株式会社の「役員等」
経営法務 第25回
「あなたがある企業に超高級取りの経営トップとしてヘッドハンティングされたとします」。ところが就任直後、株主たちから明日から来なくていいと、全く理由もなく首を宣告されてしまったら。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、取締役・監査役・会計参与・会計監査人の立ち位置と、任期・解任のルール、任期の数え方をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
理由もなく「明日から来なくていい」と言われたら
動画は、こんな想像から始まります。あなたは高待遇の経営トップとしてヘッドハンティングされました。大きな権限と報酬を約束されて乗り込んだのに、就任した直後、株主たちから「君、明日から来なくていいよ」と、理由もなく首を宣告されてしまった。さて、これは許されるのでしょうか。
動画の答えは、「法律上は完全に合法」です。ただし会社は、残りの契約期間分の莫大な報酬を全額支払わなければならない、と説明されます。ここに、会社法の根底にある所有と経営の分離(お金を出す株主と、経営を担うプロが別々であること)が表れている、というわけです。
(補足:ここは動画が少し単純化しています。会社法では、役員はいつでも株主総会の決議で解任できます(339条1項)。正当な理由がなければ、解任された人は「解任によって生じた損害」の賠償を請求できます(同条2項)。報酬を必ず全額もらえるという規定ではなく、この定めは監査役などにも共通です。)
動画はこのあと、条文を丸暗記せず、「このルールは誰の暴走を止めるためのものか」「誰の権利を守るためのものか」という視点で見ようと呼びかけます。法律は、過去のトラブルや最悪の事態を防ぐ防波堤だから、という理由です。その視点で、4つの機関の任期と解任を順に見ていきます。
役員等はだれ? 雇われているのではなく「任されている」
株式会社の役員は、大きく分けて取締役・監査役・会計参与の3つです。これに加えて、役員ではないけれど重要な会計監査人という機関があります。動画はこの4つを順番に見ていきます。
(補足:会社法では「役員」は取締役・会計参与・監査役を指し(329条1項)、「役員等」はこれに執行役と会計監査人を加えた言い方です(423条1項)。題名の「役員等」は、会計監査人を含む広い言い方にあたります。)
彼らの立ち位置を理解する最大のキーワードが、会社と雇用契約ではなく委任契約で結ばれているという点です。ふつうの会社員は、会社に雇われ、上司の指示に従って労働力を提供します。これに対して役員は、株主というオーナーから「私たちの代わりに会社をうまく経営して利益を出してください」と、経営を丸ごと任された立場です。指示を待つのではなく、大きな裁量と責任を持って自分で判断します。
(補足:株式会社と役員・会計監査人の関係が委任に関する規定に従うことは、会社法330条に定められています。)
だからこそ、役員を選ぶのは社長の鶴の一声ではありません。オーナーの集まりである株主総会の普通決議で選任されます。誰に自分のお財布、つまり会社を預けるかは、お金を出している株主が多数で決める。これが大原則です。
(補足:役員の選任・解任の普通決議は、定足数を定款で議決権の3分の1まで下げられます(341条)。)
取締役:権限が大きいから任期は短め
取締役は、会社の方針を決めて実際にビジネスを動かす、最も権限の大きな役員です。動画は「船で言えばキャプテン」とたとえます。権限が大きいからこそ、株主は「この人にずっと任せて大丈夫か」を定期的にチェックしたい。そこで任期は原則2年です。
任期は短くできる
この2年は、短くすることもできます。動画の例は、監査等委員会設置会社を含む「委員会設置会社」で、任期が1年になるケースです。毎年、株主の信任投票を受けるようなものです。
(補足:「委員会設置会社」は古い呼び方で、いまは指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社に分かれています。指名委員会等設置会社の取締役は1年。監査等委員会設置会社では、監査等委員でない取締役が1年、監査等委員である取締役が2年で短縮もできません(332条)。動画は一括りにしています。)
非公開会社は最長10年まで伸ばせる
ここで疑問が出ます。世の中の大多数は家族経営の会社です。株主も親戚だけなのに、2年ごとに「お父さんを取締役に選任します、異議なし」という儀式は無駄ではないか。そこで法律は特例を設けています。非公開会社は、定款に定めれば任期を最長10年まで伸ばせます。手続きの手間を省く、魔法のパスのようなものです。
でも、10年のあいだにお父さん社長がとんでもない放漫経営を始めたら、どうするんですか?
株主は黙って見ている必要はありません。取締役の解任は、選任のときと同じ株主総会の普通決議でできます。過半数の賛成があれば、任期の途中でも交代させられます。
動画は、入り口で不適格者を弾き(欠格事由)、問題があれば普通決議で外せるから、10年でも釣り合いが取れていると整理します。
(補足:10年に伸ばせるのは、非公開会社のうち、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除いた会社です(332条2項)。動画の「非公開会社なら10年」は、この除外に触れていません。取締役の解任は普通決議が原則ですが、累積投票で選任された取締役と監査等委員である取締役の解任は特別決議です(309条2項7号)。)
なれない人と、報酬のお手盛り防止
動画は欠格事由として、法人であること、そして何らかの罪を犯して刑の執行を終えていない人を挙げます。
(補足:条文では、法人のほか、会社法などの一定の法律違反で刑に処せられ、執行を終え(または執行を受けることがなくなって)2年を経過しない人、他の法令違反で拘禁刑以上の刑に処せられ執行を終えるまでの人(執行猶予中を除く)などです(331条1項)。動画はこれを大きくまとめています。)
もう1つ大事なのが報酬です。権限が大きいと、自分の給料を自分で好きに決める「お手盛り」が起きかねません。取締役の報酬は、定款または株主総会の決議で決まります(361条1項)。動画によると実務では、総会で報酬総額の枠だけを決め、配分は取締役に一任するケースが多いそうです。
それでは社長が自分の分を多く取らないか。動画は、個人別の報酬の内容が総会で決まっていない場合に、取締役が決定方針を定めてその概要を開示するルールがあると説明します。「この基準で決めています」と公表させる、透明性のしくみです。
(補足:この決定方針を取締役会で定める義務があるのは、公開会社かつ大会社の監査役会設置会社で有価証券報告書の提出義務がある会社と、監査等委員会設置会社です(361条7項。個人別の報酬の内容が定款または総会の決議で定まっているときは不要)。すべての株式会社に当てはまる話ではありません。)
監査役:お目付け役に4年の盾を与える
権力は必ず暴走のリスクをはらみます。そこで登場するのが監査役です。取締役の不正や、会社の財産の不当な減少などを監視する、業務と会計の監査を行うお目付け役です。
動画で出る疑問は、「取締役の任期は原則2年で短縮もできるのに、監査役の任期は4年で、しかも短縮できないのはなぜか」です。動画は、悪代官になったつもりで考えようと促します。任期を自由に短縮できれば、うるさい監査役は外され、イエスマンが後任に座るでしょう。見張られる側の意向で見張る側の任期をいじれたら、お目付け役は機能しません。だから4年という十分な期間を与え、短縮不可として、独立性と安定性を守っているのです。
監査役も、非公開会社なら最長10年まで伸ばせるのですか?
はい。取締役と同じ特例があります。中小企業の事務負担への配慮です。
解任のハードルも1段高い
独立性を守る盾は任期だけではありません。監査役の解任は、取締役より1段高い株主総会の特別決議が必要です。取締役たちが結託して追い出そうとしても、株主の圧倒的な支持がなければ解任できません。
では、理由がなくても解任できるのか。動画の答えは「理由がなくても解任は可能」です。会社は最終的に株主のものなので、圧倒的多数の意思は尊重されます。ただし正当な理由なく任期の途中で解任された場合は、残りの任期の報酬などを損害賠償として請求できるとされ、これが強い抑止力になっています。(先ほどの補足のとおり、この賠償の定めは監査役に限りません。)
欠格事由と報酬の決め方(定款または株主総会の決議)は、取締役と同じです。
会計参与:独立しているのに一緒に書類を作る
3つ目の役員が会計参与です。他の役員とは独立した立場を保ちつつ、取締役や執行役と一緒に計算書類を作る。「独立しているのに一緒に作業する」というのは、矛盾しているように聞こえます。
動画の説明はこうです。会計参与は、主に税理士や公認会計士など外部のプロが就く役職で、取締役だけでは正確な決算書を作りにくい中小企業で、一緒に書類を作ってくれます。会社に依存していないので独立しているが、作業は共同。動画は、外部から来た共同プロジェクトマネージャーにたとえます。
(補足:資格は公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人で(333条1項)、共同作成は374条1項に定められています。)
任期も、この立ち位置から予想がつきます。一緒に書類を作るパートナーの任期が取締役とずれたら、決算の途中で大混乱です。だから会計参与の任期は取締役と同じになります。動画では、2年で短縮可、委員会設置会社なら1年、非公開会社なら最長10年と整理され、解任と報酬も取締役の基本ルールと歩調を合わせています。
(補足:会計参与の任期は、取締役の任期の規定(332条。4項・5項を除く)を準用して定められています(334条)。取締役と同様に、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社では10年への伸長はできません。)
会計監査人:役員ではない外部のチェック役
最後は会計監査人です。動画が強く意識してほしいと言うのは、会計監査人は役員ではないということ。計算書類の監査を行う機関で、役員と同じく株主総会の普通決議で選任されます。「どこどこ監査法人が監査しました」の、あれです。できあがった書類を外部から厳しくチェックします。
(補足:資格は公認会計士または監査法人です(337条1項)。選任の議案の内容は、監査役(会)などが決めます(344条)。)
任期は1年、短縮も伸長もできない
この任期のルールは、4つの中でいちばん強烈です。任期は1年で、短縮も伸長もできません。なぜ、同じく数字を監視する監査役が4年なのに、会計監査人はたった1年なのか。動画の答えは、内部のお目付け役と外部のプロという立場の違いです。会計監査人は、外部の客観的な視点で数字の正確性を担保する必要があります。任期を何年も延長できると、会社側との癒着のリスクが生まれます。
そこで任期を毎年1年で区切り、独立性や監査の厳しさを毎年ゼロベースで評価し直せるようにしている、というのが動画の説明です。
(補足:ここは誤解しやすい点です。任期は1年ですが、再任されないわけではありません。会社法では、定時株主総会で別段の決議がされなければ、その総会で再任されたものとみなされます(338条2項)。「毎年の契約更新」というたとえは、あくまでイメージで、実際には何も決議しなければ続きます。)
脅されても大丈夫な、二重の防衛線
立場がシビアだと、取締役から「首にするぞ」「報酬を下げるぞ」と脅されないでしょうか。動画によると、幾重にも防衛線が張られています。
- 解任:原則は株主総会の普通決議です。ただし、著しく不適切な行為をした場合などは、取締役ではなく、監査役側(監査役、監査役会、監査委員会、監査等委員会)の全員の同意で解任できるルートがあります。
- 報酬:会計監査人の報酬は取締役が決めますが、勝手には決められません。必ず監査役などの同意を得て決めます。
厳しい監査をしたから報酬を下げる、という取締役の報復を、監査役が「その金額には同意しません」とブロックできる。監視する側同士が連携して、独立性を守り合っているのです。
(補足:報酬への同意は399条、監査役側の全員の同意による解任は340条(職務上の義務違反、非行、心身の故障などの場合)に定められています。)
任期の数え方:カレンダー通りではない
試験対策として、もう1段深く理解したいのが任期の正確な数え方です。役員等の任期は、カレンダー通りの日付では終わりません。正確には、選任後、あらかじめ決められた年数以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされます。つまり「2年たった後に来る、その定時株主総会が終わるまで」が任期です。
動画の設例で見てみましょう。事業年度が4月1日から翌年3月31日までの会社で、2024年4月1日に任期2年の取締役が選任されたとします。カレンダー通りなら、2026年3月31日で丸2年です。ところがこの会社の定時株主総会が6月30日にある場合、任期は2026年6月30日まで続きます。3月31日で「丸2年たったので今日から社長ではありません」となると、6月の総会で次の人が選ばれるまでの約3か月、キャプテン不在の幽霊船になってしまうからです。
(補足:実際の選任は株主総会で行われ、その日から数えます。たとえば3月決算の会社で2024年6月27日の定時総会で選任された任期2年の取締役なら、その日から2年以内に終わる事業年度のうち最後は2026年3月期なので、任期は2026年6月の定時総会の終結までです。また、任期が切れても法令・定款の員数を欠くときは、後任の就任まで引き続き役員の権利義務を負います(346条1項)。)
まとめ:迷ったら「誰を守るルールか」を思い出す
動画は最後に、全体を振り返ります。取締役は、結果を出すことを求められるので任期2年で短縮もでき、非公開会社なら10年まで伸ばせます。監査役は、取締役に強く出るために4年で短縮できず、解任は特別決議です。会計参与は、一緒に書類を作るので取締役と同じ。会計監査人は、慣れ合いを防ぐために1年です。
(補足:この動画の整理を、条文に照らして一覧にしました。会社の形による例外は、本文の補足を参照してください。)
| 任期 | 解任の決議 | |
|---|---|---|
| 取締役 | 原則2年(短縮可)。非公開会社は最長10年(委員会型の会社を除く) | 原則は普通決議(累積投票で選ばれた取締役・監査等委員は特別決議) |
| 監査役 | 4年(短縮不可)、非公開会社は最長10年 | 特別決議 |
| 会計参与 | 取締役と同じ | 普通決議 |
| 会計監査人 | 1年(再任は可) | 普通決議(別に全員同意のルート) |
試験で迷ったときの考え方
- 動画は、数字や決議のルールで迷ったら、それぞれの機関が誰を守るために、どんな立場で働いているかという根本の役割を思い出してほしい、と呼びかけます。
- 動画は、監査役と会計監査人のルールを、見張られる側の圧力に負けないための設計と整理します。
- ただし、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社などの例外は、動画では一括りです。条文の例外を確認してください。
動画は最後に問いを残します。非公開会社は役員の任期を最長10年まで伸ばせる。自分が経営者なら、どう活用するか。手間やコストは省けても、長期政権の弊害というガバナンス上のリスクもあります。手軽さを取るか、短い任期で緊張感を保つか。正解は1つではありません。
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