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中小企業診断士 1次試験

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事業譲渡と組織再編

経営法務 第33回

経営法務・会社法 01817分16秒2026年4月5日公開

「普段、ビジネス系のニュースを見ていると、A社がB社の事業を買収しましたとか、会社が分割されましたなんて話題がよく飛び交っていますよね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、事業譲渡と会社分割の違い、債権者と労働者の保護、手続きを軽くする簡易組織再編、事業譲渡に特有の競業禁止と株主総会のルールをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

ニュースの「組み替え」には、人とお金が入っている

「A社がB社の事業を買収しました」「会社が分割されました」。ビジネスのニュースでは、こんな話題がよく飛び交います。外から見ると、企業がレゴブロックを自由に組み替えているようです。でも動画は、ここで立ち止まります。そのブロックの中に、会社にお金を貸している人や、そこで働いている従業員が含まれていたら、どうなるのでしょうか。

動画が示す軸は2つです。経営の自由度を高めることと、巻き込まれる人たちをどう守るかを、両立させること。この回は、事業譲渡と組織再編のしくみを押さえたうえで、債権者の保護、労働者の保護、手続きを軽くする簡易手続き、事業譲渡に特有の競業禁止と株主総会の順に進みます。

  • 事業譲渡:特定の事業だけを売り買いする取引(組織再編ではない)。
  • 会社分割:事業を別の会社に承継させる組織再編。債権者と労働者を守る手続きがある。
  • 簡易手続き:小さな取引なら、株主総会を省略できる。
  • 事業譲渡に特有のルール:競業禁止と、株主総会が要る場面の整理。

事業譲渡は「家具だけ」を売り買いする取引

会社を1軒の家にたとえると、事業譲渡は、家そのものを改築するのではなく、特定の家具やガレージだけを切り出して売り買いするイメージです。動画によれば、事業譲渡は会社法上の組織再編には当たりません。あくまで、ある事業を対象にした売買です。

B社R事業S事業A社S事業一部譲渡対価を支払う全部譲渡:R事業もS事業もそっくりA社へ譲り渡す対価に法律上の制限はない金銭でも、A社の株式でもよい
事業譲渡は、家そのものではなく、家具やガレージを売り買いするイメージです。

B社が持つS事業だけをA社に譲り渡し、A社が対価を支払うのが一部譲渡です。R事業もS事業も、持っている事業をそっくりA社に譲り渡すのが全部譲渡です。対価は通常は金銭ですが、動画によると、法律上、対価に制限はありません。A社の株式など、金銭以外でもかまいません。

現金じゃなくて株で払えるなら、手元に現金がなくても事業を買えて、柔軟に取引ができそうですね。

そういうことです。ただ、事業を売り買いしてお金や資産が動くと、そこに貸していた人はどうなるのかという疑問が出てきます。

(補足:動画にない話です。事業譲渡では、会社分割のような債権者保護の手続きはありません。債務を相手に移すには、債権者の個別の同意が必要です。また、譲り受けた会社が譲渡会社の商号を使い続ける場合は、譲渡会社の事業上の債務について、譲受会社も弁済の責任を負うことがあります(会社法22条)。なお、株式を対価にする場合は、別途、新株の発行などの手続きが必要です。)

会社分割と債権者保護:いいものだけ移して借金を残す?

ここからは、事業譲渡ではなく、会社法上の組織再編である会社分割を例にします。事業が別の会社に承継されるとき、置き去りにされるおそれがあるのが債権者です。「優良部門は別の会社に行きました。残ったこちらの会社にはお金がないので、借金は返せません」と言われたら、債権者はパニックです。

動画が指摘するのは、法律がこうした悪用をあらかじめ想定している点です。会社分割では、どの権利や義務を承継先に承継させるかを、当事者間で自由に決められます。そのため、優良な資産だけを新しい会社に移し、元の会社には借金だけを残して返済を免れようとする、詐害的な会社分割ができてしまいます。そこで債権者を守る債権者保護手続きが設けられました。

B社(分割会社)R事業は残るS事業を承継へ残存債権者(R事業の債権者)A社(承継会社)S事業が移る承継履行を請求承継した価値を限度に
置き去りにされた債権者は、財産を持っていった先にも請求できます。
  • 承継される事業の債権者:保護手続きの対象。会社は公告を行い、債権者に異議がないかを確かめる。勝手には進められない。
  • 残存債権者(承継されないR事業の債権者):泣き寝入りしなくてよい。承継された事業の価値を限度として、承継先のA社に債務の履行を求められる。

文句を言っても、資産がもう移された後だったら手遅れになりませんか。

だからこそ、残った債権者には、資産を持っていった先まで追いかけて請求できる強力なしくみがあるんです。

(補足:動画の説明を、条文に沿って2点補います。第一に、債権者保護手続きは、公告だけでなく、知れている債権者への個別の催告も行うのが原則です。官報に加えて、定款の定めに応じて日刊新聞紙や電子公告でも公告した場合は、個別の催告を省けます(ただし、吸収分割では、不法行為によって生じた債務の債権者への個別の催告は省けません。会社法789条3項)。異議を述べる期間は1か月以上です。第二に、残存債権者が承継先に履行を請求できるのは、分割会社が残存債権者を害することを知って分割をした場合です。承継会社が、効力発生時にそのことを知らなかったときは請求できません。会社法759条(新設分割は764条)にあるルールで、詐害的な分割への対策として、平成26年の改正で設けられたものです。事業譲渡にも、似た趣旨の規定(会社法23条の2)があります。)

(補足:もう一点。動画は、承継される事業の債権者が保護手続きの対象だと説明します。分割会社が対価として受け取る株式などを、そのまま自社の株主に配る形の分割(いわゆる人的分割)では、分割会社に残る債権者も異議を述べられます。)

労働者の保護:勝手にトレードされない

次は従業員です。会社が分割されたとき、プロ野球選手のように勝手にトレードされてしまうのか。動画は、人は物ではないので特別な配慮が必要だとして、労働契約承継法を紹介します。判断の基準は2つです。

  • その労働者が、分割の対象となる事業に主として従事しているか。
  • 分割計画などの書面に、その人が承継される旨が示されているか。
計画書の記載承継すると記載承継の記載なし主として従事している人それ以外の人当然に承継(矛盾なし)原則は残留異議を出せば承継される原則は承継異議を出せば残留できる当然に残留(矛盾なし)
実態と計画書がずれたときだけ、労働者は異議を出せます。

動画は、P事業部のエンジニアを例に4つの場面を順に説明します。

  • P事業に主として従事し、書面にもP事業と一緒にB社へ行くと書かれている。矛盾がないので、当然にB社へ承継される。
  • P事業のシステムを一人で作る中心メンバーなのに、書面には旧事業に残ると書かれている。原則は書面どおりで旧事業に残留だが、書面で異議を申し立てれば、本来の仕事であるP事業と一緒にB社へ移れる。
  • 旧事業の経理担当で、P事業とは関係ない仕事なのに、書面にはP事業に行くと書かれている。原則は書面どおりでP事業に承継されるが、異議を申し立てれば、旧事業に残留できる。
  • 旧事業で働き、書面にも旧事業に残ると書かれている。矛盾がないので、当然に残留する。

原則は紙の計画書が勝つのに、それだと今の仕事を奪われてしまいませんか。

だから、現在従事している事業と計画に示された所属が違う労働者には、書面で異議を申し立てる対抗手段が与えられているんです。

(補足:条文でいうと、この3つのルールは労働契約承継法の3条(当然承継)、4条(主として従事する人が承継されないとき)、5条(それ以外の人が承継されるとき)にあたります。動画は3つめの人を「P事業とは全く関係ない仕事」と話しますが、条文は「主として従事していない」人(従として従事する人を含む)で線を引きます。また、承継法が働くのは会社分割です。事業譲渡には使えません。事業譲渡では、転籍する労働者一人ひとりの同意が必要です。吸収分割の書面は「分割計画」ではなく「吸収分割契約」で、新設分割で作るのが「新設分割計画」です。)

簡易組織再編:ガムを買うのに家族会議はいらない

ここで聞き手が気づきます。取引のたびにフルセットの手続きと大規模な株主総会が必要なら、ビジネスのスピードが落ちてしまいます。車を買うなら家族会議が要りますが、コンビニでガムを買うのに家族会議は開きません。企業にも、安い買い物や、手放しても重要でないものを扱うときの近道として、簡易組織再編があります。株主総会の特別決議を省略できるしくみです。

動画が示す基準は次のとおりです。買い手にとって、吸収合併、株式交換、吸収分割、そして事業譲渡で、買収先の会社や事業が自社の純資産の5分の1(20%)以下であること。売り手では、吸収分割や新設分割で手放すものが、自社の総資産の5分の1以下であることです。

どちらも「5分の1」。ただし比べる相手が違う買い手(受け入れる側)1/5純資産(100%)売り手(切り離す側)1/5総資産(100%)黄色の範囲に収まれば株主総会の決議を省略できる(簡易)
買う側は「純資産」、売る側は「総資産」。聞き手はこう覚えると腹に落ちる、と言い換えます。

大企業なら純資産の20%は、何十億円、何百億円にもなりますよね。そんな巨額の取引をガム扱いして、本当に大丈夫なんですか。

絶対額は大きくても、法律が重視するのは、その会社にとってのインパクトです。純資産の20%以下なら、会社の根本的な性質や財務基盤を揺るがすほどではないと判断されます。

では、なぜ買い手は純資産、売り手は総資産なのか。動画は、買い手は新しく事業を背負って資産を受け入れるので、純粋な体力である純資産と比べるのだと説明します。売り手は、今持っている全体の資産から一部を切り離すので、全体の規模である総資産と比べる。聞き手の言葉では、「買うときは体力勝負だから純資産、売るときは全体から切り離すから総資産」です。

(補足:条文の基準は、動画の言い方より少し細かくなっています。買い手側は「買収先の大きさ」ではなく、対価として交付する財産の額が、買い手の純資産額の5分の1以下かどうかで見ます。吸収合併・吸収分割・株式交換(796条2項)では、株式で払う場合は交付する株式の数に1株当たり純資産額を掛けた額、社債や金銭などの場合は帳簿価額を合計します。事業の全部の譲受け(468条2項)は、対価の帳簿価額の合計額で見ます。売り手側は、承継させる(譲渡する)資産の帳簿価額の合計額が総資産額の5分の1以下かどうかです(吸収分割は784条、新設分割は805条、事業譲渡は467条)。定款で、5分の1より低い割合を定めることもできます。買い手側の簡易手続きでは、一定数の株主が反対を通知したときは株主総会が必要になります(会社法796条3項、事業の全部の譲受けは468条3項)。また、差損が生じる場合などは、買い手側でも簡易手続きにできません(796条2項ただし書)。)

数値例で確かめます。純資産50億円の会社が、他の会社の事業の全部を、対価8億円で譲り受けるとします。8億円÷50億円で16%、つまり20%以下なので簡易手続きにできます。対価が12億円なら24%で、20%を超えるので総会が必要です。売り手で、総資産が120億円の会社なら、20%はちょうど24億円です。譲渡する資産が24億円なら「5分の1以下」で簡易ですが、25億円だと約20.8%で超えてしまいます。

事業譲渡に特有のルール:競業禁止と株主総会

最初に出てきた事業譲渡にも、特有のルールがあります。聞き手の例は、大将をしているラーメン屋を高値で売った翌日に、すぐ隣の街で同じ名前のラーメン屋を開き、常連客を根こそぎ奪い返す、というものです。これは完全にルール違反です。事業を売った会社は、特段の定めがなければ、同一の市町村と隣接する市町村で、原則として20年間、同一の事業を行えません。これを競業禁止といいます。

事業を譲り渡した日から20年(特約がないとき)特約で延ばせる0年20年30年場所:同一の市町村と、隣接する市町村禁止されるのは「同一の事業」
事業を売った側は、一定の期間・場所で、同じ商売を始められません。

この期間は、当事者間の意思表示で、短くすることも長くすることもできます。ただし上限は30年です。買い手の立場では、高いお金を出して事業を買ったのに、すぐ隣に元の持ち主のライバル店が出ては、たまりません。一方で、永遠に縛りつけるのはやりすぎなので、最大30年までというわけです。

(補足:動画では地域の言葉が聞き取りにくい箇所がありますが、条文(会社法21条)では「同一の市町村(特別区を含む)の区域と、これに隣接する市町村の区域」です。20年は、当事者の別段の意思表示がないときの期間で、「同一の事業を行わない」という特約は、30年の範囲内でのみ有効とされています。この特約がない場合でも、不正の競争の目的で同一の事業を行うことは禁止されます。)

続いて、事業譲渡で株主総会が必要かどうかです。動画は、譲り受ける側と譲り渡す側で条件が違うと説明します。

立場株主総会の特別決議が必要なとき不要なとき
買い手
(譲り受ける側)
事業の全部を譲り受けるときだけ一部だけを買い取るとき
売り手
(譲り渡す側)
全部、または重要な一部を譲り渡すとき重要でない一部を譲り渡すとき

売り手のほうが、基準は厳しくなります。自社の大切な事業を切り売りするので、株主にきちんとお伺いを立てる必要があるからです。そして、先ほどの簡易手続きは事業譲渡にも使えます。買い手にとって対価が純資産の5分の1以下なら、株主総会の特別決議は不要です。売り手にとっては、重要な一部の譲渡で、譲り渡す資産の帳簿価額が総資産の5分の1以下なら、株主総会の特別決議は不要です(事業の全部の譲渡は、この基準では不要になりません)。ここでも、ビジネスのスピードを止めない工夫が生きています。

(補足:特別決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します(会社法309条2項)。また、取引の相手が議決権の10分の9以上を持つ特別支配会社の場合は、略式の手続きで総会を省けます(会社法468条)。)

試験の注目点(動画の整理+条文で確認)

  • 事業譲渡は組織再編ではない。会社分割には債権者保護手続き(公告・催告、異議)があるが、事業譲渡にはなく、債務の移転には債権者の個別の同意がいる。
  • 会社分割の残存債権者は、害されることを知った分割のとき、承継した財産の価額を限度に承継会社へ履行を請求できる(759条、764条)。
  • 労働契約承継法は会社分割の場面の法律。主として従事する人は、承継の記載があれば当然に承継。記載とずれたときは書面で異議。
  • 簡易手続きは、買い手は純資産の5分の1以下、売り手は総資産の5分の1以下。買い手は、対価の額(株式は株数×1株当たり純資産額、それ以外は帳簿価額)で見る(796条、468条)。
  • 競業禁止は、特約がなければ同一市町村と隣接市町村で20年。特約でも上限は30年(21条)。
  • 事業譲渡の総会:買い手は全部譲受けだけ、売り手は全部または重要な一部(467条)。

まとめ

この回のまとめ

  • 事業譲渡は、特定の事業の売買。会社法上の組織再編ではない。一部譲渡と全部譲渡があり、対価に法律上の制限はない。
  • 会社分割では、悪用(いいものだけ移して借金を残す)を防ぐため、債権者保護手続きがある。残存債権者は、承継先に請求できる。
  • 労働者は、主として従事しているかと、書面の記載の2つで承継が決まる。ずれたときは、書面で異議を申し立てられる。
  • 簡易手続き:買い手は純資産、売り手は総資産の5分の1以下なら、株主総会の特別決議を省略できる。
  • 事業譲渡の競業禁止は原則20年・上限30年。株主総会は、買い手は全部譲受け、売り手は全部または重要な一部のとき。

動画の最後は、少し先の話です。これまでの法律は、店舗や部署があることを前提に、事業の譲渡や労働者の所属を決めてきました。しかし、オフィスがなく、従業員が世界中に散らばり、資産がクラウド上のデータだけの会社を分割するとき、「主として従事している」かどうかをどう判断するのか。動画は、法律がテクノロジーや新しい働き方にどう追いつくかを、自分で問い続けてほしいと語りかけます。次に会社分割のニュースを目にしたら、その奥にある人間ドラマと法律のしくみに、思いを馳せてみてください。

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