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指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社の比較

経営法務 第28回

経営法務・会社法 01213分29秒2026年4月2日公開

「出世競争を勝ち抜いて巨大企業のトップに登り詰めた。それなのに、法律上は代表取締役と名乗れない」。動画はこんな不思議な問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、指名委員会等設置会社の3つの委員会と執行役、執行役員との違い、監査等委員会設置会社の特徴と任期の違いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

トップなのに「代表取締役」と名乗れない会社

「ものすごい出世競争を勝ち抜いて、巨大企業のトップに登り詰めた。会社のすべてを動かせる絶大な権限もある。それなのに、法律上は代表取締役と名乗ることが許されない」。動画は、こんな不思議な問いかけから始まります。

これは言葉遊びではありません。1人の人間に権力が集中しすぎるのは企業にとって最大のリスクですから、「誰に権限を与え、誰がそれを監視するか」を法律でデザインしているのです。動画はこれを、組織の腐敗を防ぐ究極のコーポレートガバナンスの形と呼びます。この回は、そのしくみを2つの機関設計で比べます。

  • 指名委員会等設置会社:指名・監査・報酬の3つの委員会を置き、業務は執行役が行う。
  • 監査等委員会設置会社:導入しやすく、監査機能を強めた形。監査する取締役に議決権がある。

どちらも名前が長くて呪文のようですが、動画は「丸暗記しようとするから苦しい。ルールは人間の欲望や弱さを計算し尽くした防波堤だ」と話します。なぜそのルールが必要なのかという背景から入れば、試験の引っかけも見抜きやすくなる、というわけです。

3つの委員会は、経営者から権限を取り上げる

動画は、会社を1台の巨大な自動運転バスにたとえます。3つの委員会は、バスの運行システムのなかで、いちばん経営者の個人的な思惑が入り込みやすい機能を、トップから切り離すためのものです。暴走の危険が高い機能を、トップから強制的に奪っておくわけですね。

指名委員会誰を役員にするか取締役の選任・解任の議案を決める監査委員会誰にチェックさせるか職務執行を監査会計監査人の選任・解任・不再任の議案も決める報酬委員会いくら払うか取締役・執行役等の個人別の報酬の内容を決める3つとも設置する会社を指名委員会等設置会社という
経営者の個人的な思惑が入りやすい3つの機能を、委員会へ切り離します。

指名委員会は、株主総会に出す取締役の選任・解任の議案の内容を決めます。会計参与を設置している会社では、会計参与の選任・解任の議案も対象です。バスに「誰を乗せて中枢メンバーにするか、誰を降ろすか」という人事の権限です。トップが後継者を自分で選べると、自分に都合のいいイエスマンばかりを集める危険がある。だから独立した機関が議案を決めます。

監査委員会は、役員の職務執行の監査と、監査報告の作成を行います。計算書類の監査も行います。そして動画が「いちばん注目してほしい」とするのが、株主総会に出す会計監査人の選任・解任・不再任の議案の内容の決定です。

ちょっと待ってください。外部のプロである会計監査人を誰にするか、来年は契約しないか、そこまで監査委員会が決めるんですか。

そうなんです。もし経営トップが不正をしていて、外部の会計監査人にバレそうになったとき、トップの権限で監査人を首にできたら困りますよね。

なるほど。不正を隠させないために、監査人を選ぶ権限もトップから取り上げているんですね。

報酬委員会は、役員の個人別の報酬の内容を決めます。自分で自分の給料を決められないようにして、業績が悪いのに自分だけ多額のボーナスをもらう、といったことを防ぎます。

まとめると、誰を役員にするか(指名)、誰にチェックさせるか(監査)、いくら払うか(報酬)の3つの権限を委員会に分けています。この3つの委員会をすべて設置する会社が指名委員会等設置会社です。

補足:委員会の中身(動画にない確認)

  • 各委員会は取締役3人以上で構成し、過半数は社外取締役とされています(400条)。
  • 動画は「役員の職務執行の監査」と言いますが、監査委員会の監査の対象は、取締役と執行役(会計参与設置会社では会計参与も)の職務執行です。
  • 報酬委員会が決めるのは、取締役と執行役(会計参与設置会社では会計参与も)の個人別の報酬の内容です(404条3項)。
  • 指名委員会等設置会社は、監査役を置けず、会計監査人を置くことが必要です(327条)。

実際に動くのは執行役:取締役会と役割を分ける

重要な権限を委員会に渡したら、「では誰がバスのアクセルを踏むのか」という話になります。ビジネスは早く決断して動かないと負けてしまいます。そこで置かれるのが執行役です。指名委員会等設置会社には、取締役会と執行役が置かれます。

取締役会意思決定と執行役の監督3つの委員会指名・監査・報酬(取締役が委員)選任執行役(1人以上)業務の執行選定代表執行役会社を代表する代表取締役は置かれない名乗れない理由はここにある
考える人(取締役会)と動く人(執行役)が分かれます。
  • 業務の執行:原則として執行役が行う。
  • 取締役の仕事:業務の意思決定と、執行役の監督を行う。

考える人と実際に動く人が分かれているわけです。ただし動画は「重要なんですが」と断って、取締役は執行役を兼務することもできると言います。監視する人が自分でハンドルを握ることも一応許される。実務上の柔軟性です。

補足:兼務の単純化(動画の言い方を確認)

  • 取締役が執行役を兼ねてよい、という点は動画のとおりです。ただし監査委員会の委員は、その会社や子会社の執行役や業務執行取締役などを兼ねることができないとされています(400条)。監査する人が自分を監査する形になるのを避けるためです。
  • 動画は「取締役が執行役を選任する」と言いますが、条文の主語は取締役会です。執行役の選任も、執行役の中から代表執行役を選ぶのも、取締役会が行います(402条・420条)。
  • 取締役会は、重要な業務執行の決定を、大幅に執行役へ任せることができます。「考える人と動く人が完全に分かれる」のは、あくまで原則です。

代表執行役がいて、代表取締役はいない

執行役は1人以上を選任します。取締役会はその執行役の中から代表執行役を選定します。会社を代表して、会社の業務に関する一切の行為の権限をもつのは代表執行役です。そのため、この形態の会社には代表取締役は選定されません。これがオープニングの「トップなのに代表取締役と名乗れない」の答えです。動画は、一般の常識と違うので試験で狙われやすいと強調しています。

執行役の任期は1年:短縮はできても伸長はできない

もうひとつの超重要ルールが任期です。動画では、執行役の任期は1年で、定款で短縮することはできるが、伸長(延ばすこと)は絶対にできない、と説明します。

たった1年ですか。その代表執行役がめちゃくちゃ優秀で、会社を急成長させていても、3年に延ばせないんですか。

できません。一切の権限をもつ強力な存在だからこそ、誰のチェックも受けずに長く居続けるのは危険なんです。だから毎年、取締役会が厳しく評価して手綱を握る必要があるんですよ。

強力なアクセルを持たせる代わりに、1年ごとの更新制にして暴走を防ぐわけですね。

補足:「1年」の中身(動画の単純化を確認)

  • 条文は「1年」という期間ではなく、「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結後、最初に招集される取締役会の終結の時まで」とされています(402条)。
  • たとえば3月決算の会社が令和8年6月に執行役を選任した場合、選任後1年以内に終わる最後の事業年度は令和9年3月期です。任期は、その定時株主総会(令和9年6月ごろ)のあとの最初の取締役会の終結までになります。選任から終了まで、ぴったり1年とは限りません。
  • 指名委員会等設置会社の取締役の任期も、同じ考え方で約1年とされています(332条)。動画は執行役の任期だけを取り上げています。

執行役と執行役員は別物

ここで聞き手が「リスナーが引っかかりそうな疑問」として、名刺交換やニュースでよく見る執行役員は、執行役と同じなのかと尋ねます。講師の答えは「実務でも混同しやすい最大の罠で、全く別物」です。

執行役執行役員会社法が定める機関取締役会が選任会社法上の役員等として責任を負う会社が決める役職名会社法の機関ではない動画では従業員の扱いと説明名前は似ていても別物
名刺に出てくる「執行役員」は、会社法の「執行役」とは別です。

動画の説明では、大きな会社には、役員の依頼を受けて事業の執行に責任をもつ「執行役員」という役職がある場合があります。ところが名前に「役員」とついていても、会社法上は役員ではなく従業員の扱いだといいます。試験で「執行役員は会社法上の役員である」と出たら、言葉の響きにだまされて丸をつけてしまいそうですが、そこが狙われる、というわけです。

補足:執行役員の位置づけ(動画の言い方を確認)

  • 会社法上の機関ではなく、会社が自由に決める役職名であるという点は動画のとおりです。
  • 従業員の扱いか、委任契約かなど、契約の形は会社によって異なります。実務では一概に決められないとされているので、試験では「会社法上の役員や機関ではない」と押さえておくのが安全です。

監査等委員会設置会社:導入しやすく、監査を強める形

3つの委員会をすべて持つ会社は、人材もコストもかかって導入のハードルが高そうです。そこで、もう少し導入しやすく、監査機能を強化したパターンとして監査等委員会設置会社があります。監査に特化した形です。

  • 取締役3人以上で監査等委員会を構成し、取締役の業務執行を監査する。
  • 委員の過半数は社外取締役でなければならない。

過半数が社外の人なら、身内に甘くならずに済みそうです。では、これまでの普通の監査役との違いは何か。動画が強調するのは、監査等委員は取締役でもあるという点です。だから取締役会で議決権をもちます。意見を言うだけでなく、直接反対票を投じることもできるので、経営陣に対する牽制力が格段に上がります。

取締役会監査する側監査等委員の取締役3人以上過半数が社外経営する側それ以外の取締役代表取締役を選定できるどちらも取締役会で議決権をもつ株主総会で2つを区別して選任監査する側は代表取締役と兼任できない
監査役と違い、監査する人も取締役として議決権をもちます。

そのぶん、監査等委員である取締役と、それ以外の取締役は、しっかり区別して選任する必要があります。最初から「あなたは監査する側、あなたは経営する側」と分けて選ぶわけです。

補足:数の目安と兼任(動画にない確認)

  • 「3人以上で過半数が社外」の最小の例は、監査等委員3人なら社外取締役は2人以上、4人なら3人以上、5人なら3人以上です(過半数=人数の半分を超える数)。条文は331条です。
  • 監査等委員は、その会社や子会社の業務執行取締役などを兼ねることができません(331条)。動画の「代表取締役とは兼任できない」は、その一例です。
  • 監査等委員会設置会社は、取締役会と会計監査人を置くことが必要で、監査役は置けません(327条)。

試験で狙われる3つの違い

動画が「いちばん試験で狙われる」と言うのが、指名委員会等設置会社とのルールの違いです。リスナーが一番踏ん張るところ、と念押しされています。3つあります。

  • 監査等委員会設置会社では執行役を置くことができない。執行役は、3つの委員会がそろった会社だけの特権。
  • 監査等委員と代表取締役は兼任できない。自分で自分を監査するわけにはいかないから。
  • 任期が違う。ここが一番重要。

任期:なぜ監査する側だけ2年で変えられないのか

監査等委員会設置会社の場合、ふつうの取締役の任期は1年で、短縮は可能、伸長は不可です。一方、監査等委員である取締役の任期は2年で、この2年は短縮も伸長もできず、絶対に変えられません。

執行役(指名委員会等)1年短縮○ 伸長×取締役(監査等委員以外)1年短縮○ 伸長×監査等委員(取締役)2年短縮× 伸長×
動画のとおり、監査する側の2年だけは短縮も伸長もできません。

聞き手は、ここで理由に気づきます。もし任期が1年だったら、経営陣の不正を見つけても、厳しく指摘すると来年は首になるかもしれないと考えて、保身に走ってしまう。しかし絶対に変えられない2年なら、経営陣の顔色をうかがわずにビシッと監査できる。そういうメカニズムです。動画は「法律のルールは無機質に見えて、実は人間が保身に走らず正しい判断ができるようにする心理的な設計だ」とまとめます。

補足:任期の数え方(動画の単純化を確認)

  • ここでも「2年」は、執行役の「1年」と同じく、事業年度と定時株主総会に結びついた数え方です(332条)。
  • 3月決算の会社が令和8年6月に監査等委員を選任したとします。選任後2年以内に終わる最後の事業年度は令和10年3月期で、任期は令和10年6月ごろの定時株主総会の終結までです。選任から約2年あります。
  • 同じ令和8年6月に選任した監査等委員でない取締役なら、令和9年3月期の定時株主総会(令和9年6月ごろ)の終結までです。
  • なお、取締役の任期の原則は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(332条)。

2つの機関設計を表で比べる

ここまでの内容を表にします。動画の説明に、上の補足を足して並べてあります。

指名委員会等設置会社監査等委員会設置会社
委員会指名・監査・報酬の3つ監査等委員会1つ
執行役置く(1人以上)置けない
会社を代表する人代表執行役(代表取締役は置かない)代表取締役を選定できる
任期執行役は1年(動画)取締役も約1年(332条6項)監査等委員は2年短縮も伸長も不可それ以外の取締役は1年
監査する人監査委員(取締役)監査等委員(取締役)

最後の問い:あなたならどちらを選ぶ?

動画の最後に、思考実験が出されます。急速に成長しているスタートアップの経営者だとしたら、どちらを選びますか。権限を執行役に任せて圧倒的なスピードで進める指名委員会等設置会社か、社外取締役の過半数による強力な監査体制で社会的な信用を盤石にする監査等委員会設置会社か。

動画は答えを示しませんが、自分の会社だと思って考えると、法律もリアルになります、と呼びかけます。ルールの裏にある意図を読み解くと、会社法も意外とドラマチックです。

まとめ

この回で覚えること

  • 指名委員会等設置会社は、指名・監査・報酬の3つの委員会で、権限をトップから切り離す。
  • 業務を実行するのは執行役で、代表取締役はいない(代表執行役がいる)。
  • 動画では、執行役の任期は1年で、短縮は可、伸長は不可。条文では、事業年度と定時株主総会に結びついた数え方になっている。
  • 執行役員は、会社法上の機関ではない。執行役とは別物。
  • 監査等委員会設置会社は、取締役3人以上で、過半数が社外。監査等委員は取締役でもあり、議決権をもつ。
  • 監査等委員会設置会社では、執行役は置けない。監査等委員は代表取締役と兼任できない。
  • 監査等委員の任期は2年で、短縮も伸長もできない。ふつうの取締役は1年で、短縮のみ可。

どれも「人間の弱さを前提に、権力を分け、監視する人の身分を守る」という同じ発想から説明できます。名前の長さにひるまず、「なぜそうなっているか」から覚えていきましょう。

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