株主の権利と少数株主権の重要ポイント
経営法務 第24回
誰もが知る巨大企業の株をたった1株だけ数百円で買い、明日の朝その本社に電話をかけて、会社のロゴを飼い猫の顔に変更する件を決議しろと要求したら、どうなるか。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、自益権と共益権、株主提案権、スパム対策の数字、少数株主権のレベルアップ、公開会社の6か月ルールをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
1株で「猫のロゴ」を会議にかけられるか
動画は、こんな想像から始まります。誰もが知る巨大企業の株を、たった1株、数百円で買ったとします。明日の朝、その本社に電話をかけて「次の役員会議で、会社のロゴをうちの飼い猫の顔に変える件を決議しろ」と要求したら、どうなるか。ふつうに考えれば、ただのいたずら電話でガチャ切りされて終わりです。
ところが動画は、ここに法的な怖さがあると言います。もし企業を悪意ある要求から守る明確なルールがなければ、たった数百円の株主の要求を、数万人が働く大企業が無視できなくなるかもしれないからです。だから会社と株主の関係には、緻密に設計された「ルールの防波堤」が築かれています。この回では、その全体像を、株主の権利から順にたどります。
自益権と共益権:自分が儲ける権利、会社を動かす権利
まず出発点は、株主の権利が大きく2つに分かれることです。
- 自益権:株主自身が利益を得る権利。会社が出した利益から配当をもらう権利が代表例です。
- 共益権:会社の管理や運営に関わる権利。株主総会での議決権が代表例です。
動画は、これをマンションにたとえます。自益権は、マンションに備えつけの豪華なプールやジムを、自分で楽しんで得をするような権利。共益権は、管理組合の会議に出て「来年から修繕積立金を値上げしよう」「新しい管理人を雇おう」という決議に一票を投じるような権利です。
プールで泳ぐのは自分が楽しむだけで、他の人にはあまり迷惑がかかりません。しかしプールの運営時間そのものを決める会議に参加するのは、まったく別の性質の行為です。共益権は、使い方しだいで会社全体、ひいては他の株主みんなの運命を左右できる強い力を持っています。
自分が楽しむ権利と、ルールを作る権利は、もう別次元の話なんですね。
そういうことです。
(補足:後の節で見るように、共益権のほうには、会社を守るための歯止めが何重にも用意されています。)
株主提案権は「3つの権利のセットメニュー」
では、株主が「会社をこう変えたい」というアイデアを直接ぶつけたいときは、どうすればよいのでしょうか。ここで登場するのが、共益権の1つである株主提案権です。動画によると、これは単一の権利ではなく、次の3つが合わさったセットメニューです。
- 議題提案権(会社法303条):株主総会のテーマを提案する権利。
- 議案提出権(会社法304条):テーマに対する具体的な案を提出する権利。
- 議案要領通知請求権(会社法305条):自分の議案の要領を、招集通知などで他の株主に知らせるよう請求する権利。
名前が長く、特に議題と議案は文字面がそっくりで、頭の中でごっちゃになりがちです。しかし動画は、この議題と議案の違いこそ、企業の防衛線でいちばん重要な壁の1つだと言います。
たとえ:空っぽの箱と、その中身
議題は、株主総会のテーマ、つまり空っぽの箱の表書きです。たとえば「取締役選任の件」。議案は、その箱に入れる具体的な提案です。テーマが取締役選任の件なら、「Aさんを取締役に選任する」が議案になります。
議題は箱の表書き、議案は箱の中身。この2つを分けて考えると、次の話がすっきり入ってきます。
「箱を置く」ハードルは高い、「中身を出す」ハードルは低い
動画の説明は次のとおりです。中身である議案については、全ての株主が出せます。1株しか持っていない人でも、具体的なアイデアを出すこと自体はできます。
問題は、アイデアを入れる箱、つまりテーマである議題を会議の場に出せるかどうかです。動画では、取締役会設置会社の場合、議題の提案には高いハードルがあり、1%以上または300個以上を持つ株主でなければできないと説明します。「取締役を新しく選ぶというテーマで会議を開こう」という箱をテーブルにどんと置けるのは、いわばVIPだけというイメージです。
理由は、もし誰でも自由にテーマを設定できたら、会社の運営と関係のない個人的な趣味や嫌がらせのテーマばかりが乱立してしまうからです。冒頭の猫のロゴ会議を、本当に開かなければならなくなります。会社と一定のリスクを共有する株主にだけ、テーマ設定の権限を絞っているのです。
(補足:動画の「1%以上または300個以上の株式」は、正しくは議決権です。会社法303条では、取締役会設置会社の株主は、総株主の議決権の1%以上の議決権、または300個以上の議決権を持つ場合に議題を提案できます。単元株制度のある会社では、1単元の株式が議決権1個にあたります。また、1%と300個は「どちらか一方を満たせばよい」ので、実質的には低いほうの基準が使われます。図の数値例のとおりです。)
(補足:動画は「議案を出せるのは全ての株主」と説明しますが、正確には、議案を出せるのはその議題について議決権を持つ株主です。議決権のない株式の株主は含まれません。さらに、取締役会を置かない会社では、議決権を1個でも持つ株主が議題を提案できます。1%や300個という高いハードルは、取締役会設置会社の話です。)
(補足:議題は、株主総会で決議できる事項に限られます。取締役会設置会社の株主総会は、法律か定款で定めた事項しか決議できません(会社法295条2項)。猫のロゴのような話は、定款に定めがない限り議題になりません。)
でも、いったん「取締役選任の件」という箱が置かれたら、中身の議案は誰でも出せるなら、100人の株主が友達や親戚をバラバラに推薦して、議案が無限に増えませんか。
非常に鋭い視点です。実際に、一部の活動家が会社の業務を麻痺させる目的で、1回の会議に膨大な数の提案を送りつけてくる事例もあります。ただ、会社側も無防備ではなく、濫用的な権利の行使を防ぐ強い防波堤が用意されています。
スパム対策その1:議案は10件まで
1つ目の防波堤は、議案要領通知請求権にかかる数の制限です。この権利は、自分が出そうとする議案を、あらかじめ招集通知などで他の株主に知らせるよう請求するもので、たとえばAさんを取締役に推薦したいとき、Aさんの情報を株主に通知してもらうよう請求できます。
動画によると、株主が通知を求められる議案の数は10件までです。会社は株主総会の前に、何万人もの株主に分厚い資料を印刷して送らなければなりません。ひとりの株主が100件の通知を求めてきたら、印刷代や郵送費だけで会社が傾きかねません。物理的・金銭的なスパムを防ぐリミッターです。
(補足:10件の上限は、取締役会設置会社の株主が議案要領の通知を請求する場合の定めです。10を超える部分は請求できません(会社法305条4項)。取締役・会計参与・監査役・会計監査人の選任の議案、役員等の解任の議案、会計監査人を再任しない議案は、人数にかかわらず各1議案と数えます。議案を提出する権利そのもの(304条)に10件の上限はありません。)
スパム対策その2:1/10の賛成がなければ、3年は再提案できない
数で攻めるのがダメなら、しつこさで攻める人はどうでしょう。自分の提案が株主総会で大反対されて否決されたのに、諦めきれず、来年も再来年も同じ案を出し続ける人です。
これに対する防衛策も、数字で決まっています。動画の説明では、株主から提案された議案が議決権の1/10以上の賛成を得られなかった場合、つまり圧倒的な少数意見で惨敗した場合、会社はその議案と実質的に同一の議案について、3年を経過していなければ、その株主提案を拒絶できます。「もうその話は3年間は持ち込まないでくれ」と、会社が門前払いできる権利です。
動画は、この仕組みを、会社の運営の効率性と、株主の正当な意見を聞くという民主性の、相反する2つの要素のバランスを取るものだと説明します。1/10という数字は、「全くの無意味な提案ではないかもしれないが、今すぐ議論を続けるほど全体の支持はない」という絶妙なラインだ、という見方です。
(補足:この再提案の制限は、議案を提出する権利を定める会社法304条のただし書と、議案要領通知請求権を定める305条6項にあります。賛成の割合は、その議案について議決権を行使できない株主を除いた総株主の議決権の1/10を基準に数えます。また、議案が法令や定款に違反する場合にも、同じく拒絶できるとされています。)
少数株主権のレベルアップ:1%、3%、10%
ここまでは会社を守る側の視点でした。少し視点を変えて、多くの株式を持つ一部の株主の権利、少数株主権を見ていきます。動画はこれを、ロールプレイングゲームで経験値を積んでレベルアップしていくようなものにたとえます。
- レベル1(1%以上または300個以上):議題提案権と議案要領通知請求権。会議のテーマの箱をテーブルに置く魔法です。
- レベル2(3%以上):自分で株主総会の招集を求める、役員の解任を求める、会計帳簿の閲覧を求める、といった強力な権限が手に入ります。動画は、役員を「取締役、会計参与、監査役」と整理しています。
- レベル3(10%以上):議決権が10%以上に達すると、ついに会社解散の訴えができます。会社そのものを終わらせる、いちばん重い権利です。
経営陣にとっては、3%の株主でも恐ろしい存在です。会計帳簿の閲覧は、経営の透明性を強制する強い権限だからです。
(補足:動画の「3%で役員の解任を求める」は、少し単純化されています。3%の株主ができるのは、株主総会で解任の議案を出すことではなく、裁判所に役員の解任の訴えを起こすことです(会社法854条)。解任の訴えは、役員に不正の行為や法令・定款に違反する重大な事実があったのに、株主総会で解任の議案が否決された、といった場合に認められるとされています。役員の解任そのものは、株主総会の決議でいつでもできます(会社法339条1項)。)
(補足:動画の「10%で会社解散の訴え」も単純化されています。10%を持つだけで起こせるわけではありません。会社法833条で、業務の執行が著しく困難な状況や、財産の管理・処分が著しく失当で会社の存立を危うくする状況があり、やむを得ない事由がある場合に限られます。動画の「大富豪が10%を買い占め、翌朝解散の訴えを起こして大暴れ」という筋書きは、持株要件だけを見た話で、実際には事由が必要です。)
公開会社では「6か月」の継続保有が必要
ここで動画の大富豪が再登場します。ライバル企業の株を一気に10%買い占めて、翌朝から役員を全員解任して大暴れする、という企業乗っ取りを狙う者が考えそうなシナリオです。法律は、こうした一撃離脱の破壊工作も想定しています。最後の壁が、公開会社のルールです。
動画によると、公開会社では、少数株主権に継続保有期間が定められているものがあります。具体的には、3%の株主総会招集請求権、3%の役員解任請求権、そして1%の議題提案権と議案要領通知請求権で、これらは権利を行使する前の6か月以上、続けて株式を保有している必要があります。
理由は、公開会社では不特定多数の人が瞬時に売買できるため、一時的な思いつきや悪意による攻撃を受けやすいからです。本当にその会社の未来を良くしたいなら、少なくとも半年は株主として価格変動のリスクを共有しなさい、という時間による足止めを設けているのです。
(補足:6か月の要件は、全ての少数株主権にあるわけではありません。会計帳簿の閲覧請求(会社法433条)や会社解散の訴え(会社法833条)には、6か月の要件がありません。動画は、10%の買い占めの話から公開会社の6か月ルールにつなげているので、「10%の解散の訴えも半年必要」と覚えてしまうと引っかかります。また、6か月の要件は公開会社に限った話です。取締役会設置会社でも、公開会社でなければ、議題提案権や議案要領通知請求権に6か月の要件はないとされています。)
| 権利(補足を含めた整理) | 必要な持株 | 公開会社の6か月 |
|---|---|---|
| 議題提案権・議案要領通知請求権(取締役会設置会社) | 議決権1%または300個 | 必要 |
| 株主総会の招集請求 | 議決権3% | 必要 |
| 役員の解任の訴え | 3% | 必要 |
| 会計帳簿の閲覧請求 | 3% | 不要 |
| 会社解散の訴え | 10% | 不要 |
試験で引き出せるように整理する
動画の最後は、試験本番でパッと引き出せるよう、ここまでの内容を整理して終わります。自益権と共益権の区別、議題と議案の区別、10件・1/10・3年の数字、1%・3%・10%の段階、公開会社の6か月です。補足も含めた要点は、下のまとめにまとめました。
数字の引っかけ問題が来ても、なぜその数字なのかというストーリーから、正解を導けそうです。
ルールの背景にあるバランス感覚を理解していれば、記憶は丸暗記よりずっと強固になりますからね。
最後の問いかけ:時間や数のルールは、これからも最適か
動画は最後に、少し未来に目を向けます。会社の安定を守るために、6か月以上の継続保有や300個以上といったルールが作られました。しかし現代は、スマートフォンのアプリで一瞬にして株を売買し、アルゴリズムがミリ秒単位で取引する時代です。企業を取り巻く環境が日進月歩で変わる中で、こうした時間や数による制限は、これからも会社と株主にとって最適なバランスでありつづけるのか。数年後には、全く新しい概念の防衛策が必要になるかもしれない、という問いかけです。
まとめ
この回のまとめ
- 株主の権利は、自分が儲ける自益権と、会社を動かす共益権に大きく分かれる。
- 株主提案権は、議題提案権・議案提出権・議案要領通知請求権の3つのセット。議題は箱の表書き、議案は箱の中身。
- 動画では、取締役会設置会社の議題提案は1%以上または300個以上。補足として、これは株式でなく議決権の基準で、低いほうを満たせばよい。
- スパム対策は、議案要領の通知が10件まで、そして1/10以上の賛成を得られなかった議案は3年間は拒絶できる、の2つ。
- 少数株主権は、1%・3%・10%と段階が上がるほど強い。ただし、補足のとおり、3%は解任の訴え、10%の解散の訴えには別途事由が必要。
- 公開会社では、6か月の継続保有が必要な権利がある。会計帳簿の閲覧や解散の訴えには要件がない。
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