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役員の任務懈怠責任と株代表訴訟のポイント

経営法務 第29回

経営法務・会社法 01411分31秒2026年4月3日公開

「もしあなたが企業の経営陣にアドバイスをするコンサルタントだとしたら、絶対に避けて通れない非常にスリリングなテーマがあるんですよね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、役員の任務懈怠責任、責任の免除と最低責任限度額、株主代表訴訟、多重代表訴訟をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

経営トップのミスは、誰がどう責任を問うのか

何百億円という投資を決断できるほど、経営者の権限は絶大です。では、その決断が裏目に出て会社に大損害を与えたとき、役員はどんな責任を負うのでしょうか。そして、役員が責任を負うべきなのに会社が動かないとき、株主はどうするのでしょうか。動画は、この「役員と株主の攻防」を一本の流れで説明していきます。

  • 任務懈怠責任:役員の怠慢で会社に損害が出たときの責任。
  • 責任の免除と最低責任限度額:免除されても残る、役職別の下限。
  • 株主代表訴訟:会社に代わって株主が役員を訴える制度。
  • 多重代表訴訟:親会社の株主が、子会社の役員の責任を追及する制度。

動画は、条文や数字を丸暗記するのではなく、「なぜそのルールが必要だったのか」というビジネス上の力学を理解することを目標にしています。このページもその順番で進めます。

(補足:条文の番号は、動画にはない補足として添えたものです。令和8年4月1日現在の会社法の理解にもとづいています。)

任務懈怠責任は、原則として過失責任

動画の説明では、任務懈怠責任とは、役員が任務を怠ったことで会社に損害が生じたときの責任です。役員等の会社に対する責任として、会社法423条1項に定められています。

ここで聞き手が、もっともな心配を口にします。一生懸命やってベストを尽くしても失敗したら、全財産を投げ打って賠償しろと言われるのでは、誰も社長になれないのではないか、と。これに対して動画は、任務懈怠責任は原則として過失責任であり、過失がなければ問われない、と答えます。

役員の任務懈怠で会社に損害原則過失責任過失がなければ問われない例外無過失責任自己のための直接取引例外の対象は、その取引をした取締役。「過失はなかった」という言い訳は通らない
任務懈怠責任は原則として過失責任。例外が無過失責任です。

ただし例外があります。動画では、利益相反の直接取引をした取締役は、過失がなくても責任を負う無過失責任になると説明されます。

たとえ話:船長の責任

  • 嵐の中でベストを尽くして船が傷ついた場合は、船長に過失があったかどうかが問われます。
  • 船長が、自分が持つ島へ会社の船の荷物を勝手に運び込んだら、言い訳は無用で責任を取らされます。
  • 動画は、利益相反は会社を食い物にしようという動機が働きやすいから、重い責任になる、と説明します。

(補足:動画は「利益相反の直接取引をした取締役」と簡潔に言っていますが、条文でこの無過失責任(会社法428条1項)の対象とされているのは、自己のために直接取引をした取締役です。会社のために直接取引をした場合などは、通常の過失責任の枠で考えるとされています。)

責任の免除:全員同意と、特別決議

賠償額が何百億円にもなりうるなら、一度のミスで破滅するしかないのか。動画はここで、救済措置があると説明します。

ひとつめは、全株主の同意がある場合です。このとき、任務懈怠責任の一部または全部が免除されます(会社法424条)。ただし、上場会社で全株主の同意を得るのは事実上不可能です。そこで現実的なルートとして出てくるのが、次の方法です。

ふたつめは、役員が善意でかつ重大な過失がないとき(動画の言い方では、悪意がなくて重大な過失もないとき)に、株主総会の特別決議で免除する方法です。動画では、これで全額免除かと聞き返され、免除されるのは「損害賠償額から最低責任限度額を引いた金額」だと説明されます(会社法425条)。

損害賠償額(満額)最低責任限度額免除できる部分善意かつ無重過失+株主総会の特別決議免除できるのは、右側の部分まで全株主の同意があれば全部でも一部でも免除できる上場会社で全株主の同意を得るのは事実上不可能。そこで特別決議のルートが現実的、と動画は説明します
特別決議で許されても、最低責任限度額は残ります。

(補足:動画にない話として、責任の一部免除には、ほかにも取締役会の決議による免除(会社法426条)や、社外取締役などと結ぶ責任限定契約(会社法427条)の仕組みがあります。どちらも一定の機関設計や定款の定めが必要とされ、資料により整理の仕方が異なります。また、先ほどの無過失責任の対象となる直接取引の責任には、特別決議による一部免除(425条)も、取締役会の決議による免除(426条)も、責任限定契約(427条)も使えません(428条2項)。免除できるのは、総株主の同意がある場合(424条)だけです。)

最低責任限度額:役職が上ほど重い

特別決議で許されても、最低限は支払わなければならない額がある。これが最低責任限度額です。動画はこれを、保険の「免責金額」のようなものだとたとえます。保険でも、自己負担として必ず出す額がありますね。あれに近い感覚です。

この額は役職ごとに階層化されていて、報酬などの1年あたりの額に、次の年数分を掛けて求めます。

役職倍率
代表取締役・代表執行役6年分
代表取締役以外の業務執行取締役等・代表執行役以外の執行役4年分
その他の取締役・監査役・会計参与・会計監査人2年分
代表取締役・代表執行役6年分業務執行取締役・執行役4年分その他の取締役・監査役会計参与・会計監査人2年分倍にする元は、報酬など1年あたりの額役職が上ほど、下限の自己負担が大きい
棒が長いほど、残る自己負担の下限が大きくなります。

動画のとおり、絶大な権限には重い責任が伴います。直接業務を動かさない監視役のような立場ほど、倍率は小さくなります。

(補足:実際の条文(会社法425条1項)では、報酬等だけでなく、職務執行の対価として受ける財産上の利益も含めて、1年あたりの額を計算するとされています。また、最低責任限度額は、この年額に倍率を掛けた額と、新株予約権に関する利益の額(同項2号)の合計です。)

数字で確認:自作の設例

  • 代表取締役の年間の報酬等が4,000万円なら、最低責任限度額は4,000万円×6年=2億4,000万円。
  • 賠償額が5億円で、善意かつ無重過失として特別決議が通ったなら、免除できるのは5億円−2億4,000万円=2億6,000万円が上限です。
  • 同じ賠償額でも、年間の報酬等が1,800万円の業務執行取締役なら、下限は1,800万円×4年=7,200万円。1,200万円の社外取締役なら、1,200万円×2年=2,400万円です。

(上の数字は、倍率の仕組みをつかむために作った設例で、実在の事例ではありません。実際の計算では、報酬以外の利益の扱いなどの細かい規定もあります。)

会社が役員を訴えないとき:株主代表訴訟

ここで動画は、重要な問題を投げかけます。役員が責任を負うべきなのに、会社が身内への甘さから訴えなかったらどうなるか。「社長、あなたを訴えます」と言い出したら自分の首が飛びかねないので、誰も動かない。結局、会社は泣き寝入りで、損をするのは株主です。

そこで、会社に代わって株主が役員などの責任を追及できる制度が用意されています。これが株主代表訴訟です(会社法847条)。動画は、警察である会社が身内の不祥事を揉み消して泥棒を捕まえないなら、町民である株主が直接法廷に引きずり出す、というイメージでたとえます。

① 株主が会社へ提訴を請求② 60日間、会社の対応を待つ会社が訴えを提起すれば、ここで終わり③ 60日以内に会社が提訴しない→ 株主が役員を直接訴えられる株主の要件(公開会社)6か月前から引き続き株式を有する株主(動画の「1議決権以上」は本文の補足を参照)
いきなり訴えるのではなく、まず会社に請求します。

手順は次のとおりです。

  • まず株主が、会社に対して、役員の責任を追及する訴えを起こすよう請求する。
  • 請求から60日以内に会社が訴えを提起しない場合に、はじめて株主が役員に対する訴えを提起できる。
  • 公開会社の場合は、6か月前から引き続き株式を有する株主であることが必要。

いきなり訴えるわけじゃないんですね。

はい。まず警察に「ちゃんと仕事をして」と請求するステップが入ります。会社に60日間のチャンスを与えるわけです。

昨日1株だけ買ったような冷やかしの人を排除するための仕組みですね。

その通りです。6か月という期間が、そのふるいになります。

(補足:動画は、公開会社の株主について「6か月前から引き続き1議決権以上」と言っていますが、条文が求めるのは、6か月前から引き続き株式を有することです。議決権の数を問う要件ではありません。動画の「1議決権以上」は、次の多重代表訴訟の「議決権の1%」と混ざった言い方と考えられます。なお、公開会社でない会社では、6か月の保有期間は求められません。)

(補足:60日を待つと会社に回復できない損害が生じるおそれがある場合は、待たずに提訴できる例外が条文にあります。動画にない話ですが、試験では「60日」と一緒に押さえておくと安心です。)

子会社で不正が起きたら:多重代表訴訟

現代のビジネスは、1つの会社だけで完結しません。不正が親会社ではなく、子会社の中で起きていたらどうなるでしょうか。動画によれば、従来の株主代表訴訟では、親会社の株主は子会社の役員の責任を追及できませんでした。すると、親会社の経営陣が危ない事業をわざと子会社に押し付けて、責任逃れができてしまいます。

この穴をふさいだのが、改正会社法による多重代表訴訟です。動画では「2015年の改正」と説明されます。(補足:この改正会社法は、平成26年(2014年)に成立し、施行は平成27年(2015年)5月1日とされています。年を聞かれたら「施行は2015年」と覚えるのが安全です。)

株主1%以上最終完全親会社等(動画の呼び方:完全親会社)100%保有完全子会社(動画のたとえ:孫)子会社の役員の責任動画が挙げた3つの数字100%・1%以上・5分の1(5分の1は「超える」。本文の補足を参照)
親会社の株主の目が、完全子会社の役員にまで届きます。

要件は厳格です。動画が挙げる数字を、祖父母(親会社)と孫(子会社)のたとえで整理します。

  • 孫が100%子会社(完全子会社)であること。子会社の株式をすべて持つ会社を、完全親会社といいます。
  • 祖父母の側の株主が、6か月前から引き続き、議決権の1%以上を持つこと。
  • その子会社の株式の価値が、親会社の総資産の5分の1を占める規模であること。

動画は、小さな子会社の問題で親会社の株主がわざわざ介入して混乱させないための線引きだと説明します。

(補足:条文との違いを2点だけ訂正します。1つめは、5分の1の扱いです。動画は「5分の1以上」と言っていますが、条文は子会社株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超える場合とされています(会社法847条の3)。ちょうど5分の1では要件を満たしません。なお、5分の1の判定は、責任の原因となった事実が生じた日の帳簿価額で行います(847条の3第4項)。2つめは、1%の中身です。条文では、最終完全親会社等の総株主の議決権の100分の1以上、または発行済株式の100分の1以上を、6か月前から引き続き持つ株主とされています。動画は議決権だけを挙げているので、単純化と言えます。また、動画の「完全親会社」は、条文では最終完全親会社等(完全親会社等のうち、さらに上がないもの)です(847条の3第1項)。動画の祖父母のたとえは、この最上位の会社にあたります。1%と5分の1は定款で下げることもできます。)

数字で確認:自作の設例

  • 親会社の総資産が1,000億円なら、その5分の1は200億円。子会社株式の帳簿価額が250億円なら、5分の1を超えるので要件を満たします。ちょうど200億円なら、超えていないので満たしません。
  • 親会社の総株主の議決権が10万個なら、その1%は1,000個。6か月前から引き続き1,000個以上を持つ株主が、1%の要件を満たします。

(上の数字は、しくみをつかむための自作の設例です。実際の帳簿価額や総資産額の算定には、法務省令で定められた方法があります。)

動画は、この改正を、企業がリスクの高い事業を意図的に子会社に隠して、役員が責任逃れをするのを防ぐ、コーポレートガバナンスの進化として位置づけます。

試験の注目点(動画と条文の食い違いに注意)

  • 動画は「100%・1%以上・5分の1」の組み合わせが狙われると強調しています。ただし5分の1は、条文では「超える」です。
  • 株主代表訴訟の公開会社の要件は、動画では「1議決権以上」と言っていますが、条文では株式の保有が6か月続いていることです。
  • 最低責任限度額の「6年・4年・2年」は、役職と倍率をセットで確認しましょう。

まとめ

この回のまとめ

  • 任務懈怠責任は、原則として過失責任。例外として、自己のために直接取引をした取締役は無過失責任(動画では「利益相反の直接取引」)。
  • 責任は、全株主の同意で免除できる。善意かつ無重過失なら、株主総会の特別決議で、損害賠償額から最低責任限度額を引いた額まで免除できる。
  • 最低責任限度額は、報酬などの年額の、代表取締役・代表執行役が6年分、それ以外の業務執行取締役・執行役が4年分、その他の取締役・監査役・会計参与・会計監査人が2年分。
  • 株主代表訴訟は、まず会社に請求し、60日以内に会社が提訴しなければ、株主が役員を訴えられる。公開会社では6か月前から引き続き株式を有する株主であること。
  • 多重代表訴訟は、親会社の株主が完全子会社の役員の責任を追及する制度。1%以上と、子会社株式が総資産の5分の1を超えること(動画は「以上」)が要件。

動画の締めくくりのとおり、60日、6か月、5分の1といった数字は、ただ暗記するのではなく、「なぜその数字が必要なのか」を、会社と株主の攻防としてイメージするのがコツです。そうすれば、試験会場でも記憶が蘇ってくるはずです。

動画は最後に、グローバル化やAIによる業務の自動化で意思決定のプロセスが見えにくくなったとき、法律は誰の責任を問うためにどう進化する必要があるのか、という問いを残します。ニュースで企業の不祥事を見たとき、今回のガバナンスの知識で、見え方が変わるはずです。

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