徹底比較!会社の意思決定機関
経営法務 第22回
「もし今日、あなたの会社の株を大量に買い集めた見知らぬ人が、明日いきなり会議を開け、今の経営陣は全員クビだと要求してきたら」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、公開会社・非公開会社の株主総会、取締役会、監査役会の招集のルールを比べ、議決権と議事録の扱いまでまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
会社は、なぜ簡単には乗っ取られないのか
動画は、こんな想像から始まります。見知らぬ誰かが会社の株を大量に買い集め、明日いきなり「会議を開け、今の経営陣は全員クビだ」と要求してきたら、どうなるか。現実には、そう簡単に乗っ取ることはできません。会社には、暴走を防いで正しい意思決定と監視をするための機関が、法律でしっかり決められているからです。
動画は機関を、車の「ハンドル」「ブレーキ」「カーナビ」にたとえます。それぞれが正しい手順で動かないと、車は事故を起こしてしまう、という話です。この回で見るのは、次の4つの場面の開き方のルールです。
- 公開会社の株主総会(動画のたとえでは「巨大な豪華客船」)
- 取締役会を置く非公開会社の株主総会
- 取締役会を置かない非公開会社の株主総会(動画では「スピードボート」)
- 取締役会と監査役会
動画のねらいは、数字の丸暗記ではなく「なぜそのルールなのか」を押さえることです。会社法の条文をあわせて確認しながら、見ていきましょう。
公開会社の株主総会:誰が、どう招集する?
公開会社の株主総会は、原則として取締役が招集します(会社法296条3項)。株主の側からは、議決権の3%以上を6か月前から引き続き持っていれば、招集を求められます(297条1項)。
では、なぜ「6か月前から引き続き」という縛りがあるのでしょうか。動画は、この縛りがなければ、悪意のある人が月曜日に株を買い占め、火曜日に強引に総会を開いて経営陣をすげ替え、水曜日に売り払って逃げる、という「ヒットアンドラン」ができてしまうからだ、と説明します。半年間じっと持ち続けることが、長期的に会社にコミットしている証明になる、というわけです。
(補足:動画では「株主が招集できる」と話しますが、条文は少し違います。株主ができるのは、まず取締役に対して招集を請求することです。請求しても手続きが進まないときに、裁判所の許可を得て株主が自分で招集できます(297条1項・4項)。さらに、3%も6か月も、公開会社では定款でより小さい割合・短い期間にすることができます(297条1項かっこ書)。)
招集の通知は、株主総会の日の2週間前までに出します(299条1項)。動画は、書面か電子メールなどの電磁的方法で通知し、この期間は短縮できないと説明します。通知の中身は、会議の日時・場所や議題などです(298条)。
2週間前って厳しいですね。いまはメール1本で、明日集まれ、とかできそうなのに。
公開会社には、ふだんの経営に関わっていない、見ず知らずの株主が全国にいます。議題を読み込んで賛否を考えて、予定を調整するには、最低でも2週間は必要だ、というのが動画の説明です。
(補足:公開会社は、取締役会を置かなければならない会社でもあります(327条1項1号)。また、書面ではなく電磁的方法で通知するには、株主の承諾が必要です(299条3項)。)
議決権は、原則として1株につき1個です。定款で1単元の株式数を定めれば、1単元につき1個になります(308条1項、188条1項)。株主総会の議事録は、本店に10年間、その写しを支店に5年間備え置きます(318条2項・3項)。動画は、議事録を「後から、誰が舵を切れと言ったのかで揉めないための重要な証拠」だと説明します。(補足:議事録が電磁的記録で、支店から閲覧請求に応じられる措置をとっていれば、支店の備え置きは不要です。318条3項ただし書。)
(補足:「公開会社」は、動画では「誰でも株を買える会社」というイメージで語られます。条文上は、発行する株式の全部または一部に譲渡制限をつけていない会社のことです(2条5号)。一部の株式にでも譲渡制限がなければ、公開会社になります。)
非公開会社(取締役会あり)の株主総会
次は、世の中の会社の多くを占める非公開会社です。動画は「公開会社が安全第一の豪華客船なら、非公開会社は小回りのきくスピードボート」とたとえ、ルールが緩むと予想します。ただし非公開会社の中でも、取締役会を置くかどうかでルールが分かれます。まず、取締役会を置いている場合です。
株主が招集を求める要件は、議決権の3%以上のままですが、6か月の保有期間が不要になります(297条2項)。動画は、非公開会社は株式の自由な売買を制限しているので、見知らぬ人が突然買い占める心配がなく、わざわざ半年のハードルを設ける必要がない、と説明します。
招集の通知は1週間前までです。動画は、書面または電磁的方法で出し、期間は短縮できないと説明します。ただし、書面投票や電子投票(総会に出席しない株主が書面や電磁的方法で議決権を行使できる仕組み)を採用する会社は、システム上の準備があるため、2週間前までになります(299条1項、298条1項3号・4号)。議決権の数え方と議事録の備え置きは、公開会社と同じです。
(補足:非公開会社とは、発行するすべての株式に譲渡制限(譲渡による取得に会社の承認が必要という定め)がある会社のことです(2条5号・17号)。取締役会を置く会社では、通知は書面でしなければなりません(299条2項2号)。電磁的方法にするには株主の承諾が必要です(299条3項)。また、招集の日時や議題の決定は、取締役会の決議で行います(298条4項)。)
取締役会を置かない非公開会社:一気に自由に
家族数人でやっている町工場のような会社なら、取締役会すら置いていないことがあります。ここで、自由度が一気に広がります。通知は同じく1週間前までですが、書面や電磁的方法に加えて口頭でもかまいません。しかも、定款で定めれば、この期間を短縮することもできます(299条1項かっこ書、2項)。
口頭ってことは、オフィスの向こうから「おーい、明日総会をやるぞ」と叫ぶだけでいいんですか?後で聞いてないと揉めませんか?
実務上のリスクは確かにあります。ただ法律は、関係性の近い家族経営のような会社に、重い形式を押しつけると、かえってスピードを殺すと考えた、というのが動画の説明です。
さらに動画は、すべての会社に共通する例外として、株主全員の同意があれば招集の手続き自体を省略して、すぐ開催できると説明します(300条)。(補足:ただし、書面投票・電子投票を定めた会社は、この省略ができません。300条ただし書。同じ会社は、通知も書面でする必要があり、期間も2週間前までです。299条1項・2項1号。)
| 株主総会 | 通知の期間 | 通知の方法 | 短縮 |
|---|---|---|---|
| 公開会社 | 2週間前まで | 書面(承諾があれば電磁的方法) | できない |
| 非公開・取締役会あり | 1週間前まで(書面投票等ありは2週間) | 書面(承諾があれば電磁的方法) | できない |
| 非公開・取締役会なし | 1週間前まで(書面投票等ありは2週間) | 口頭でもよい(書面投票等ありは書面) | 定款で可(書面投票等なしの場合) |
非公開会社には、もう1つ面白いルールがあります。議決権を、株主ごとに違う扱いにできるのです。定款で定めれば、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権について、株主ごとに異なる取扱いができます(109条2項)。動画の例は、こうです。私が100万円、あなたが1,000万円を出して会社を作ったとしても、実際の業務は全部私がやっているから、私の1株はあなたの10倍の議決権にする、というカスタマイズも定款しだいで可能になります。
(補足:数字で見てみましょう。1株1万円で、私が100株、あなたが1,000株を持つとします。ふつうの1株1議決権なら、議決権は私が100個、あなたが1,000個です。私の株を「1株で10個」と定款で定めると、私が1,000個、あなたが1,000個で、同じ数になります。ただし、これは公開会社ではできません(109条2項は公開会社でない会社に限っています)。)
取締役会:現場のスピードと、強力なブレーキ
ここからは、現場で舵を握る取締役会と、それを監視する監査役です。動画の取締役会は、とにかくスピード重視です。招集は各取締役が自分でできます(366条1項)。通知は1週間前までで、書面・電磁的方法・口頭のいずれでもよいと説明されます。動画は、定款の規定か取締役全員の合意があれば期間の短縮もできる、と説明します(条文の整理は補足で)。緊急事態に「今日の午後、集まれ」と動けるようにするためです。
(補足:366条1項は、定款や取締役会で招集する取締役を決めたときは、その取締役が招集する、と定めています。決まっている場合、ほかの取締役は招集権者に請求し、請求から5日以内に通知が出なければ自分で招集できます(366条2項・3項)。通知の方式は、条文に定めがありません。期間の短縮は定款で定めることでできます(368条1項)。全員の同意で可能なのは、短縮ではなく招集手続きの省略です(同条2項)。監査役を置く会社では、通知の相手に監査役も入り、同意も取締役と監査役の全員が必要です。)
では、特定の取締役が暴走して、会社の目的外のことや法令違反すれすれのことをやり、会議も開かないと逃げ回ったら、どうなるでしょうか。動画は「現場に大きな権限を与えている以上、強力なブレーキが必要」として、2つのブレーキを挙げます。
1つめは株主です。動画によれば、取締役が目的外の行為や法令・定款違反をしている、またはそのおそれがあるとき、取締役会の招集を請求できます。2つめは監査役で、取締役の不正行為や違反のおそれがあると認めたときに、取締役会の招集を請求でき、それでも招集されなければ自分で招集できます(383条2項・3項)。動画はこれを、ハンドルを奪い取って強制的にブレーキを踏ませるようなものだと表現します。
(補足:1つめの株主の請求には、条文上の制限があります。この請求ができるのは、取締役会設置会社の株主のうち、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く会社の株主です(367条1項)。つまり、監査役を置く会社では、株主ではなく監査役がブレーキの役を担います。なお、監査役は取締役の違反を認めたら、取締役会に報告する義務も負っています(382条)。)
議決の仕方も、株主総会とは違います。株主総会は株数に応じて議決権の数が決まりますが、動画によれば、取締役会も監査役会も1人1議決権です。理由は、取締役や監査役が会社のオーナーとしてではなく、経営や監査のプロとして個人の能力で選ばれているので、お金の力は持ち込むべきではないからだ、と説明されます。
(補足:条文には「1人1議決権」という書き方はありません。取締役会の決議は、議決に加われる取締役の過半数が出席し、その過半数で行います(369条1項)。特別の利害関係がある取締役は、議決に加われません(同条2項)。監査役会の決議は、出席者ではなく監査役の過半数で行います(393条1項)。いずれも持ち株数ではなく、人数で数える形です。また、動画の「プロとして選ばれる」という説明の背景には、取締役・監査役は株主総会の決議で選任される、という仕組みがあります(329条1項)。)
監査役会と議事録の備え置き
最後は監査役会です。動画の説明は、取締役会とそっくりです。各監査役が招集でき、1週間前までに通知します(391条、392条1項)。動画は、監査役全員の合意があれば短縮できると説明します。条文では、期間の短縮は定款で定め(392条1項)、全員の同意があれば招集の手続きを省略して開けます(同条2項)。議決権は1人1議決権だと説明されます(先ほどの補足のとおり、条文は過半数の書き方です)。
| 取締役会・監査役会 | 招集と期間 | 決議と議事録 |
|---|---|---|
| 取締役会 | 各取締役が招集(定めがあれば招集権者)。1週間前まで、定款で短縮可・全員同意で省略可 | 出席取締役の過半数。議事録は本店に10年 |
| 監査役会 | 各監査役が招集。1週間前まで、定款で短縮可・全員同意で省略可 | 監査役の過半数。議事録は本店に10年 |
議事録は、取締役会も監査役会も本店に10年間備え置きます(371条1項、394条1項)。動画は、支店に備え置く必要はないと説明し、これは条文とも合っています。株主総会の議事録だけ、写しを支店に5年という追加の定めがあります。
全体を貫く軸:リスクとアジリティのグラデーション
ここまで、1週間とか2週間とか、短縮できるとかできないとか、頭がこんがらがってきたかもしれません。動画は最後に、ぜんぶを整理する1本の軸を示します。それが「公平性とスピードの天秤」です。招集手続きのハードルを、高い順に並べるとこうなる、と動画は整理します。
- いちばん高い:公開会社の株主総会。大勢の株主の権利を守るため、事前の準備が重視される。
- 1段下がる:取締役会のある非公開会社の株主総会。
- さらに下がる:取締役会のない非公開会社の株主総会。口頭の通知もできる。
- いちばん低い:取締役会と監査役会。プロの集まりで、その日のうちに機動的に動ける。
動画は、関わる人数が多くて関係性が薄いほど、乗っ取りや不公平を防ぐためにルールが厳しくなり、身内で現場の機動力が求められるほど、法律はスピードを優先して柔軟になる、とまとめます。この軸を持っていれば、試験本番で細かい数字をど忘れしても、論理的に答えを導けるはず、という励ましです。
試験の注目点(条文で確認)
- 公開会社の株主総会の招集通知は2週間前まで(299条1項)。非公開会社は1週間前までだが、書面投票・電子投票を定めたときは2週間(同項)。
- 株主の招集請求は議決権の3%以上。公開会社だけ6か月前から引き続き(297条1項・2項)。請求しても進まないときは、裁判所の許可を得て自分で招集(同条4項)。
- 取締役会を置かない非公開会社だけが、定款で通知期間を短縮でき、書面投票等がなければ口頭でもよい(299条1項・2項)。
- 株主全員の同意で招集の手続きを省略できる。ただし書面投票・電子投票を定めた会社は除く(300条)。
- 取締役会・監査役会の通知は1週間前までで、定款で短縮でき、全員の同意があれば手続きを省略できる(368条、392条)。
- 議事録は、株主総会が本店に10年+支店に写しを5年、取締役会・監査役会は本店に10年(318条、371条、394条)。
まとめ
この回のまとめ
- 会社の機関のルールは、関わる人が多く関係が薄いほど厳しく、身内で機動力が要るほど柔軟になる。
- 公開会社の総会:招集通知は2週間前まで。株主の招集請求は、3%以上+6か月前から引き続き保有。
- 非公開会社の総会:6か月の縛りはなし。通知は1週間前まで(書面投票等ありは2週間)。取締役会なしなら口頭も可、定款で短縮も可。
- 取締役会・監査役会:各自が招集でき、通知は1週間前まで。定款で短縮可、全員同意で省略可。監査役は、取締役会の招集を請求し、自ら招集もできる。
- 議事録:総会は本店10年+支店に写し5年。取締役会・監査役会は本店10年だけ。
動画の最後の問いかけは、こうでした。もし明日、自分の会社を立ち上げるなら、安全第一の巨大な客船のルールを選ぶか、自分の権限を最大化する定款を組んだ超高速のスピードボートを選ぶか。どちらを選ぶにしても、ベースになるのは今日の会社法のルールです。自分のビジネスにどちらが必要か、想像しながらもう一度動画を聞いてみてください。
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