株主総会の種類と決議ルール
経営法務 第23回
「あなたが一生懸命立ち上げて全株式の60%を握っている会社があるとします」。動画はそこから、どれだけ首にしたくても自分の力だけでは絶対に追い出せない人物がいるかもしれない、と続けます。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、定時・臨時の株主総会、定足数、普通決議と特別決議、定款でのカスタマイズの限界をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
60%の株を持っていても、追い出せない人がいる?
自分が立ち上げた会社の株を60%握っている。それなら社内では絶対的な権力者のはずです。ところが動画は、会社の中に、どれだけ首にしたくても自分の力だけでは絶対に追い出せない人物がたった1人いるかもしれない、という問いかけから始まります。その正体は、この回の後半で明かされます。
動画が扱うのは、会社の意思決定の最高機関である株主総会のルールです。診断士試験の経営法務(会社法)では、数字の引っ掛けや例外条件がよく問われるところでもあります。動画の流れにそって、次の順に見ていきましょう。
- 定時株主総会と臨時株主総会:2つの種類の違い。
- 定足数:会議が始まるための最低ライン。
- 普通決議と特別決議:必要な賛成の数と、それぞれで決められること。
- 定款によるカスタマイズ:どこまで変えられて、どこから変えられないか。
動画は「全部で100株の議決権がある会社」を舞台に、51、26、34、18という数字を追っていきます。この4つの数字が何を表すのかを意識して読むと、頭に入りやすくなります。
定時株主総会と臨時株主総会
株主総会は、大きく定時株主総会と臨時株主総会に分けられます。動画のたとえでは、定時は「毎年決まった時期に必ずある、親戚のお正月の集まり」、臨時は「何か事件が起きたときに急に呼ばれる緊急の家族会議」です。
動画は、定時株主総会を「通常、事業年度終了後3か月以内に開催されるというルール」と説明します。そのうえで、日本の多くの会社が事業年度の終わりを3月31日にしているので、3か月後のギリギリである6月末に一斉に開かれるのだ、と6月に総会が集中する理由につなげています。臨時株主総会は、急激な業績悪化への対応や企業買収のチャンスなど、緊急で決めるべきことがあるときに、いつでも招集できるとされます。
(補足:動画の「3か月以内」は単純化された説明です。会社法296条1項は、定時株主総会を「毎事業年度の終了後一定の時期」に招集するとだけ定めています。3か月という数字のもとになっているのは、株主が議決権を行使できる期間についての定めで、基準日(総会で権利を行使できる株主を確定する日)の株主が行使できる権利は、基準日から3か月以内のものに限る、というルールです(124条2項)。3月決算の会社が3月31日を基準日にすれば、総会は6月末ごろまでに開く必要がある、という流れで、6月に集中する理由の説明にはなります。臨時株主総会は、同条2項が「必要がある場合には、いつでも」招集できると定めています。)
毎年6月末になると、ニュースで「本日は全国の企業で一斉に株主総会が開催されます」と流れますよね。あれはそういうことだったんですね。
ええ、風物詩のようになっていますね。
年に1回きっちり開く定時と、フットワークの軽い臨時で、2段構えになっているわけですね。
そういうことです。
定足数:会議が始まる最低ライン
ただし、会議を開いたからといって、数人が集まって勝手に会社のことを決めてよいわけではありません。会議を成立させるために必要な最低限の出席者のラインを定足数といいます。動画では、原則として「議決権を行使できる株主の議決権の過半数」と説明されます。
100株の会社で考えましょう。100の過半数は、半分より多い数ですから51です。つまり51株分が集まらないと、会議そのものを始められません。50株しか集まらなかったら、どんなに重要な議題があっても会議は不成立になります。
動画のたとえ
野球でグラウンドに9人集まらないと、試合開始のサイレンが鳴らないのと同じです。動画は、この厳格さが株主全体を守るための「第1の門」だと説明しています。
(補足:ここでの数は、株数ではなく議決権の数です。動画の「100株」は、議決権が1株に1個の会社を想定した読み方です。実際には、一定の株数をまとめて1個の議決権とする単元株制度がある会社や、議決権のない株式(会社自身が持つ自己株式など)もあります。また、総会に出席できない株主が書面などで議決権を行使した場合も、出席した議決権に数えられるとされています。)
普通決議:たった26で会社のことが決まる
会議が成立したら、いよいよ決議です。株主総会の決議には普通決議と特別決議の2種類があります。動画は、議事を進めて議決するのに必要な最小限の賛成の数を表決数と呼び、普通決議の表決数は「出席株主の議決権の過半数」だと説明します。
ここで注意したいのは、基準が「全体」ではなく「出席した人」の過半数だという点です。定足数ぎりぎりの51が出席したとすると、その過半数は、51÷2=25.5より大きい最小の整数、つまり26です。100のうちたった26の賛成、全体の約4分の1で普通決議は可決します。
ちょっと待ってください。全体で100株ある会社ですよ。そのうちたった26株の賛成で、会社のことが決まっちゃうんですか。
そうなんです。他の株主が会議を休んだり無関心だったりすれば、一部の人たちだけで会社をコントロールできてしまいます。だからこそ、どんな議題が普通決議で、どんな議題がもっとハードルの高い特別決議になるのか、その振り分けが重要になってきます。
動画が挙げる、普通決議で決められる主な事項は次のとおりです。
- 役員の選任(誰を取締役にするか)
- 監査役以外の役員の解任(気に入らない取締役を辞めさせることも、普通決議でできます)
- 計算書類の承認
- 役員の報酬の決定
- 剰余金の分配(配当)
動画は、役員の選任も解任も普通決議なので、出席者がぎりぎりなら理論上は26で今の社長を追い出せる、と指摘します。日常的な運営や、自分たちへのご褒美にあたる事項は、おおむね普通決議というわけです。
(補足:動画の整理には単純化があります。計算書類は、会計監査人設置会社が法務省令の要件を満たすと、総会では承認ではなく報告で足りる場合があります(439条)。剰余金の配当も、一定の会社が定款で定めると、取締役会で決められる場合があります(459条)。試験では、まず動画のとおり「原則」を押さえたうえで、例外の有無に注意しましょう。)
特別決議:ハードルは26から34へ
次は特別決議です。動画によれば、特別決議の表決数は「出席株主の議決権の3分の2以上」です。出席が51のとき、51×2/3=34ちょうどですから、34の賛成が必要です。「以上」なので、ちょうど34でも可決します。26から34へ、たった8の違いに見えますが、巨大な会社では途方もなく大きな差になる、と動画は強調しています。
特別決議が必要なのは、会社の根幹に関わる重要事項です。動画が挙げるものを、普通決議と並べて整理します。
| 決議 | 必要な賛成 | 動画が挙げた事項 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 出席の過半数 | 役員の選任、監査役以外の役員の解任、計算書類の承認、役員報酬、剰余金の配当 |
| 特別決議 | 出席の3分の2以上 | 監査役の解任、資本金の減額(減資)、定款の変更、事業譲渡や合併などの組織再編、解散 |
動画は、会社そのものをなくしたり、別の会社とくっつけたりする「大手術」は、簡単には決めさせないという明確な壁があるのだ、と説明します。定款は「会社の憲法」、つまりルールブックそのものです。それを書き換えるのも大手術のうちです。
(補足:資本金の減額は「原則として」特別決議です。また、動画の「監査役以外の役員」の解任のうち、累積投票で選ばれた取締役と、監査等委員である取締役の解任は、監査役と同じく特別決議が必要です(309条2項7号)。)
なぜ、監査役の解任だけ特別決議なのか
ここで聞き手が、動画の中でも一番鋭い疑問を挟みます。役員の選任や解任が普通決議で、合併や解散が特別決議なのは納得できる。でも、なぜ監査役の解任だけが、合併や解散と同じ重い特別決議なのか。社長を辞めさせるより監査役を辞めさせるほうが難しいなんて、おかしくないか、という疑問です。
非常に鋭い着眼点です。冒頭でお話しした、絶対に首にできない人物の正体が、まさにこの監査役なんですよ。
監査役の解任が普通決議でできたらどうなるか考えてみます。社長が悪いことをしていて監査役が指摘したら、社長は取り巻きを集めて過半数の票を確保して、「あいつはうるさいから首にしよう」と簡単に追い出せちゃいますね。
まさにそれです。会社の監視役を、社長などの都合で簡単に辞めさせられないように、あえて3分の2以上の賛成が必要という厳しいルールが課されているんです。
動画はこれを、監査役の独立性を守るという法律の意図だと説明します。監査役は、会社の経営に不正がないかを見張る「お目付け役」です。見張られる側が簡単にクビにできては、見張りの意味がなくなってしまいます。なぜそう分類されているのかという背景を知ると、暗記リストにしか見えなかった分類が、権力の暴走を食い止めるためのしくみとして理解できます。
(補足:冒頭の「60%の大株主でも追い出せない」は、単純化された話です。全員が出席した場合、特別決議には3分の2以上(100なら67)が必要なので、60%では足りません。しかし、他の株主の一部が欠席して出席が90になれば、その3分の2は60で、60%でも可決できます。「絶対に」追い出せないという意味ではなく、普通決議より格段に難しい、という理解がよいでしょう。)
定款でカスタマイズ:定足数を下げられるのはどこまで?
ここまでは法律上の原則です。ところが会社によっては、うちはベンチャーだからもっとサクサク決めたい、というニーズもあります。そこで例外が用意されています。普通決議でも特別決議でも、定足数は、会社のルールブックである定款に定めることで、変更できます。
とはいえ、何でも自由に下げられるわけではありません。動画はこれを「絶対防衛線が引かれている」と表現します。次の3つについては、定足数を3分の1を下回る数にはできません。
- 役員の選任の決議
- 監査役以外の役員の解任の決議
- 特別決議
100株の会社なら、どんなに定足数を下げても、最低34は出席しないと、役員を選んだり合併を決めたりするような重要な会議は開けません。100の3分の1は33.3…で、これを下回れないので、整数にすると34になります。(補足:条文では、特別決議は309条2項、役員の選任と解任は341条に、この3分の1の下限が定められています。)
動画の「任意に設定できる」という説明は、これらに当てはまらない普通決議について、3分の1より低くできる、という意味で読むとよいでしょう。
定足数を3分の1まで下げると、18で会社が動く
では、定足数を限界の3分の1(34)まで下げたら、どうなるでしょうか。聞き手が恐ろしい計算に気づきます。会議に34しか出席しなかったとして、普通決議の過半数は、34÷2=17より大きい最小の整数、つまり18です。
つまり100株の会社で、たった18株の賛成があれば、新しい役員を送り込んだり、自分たちの配当を増やしたりできちゃうってことですか。
そうなります。機動力を高めるために定足数を下げるのは、平時はスピーディでいいんですが、いざというときに少ない株数で会社を乗っ取られるリスクと隣り合わせでもあるんです。
うわあ、これは諸刃の剣ですね。
表決数は「上げるだけ」
では、賛成に必要な表決数のほうも、定款で変えられるのでしょうか。動画によると、定款でハードルを上げることはできるが、下げることは絶対にできません。
- 普通決議を、過半数ではなく出席者の80%の賛成が必要にする:OK(ハードルを上げる)
- 普通決議を、30%の賛成で可決できるようにする:NG(ハードルを下げる)
動画は、ハードルを上げるのは自由だが、一部の人間が簡単に決められるようにする抜け道は許さない、というのが法律の意思だと説明しています。会社を守るために、物事を決めにくくする方向だけが認められているわけです。
(補足:条文のうえで確認しやすいのは、特別決議と役員の選任・解任です。これらは「これを上回る割合を定款で定めた場合は、その割合以上」と書かれているため、引き上げだけが認められます。それ以外の普通決議事項については、309条1項が「定款に別段の定めがある場合を除き」出席の過半数としています。引下げを認めない整理が解説書では一般的ですが、条文に明記はありません(資料により説明が異なります)。細かい例外までは、動画では触れられていません。)
まとめ
動画は最後に、リスナーへの問いを投げかけて終わります。定足数を、機動力を重視してぎりぎりの3分の1まで下げておくか。それとも、乗っ取りを防ぐために定足数も表決数も高くして、意思決定が遅くなるリスクをとるか。ルールの数字1つが、会社の運営のしやすさとスピードを大きく左右する、という締めくくりです。ここまでの内容を整理しておきます。
この回のまとめ
- 株主総会には、毎年決まった時期に開く定時と、必要なときに開く臨時がある(動画の「3か月以内」の説明は単純化。実際は基準日から3か月以内)。
- 定足数は会議が始まる最低ライン。原則は議決権の過半数(100なら51)。
- 普通決議は出席の過半数(51が出席なら26)。役員の選任、監査役以外の役員の解任、計算書類、役員報酬、配当など。
- 特別決議は出席の3分の2以上(51が出席なら34)。監査役の解任、減資、定款変更、事業譲渡・合併などの組織再編、解散など。
- 監査役の解任が特別決議なのは、独立性を守るため。
- 定足数は定款で下げられるが、役員の選任、監査役以外の解任、特別決議は3分の1を下回れない(3分の1まで下げると、普通決議は18で可決)。
- 表決数は定款で上げられるが下げられないと動画は説明する。
試験の注目点(動画が強調した引っ掛けと、条文での確認先)
- 「監査役以外の役員の解任」は普通決議、監査役の解任は特別決議(309条2項。動画の整理。例外は特別決議の節の補足のとおり)。
- 定足数の下限3分の1は、特別決議(309条2項)と役員の選任・解任(341条)で問われる。
- 数字の問題では、「全体」ではなく「出席した議決権」を基準に計算する。
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