持分会社と組合の徹底比較
経営法務 第32回
「もし今あなたが立ち上げたビジネスで大きな失敗をしてしまったとしますよね。会社のお金だけでなく、個人の預金から家まで全部投げ打って責任を取らなければいけないとしたら?」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、持分会社の3種類と、民法上の組合・有限責任事業組合の違い、そして法人格・登記・課税・持分の譲渡などの横断比較をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
失敗したら家まで失う? 組織の「器」選び
動画は、こんな問いかけから始まります。もしあなたが立ち上げたビジネスで大きな失敗をして、会社のお金だけでなく、個人の預金、愛車、家族と住む家まで投げ打って責任を取らなければならないとしたら。普通は「リスクが高すぎる」と思いますよね。ところが、あえてその果てしないリスクを背負うことで、大きな推進力や自由を手に入れている起業家もいる、というのです。
今回のテーマは、ビジネスを始めるときに最初に迫られる組織の器選びです。私たちはつい「とりあえず株式会社」と考えがちですが、法律が用意している器はそれだけではありません。動画が焦点を当てるのは、次の2つのグループです。
- 持分会社:合名会社・合資会社・合同会社の3種類。法人格があります。
- 組合:民法上の組合と有限責任事業組合。こちらは法人格がありません。
最後は、この2つのグループを「法人格」「登記」「課税」「人数」「持分の譲渡」「業務執行」の6つの切り口で比べていきます。
持分会社は「所有と経営が一致」している
出発点は、株式会社との決定的な違いです。株式会社は、制度の建て付けとして、お金を出す人(株主=所有)と、現場を動かす人(取締役=経営)が分かれています。これが所有と経営の分離です。これに対して持分会社は、所有と経営が一致しています。お金を出した人が、自分でハンドルを握るわけです。
それって、お金だけ出して経営者に任せる、という安全な距離感が取れないということですよね。わざわざ一致させるメリットはあるんですか。
その安全な距離感が、株式会社の最大の利点ですからね。でも一致していることには強みがあります。外部の株主の顔色をうかがわず、現場の熱量をもったオーナー自身が、とても速く意思決定できるんです。
「社員」は従業員ではなく、出資者のこと
持分会社に入る前に、動画はまず大きな誤解を解いておきます。持分会社では、出資する人のことを社員と呼びます。ふつう「社員」といえば、毎月お給料をもらって働く従業員を思い浮かべますが、ここでの社員は従業員という意味では一切ありません。明確に出資者、つまりオーナーを指します。
聞き手のたとえ
知人の持分会社から「うちの社員にならないか」と誘われたら、それは「お給料をもらって働く」誘いではなく、「一緒にお金とリスクを背負って共同経営者にならないか」という、とても重たいプロポーズです。聞き手は、持分会社の社員を「オーナー兼プレイヤー」と翻訳すると視界がクリアになる、と言い換えます。
会社を立ち上げるときだけでなく、会社が成立したあとに新しい社員を加入させることもできます。
持分会社の3つの形:合名・合資・合同
持分会社には大きく3つの種類があります。違いは、社員の責任が無限か有限かです。
合名会社:全員が無限責任
1つ目の合名会社は、直接無限責任社員のみからなる会社です。会社が倒産したり、多額の負債を抱えたりしたとき、出資した額を超えて、個人の財産すべてを使ってでも責任を負わなければなりません。冒頭の「家や車まで投げ打つ」とは、まさにこの無限責任のことです。
(補足:社員は、持分会社の財産で債務を完済できないとき、または会社財産への強制執行が奏功しなかったときに、連帯して会社の債務を弁済する責任を負います(会社法580条1項)。無限責任社員の責任はこの責任に上限がないもので、有限責任社員は出資の価額(未履行分)が限度です(同条2項)。)
そんなリスキーな会社を選ぶ人がいるのか、という疑問に対して、動画は「強烈なリスクの見返りとして、驚くべき自由が与えられている」と答えます。それが出資のルールです。通常、会社への出資といえばお金や機材などの財産ですが、動画の説明では、合名会社の社員は財産だけでなく、労務(実際に働くこと)や、担保などの信用という形でも出資できます。
お金が1円もなくても、自分のプログラミングスキルや、業界での強力なコネクションを出資として認めてもらえるんですか。
そのとおりです。お金はないけれど才能と情熱は誰にも負けない若手クリエイターと、業界のベテランが、身ひとつで会社を立ち上げる場面にぴったりです。
また、定款に特段の定めがなければ、社員は自ら業務を行う業務執行社員になります。全員がプレイヤーになり、全員が無限責任を負う代わりに、お金に縛られず自由に動ける。動画はこれを合名会社の1つの理想形と呼びます。
(補足:労務や信用による出資ができるのは無限責任社員だけ、という整理は、会社法576条1項6号が、有限責任社員は金銭その他の財産に限ると定めていることに対応するとされています。なお、動画の「担保などの信用」は、物を担保に入れるというより、本人の信用を会社のために提供するという意味で使われる言葉です。細かい意味づけは資料により異なります。)
合資会社:無限と有限が同居する
「お金だけは出したいが、現場で働く気はないし、無限責任で家を失うのも嫌だ」という、わがままな投資家はどうするか。そこで登場するのが2つ目の合資会社です。直接無限責任社員と、責任が出資した額までに限定される直接有限責任社員からなります。
聞き手のたとえ:海賊船
聞き手は、こうたとえます。無限責任の社員は、船が沈んだら運命を共にする船長。自由に船を操縦できるかわりに、最悪の事態には全財産で責任を負います。有限責任の社員は、港にいて大砲や食料の資金だけを出してくれるお金持ちの商人。船が沈んでも、投資したお金がなくなるだけで、本業の財産までは奪われません。
ただし、この商人(有限責任社員)には出資の手段が厳しく制限されます。無限責任社員は財産のほか労務や信用でも出資できましたが、有限責任社員は財産のみです。労働や信用での出資はできません。リスクを限定してもらう恩恵を受けるなら、現金や目に見える財産を置いていきなさい、という合理的な仕組みです。
合同会社:全員が有限責任(日本版LLC)
3つ目の合同会社は、間接有限責任社員のみから構成される会社で、日本版LLCとも呼ばれます。全員が有限責任で守られているので、出資は財産に限られ(動画では「財産と現物」と話されています)、各社員は原則として業務執行権をもちます。
(補足:合同会社の出資は金銭その他の財産で、現物出資を含みます。また、社員になろうとする人は、設立登記の時までに出資の全額を払い込む必要があります。会社法578条の内容とされています。)
責任の重さと出資の手段はトレードオフ
ここまでで、動画が「美しい法則」と呼ぶ関係が見えてきます。
- 無限責任という果てしないリスクを背負う覚悟がある人は、お金がなくても、自分の体(労務)や信用で出資できる。
- 有限責任という守られた立場にいる人は、シビアに財産しか出資できない。
責任をどこまで負うかによって、参加するためのルールが変わる。この関係を押さえておくと、組合のところで出てくる出資のルールも、暗記ではなく「理屈」で当てはめられます。
組合:法人格をもたないアプローチ
ビジネスを一緒にやるからといって、必ず会社という箱を作らなければならないわけではありません。ここから動画は、会社組織を離れて、法人格をもたない組合に移ります。
民法上の組合:全員が無限責任
まずは民法上の組合です。各当事者が出資をして共同で事業を行うことを約束する、組合契約に基づく組織です。契約に基づくので法人格はなく、出資者である組合員は無限責任を負います。
全員が無限責任なら、さっきのトレードオフがここでも発動するはず。出資は財産だけでなく、労務や信用でもできるんじゃないですか。
ご名答です。民法上の組合への出資は、財産だけでなく、労務や担保などの信用という形でも行えます。
(補足:民法667条2項は、出資は労務を目的とすることができると定めています。一方、「信用」による出資が条文に明記されているかは、私が確認できていません。動画の説明どおり、無限責任の組合員は財産以外でも出資できる、という理解で進めてください。)
有限責任事業組合:全員が有限責任
もう1つの組合が有限責任事業組合です。構成員の全員が有限責任組合員として、それぞれの出資の範囲内で責任を負います。全員が守られているので、出資は財産のみに限られます。ここでも同じ法則が働いています。共同研究開発や共同生産など、法人や個人が連携して行う共同事業でよく使われる形態で、複数の企業が協力して新しい技術を作るような場面に、身軽でフィットします。
(補足:動画では、この組合の通称が「LP」と表示されています。法律名にそろえた通称はLLP(Limited Liability Partnership)です。「LP」と書くと別の仕組みを指すことがあるので、試験では有限責任事業組合=LLPと覚えておくのが安全です。動画で実際にどう発音されているかは、断定できません。)
徹底比較:持分会社と組合
プレーヤーがそろったところで、動画は6つの観点で横断比較していきます。まず全体を表にまとめます。
| 観点 | 持分会社 | 組合 |
|---|---|---|
| 法人格 | あり | なし |
| 登記 | 設立に登記が必要 | 原則なし(有限責任事業組合は登記の義務があり、登記事項は登記後でないと善意の第三者に対抗できない) |
| 課税 | 法人に課税 | 組合自体は課税されず構成員に課税(パス |
| 人数 | (動画は触れず) | 契約なので2人以上 |
| 持分の譲渡 | 原則、他の社員全員の承諾 | (動画は触れず) |
| 業務執行 | 定款で一部の社員に限れる | (動画は触れず) |
法人格と登記
持分会社には法人格があり、設立の要件として登記が必要です。組合には法人格がなく、原則として登記も要りません。ここで聞き手が「原則ということは例外があるはず。さっきの有限責任事業組合ですか」と鋭く突きます。そのとおりで、動画では、有限責任事業組合は登記をしないと善意の第三者に対抗できない、と説明されます。
対抗要件としての登記。つまり「私たちは有限責任ですよ」と世間に主張するためのバリアみたいなものですね。
動画では、そのとおりですと受けています。登記しておかないと、いざというときに自分たちの有限責任の立場を守れません。
(補足:有限責任事業組合の組合員が有限責任なのは、有限責任事業組合契約に関する法律15条により法律上当然のことで、登記が有限責任の成立要件ではありません。組合契約が効力を生じたら2週間以内に登記する義務があり(同法57条)、登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗できません(同法8条)。動画の「有限責任の立場を守るバリア」は、この対抗力を分かりやすく言ったものと受け止めてください。)
課税:パススルー課税
持分会社は法人に対する課税です。これに対して組合は、組合自体には課税されず、組合に所属する構成員に課税されます。これがパススルー課税です。組合というフィルターでは税金が引かれず、利益がダイレクトに個人に届いてから税金が計算される、というイメージです。
動画は、二重課税を回避できるのが大きなメリットだと説明します。たとえば組合の利益が1,000万円で、組合員が2人で折半する取り決めなら、各自の持ち分の500万円がそれぞれの所得として扱われる、という流れです(数字は私が作った単純な例で、実際の税額計算は別です)。
人数
民法上の組合と有限責任事業組合は、複数人の契約によって成立する組織です。契約ですから、1人で自分と契約するわけにはいきません。2人以上が必要です。
(補足:持分会社は、社員が1人でも設立できると解されています。動画は持分会社の人数には触れていないので、対比のために添えます。)
持分の譲渡
持分会社では、持分の譲渡は原則として他の社員全員の承諾が必要です。過半数ではなく全員、という点に注意してください。ただし例外があります。合資会社や合同会社で、業務を執行しない有限責任社員の場合は、業務執行社員全員の承諾を得ることで持分を譲渡できます。
港で資金だけ出して経営に口を出さない商人なら、実際に船を操縦している船長たちさえ納得すれば、交代してもよい、という考え方です。
(補足:会社法585条の内容です。定款で別の定めをおける場合もあるとされています。)
業務執行の柔軟性と、法人が社員になる場合
持分会社は、定款によって、社員の一部を業務執行社員とすることができます。また、法人も持分会社の社員になれます。会社という箱の中に別の会社が座っているような不思議な感覚ですが、法律上は可能です。ただし、法人が業務執行社員になる場合は、実際に業務を行う職務執行者を自然人から選び、その氏名と住所を登記する必要がある、と動画は説明します。
(補足:条文では、法人が業務執行社員のときは、その職務を行うべき者を選任し、氏名と住所を他の社員に通知する、と定められています。会社法598条1項の内容とされています。登記事項になるのは、持分会社を代表する社員が法人であるときの、その職務を行うべき者の氏名・住所です(同法912条7号・913条9号・914条8号)。動画の「登記する必要がある」は、代表社員が法人の場合の説明と理解してください。)
日々の決断をするのは、生身の人間でなければならない。動画は、法律が最後に信じているのはやはり生身の人間の決断なのだ、と締めくくっています。
まとめ
この回のまとめ(動画の流れ)
- 持分会社は所有と経営が一致している。「社員」は従業員ではなく出資者(オーナー兼プレイヤー)。
- 持分会社は3種類。合名会社=無限責任社員のみ、合資会社=無限責任社員と有限責任社員、合同会社=有限責任社員のみ(日本版LLC)。
- 動画の整理では、無限責任の社員は財産・労務・信用で出資でき、有限責任の社員は財産のみ。責任の重さと出資の手段はトレードオフ。
- 組合は法人格なし。民法上の組合は全員無限責任、有限責任事業組合は全員有限責任で出資は財産のみ。
- 比較の観点:法人格(持分会社あり・組合なし)/登記(持分会社は必要・組合は原則不要、有限責任事業組合は登記の義務があり、登記事項は登記後でないと善意の第三者に対抗できない)/課税(法人課税とパススルー課税)/人数(組合は2人以上)/持分譲渡(原則全員の承諾、業務を執行しない有限責任社員は業務執行社員全員の承諾)/業務執行(法人も社員になれ、職務執行者を置く)。
動画は最後に、「ビジネスの目的、背負えるリスクの大きさ、税金面、意思決定のスピードといったパズルを組み合わせて、組織の器を選ぶ」面白さを問いかけています。無限責任を背負って自分の労務で出資する合名会社を選ぶか、コラボレーションに特化してパススルー課税の恩恵を受ける有限責任事業組合を選ぶか。自分のシチュエーションに当てはめて想像すると、条文の暗記がぐっと記憶に残ります。
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