商標登録を成功させる全手順
経営法務 第45回
「あなたの貯金を全部注ぎ込んでこだわりのコーヒーブランドを立ち上げたとします。ところが翌日、隣町のカフェから、そのロゴの使用を直ちに中止せよという警告文が届いたら」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、商標の願書の書き方、審査の進み方、登録料の納付、登録後の不使用取消審判、出願中の金銭的請求権までをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
貯金を注ぎ込んだカフェに、翌日、警告状が届く
動画は、こんな想像から始まります。全財産を使ってこだわりのコーヒーブランドを立ち上げ、立派な看板も作って、いざオープン。大行列で大成功と思った矢先に、翌日、「そのロゴの使用を直ちに中止せよ」という警告文が届く。送ってきたのは、昨日オープンしたばかりの隣町の別のカフェでした。自分のほうがずっと前から準備していたのに、なぜこうなるのか。
動画の答えは、ブランド名や商品名は、デザインして使い始めただけでは守られず、商標権という「目に見えない法的な鎧」を着てはじめて安全な資産になる、ということです。今回は、その鎧をどう手に入れるか、つまり出願から登録までの流れと、その後の効力を順に見ていきます。
(補足:動画にない話です。同じ商標を複数の人が出願したときは、使い始めた順ではなく、先に出願した人が登録を受けます。これを先願主義といいます(商標法8条)。ただし、他人の出願より前から使っていて、広く知られていた場合などは、例外として使い続けられる制度があります(先使用権、32条)。冒頭のような話は、出願の早い遅いで決まる、と押さえておきましょう。)
まず願書を出す:宛先は特許庁長官
最初の一歩は出願です。市役所ではなく、特許庁長官に、願書と必要な書類を提出します。願書にはいくつかの項目を厳密に書きます。
- 出願人の氏名(または名称)と住所:誰が出願するのかというプロフィール。
- 登録を受けようとする商標:名前やロゴそのもの。
- 指定商品・指定役務と、その区分:どの分野で使う商標なのかの宣言。
③がとくに大事です。商標権は、世の中のすべてのビジネスで言葉を独占できる魔法の権利ではなく、特定の分野でだけ独占できる権利だからです。動画のたとえでは、カフェの運営という分野で名前を押さえるのか、全然関係のないアパレルでTシャツを売る分野で押さえるのかを、国に対して「この区分のこの領土が私のものです」と宣言するわけです。商品や役務の分類(区分)は国際的な分類にもとづくとされています。
さらに、立体商標、色彩のみの商標、音の商標などの場合は、その旨を願書に記載します。動画では、パソコンが起動するときの「ジャン」という音も音の商標になりうる、という例が出ます。(補足:動画では「見る角度で見え方が変わる商標」にも触れていますが、これはホログラム商標などを指すとされています。新しいタイプの商標には、ほかに動き商標や位置商標などもあります。)
図面は任意? 権利の範囲を決めるのは願書の記載
聞き手は、音や立体を文字でどう書くのか、図面などの特別な資料が必須ではないのか、と疑問を持ちます。動画の講師は、必要な書面として図面などはあるが、提出は任意だと答えます。理由は、権利の範囲はあくまで願書に記載された内容によって決まるという大原則があるから。願書だけで完結するケースもあるので、全員に強制しない、という説明です。
(補足:動画は図面などの提出を「任意」と説明しますが、動き商標・ホログラム商標・色彩のみの商標・位置商標では商標の詳細な説明の記載が必要で、音の商標ではさらに音を記録した光ディスクの添付が必要です(商標法5条4項、商標法施行規則4条の8)。立体商標は、商標を特定するために必要な場合に詳細な説明を書きます。試験では、権利の範囲が願書の記載を基準に決まる、という点を押さえておけば十分です。)
審査の中身:方式審査のあと、全出願が実体審査へ
願書が受け付けられると、まず方式審査です。これは形式面のチェックで、書類の不備や記入漏れ、判が押してあるか、といった確認です。これを通ると、中身を見る実体審査に進みます。
ここで試験に出やすいのが、特許との違いです。特許は、出願したあと、出願人がわざわざ出願審査請求をしないと審査が始まりません。ところが商標は審査請求が不要で、出願した全部が自動的に実体審査へ進みます。動画は、特許は開発に何年もかかる発明だが、商標は「明日からこの商品名で売り出したい」と現場ですぐ使いたいものだから、悠長に後で決めるわけにはいかない、と説明します。
審査請求がいらないということは、願書を出せば、自動的に中身の審査まで進んでくれるということですか。
その通りです。特許は出願人が審査請求をしなければ始まりませんが、商標は違います。
出願すると、内容は世の中に公開される
聞き手は、審査も通っていないのに公開されるのは、秘密にしたほうが安全ではないか、と戸惑います。講師は、むしろ逆だと言います。動画では、商標登録出願がなされると商標公報に出願の内容が公開される、と説明されます。特許庁が秘密裏に審査を進めていたら、ほかの企業は同じ名前がすでに出願されていることを知るすべがなく、知らずに準備を進めて、後から「私が先だった」と言われて大混乱になるからです。公開は、社会全体にとっての警告のような役割を持つ、という整理です。
| 特許 | 商標(動画の説明) | |
|---|---|---|
| 審査の開始 | 出願審査請求が必要 | 審査請求は不要 |
| 出願内容の公開 | 出願から1年6月で公開(補足) | 出願後に商標公報で公開 |
| 拒絶理由が通知されたあと | 特許と同様の手続 | 特許と同様の手続 |
(補足:特許の出願公開は、出願の日から1年6月を経過したときに行われます(特許法64条)。動画は商標側の公開を「出願があったとき」と話しているので、特許の「出願から1年6月」とは別の話として分けておきます。)
登録査定か、拒絶理由通知か
実体審査では、審査官が既存の商標と似ていないかなどを厳密に調べます。拒絶すべき理由がないと判断すれば登録査定、つまり合格のサインが出ます。一方、拒絶すべき理由があるときは、拒絶理由通知が出願人に届きます。いきなりアウトではなく、反論の機会があります。動画によれば、この通知のあとの流れは特許の場合と同様です。(補足:出願人は、意見書や手続補正書を提出して反論や補正ができます。それでも覆らなければ拒絶査定となり、不服があれば拒絶査定不服審判を請求できます。)
気になるのが期間です。動画では、出願日から1年6ヶ月以内に拒絶理由が発見されなければ登録される、と説明されます。聞き手は、ビジネスはスピードが命なのに長すぎないか、と驚きますが、講師は、特許庁には毎日膨大な数の出願が来て、何百万もの既存商標と衝突しないかを確認するには物理的な時間がかかる、と答えます。
(補足:動画は「明確なルール」と言いますが、「出願から1年6か月以内」という期限は、商標法の条文では確認できませんでした(特許の出願公開が出願から1年6月、特許法64条、とは別の話です)。特許庁の統計では、出願から最初の審査結果の通知までの期間は、令和6年(2024年)の年平均で6.9か月です(特許行政年次報告書2025)。拒絶理由通知への応答などで登録までの期間は延びるため、「必ず1年半で登録される」とは覚えないでください。)
登録査定のあとも、30日以内に登録料
登録査定が出ると、その謄本が出願人に送達されます。合格通知書が届くイメージです。でもまだ終わりではなく、出願人は謄本が送達されてから30日以内に所定の登録料を納付します。納付すると、商標権の設定登録が行われます。1年半も待たせておいて30日以内にお金を払えというのは、聞き手が言うように少々厳しい話ですが、この期限を逃すと、それまでの手続が水の泡になってしまいます。
(補足:動画は「30日を逃すと水の泡」と話しますが、特許庁長官に請求すれば30日以内で延長でき(商標法41条2項)、期間経過後2か月以内であれば納付できる救済もあります(同条3項、商標法施行規則18条4項。分割納付の前期分も同様、41条の2第2項・3項)。試験では基本の「30日以内」を押さえてください。)
登録料の納め方は二通りです。10年分を一括で納めるか、5年ごとの分割(前期5年分と後期5年分)で納めるか。初期費用を抑えたいスモールビジネスなら、分割払いが助かります。ところが、ここに落とし穴があります。
後期5年分の納付を忘れると、権利は単に「5年で終わる」のではなく、商標権が存続期間の満了前5年の日にさかのぼって消滅したものとされます(商標法41条の2)。動画の言い方では、最初の5年間が終わる日に時計の針が戻されて、その時点から先は権利がなかった扱いになる、ということです。6年目や7年目に気づいても、そのあいだに誰かにロゴをまねされていたら、もう文句は言えません。国の登録簿は、誰が本当に権利を維持する意思があるかを正確に映さなければならないので、払わなければ放棄したものと扱われる、という説明でした。
(補足:動画は「払い忘れたらこうなる」という点だけを話しています。後期分は、納付期限(存続期間の満了前5年まで)を過ぎても、その後6か月以内なら、同額の割増登録料を添えて追納できます(商標法41条の2第5項、43条3項)。この追納期間内にも納付しなかったときに、満了前5年の日にさかのぼって消滅したものとみなされます(同法41条の2第6項)。引っかけの要点は、「消滅は5年経過時点にさかのぼる」という遡及効です。)
試験の注目点(動画の説明より)
- 動画では、登録査定の謄本が送達されてから30日以内に登録料を納付する、と説明されている。
- 登録料は10年分一括か5年ずつの分割。後期分を納めないと満了前5年の日にさかのぼって消滅する。
登録主義:効力は登録してから。でも使わないと取り消される
設定登録をすると、ようやく法的な鎧を着たことになります。日本の商標法は、登録されてはじめて効力が発生する登録主義です。言ったもん勝ちや、先に使っていたから、ではなく、ちゃんと登録したものが守られます。
では、登録すれば一生安泰か。動画は「問屋が卸しません」と言います。商標登録されてから、継続して3年以上、日本国内でその登録商標が使われていないときは、登録を取り消すよう求める不使用取消審判を請求できます。しかも、動画の説明では、これはいつでも誰でも請求できます。聞き手のたとえでは、まったくの第三者が「あいつは登録しているけど全然使っていない。取り消して俺に使わせろ」と言えてしまう。権利の上に眠る者は保護されない、ということです。
動画は、大企業がよさそうな名前を片っ端から登録して塩漬けにしたら、ほかの人がビジネスできなくなる、という例で、言葉やマークという有限の資源を社会で有効に使うためのバランスだと説明します。強い権利を与える代わりに、使わないなら取り消されるわけです。
(補足:不使用取消審判は商標法50条にある制度です。「いつでも」といっても、登録から3年以上、継続して使われていないことが前提です。また、使っていないことに正当な理由があると権利者が示せたときは取り消されない、とされています。聞き手の「大企業が塩漬けにする」という言い方は動画の例で、制度の趣旨の一例にすぎません。)
出願から登録までの空白期間は、金銭的請求権で補う
ここで動画の伏線回収です。審査に1年半かかるあいだ、まだ登録されていないので、勝手に自分のロゴを使われても泣き寝入りするしかないのか。そこで登場するのが、出願の段階から出願人を守る仕組み、つまり金銭的請求権です。動画では、出願後は金銭的請求権が与えられ、第三者が商標を使ったことで出願人に生じた業務上の損失に相当する額を請求できる、と説明されます。
ただし、登録主義の原則どおり、差止めなどの強い効力は登録後からしか発生しません。登録前は、あとから損害をお金で請求できる武器があるだけ、という整理です。審査に時間がかかるデメリットを、出願時点からの金銭的請求権で補っている、というのが動画の結びです。
(補足:動画は「出願後は金銭的請求権が与えられる」と短くまとめていますが、もう少し細かい条件があるとされています。商標法13条の2では、出願後に、出願の内容を記載した書面を提示して警告したときは、その警告のあと設定登録の前にその商標を使った者に対して、使用で生じた業務上の損失に相当する額の金銭を請求できると定めています。この請求権は、設定登録のあとでなければ行使できません(同条2項)。出願しただけで、いつでも誰にでも請求できるわけではない点が、動画の単純化にあたります。)
まとめ
ここだけは押さえる
- 出願先は特許庁長官。願書には、出願人・商標・指定商品(指定役務)と区分を書く。商標権は、指定した分野でだけ効く。
- 審査は方式審査のあと実体審査。商標は審査請求が不要で、全出願が実体審査を受ける(特許との違い)。
- 動画では、出願後は商標公報で公開され、拒絶理由が通知されたあとの流れは特許と同様。期間の目安として「1年6ヶ月」が語られる(補足:商標法の条文では確認できない)。
- 登録査定の謄本が送達されてから30日以内に登録料を納付し、設定登録で権利が発生する(登録主義)。
- 登録料は10年一括か5年ずつの分割。後期分を納めないと、満了前5年の日にさかのぼって消滅する。
- 登録しても、継続して3年以上使っていないと不使用取消審判の対象になる。
- 登録前の空白は金銭的請求権で補う。動画の単純化に注意(補足を参照)。
動画の最後は、街で見かけるカフェのロゴやお気に入りのブランド名も、デザインされただけでなく、手間のかかる手続をくぐり抜け、さらに使い続けることで守られてきた証なのだ、という話で結ばれます。次に新しい商品名を見かけたら、「このマークは今、審査のどの段階だろう」「登録料は10年一括かな、それとも5年分割かな」と想像してみると、見慣れた景色が手続きの積み重ねに見えてきます。
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