倒産法制の全体像:再建か清算か
経営法務 第37回
「あなたがもしある企業の社長だとして」と、資金繰りが行き詰まった場面を想像するところから動画は始まります。このページでは動画の流れにそって、再建型の私的整理・民事再生・会社更生と、清算型の破産・特別清算を、主導権、担保権の扱い、可決要件の違いに注目してまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
もし会社の資金が尽きかけたら:再建か、清算か
動画は「あなたがもしある企業の社長だとして」と、資金繰りが行き詰まった場面を想像するところから始まります。中小企業診断士の1次試験では、企業が事実上の債務超過に陥ったとき、どんな選択肢があるのかが、経営法務の重要論点として問われます。動画はこれを、手続ごとの違いに注目して整理していきます。
入り口は、たった2つの道です。事業を続けて立て直す再建の道と、事業をやめて会社をたたむ清算の道。再建型の手続には、私的整理、民事再生、会社更生の3つがあり、清算型には、破産と特別清算の2つがあります。
動画はこの5つを、「誰が手続を主導するのか」「担保権はどう扱われるのか」「計画を可決する要件はどう違うのか」という3つの比較ポイントで見ていきます。以下も、この3点を意識して読んでください。
私的整理:まず話し合い、ただし全員の合意が壁
再建の1つ目は私的整理です。動画は、病気にたとえた聞き手の言葉を受けて、いきなり大手術(法的手続)に踏み切る前に、まず関係者で話し合うやり方だと説明します。法律に基づかない手続で、個人でも法人でも行えます。
特徴は、条件のすべてを当事者の話し合いで決めること。自由度が高い反面、動画の言い方では「1人でも反対したら進まない」のが最大のハードルです。合意形成ができなければ前に進めません。
関係者全員で話し合って決めるってことは、1人でも反対したらダメってことですよね。
そこが鍵であり、一番のハードルでもあります。合意形成ができないと進まないんです。
話し合いでまとまらないときに登場するのが、次の法的な枠組みです。
民事再生:社長が続投する、再建型のいちばん基本の手続
2つ目は民事再生手続です。動画は、再建型のいちばん基本的な手続で、個人も法人も対象にし、事業や経済生活の再生を目的とするものだと紹介します。
開始の条件は、動画によれば次の2つです。
- 破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがあるとき(完全に破綻する一歩手前でも始められる)
- 事業の継続に著しい支障をきたすことなく、債務を弁済できないとき
申立てができるのは債権者か債務者です。(補足:動画にない話です。債権者が申し立てる場合は、破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがあるときに限られる、とされています。)
聞き手が一番引っかかったのは、「会社を危機に追い込んだ社長が、そのまま再建をリードするのか」という点でした。動画の答えは、原則として債務者、つまりその会社の社長が引き続き再建に携わる、というものです。ごくまれに管理命令が出て、管理処分権を持つ管財人が選ばれる場合もありますが、基本は元の社長です。動画は、早めに手を上げてもらうためのインセンティブという側面もある、と説明しています。
動画のたとえ:病気の治療
- 私的整理は、まず関係者で話し合う段階。
- 民事再生は、元の社長が自分で立て直すイメージ。
- 会社更生は、外から強力な先生が入る「スパルタ教師の投入」。
担保権は別除権:ただし、工場が競売されると困る
工場に抵当権がついているような場合、民事再生では担保権は別除権として扱われます。再生手続によらず、競売などで権利を行使できる、特別な権利です。
すると聞き手の言うとおり、再建に欠かせない工場が勝手に競売されてしまう心配が出ます。そこで動画が紹介するのが担保権消滅請求制度です。動画は、抵当権のついた工場を個別に売るより、抵当権を外して事業を丸ごと売るほうが高く売れる場合に、あえて担保権を外せる制度だと説明します。
(補足:動画の例は単純化されています。民事再生では、事業の継続に欠くことのできない財産について、その財産の価額に相当する金銭を裁判所に納めることで担保権を消滅させる制度とされています。「高く売れるから外す」というより、価額を支払って担保権を消すしくみです。)
再生計画案の可決要件
再生計画案の可決には、動画によれば、議決権者の過半数の同意と、債権総額の2分の1以上の同意の両方が必要です。頭数と金額の両方の同意が要る、と覚えておきましょう。(補足:頭数は、実際には「出席した議決権者」の過半数、金額は「議決権総額」の2分の1以上、とされています。)
会社更生:外から管財人が入る、強力な再建手続
再建型でもう1つ、より強力なのが会社更生手続です。動画は、株式会社だけを対象とし、事業の維持更生を目的とする手続だと説明します。開始の条件は民事再生と似ていて、破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがあるとき、または、弁済期にある債務を弁済することとすれば事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるときです。
申立てができるのは、動画では債権者、株式会社、そして株主です。(補足:債権者は資本金額の10分の1以上の債権、株主は総株主の議決権の10分の1以上が必要で、申し立てられるのは破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合に限られます(会社更生法17条2項)。動画ではこの条件は出てきません。)
主導権は更生管財人に移る
開始後は更生管財人の管理のもとで手続が進み、経営の主導権は完全に管財人に移ります。社長は交代させられるわけです。(補足:実務では、現在の経営陣が管財人に選ばれる運用もあるとされています。動画の「社長は交代」はあくまで原則です。)
担保権も手続の中に取り込まれる
担保権の扱いは、民事再生と全く違います。担保権は更生担保権という名前になり、更生計画の中で弁済されます。勝手に競売にかけることはできません。(補足:動画では触れていませんが、会社更生にも、事業に必要な財産について担保権を消滅させる制度があります。)
更生計画案の可決要件:お金だけで決まる
動画が「一番驚く」と言うのが、更生計画案の可決要件です。頭数の要件はなく、債権総額の2分の1を超える同意だけで決まります。聞き手が「下請け業者の数は無視ですか」と驚くと、講師は、だから民事再生より会社更生のほうがお金だけで決まる、よりドライなイメージを持っておくと混乱しにくい、と答えています。
(補足:動画の説明は簡略化されています。更生計画案は、権利者の種類ごとの「組」に分けて決議します。更生債権者の組は議決権総額の2分の1を超える同意ですが、更生担保権者の組は、権利の変更の内容に応じて、これより高い割合が必要とされています。)
設例:同じ賛成でも結論が変わる
動画にはない、自作の数値例です(議決権総額10億円、出席した議決権者10人。特別清算の協定は後で出てきます)。
設例A:賛成が6人で、賛成額が6億円。民事再生は、6人は過半数、6億円は5億円以上なので可決。会社更生は6億円が5億円を超えるので可決。特別清算は、6億円が約6.67億円(3分の2)に足りないので否決です。
設例B:賛成が4人で、賛成額が7億円。民事再生は、4人は過半数でないので否決。会社更生は、(更生債権者の組で見ると)金額だけで7億円が5億円を超えるので可決。特別清算は、金額は3分の2を超えますが頭数が足りず否決です。下の図で確認してください。
清算型:破産と特別清算
再建が難しいときは、事業を停止して会社をたたむ清算の道に進みます。動画は、清算型として破産手続と特別清算手続の2つを挙げます。
破産手続:最終手段として財産をお金に換える
まずは破産手続です。他の方法が失敗したときの最終手段として、債務者の財産を換価し、つまりお金に変えて、債権者に公平に分配する手続で、個人も法人も対象です。
動画は、支払不能や支払停止、債務超過があったときに開始され、申立てができるのは債権者か債務者だと説明します。(補足:破産手続開始の原因は、基本は支払不能で、法人では債務超過も原因になります。支払停止は、支払不能を推定させる事情とされています。並列の原因ではありません。また、法人では取締役などの役員も申立てできるとされています。)
開始後は破産管財人の管理のもとで進みます。担保権は別除権として扱われ、基本は手続によらず行使できます。ただし、民事再生で出てきた担保権消滅請求制度は、破産手続にもあります。(補足:破産では、任意売却を進めて破産財団の価値を高めるためのしくみとされています。再生の「価額を納めて消す」仕組みとは、目的が少し違います。)
特別清算:同意を得ながら、簡易に進める
もう1つの清算の道が特別清算手続です。動画は、清算中の株式会社に適用される手続で、破産手続より簡易で、債権者の同意を得ながら行うものだと説明します。債務超過の疑いがある場合などに開始され、申立ては債権者、清算人、監査役、株主が行います。
聞き手が気づいた特徴は、主導権です。動画では、特別清算は清算人の管理のもとで進み、この清算人に当該会社の社長などを任命することもできる、とされます。会社をたたむのに、元の社長が自分で手続を進められるわけで、手続遂行に関する一定の主導権が会社に認められているのです。
破産管財人に高いお金を払うより、内輪でサクっと終わらせたほうが、債権者にとっても得な場合があるってことですかね。
まさにその通りです。ただその代わり、協定を可決するためのハードルはしっかり設定されています。
そのハードルが、議決権者の過半数の出席者による同意と、議決権総額の3分の2以上の同意です。金額の要件が高いのが特徴です。(補足:条文では、出席した議決権者の過半数の同意と、議決権者の議決権の総額の3分の2以上の同意です〈会社法567条1項〉。)なお担保権は、動画では原則として自由に実行できるとされます。(補足:開始後、裁判所は、債権者の一般の利益に適合し担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合、相当の期間を定めて担保権の実行の中止を命じることができます(会社法516条)。)(補足:清算人は、実際には会社自身の選任手続で就く人が多く、動画の説明は、会社の社長などもなれるという趣旨と受け取ってください。裁判所は手続を監督する立場です。)
再建型の2つを並べてみる:民事再生と会社更生
試験で混同しやすいのは、同じ再建型である民事再生と会社更生です。動画の説明を表にまとめます。動画では、会社更生を「より強力な手続」と位置づけています。
| 項目 | 民事再生 | 会社更生 |
|---|---|---|
| 対象 | 個人・法人 | 株式会社のみ |
| 申立て | 債権者・債務者 | 債権者・株式会社・株主 |
| 主導権 | 原則、社長が続投 | 更生管財人に移る |
| 担保権 | 別除権(手続外で実行可) | 更生担保権(計画に取り込み) |
| 可決 | 頭数と金額の両方 | 金額のみ |
開始の条件は、どちらもほぼ同じです。違いは「誰が舵を取るか」「担保権をどう扱うか」「どう決めるか」の3点に集約されます。この3点が、動画の言う比較ポイントそのものです。
まとめ:3つの比較ポイントで整理する
動画が挙げた3つの比較ポイント
- 誰が主導するか:動画では、民事再生は原則として社長、会社更生は更生管財人、破産は破産管財人、特別清算は清算人。
- 担保権の扱い:動画では、民事再生と破産は別除権(担保権消滅請求制度あり)、会社更生は更生担保権として計画に取り込み、特別清算は原則自由に実行。
- 可決要件:動画では、民事再生は頭数と金額、会社更生は金額のみ、特別清算は出席者の過半数と3分の2以上。
動画は最後に、試験に挑むなら「お金だけで決まる会社更生」と、頭数も見られる民事再生の対比、そして清算における主導権の違いが、知識を整理する強力なフックになると話します。企業の終わり方や再起の道は、シビアな数字と人間関係のバランスの上に成り立っている、という言葉も印象的です。
動画は、もし自分が債権者の立場なら、冷徹に数字だけで決まる手続と、債務者自身が立て直しを図る手続の、どちらに合理性を見出すかを考えてみてほしい、と問いかけて終わります。まずは3つのポイントで表をつくって覚えてみてください。
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