東京証券取引所の新市場区分と上場基準の比較
経営法務 第40回
「企業はなぜ、わざわざ厳しい審査をくぐり抜けてまで公開された市場に出ようとするのか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、形式基準と実質基準、2022年4月の市場再編、プライム・スタンダード・グロースの基準の違いと、流通株式の考え方をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
企業はなぜ、厳しい審査を受けてまで上場するのか
ニュースで「上場」という言葉を聞かない日はありません。動画は、「企業はなぜ、わざわざ厳しい審査をくぐり抜けてまで公開された市場に出ようとするのか」という問いから始まります。上場とは、会社の株式を証券取引所で売買できるようにすることです。目的は、一般の投資家が自由に株式を売買できるようにして、会社が資金を調達しやすくすることです。特定の人からお金を集めるのとは、集められる規模がまるで違います。
ただし、見ず知らずの一般の人からお金を集める以上、投資家を守るための強力なフィルターが必要になります。それが、各市場で定められた2つの審査基準です。動画は、上場を「単なる資金集めを超えて、組織のDNAを書き換えるほどのインパクトがある」と表現しています。
2つの審査基準:形式基準と実質基準
1つ目は形式基準です。事業を続けてきた年数や利益の額など、形式上の要件を満たしているかを見ます。聞き手は、これを「明確な数字で足切りする書類選考」にたとえます。すると講師は、もう1つの実質基準は「企業の本当の姿や隠れたリスクを見極める、厳しい面接のようなもの」だと応じます。
実質基準では、企業の収益性や継続性はもちろん、健全性や内部管理体制の状況などを踏まえて、申請会社が上場企業としてふさわしいかどうかを、証券取引所が総合的に判断します。動画では、内部管理体制が問われる理由を、こう説明します。いくら利益を出していても、たとえば経理のチェック体制がずさんなら、将来、大きな不祥事を起こして投資家に損害を与えるおそれがあります。だから組織の体質そのものまで審査するのです。
(補足:実質基準で見る項目は、取引所の規則では、企業の継続性及び収益性、企業経営の健全性、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性、企業内容等の開示の適正性、そのほか公益や投資者保護の観点から必要な事項、のように整理されているとされます。細かい表現は資料により異なります。)
数字だけではダメなんですね。
ダメなんです。書類上の数字が完璧でも、面接で容赦なく落とされる世界です。
2022年4月の再編:市場は3つになり、上場維持基準ができた
上場した企業を待つ舞台も、近年大きく変わりました。2022年4月に、従来の東京証券取引所の市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQが、プライム、スタンダード、グロースの3つの市場区分に再編されました。当時は「名前の変更にすぎない」という声もありましたが、動画は「全然違う」と言います。再編の眼目は、各市場区分に上場維持基準がはっきりと設けられた点です。
動画の説明では、プライムは従来の東証一部に近い区分、スタンダードは東証二部とJASDAQスタンダードを合わせたような区分、グロースはJASDAQグロースとマザーズを合わせたような区分です。
(補足:実際の移行は、旧市場の区分がそのまま自動的に新しい市場へ移ったわけではなく、各社が市場区分を選んで申請する形でした。当初は経過措置が設けられ、基準を満たしきれない企業も移行できました。この経過措置は終了し、2025年3月1日以後に到来する判定基準日から、本来の上場維持基準が適用されています(東証「上場維持基準に関する経過措置の終了」)。)
かつての「一部上場」は、一度合格すれば一生有効なエリート資格のような響きがありました。しかし維持基準ができたことで、常に更新条件を満たし続けなければならない、免許証のようなものになりました。動画の説明では、上場維持基準に抵触し、定められた改善期間内に改善されなければ、最終的に上場廃止となります。「ゴールテープを切ったつもりが、そこからが本当のマラソンの始まりだった」と、聞き手は表現しています。
(補足:実務では、基準に適合しなくなると、原則として1年間(売買高基準は6か月間)の改善期間に入ります。会社は3か月以内に、適合のための取組と実施時期を記載した計画を開示する必要があります。改善期間内に適合しないと、監理銘柄・整理銘柄に指定されたあと上場廃止になります。また、プライムの維持基準に届かなくても、直ちに上場廃止になるのではなく、スタンダードなど別の市場への変更を選べる場合があります。動画は、この流れを簡略に説明しています。)
プライム市場:グローバルな投資家との対話の場
最初はトップのプライム市場です。コンセプトは「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」とされます。海外の大きな機関投資家が安心して資金を投じられる環境が必要なので、基準が厳しくなる、という説明です。動画が挙げる基準は次のとおりです。
- 株主数:800人以上。
- 流通株式数:2万単位以上。動画では「20万単位」と聞こえる箇所がありますが、プライムの基準は2万単位です(補足)。
- 流通株式時価総額:100億円以上。
- 流通株式比率:35%以上。
- 売買代金:1日平均0.2億円以上(維持基準)。
動画によると、これらは新規上場基準だけでなく、上場維持基準でもほぼ同様の条件になっています。1日平均0.2億円は2,000万円ですから、毎日それだけの取引がなければ退場させられる、と聞き手は驚きます。
「流通」株式とは何か
聞き手は、単なる時価総額ではなく「流通」という言葉が何度も出てくる点に気づきます。流通株式とは、特定の創業家や取引先企業に固く握られている株などを除いた、実際に売買できるオープンな株式のことです。聞き手は、ナイトクラブにたとえました。外から見てどんなに豪華なVIPルームがあっても、フロアで踊る人が誰もいなければ、海外のセレブは入店しません。
たとえば創業者が90%の株を抱え込んでいると、グローバルな投資家が大きな金額の株を買おうとした瞬間、売り手がいないので、価格が異常に跳ね上がってしまいます。そのため、上場株式数に占める流通株式数の比率である流通株式比率に、プライムでは35%以上という縛りがあります。
(補足:流通株式には、主要株主、役員、自己株式、親会社などが持つ分は含まれない扱いとされます。除かれる範囲の細かい決まりは資料により異なるため、数字を計算する問題では問題文の指定に従ってください。)
収益基盤と財政状態
収益基盤に関する基準は、新規上場基準にだけあります。動画によると、プライムでは、最近2年間の利益の合計が25億円以上、または、最近1年間の売上高が100億円以上かつ時価総額が1,000億円以上のどちらかです。後者があるのは、いま得た利益を成長投資に回している巨大なテクノロジー企業などを、柔軟に取り込むための設計だと説明されます。
財政状態は、新規上場基準では純資産50億円以上、上場維持基準では純資産額が正であること(マイナスでないこと)です。
スタンダード市場:安定した経営を重視する企業向け
「全企業がこの過酷なプライムを目指すべきか」という問いに、講師は「そうではない」と答えます。地域経済を支える老舗の優良企業が、無理にグローバル投資家の顔色をうかがう必要はないからです。そこで、企業ごとの役割分担として、スタンダード市場があります。「公開された市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場」とされます。
動画が挙げる基準は、新規と維持に共通で、株主数400人以上、流通株式数2,000単位以上、流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上です。プライムの35%より低く、ある程度、特定の株主が株を持ち続けることを許しています。経営の安定性を重視し、短期的な利益を求めるグローバルマネーに振り回されず、長期的に事業を続けたい企業に合う、と聞き手はまとめます。売買の維持基準は、月平均の売買高が10単位以上と、現実的な水準です。
収益基盤は、新規上場のときだけ、最近1年間の利益が1億円以上です。財政状態は、新規も維持も純資産額が正であることです。
グロース市場:未来にかける市場
最後のグロース市場は、これまでの2つとは異なるパラダイムで動いています。「高い成長可能性を有する企業向けの市場」とされます。動画が挙げる基準は、新規と維持に共通で、株主数150人以上、流通株式数1,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上、売買は月平均10単位以上です。ここまでは、スタンダードを小さくしたように見えます。
面白いのは、収益基盤に関する基準が一切ないことです。大きな研究開発費や先行投資で、いまは大赤字のスタートアップでも、将来の成長のポテンシャルを納得させられれば、上場して資金を集められます。過去の実績ではなく、未来にかける市場です。聞き手は、伝統的な銀行融資なら、確かな黒字の実績がなければお金は貸せない、と対比しました。
ただし、何でもありの無法地帯ではありません。財政状態は、新規上場時の基準はないものの、上場維持基準としては純資産が正であることが求められます。資金が尽きて赤字を垂れ流し、債務超過に陥るようなルーズな経営は、市場から退場になります。
(補足:動画にない話です。グロース市場には、上に挙げた基準のほかに、上場維持基準として時価総額40億円以上(上場10年経過後から適用)があります。東証は2025年9月26日に見直しを公表し、2030年3月1日からは、時価総額100億円以上(上場5年経過後から適用)になります。試験対策では、まず動画で扱う3市場の違いを押さえるのが先です。)
3つの市場を比べる
動画の数字を、2つの表に整理しました。まず、株主と株式の量に関する基準です(新規・維持共通として動画が説明したもの)。
| 市場 | 株主数 流通株式数 | 流通株式 時価総額・比率 |
|---|---|---|
| プライム | 800人以上 2万単位以上 | 100億円以上 35%以上 |
| スタンダード | 400人以上 2,000単位以上 | 10億円以上 25%以上 |
| グロース | 150人以上 1,000単位以上 | 5億円以上 25%以上 |
次に、売買と財政状態です。収益基盤は、図のとおり新規上場基準のみにあります。
| 市場 | 売買(維持基準) | 純資産 |
|---|---|---|
| プライム | 1日平均売買代金0.2億円以上 | 新規50億円以上/維持は正 |
| スタンダード | 月平均売買高10単位以上 | 新規・維持とも正 |
| グロース | 月平均売買高10単位以上 | 新規は基準なし/維持は正 |
グロースには別に時価総額の維持基準があります(補足を参照)。
数字で確かめる設例(補足)
動画にない、自作の設例です。単元株式数100株、発行済株式数1,000万株の会社を考えます。創業者や取引先などが固く持つ株が700万株、流通株式が300万株で、株価は3,000円、株主数は500人とします。
- 流通株式比率は 300万株 ÷ 1,000万株 = 30%。
- 流通株式数は 300万株 ÷ 100株 = 3万単位。
- 流通株式時価総額は 300万株 × 3,000円 = 90億円。
プライムの基準に当てはめると、流通株式数(3万単位)は2万単位以上を満たしますが、比率30%は35%に、時価総額90億円は100億円に、株主数500人は800人に届きません。一方、スタンダードの基準(株主数400人以上、2,000単位以上、10億円以上、25%以上)は、すべて満たします。創業者の持ち株が多いと、プライムの流通株式比率で引っかかる、ということがわかります。
動画の整理と、確認のポイント
- 動画は、プライムを「グローバルな投資家との建設的な対話」、スタンダードを「十分な流動性とガバナンス水準」、グロースを「高い成長可能性」の市場と整理しています。
- 動画の説明では、グロースにだけ収益基盤の基準がなく、利益が出ていなくても上場できます。ただし維持では純資産が正であることが必要です。
- 数字は改定されることがあります。試験では問題文の指定や最新の取引所の規則が優先されるため、本ページの数字は、動画の内容を令和8年4月1日時点の理解で整理したものとして使ってください。
上場は、ゴールではなくスタート
動画の終わりでは、株式会社を通じて資金を集める仕組みの中で、企業は成長段階に合わせて3つの市場から最適な場所を選べる、とまとめます。そして、それぞれの市場には逃れられない基準があり、市場全体の質を保っています。もはや「とりあえず上場して箔をつける」という曖昧な動機は通用せず、上場すること自体をゴールにできなくなりました。
最後に講師は、数字という結果で証明し続けなければならない環境の中で、企業が周囲のノイズにぶれず成長していくために持ち続けるべき、絶対に変わらない信念とは何か、という問いを残します。ここに正解はありません。あなたならどう考えるか、じっくり思考を巡らせてほしい、と動画は結びます。
まとめ
この回のまとめ
- 上場の目的は、一般の投資家が自由に売買できるようにして、資金調達をしやすくすることです。
- 審査は2つあります。形式基準(事業継続年数や利益の額などの数字)と、実質基準(収益性・継続性・健全性・内部管理体制などを見る面接のようなもの)です。
- 2022年4月に、市場はプライム、スタンダード、グロースの3つに再編され、各市場に上場維持基準が設けられました。
- 流通株式は、創業家などが固く持つ株を除いた、実際に売買できる株です。流通株式比率は、プライムが35%以上、スタンダードとグロースが25%以上です。
- プライムは株主数800人以上・流通株式時価総額100億円以上、スタンダードは400人以上・10億円以上、グロースは150人以上・5億円以上です。
- 収益基盤の基準は、プライムとスタンダードの新規上場にあり、グロースにはありません。ただしグロースも、維持では純資産が正であることが必要です。
- グロースには時価総額の上場維持基準(40億円、上場10年経過後。2030年3月1日から100億円、上場5年経過後)もあります。
動画で聞く
続けて読む
- 第35回 組織再編の仕組み経営法務・会社法 020
- 第36回 組織再編と事業譲渡の法的ロジック経営法務・会社法 021
- 第37回 倒産法制の全体像:再建か清算か経営法務・会社法 022
- 第38回 倒産手続のプロセスと債務者区分経営法務・会社法 023
- 第39回 情報開示制度のまとめ:発行開示と継続開示経営法務・会社法 024
- 第41回 産業財産権(特許・実用新案・意匠・商標)経営法務・知財 001
- 第42回 特許取得の流れと重要期限経営法務・知財 002
- 第43回 実用新案の無審査登録と技術評価書経営法務・知財 003
- 第44回 意匠登録の仕組みと秘密意匠経営法務・知財 004
- 第45回 商標登録を成功させる全手順経営法務・知財 005
- 経営法務のWebテキスト一覧同じ科目の53本を一覧・検索
- 中小企業診断士 1次の講座トップ科目別プレイリスト・人気の講義・ファイナルペーパー

