それらは不正競争の対象とされた、と紹介されます。また、現実の商品だけでなく、デジタル空間上の商品の形態を模倣する行為も対象だと動画は言います。
ただし、重要な例外があります。動画が挙げるのは次の2つです。1つ目は、日本国内で販売された日から3年が経っている商品には、この行為の規制は及ばないこと。2つ目は、模倣品と全く知らず、知らないことに落ち度のない人は対象外になることです。
聞き手は「3年は短すぎないか」と感じますが、動画は、社会全体の競争や発展とのバランスを取っているのだと答えています。たとえば令和5年6月に国内で売り出された商品なら、3年が経つのは令和8年6月ごろです。令和8年4月1日の時点では、まだ3年の内側にいる商品、というイメージです。
補足:動画では「落ち度がない」と言っていますが、条文は重大な過失がないこと(善意無重過失)としています。軽い不注意があっても、直ちに責任を負うわけではありません。また、ありふれた形態や、商品の機能を確保するのに欠かせない形態は、保護の対象から外れるとされています。デジタル空間上の形態については、令和5年の改正(令和6年4月1日施行)で、2条1項3号に「電気通信回線を通じて提供する行為」が加わりました。条文では「日本国内において最初に販売された日から起算して3年」を経過した商品が対象外です(19条1項6号イ)。また、善意無重過失の人の例外は、商品を譲り受けた時点で模倣品と知らず、知らないことに重大な過失がなかった人が、その商品を転売などする行為が対象外になる、という規定です(19条1項6号ロ)。
誤認惹起行為と信用毀損行為:消費者と競争を守る
ここからは消費者や競争秩序を守る視点です。誤認惹起行為は、産地偽装など、広告などで消費者が勘違いしそうな表示をする行為です。信用毀損行為は、ライバルの信用を害するために虚偽の噂を流す行為です。どちらも、フェアプレイを守るためのルールだと動画は話します。
補足:誤認惹起行為は産地だけの話ではなく、品質、内容、製造方法、用途、数量などについて誤認させる表示も含まれます。信用毀損行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告げたり広めたりする行為です。本当のことを言った場合は、この類型には当たりません。
ドメイン名と技術的制限手段:デジタルの話題
次はデジタルの話題です。ドメイン名の不正取得は、ネット上の住所のようなドメイン名について、他人の商品等表示と同一または類似のものを、悪意をもって取得したり使ったりする行為です。動画では、他人に損害を加えることを目的として、似たドメインを勝手に取る行為だと説明されます。
補足:条文の目的は、「不正の利益を得る目的」か「他人に損害を加える目的」のどちらかです。動画は後者だけを挙げていますが、前者の場合も対象になります。
もう1つが、デジタルコンテンツの技術的制限手段に関する不正行為です。コピープロテクトを勝手に外す行為のことです。ここは聞き手が「自分で外すプログラムを作るのだけがダメなのか」と確かめます。動画の答えは、コピープロテクトを外す機器の提供だけでなく、外す役務、つまり代行サービスの提供なども含まれる、というものです。
限定提供データと代理人の商標:データと内部の裏切り
現代の最も大事な資産といえばデータです。データの不正取得・使用等のルールで守られる限定提供データについて、動画は、IDやパスワードなどの管理を施したうえで、業として提供されるデータだと説明します。例として挙げられたのは、自動運転車向けの3次元地図データや、POSシステムで集めた商品ごとの売上データです。
補足:限定提供データは、次に出てくる営業秘密と守り方が違います。限定提供データは、2条7項で、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積・管理されている技術上または営業上の情報で、営業秘密を除くものとされています。令和5年の改正(令和6年4月1日施行)までは「秘密として管理されているものを除く」でしたが、現在は「営業秘密を除く」です。営業秘密に当たるデータは営業秘密として、当たらないデータが限定提供データとして守られる、と整理しておくと混乱しません。
外からのハッキングだけでなく、内側からの裏切りも想定されています。それが代理人等の商標無断使用行為です。動画の説明では、有名ブランドの代理店などが、そのブランドの商標を使って、勝手に模倣品を販売するような行為を指します。味方だと思っていた代理店が裏でパクリ商品を売るのは許せない、という聞き手の感想のとおりです。
補足:この類型(2条1項22号)は、外国(パリ条約の同盟国など)で商標権に相当する権利をもつ者の代理人や代表者(行為の日前1年以内にそうだった者を含む)が、正当な理由なく、権利者の承諾を得ないでその商標と同一・類似の商標を使う場合を対象にしています。ブランドが有名であることは要件ではありません。動画は「模倣品を売る」例で説明していますが、売る物の語は動画の音声から確定できません。
営業秘密:企業にとって最も価値のある秘密
最後は、スパイ映画のようなトピックの営業秘密です。動画によると、営業秘密を不正に取得、使用、開示する行為は不正競争行為になります。ただし、会社の情報なら何でも守られるわけではありません。営業秘密として認められるには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密管理性:アクセス制限や、秘密であることを示すマークをつけるなど、秘密として管理するための措置がとられていること。「ちゃんと鍵をかけて管理しなさい」ということです。
- 有用性:事業活動に役立つ情報であること。動画では、公序良俗に反する内容以外なら、基本的にどんな情報でもよいと言っています。
- 非公知性:公然と知られていない情報であること。世間に知られていないという意味です。
営業秘密には、営業上の情報だけでなく、技術上の情報も含まれます。冒頭の設計図は、技術上の情報の典型です。
補足:この3要件は、不正競争防止法第2条6項の定義(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの)を、3つに分けて言い直したものです。
冒頭の工場の話に戻ります。盗まれた設計図を相手が自社工場でこっそり使っているとして、中が見えないのに、どうやって使用を証明するのか。動画は、これを現実的なハードルだと認め、営業秘密の侵害には特別なルールがあると答えます。
推定されるんですか。つまり私が頑張って証明しなくても、法律の側が「盗んだ図面で作ったんだろう」と扱ってくれるんですか。
そのとおりです。証明の責任が相手側に移るイメージですね。
動画の説明では、設計図などの物の生産に関するものを盗んだことが証明できれば、その物を売っていた場合に、盗んだ設計図などを使って生産したと推定されます。また、スパイ行為などによって作られた製品を輸入した場合も、営業秘密の侵害に当たります。輸入して逃げようとしてもダメ、ということです。
補足:この推定の規定は、営業秘密のうち技術上の情報が対象です。営業上の情報(顧客名簿など)には、同じ推定は働きません。また、動画では「売っていた場合」と話していますが、条文の細かい要件(生産や譲渡など、どの行為が対象か)は資料により整理が異なるので、細部は確認していません。
ただし、ここにも例外があります。動画は、不正取得を知らず、かつ知らないことに重大な過失がなければ、損害賠償や差止請求の対象にならないと説明します。本当に何も知らずに関わってしまった人は守られる、という、バランスのとれた仕組みです。
まとめ
このページのまとめ
- 目的:動画は、不正競争の防止と、不正競争があった場合の損害賠償を定めることと説明(盾と剣)。条文の目的は、公正な競争の確保などを通じた国民経済の健全な発展。
- 周知表示混同惹起:広く知られた表示に似た紛らわしい表示を使う。混同のおそれがあれば対象。
- 著名表示冒用:周知よりさらに有名な表示。混同のおそれがなくても対象。守る理由は、ただ乗り、希釈化、汚染の3つ。
- 商品形態模倣:デッドコピー。国内販売から3年で規制が及ばなくなる。善意で重大な過失がない人も対象外。
- 誤認惹起・信用毀損:消費者の勘違いを招く表示と、ライバルについての虚偽の噂。
- ドメイン名・技術的制限手段:悪意でのドメイン取得と、コピープロテクトを外す機器や役務の提供。
- 限定提供データ・代理人の商標:IDなどで管理されて業として提供されるデータ。代理店などによる商標の無断使用。
- 営業秘密:秘密管理性・有用性・非公知性の3要件。技術上の情報の侵害は、証明の責任が相手側に移る推定がある。
動画の最後の問いかけは、データやAIが生み出すコンテンツがあふれる時代に、守るべきオリジナルの価値と、許される模倣との境界線はどこに引かれるのか、というものでした。この法律の考え方を、ひとつの手がかりにしてみてください。

