会社設立の「登記」と「届出」の重要ポイント
経営法務 第20回
「必死に準備してついに自分の会社を設立した。初めての従業員も雇って、順風満帆だと思った翌日に、いきなり行政からペナルティの通知が届く」。動画はこんな怖いシナリオから始まります。このページでは動画の流れにそって、設立登記で何が公開され、なぜ公開されるのか、設立後の届出の期限、労働保険と社会保険の加入条件をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
設立した翌日にペナルティの通知?
「必死に準備してついに自分の会社を設立した。初めての従業員も雇って、順風満帆だと思った翌日に、いきなり行政からペナルティの通知が届く」。動画はこんな怖いシナリオから始まります。原因は、5日間のルールを知らなかっただけ、というのです。
動画のミッションは、数字や用語の丸暗記をやめて、会社設立で最もつまずきやすい設立登記と行政への届出という2つの壁を、制度の論理から理解することです。「なぜそのルールがあるのか」がわかれば、試験本番の緊張の中でも知識が裏切らない、と話は進みます。
登記は「外の人を守る」ためにある
動画は、会社の根本ルールを定めた定款を人間の「DNA」にたとえ、設立登記を世間に向けて公開する「公式プロフィール(名刺)」にたとえます。登記をした時点で、会社は法的に誕生します。
たとえ話:なぜ支店の所在地まで載せるの?
定款では、本店の所在地だけ書けば足りました。それなのに設立登記では、支店の所在場所まで載せます。ウェブサイトを見れば支店の場所なんてすぐわかるのに、時代遅れで面倒では?という疑問に、動画はこう答えます。登記は会社自身をアピールするためではなく、外部の取引先や債権者を守るためのものだからです。
たとえば、ある地方の部品メーカーが、あなたの会社の支店と継続的に取引していたとします。支払いトラブルで差し押さえをしたいとき、登記に本店の住所しか載っていなければ、遠くの本店や管轄の裁判所を探し回るはめになり、取引先が不利になります。ウェブサイトはいつでも書き換えられますが、登記された所在地は確かな法的証明になる、というわけです。
この「取引を守る」という視点があれば、設立登記の項目もすっと理解できる、と動画は続けます。商号、本店と支店の所在場所、目的、資本金の額は、外部の人が「この会社を信用していいか」を判断する材料です。
(補足:登記事項は会社法911条3項に一覧があります。上の図のほか、取締役会設置会社であることなど、機関の種類に応じた事項が加わります。設立の登記は、本店の所在地で、検査役などの調査が終わった日か発起人が定めた日の遅いほうから2週間以内に申請します(同条1項)。そして株式会社は、本店の所在地で設立の登記をすることで成立します(会社法49条)。)
株式のルール:発行可能株式総数と発行済株式の総数
ここから株式の話になり、動画は「試験で引っかけ問題の温床になる」と言います。違いは、投資家の目線で考えるとわかりやすい、というのが動画の説明です。
- 発行可能株式総数:将来発行できる株式の上限の枠。
- 発行済株式の総数:いますでに世に出ている実際の数。
投資家から見れば、あとどれくらい株が発行されて、自分の持ち株の価値が薄まるおそれがあるのかを知る大事な指標になります。
もう一つ、試験対策で外せないのが発行する株式の内容まで登記するケースです。動画の例は、中小企業に圧倒的に多い譲渡制限(株式を譲り渡すには会社の承認が必要)です。なぜ、わざわざ登記で世間にさらすのでしょうか。
あ、これも外の人を守るロジックですよね。譲渡制限があると知らずに株を買って、あとで「株主として認めません」と言われたら大トラブルになりますから。
その通りです。閉鎖的な会社なのか、誰でも株を買える開かれた会社なのかを、最初から名刺に書かせておく。外部の人間を思わぬトラブルから守る。これが登記を貫く哲学なんです。
(補足:発行する株式の内容は会社法911条3項7号の登記事項で、譲渡制限は107条の定めです。動画にない話ですが、発行可能株式総数には上限のルールもあります。公開会社が定款を変更して枠を増やすときは、増やしたあとの発行可能株式総数は発行済株式の総数の4倍までです(113条3項)。上の設例なら、発行済300株の公開会社は、枠を最大1,200株までしか増やせません。公開会社でない会社には、この4倍の制限はありません。)
人と機関:誰が操縦し、誰が見張るのか
次は会社という船を「誰が操縦し、誰が監視しているのか」、つまり機関設計と登記の関係です。その前に動画は、定款で公告方法(決算の公告などを世間に知らせる方法)を決めていなかったらどうなるか、という「試験で好まれる罠」を挙げます。答えは、うっかり決めなくても、自動的に官報に掲載する方法になります。ウェブサイトではなく官報、とメモしておきましょう。
(補足:公告方法は、官報・日刊新聞紙・電子公告のいずれかを定款で定め、定めがなければ官報です(会社法939条1項・4項)。定めがないときは「官報に掲載する方法を公告方法とする」旨が登記されます(911条3項29号)。)
機関の登記事項は、「なぜその情報を載せるのか」で整理できると動画は言います。
代表取締役だけは氏名に加えて住所まで登記します。個人情報の面で重すぎないか、という疑問に対し、動画の答えは「代表取締役は会社の最終的な責任者だから」です。会社が倒産したり不祥事を起こしたりしたとき、債権者や被害者が責任を追及しようにも、代表者の住所がわからなければ泣き寝入りになってしまう。逃げ隠れできないようにするための、現実世界への強い命綱だ、と動画は説明します。一方、ふつうの取締役は氏名だけで足ります。
(補足:動画では触れられていませんが、令和6年10月1日から、株式会社の代表取締役などの住所の一部を登記事項証明書などに表示しない代表取締役等住所非表示措置が始まっています。申出をしても登記義務がなくなるわけではなく、金融機関の融資や不動産取引で必要な書類が増えるなどの影響もありうると、法務省が注意を促しています。また、動画は「社外取締役ならその旨を登記する」と話しますが、社外取締役である旨が登記されるのは、特別取締役による議決の定めがある場合、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の3つです(911条3項21号〜23号)。ふつうの取締役会設置会社では、取締役が社外取締役であっても、その旨は登記事項に入っていません。)
見張り役についても、動画の整理は次のとおりです。取締役会がある会社ならその旨を、監査役がいる会社ならその旨と監査役の氏名を、監査役会がある会社ならその旨と社外監査役である旨を、そして会計の専門家のチェックを受ける会計監査人設置会社なら、その旨と会計監査人の氏名または名称を登記します。
会計参与だけ「書類の置き場所」まで登記する理由
動画の話し手が「いちばんうーんと思った」と言うのが、会計参与です。会計参与設置会社では、その旨と会計参与の氏名または名称に加えて、計算書類などの備置場所まで登記します。人ではなく書類の居場所を登記するのは、どういうことでしょう。
人間じゃなくて書類の居場所を登録するって、どういうことですか?
会計参与は、社内の人ではなく、税理士や公認会計士といった外部の専門家が就任します。社内に常駐しているわけではなく、自分の事務所を持っています。だから株主や債権者が計算書類を見たいとき、本店にあるのか、会計参与の事務所にあるのかがわからなくなってしまうんです。
なるほど。書類はここに確実に保管してありますと登記で宣言させて、外部からのアクセスを確保しているんですね。
(補足:会計参与になれるのは、公認会計士・監査法人または税理士・税理士法人です。その会社や子会社の取締役・監査役・使用人はなれません(会社法333条)。計算書類などは、会計参与が定めた場所に備え置きます(378条1項)。登記事項は911条3項16号です。)
動画の整理:登記の裏にある一貫した考え方
- 動画によれば、登記の項目は「外部の人が不利益を受けないようにするため」という一つの哲学で説明できる。
- 動画は、代表取締役の住所と、会計参与の書類の備置場所について、なぜ登記するのかを掘り下げている。
設立登記のあと:届出のカウントダウン
登記が済んで、ほっと一息、と思いきや、休む間もなく行政への届出のカウントダウンが始まる、と動画は言います。まずは税務署への届出です。動画のクイズは、提出期限が短いのは個人事業主と法人のどちらか。直感では法人のほうが厳しそうですが、動画の答えは「個人事業主のほう」でした。
| 届出 | 動画の説明 | 提出先 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届 | 事業開始から1か月以内 | 税務署 |
| 法人設立届出書 | 設立から2か月以内 | 税務署 |
なぜ法人のほうが余裕があるのか。動画は、法人は定款の作成から登記まで厳密で煩雑な手続きを経て生まれ、その後も銀行口座の開設や社会保険の手続きなど事務作業が押し寄せるので、税務署も現実的な猶予を設けているのだ、と説明します。個人の開業は手続きが比較的シンプルなので1か月、というバランスです。
(補足:ここは動画の説明を、令和8年4月1日現在の法令に照らして直します。法人設立届出書は、設立の日以後2か月以内に、定款の写しなどを添えて税務署長に出します(法人税法148条)。これは動画のとおりです。一方、個人事業の開業届は、動画では「1か月以内」ですが、現行の所得税法229条と国税庁の案内(タックスアンサーNo.2090)では、事業を開始した日の属する年分の確定申告期限までとされています。「1か月以内」は古い教材や解説に多い言い方なので、見かけたときは年版に注意してください。なお、青色申告をするなら、別に青色申告承認申請書が必要で、1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内に出します。)
従業員を雇ったら:労働保険と社会保険
事業が軌道に乗って従業員を雇うと、経営者は新たな社会的責任を負います。ここが、冒頭の「5日間のルール」が登場する、数字のパズルのようなエリアです。動画は、2つの制度を言葉で定義して切り分けます。
- 労働保険:仕事中のケガなどに備える「職場の安全ネット」。
- 社会保険(健康保険・厚生年金):人生そのものを支える「生活の安全ネット」。
目的が違うから、管轄する役所も期限も違う、というイメージです。
労働保険:人数に関係なく、1人でも加入
労働保険は、働く人を守る観点から、個人事業でも法人でも、1人でも従業員を雇えば必ず加入します。動画の説明では、提出物は保険関係成立届、期限は雇用した日から10日以内、提出先は労働基準監督署(労基署)や公共職業安定所です。小さな個人経営のカフェでも、アルバイトを1人雇った瞬間に労災のリスクは生まれるから、10日以内に労基署へダッシュ、というわけです。
(補足:労働保険は、労災保険法3条と雇用保険法5条が、労働者を使用・雇用する事業を適用事業としていて、原則として人数の条件はありません(農林水産業の小規模な個人経営には、暫定任意適用事業という例外があります)。保険関係は事業が開始された日に成立し(徴収法3条)、成立した日から10日以内に届け出ます(4条の2)。ただし提出先は、動画のように「労基署やハローワーク」とひとくくりにはできません。保険関係成立届は労働基準監督署に、雇用保険適用事業所設置届は公共職業安定所(ハローワーク)に出します。設置届の期限は、設置の日の翌日から数えて10日以内です。)
社会保険:法人は社長1人でも、5日以内
社会保険は、個人と法人で条件が大きく分かれます。動画の説明では、次のとおりです。
| 事業主 | 労働保険 | 社会保険 |
|---|---|---|
| 法人(社長1人だけでも) | 1人でも雇えば加入 | 強制加入 |
| 個人事業(従業員3人など4人以下) | 1人でも雇えば加入 | 義務なし |
| 個人事業(従業員5人以上) | 1人でも雇えば加入 | 強制加入(対象外業種あり) |
法人の場合、提出先は年金事務所、提出物は新規適用届、期限は労働保険よりさらにタイトな5日以内です。冒頭の「5日間のルールの罠」はこれで、会社を設立して祝杯を上げているうちに、あっという間に期限が来てしまうのです。個人事業主は、従業員を5人以上雇用したときに初めて強制になります。
同じように人を雇っているのに、従業員4人の個人事業主は社会保険に入らなくていいのに、社長1人の法人は入らなきゃいけない。ちょっと不公平に感じませんか?
そう感じるかもしれませんね。でも動画は、そこに法人の社会的責任の重さがあると説明します。法人は、法律で人としての権利を与えられ、所有と経営が分離し、有限責任という大きな恩恵を受けています。それだけの信用を与えられている以上、働く人に生活の安全ネットを最初からフルで提供する義務がある。いわば、高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)だというんです。
一方で個人事業主は、全財産で無限責任を負う厳しい環境で戦っているから、5人までは猶予がある、と。
この「特権と責任のトレードオフ」を覚えておけば、「個人事業主が従業員を3人雇ったとき、社会保険の新規適用届の提出義務はあるか」という引っかけにも、義務なしと自信を持って答えられる、と動画は結びます。
(補足:「法人の理由づけ」は動画の覚え方で、法律に書かれた理由ではありません。実際の区別は、健康保険法3条3項と厚生年金保険法6条1項に書かれています。常時5人以上の従業員を使用する法定の業種の事業所(1号)と、国・地方公共団体・法人の事業所で常時従業員を使用するもの(2号)が適用事業所です。個人事業は、旅館・飲食店・理容店などのサービス業や農林漁業など、5人以上でも対象外になる業種があります。対象外の事業所も、従業員の2分の1以上の同意を得て厚生労働大臣の認可を受ければ、適用事業所になれます(厚年6条3項・4項)。日本年金機構の案内では、法人は事業主のみの場合を含め、加入が法律で義務づけられていて、届出は事実発生から5日以内です。)
まとめ
この回のまとめ
- 設立登記は、取引先・債権者を守るために公開する公式プロフィール。支店の所在場所も、発行する株式の内容(譲渡制限など)も、「外の人を守る」ために載せる。
- 発行可能株式総数は将来の上限の枠、発行済株式の総数は世に出ている実数。公告方法を定めなければ官報になる。
- 代表取締役は氏名と住所、取締役は氏名のみ。会計参与設置会社は、計算書類などの備置場所まで登記する。
- 届出の期限は、動画では、社会保険(法人)5日、労働保険10日、法人設立届出書2か月。個人事業の開業届は、動画の「1か月」ではなく現行は確定申告期限まで。
- 労働保険は人数に関係なく加入。社会保険は、法人なら社長1人でも強制、個人事業は常時5人以上(業種により対象外あり)。
動画の最後は、こんな問いかけで終わります。事業が急成長して、定款の目的が大きく変わったり、支店を増やしたり、機関設計を見直したりする。静かで退屈に見える設立登記の枠組みは、暴れ馬のように成長する企業の進化と、どう追いついていくのだろうか。次にテキストを開くときは、文字の羅列ではなく、企業が成長して社会と関わっていく物語として読んでみてください、という呼びかけです。
動画で聞く
続けて読む
- 第15回 遺留分と事業承継の特例まとめ経営法務・民法 016
- 第16回 親族の権利と調整のルール経営法務・民法 017
- 第17回 会社設立の基本フロー経営法務・会社法 001
- 第18回 会社の憲法定款と変態設立事項経営法務・会社法 002
- 第19回 会社設立の「出資」と「責任」の基本経営法務・会社法 003
- 第21回 株式会社の機関設計(詳細)経営法務・会社法 005
- 第22回 徹底比較!会社の意思決定機関経営法務・会社法 006
- 第23回 株主総会の種類と決議ルール経営法務・会社法 007
- 第24回 株主の権利と少数株主権の重要ポイント経営法務・会社法 008
- 第25回 株式会社の「役員等」経営法務・会社法 009
- 経営法務のWebテキスト一覧同じ科目の53本を一覧・検索
- 中小企業診断士 1次の講座トップ科目別プレイリスト・人気の講義・ファイナルペーパー

