聞き流しラボby kufu-yaWebテキストNEW
中小企業診断士 1次試験

7科目を、聞き流しで一周する。

企業経営理論から中小企業政策まで、1次試験の論点を科目別の講義動画にまとめています。過去問の解説も1問ずつそろえています。

科目別の講義動画過去問完全解説ファイナルペーパーメンバーシップ
診断士 聞き流しラボ

自己株式の取り扱いルール

経営法務 第31回

経営法務・会社法 01618分9秒2026年4月4日公開

「もしあなたが会社の社長だとして、金庫にある現金をすべて使って自分の会社の株を買い占めたらどうなるでしょうか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、自己株式の権利、処分・消却、有償取得と分配可能額、売主追加請求権とその例外をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

会社が自分の株を買い占めたら?

動画の冒頭は、こんな問いかけです。「もしあなたが社長で、金庫にある現金をすべて使って自分の会社の株を買い占めたらどうなるでしょうか」。高く買い取ってもらえた株主は、ほくほく顔かもしれません。けれど、お金を貸している銀行は、その事実を知った瞬間に血相を変えて飛んでくるはずです。金庫から確かな価値のある現金が消えて、代わりに残ったのは、会社が倒産すれば紙切れ同然になる自社の株券だけだからです。

動画は、このお話を入り口にして、会社法の自己株式のルールを、「なぜそのルールがあるのか」から読み解いていきます。会社が自分の株式をどう扱うかについて、扱いは大きく3つに分けられます。

  • 保有:持っている間、その株には権利がない。
  • 手放す:売る(処分)か、なくす(消却)か。
  • 買い戻す:有償で取得する。分配可能額の壁がある。特定の株主から買うなら売主追加請求権が出てくる。

動画は、膨大な暗記に頼るのではなく、ルールの背景にあるロジックを理解することが合格への近道だと強調します。その姿勢にそって、順に見ていきましょう。

自己株式とは:持っていても「死んでいる株」

自己株式とは、字のとおり、会社が持っている自社の株式です。動画が最初に挙げる大前提は、会社が自己株式を保有していても、議決権や配当、新株予約権の無償割当てなどの権利が一切ないということです。金庫にしまっている間は、いわば死んでいる株として扱われます。

会社の金庫にある自己株式権利が止まった状態議決権使うのは取締役→ イエスマン量産配当右ポケット→ 左ポケット新株予約権自分に買う権利を与える? → 矛盾だから「なし」にされている
議決権・配当・新株予約権の無償割当てが、自己株式にはありません。

動画は、権利がない理由を3つに分けて説明します。

  • 議決権:もし議決権があれば、行使するのは今の経営陣です。経営陣が会社のお金で自己株式を買い集めれば、自分たちに賛成票を投じる「最強のイエスマン」を、会社のお金で作れてしまいます。会社のガバナンスが崩れます。
  • 配当:会社が自分に配当を出しても、右のポケットから左のポケットへ現金を移すだけで、経済的な意味がありません。動画は、自分で主催する演劇のチケットを自分で買って、客席から自分に拍手を送るようなものだ、とたとえます。
  • 新株予約権の無償割当て:自分自身に、将来自社の株を買える権利を与えることになり、論理的に矛盾します。

つまり、経営陣の暴走を防ぎ、意味のない手続きを省くためのルールだ、というのが動画の整理です。

(補足:議決権については、308条2項に「株式会社が有する自己株式には議決権がない」旨の定めがあります。配当も、453条で、会社は自己株式には剰余金の配当ができないとされています。残余財産の分配などでも、自己株式は受け取る側に数えられないのが一般的な説明です。株式・新株予約権の無償割当ても、会社自身は割当ての対象になりません(186条2項、278条2項)。)

手放す方法その1:処分(売却)は募集株式の発行と同じ手続き

権利のない自己株式を手放す方法のひとつが処分、つまり売却です。動画は、自己株式を処分するときは、募集株式の発行の場合と同様の手続きを取る必要があると説明します(199条以下)。ここで聞き手が、素朴な疑問を挟みます。

自己株式はすでに発行されて金庫にある株ですよね。新しく株を刷るのと同じ面倒な手続きを踏まなくても、社長の判断でパッと売ってしまえばいいような気もします。

そこは既存の株主の立場で考えると見えてきます。新しく株を発行しても、金庫の自己株式を市場に放出しても、市場に出回る株式の総数が増えるという事実は同じですよね。

なるほど。株主からすれば、新株でも自己株式でも、自分の持つ議決権の割合が薄められてしまう。つまり希薄化のリスクは同じですね。

影響が同じである以上、既存の株主を守るための手続きも同じ水準でなければならない。だから、自己株式の処分は、募集株式の発行と同じ厳格なルートを通るように設計されている、というのが動画の結論です。

(補足:募集株式の発行等の手続きは、公開会社なら取締役会の決議(201条1項)、非公開会社なら株主総会の特別決議(199条2項、309条2項5号)が基本です。特に有利な金額で出す場合は、公開会社でも株主総会の特別決議が必要になります。細かい数字は、この回のテーマではありません。)

手放す方法その2:消却は取締役会の決議だけでよい

次は、自己株式を売らずに、完全になくしてしまう場合です。会社法の用語は消却(178条)です。以下では消却と書きます。

動画の説明では、取締役会設置会社の場合、消却する自己株式の数は取締役会の決議だけで決められます。株主総会を開く必要はありません。聞き手は、市場に出すときはあんなに厳格だったのに、株を消してしまうという重大そうな決定をなぜ取締役会だけで決めていいのかと驚きます。

動画の答えは、先ほどの「権利がない」という大前提です。権利のない紙切れをシュレッダーにかけても、誰も損をしません。むしろ、将来放出されるかもしれないという脅威がなくなるので、既存の株主にとっては、自分の持ち分の割合が守られるプラスの行為になります。だから、株主総会という手間とコストをかけずに、機動的に処理できるようにしている、という説明です。

処分(売却)消却(なくす)新しく株を出すのと同じ(希薄化)募集株式の発行等と同じ手続き誰も損をしない(権利のない株を消す)取締役会決議だけ(取締役会設置会社)影響が同じなら、手続きも同じ。影響がなければ、手続きは身軽に。
処分は厳格に、消却は身軽に。違いの理由は「誰に影響するか」です。

(補足:動画のいう「持ち分の割合が守られる」は、将来の処分による希薄化の可能性がなくなる、という意味に受け取るのが安全です。自己株式には議決権がないので、保有している間も、議決権の割合の計算から外れて考えるのが普通だからです。また、取締役会を置かない会社では、消却の決定は取締役の決定(過半数など)で行います。)

処分消却
何をする?他人に売る株をなくす
誰に影響?既存株主(希薄化)誰も損をしない
決議(動画)募集株式の発行と同様の手続き取締役会の決議だけ(取締役会設置会社)

買い戻す:有償取得には分配可能額の壁がある

ここからは視点を逆にして、会社が自己株式を買い戻す取得の話です。動画は、お金が動くところには厳しいルールがある、と言います。

自己株式を有償で取得するには、原則として株主総会の普通決議が必要です(156条)。そして、動画が「一番重要なルールの壁」とするのが、取得にかかる金額は分配可能額を超えない範囲でなければならない、という規制です(461条1項)。

聞き手はここで素朴な疑問を口にします。パソコンや営業車を買うのと同じ、資産の買い取りなのに、なぜ配当と同じ厳しいストッパーがかかるのか。動画の答えは、冒頭の銀行員の話に戻ります。

  • 会社が倒産したとき、パソコンや営業車なら、銀行は差し押さえて売り、貸したお金の一部を回収できます。
  • では、倒産した会社の自己株式を売ってお金にできるでしょうか。倒産した会社の株は、ただの紙くずです。
  • つまり、自己株式を買うために使った現金は、会社の外、株主の財布へ流出していて、債権者が回収できる財産は何も残りません。

経済的な実態を見れば、会社の財産が株主へ払われて目減りするという点で、自己株式を有償で取得することと、株主へ配当を出すことは、全く同じ現象です。だから、配当に出していい余裕資金(分配可能額)の範囲内でしか買えません。上限がなければ、借金まみれの会社が最後の現金を全部株主に還元して、計画倒産するようなズルができてしまうからです。つまり、自己株式の有償取得は、債権者保護の観点から、配当と同じ枠で縛られている、と動画は整理します。

会社の現金(債権者の頼みの綱)株主の財布へ(流出)自己株式を買う=配当と同じ流出分配可能額の範囲内だけ(設例)分配可能額 1,000万円700万円で取得 → 範囲内でOK1,200万円で取得 → 上限超えでNG
買った自己株式は倒産後に回収できないから、配当と同じ上限がかかります。

(補足:分配可能額は、剰余金をもとに、自己株式の帳簿価額などを差し引いて計算します(461条2項)。上の設例の「1,000万円」は、細かい調整を省いた単純な数字です。)

覚え方:現金が株主へ出るのは同じ

  • 配当:会社の現金 → 株主
  • 自己株式の有償取得:会社の現金 → 株主(株を渡した人)
  • どちらも債権者から見れば、会社の財産が減る行為。だから分配可能額で縛る。

特定の株主から買うとき:特別決議と売主追加請求権

世の中には、もっとデリケートな状況があります。特定の人だけから株を買い取るケースです。動画によれば、特定の株主から取得するときは、普通決議よりハードルが上がって株主総会の特別決議が必要になります(309条2項2号)。さらに、他の株主に売主追加請求権が発生します(160条)。

売主追加請求権とは、たとえばX株式会社が特定のAさんから株を買い取るとき、A以外の株主も、希望すれば「自分の株も買い取ってほしい」と会社に請求できる、という権利です。自分も売り手に加えてほしい、と言える権利、と言い換えられます。

X社が、株主Aさんの株を取得したいAさん200株(売り手)Bさん100株「私も売る!」Cさん請求せず(売らない)買い取る株は Aさん200株+Bさん100株1株1万円とすると300万円(設例)
特定の株主だけ得をさせない仕組みが、売主追加請求権です。

動画の聞き手は、この仕組みをBさんの立場でこう言い換えます。Aさんの株だけ会社のお金で高値で買い取るなんて、ひいきじゃないか。だったら私の株も同じように買い取れ、と文句を言える権利ですね、と。講師は、その感覚は極めて正確だと答え、ここに隠れているのが株主平等の原則だと説明します。経営陣と仲の良いAさんだけを優遇して、有利な条件で逃げ切らせるようなことがあれば、他の株主は不当に不利益を被ります。そういうずるを許さないために、この権利が保証されているのです。

(補足:設例の数字で確認します。1株1万円とすると、Aさん200株で200万円、Bさんの追加請求100株で100万円、合計300万円です。ここで分配可能額が1,000万円なら取得できますが、250万円しかなければ、Aさんの分だけなら足りても、Bさんの分を加えた300万円は上限を超えます。この「上限に引っかかる」点が、次の相続の例外で効いてきます。なお、特定の株主から取得する決議では、売主となる特定の株主は議決権を行使できません(160条4項)。また、市場価格のある株式を市場価格を超えない対価で取得する場合は、売主追加請求権の規定が適用されません(161条)。)

平等の例外:譲渡制限株式を相続した人から買う場合

動画はここで、「あなたが絶賛した株主平等の原則が適用されない特例中の特例があります」と話を転じます。それが、譲渡制限会社で相続が起きたときです。譲渡制限会社とは、株式の譲渡に会社の承認が必要な、閉鎖的な会社のことです。

動画の例は、代々家族で経営してきた高い技術力を持つ町工場です。株式は、見知らぬ他人に経営を干渉されないよう、譲渡制限がかけられています。ところが、大株主の専務が突然亡くなり、息子が株式を相続することになりました。この息子は、会社に関わったことがなく、工場を早く解散して土地を売ってしまおうと考えているような、会社にとって危険な人物だとします。会社は、そんな人物に経営に口を出されないよう、相続の対象となった株式を息子から買い取ります。これも、特定の株主からの自己株式の取得です。

すると、さっきのルールなら、他の株主が「私の株も買い取って」と売主追加請求権を行使してきそうです。ところが、動画によれば、この場合に限り売主追加請求権は発生しません。

特定の株主から取得したい原則:株主総会の特別決議+他の株主に売主追加請求権例外:相続で株を得た人から買う売主追加請求権は生じない(公開会社でない会社の場合の条文の例外)
原則は平等(請求権あり)、相続の例外では請求権なし。

さっきまで「抜けがけは許さない、株主は平等だ」と力説していたのに、なぜこのケースだけ他の株主は我慢しなければならないのですか。

これは会社にとっての緊急防衛策だからです。会社は息子を優遇したくて買うのではなく、望まない人物から会社を守るために、やむを得ず資金を捻出しています。

そこへ他の株主まで押し寄せたら、資金に余裕のない中小企業は、分配可能額の限界を超えるか、最悪の場合は倒産してしまう。それでは本末転倒ですね。

動画は、ルールは原則として株主の平等を重んじるが、会社の存続そのものが脅かされる現実の危機に対しては、平等を一時的に棚上げしてでも会社を守る柔軟な例外を用意している、とまとめます。

(補足:この例外は、条文では162条に定められています。会社が、株主の相続人その他の一般承継人から、その相続その他の一般承継により取得した自社の株式を取得する場合には、160条2項・3項(売主追加請求権に関する規定)が適用されません。ただし、会社が公開会社である場合と、その一般承継人が株主総会でその株式について議決権を行使していた場合は、例外にならず、売主追加請求権が生じます。相続の場合だけでなく、合併などの一般承継も含まれます。この例外の理由づけは、動画の「緊急防衛策」のほか、売主を会社が選んでいるわけではないので不公平が生じにくい、など、資料により説明の仕方が分かれます。試験では、まず「公開会社でない会社が相続人から買う場合は請求権なし」という結論を押さえておくと安全です。)

(補足:動画にない関連制度として、定款に定めておけば、会社が相続人に株式の売渡しを請求できる制度もあります(174条)。今回の動画は、あくまで会社が相続人から買い取る場面の話です。)

全体を貫く軸:2つの天秤

動画は最後に、会社法のルールは、机上の空論ではなく、株主間の公平性と、会社自体の防衛・財産維持という2つの天秤の上で、極限のバランスを保ちながら作られた血の通ったルールだと振り返ります。試験でどんな複雑な事例問題や引っかけ問題が出ても、なぜそのルールが存在するかというロジックがわかっていれば、暗記に頼らず、自力で正解を導けるはず、という励ましです。

場面決議守る相手
処分(売却)募集株式の発行と同様の手続き既存の株主
消却取締役会決議(設置会社)誰にも迷惑をかけない
有償取得(原則)株主総会の普通決議+分配可能額の範囲内債権者
特定の株主から取得株主総会の特別決議+売主追加請求権他の株主(平等)
相続人からの取得(例外)特別決議。売主追加請求権なし会社の存続

試験の注目点(条文で確認)

  • 自己株式には議決権がない(308条2項)。配当もできない(453条)。
  • 自己株式の処分は、募集株式の発行等と同じ手続き(199条以下)。
  • 消却の決定は、取締役会設置会社では取締役会の決議(178条)。
  • 有償取得は、原則として株主総会の決議(156条)。対価の総額は分配可能額の範囲内(461条1項)。
  • 特定の株主から取得する場合は特別決議(309条2項2号)で、他の株主に売主追加請求権(160条)。
  • 公開会社でない会社が、株主の相続人など一般承継人から、相続などで得た株式を取得する場合は、売主追加請求権の規定が適用されない(162条。公開会社の場合と、相続人が議決権を行使した場合は除く)。

まとめ

この回のまとめ

  • 自己株式には、議決権・配当・新株予約権の無償割当てなどの権利がない。経営陣の暴走を防ぎ、無意味な手続きを省くため。
  • 処分は、既存株主への影響が新株発行と同じなので、募集株式の発行と同様の手続き。
  • 消却は、権利のない株をなくすだけで誰も損をしないので、取締役会設置会社なら取締役会の決議だけでよい。
  • 有償取得は、原則として株主総会の普通決議。金額は分配可能額の範囲内。債権者保護のため、配当と同じ縛り。
  • 特定の株主から取得するときは特別決議+売主追加請求権(株主平等)。ただし、公開会社でない会社が相続人から取得する場合は請求権なし。

動画の最後の問いかけは、こうでした。あなたが診断士に合格して、企業の経営者にアドバイスをする立場になったとき、この自己株式のルールを、守るべき法律のチェックリストとしてではなく、クライアントの会社を守り成長させるための経営の道具として、どう使いこなすか。会社のピンチを救うためか、経営を強固にするためか(動画の音声が一部聞き取りにくいため、言葉は要約です)。未来のコンサルタントとしての視点で、自分なりの戦略を考えてみてください、という投げかけです。

LISTEN

動画で聞く

NEXT

続けて読む